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<シリーズ SDGsの実践者たち> 第15回 世界の温室効果ガス削減への動きは後退か~2022年SDGsトピックス

【ウクライナ戦争による温室効果ガス増加、COP27で合意した補填基金の設立など、SDGsをめぐる2022年の動きを振り返る】

「調査情報デジタル」編集部

 2022年も残すところあとわずか。11月にはエジプトで気候変動について話し合う国連の会議COP27が開催され、途上国が被ってきた「損失と損害」を補填する基金の設立に合意した。

 その一方で、ロシアによるウクライナ侵攻で始まった紛争の影響により、温室効果ガスの排出量が増加している現状も明らかになっている。この1年のSDGsに関するトピックスを見ていきたい。

ロシアのウクライナ侵攻で温室効果ガス3400万トンを排出

 ウクライナの研究者による「戦争の温室効果ガス算定イニシアチブ」は11月1日、「ウクライナにおけるロシアの紛争が招いた気候被害(CLIMATE DAMAGE CAUSED BY RUSSIA'S WAR IN UKRAINE)」と題した報告書を発表した。

 これは、ロシアによるウクライナ侵攻で始まった紛争によって、2月24日以降の7か月間に排出された温室効果ガスの排出量をまとめたものだ。

 報告書によると、最も大きかったのは爆撃などによる森林や農地などの火災によるもので、排出量は2376万4000トン。次いで、軍事による排出量が885.5万トン。また、避難民の移動によって139.7万トンが排出されたと試算した。合計は約3400万トン。ニュージーランドの年間排出量を超える数字だ。

 COP27の首脳級会合では、ウクライナのゼレンスキー大統領がビデオ演説をした。ロシアによる軍事侵攻が、環境破壊だけでなくエネルギー危機をもたらし、数十か国が石炭火力発電を再開せざるを得なくなったと指摘。「違法な戦争」を止めるために各国に協力を呼びかけた。また、軍事行動が気候や環境に与える影響を評価するプラットフォームの創設を提案した。

 ロシアからヨーロッパへの天然ガスの供給が大幅に制限されたことで、市場価格が高騰すると同時に、安価に調達できる石炭による火力発電が増加している。紛争が長引くほど、直接的または間接的に温室効果ガス排出量の増大が続くことになる。

途上国の「損失と損害」補填する基金設立に合意

 COP27で実現した歴史的な合意が、異常気象による洪水や干ばつなどで「損失と損害」を受けた途上国を支援する基金の創設だ。途上国側が基金設置を求めたのに対し、当初先進国側が慎重な姿勢を見せたことで調整が難航。会期を2日間延長した上での合意だった。

 ただ、基金の枠組みを決めるのはこれからで、脆弱な国の線引きや資金調達の方法など課題も多い。今後発足する委員会で検討し、2023年に開催されるCOP28での採択を目指す。

 一方、COP27では温室効果ガスの削減については、特に進展が見られなかった。

 前年のCOP26での大きな成果は、産業革命以前からの気温上昇を1.5度以内に抑えることを目指して、努力を追求することへの決意に合意したことだった。国土が水没の危機にあるツバルの外務大臣が、スーツとネクタイ姿で海に膝まで浸かりながら温室効果ガス削減を訴えたことも注目された。

 COP27ではツバルのカウセア・ナタノ首相がスピーチし、化石燃料の使用を段階的に廃止するための世界条約を採択するように各国に要請した。しかし、石炭火力を段階的に削減することを合意したものの、すべての化石燃料の段階的な削減は明記できずに終わっている。

新型コロナが貧困、飢餓、健康、教育を脅かしている

 持続的な開発目標であるSDGsを2015年に採択した国連では、毎年報告書を公表して、17の目標それぞれの進捗状況を明らかにしている。

 2022年の報告で目立ったのは、新型コロナウイルス感染症によって大きなマイナスの影響を受けた目標が複数あることだ。

 目標1の「貧困をなくそう」では、新型コロナによって貧困対策における4年分以上の前進が帳消しになった。世界の低収入労働者の割合が20年振りに上昇し、800万人の労働者が貧困へと追いやられたことなどが大きな要因だ。

 目標2の「飢餓をゼロに」では、新型コロナや紛争、気候変動および不平等の拡大によって食料安全保障が弱体化したと指摘。世界のおよそ10人に1人が飢餓に苦しみ、そのうち約3人に1人が十分な食料を定期的に得られていないという。

 目標3の「すべての人に健康と福祉を」では、新型コロナがグローバル・ヘルスにおける数十年間の前進を脅かしていると報告された。2022年半ばまでに世界中で5億人が新型コロナに感染。2020年から2021年にかけて1500万人が死亡し、必須医療サービスの混乱が92%の国で発生している。

 目標4の「質の高い教育をみんなに」では、コロナ禍で世界的に学習の危機が深刻化した。2020年から2021年にかけて、1億4700万人の子どもが対面指導の半分超を受けられなかった。

 貧困や飢餓については、新型コロナとともにロシアのウクライナ侵攻も、目標に前進する軌道から外れる要因になっている。

フィンランドが2年連続SDGs達成度世界一

 SDGs達成度世界ランキング「Sustainable Development Report 2022」では、フィンランドが2年連続で1位を獲得した。このランキングは持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)と、ドイツのべルテルスマン財団が毎年発表している。

 フィンランドはほとんどの目標で改善を示し、すでに達成したか、達成に近づいていると評価された目標も多い。フィンランドの先進的な取り組みは本連載の「SDGs達成度世界一 フィンランドの取り組みは」と「フィンランドの企業が取り組む循環経済」で伝えている。

 2022年も新たな取り組みを進めている。太陽光や風力で作った自然エネルギーを砂にためる技術を世界で初めて実用化。8月からは法改正によって新たな育休制度が始まり、9月4日以降に生まれる赤ちゃんの親は、2人とも交代でそれぞれ約7か月の育休を取得することが可能になった。

 一方、日本は前年よりも1つ順位を落として19位だった。ジェンダー平等のほか、気候変動と環境問題での目標達成は遠く、深刻な課題が残っていると指摘されている。COP27では気候変動対策の足を引っ張っている国に与えられる不名誉な「化石賞」を3年連続で受賞した。2030年までに目標を達成する道のりは険しいと言えそうだ。

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