<シリーズ SDGsの実践者たち> 第2回 SDGs達成度世界一 フィンランドの取り組みは
【SDGs達成度世界一となったフィンランド。「雪が降らなくなった」と実感した気候変動の問題にどう立ち向かってきたか】
「調査情報デジタル」編集部
北欧にある人口約550万人の国、フィンランド。森林が国土の約7割を占めるなど自然豊かなこの国が、2021年のSDGs達成度世界ランキング「Sustainable Development Report 2021」で初めて1位を獲得した。
このランキングは持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)と、ドイツのベルテルスマン財団が毎年発表している、SDGsの目標に対する達成度をスコア化して順位をつけたもの。目標が達成できた状況を100として、フィンランドのスコアは85.9。日本は79.8で18位だった。
SDGsには17の目標があり、フィンランドはその多くの目標で改善を示している。その中でも、気候変動の問題にどう向き合っているのかを、フィンランド大使館のレーッタ・プロンタカネン参事官に聞いた。
レーッタ・プロンタカネン参事官
【引き続き「国を挙げて気候変動問題に取り組む」に続く】
国を挙げて気候変動問題に取り組む
フィンランド大使館(東京・港区)
東京都港区にあるフィンランド大使館。敷地内に入ると、フィンランドの木材を使った期間限定のパビリオンがある。長期にわたって使うことが可能な加工が施され、建て替えは10回まで可能。木材がどこの森で伐採されたものかも分かるという。豊富な森林資源を背景に気候変動問題に取り組んでいるのが、フィンランドの特徴だ。
パビリオン外観
パビリオン内部
「SDGs達成度ランキングで1位になって、フィンランドが正しい方向に向かっていることが示されました。このランキングは国連による統計を基準にしたものです。フィンランドの戦略としては、2035年までにカーボンニュートラルを実現する目標を掲げています」
フィンランドは国連が2015年にSDGsを採択する以前から気候変動問題に取り組んできたと、プロンタカネン参事官は説明する。1990年には世界で初めて炭素税を導入。地球温暖化に影響を与える二酸化炭素の排出削減を促すため、商品の炭素含有量に応じて税率が設定されている。
その一方で、二酸化炭素の吸収量を維持する森林は、持続可能な方法で管理されている。木を一本切ったなら、少なくとも一本以上は植樹する。温室効果ガスの排出量を削減し、削減できなかった分を吸収、または除去することで実質ゼロにするカーボンニュートラルを2035年までに実現するため、着実に歩みを進めているという。
「フィンランドの場合は二酸化炭素の削減や持続可能な環境を作ることを、マイナスな思考ではなく、とてもポジティブに捉えています。2019年の世論調査では5人のうち4人、つまりフィンランド人の80%が、二酸化炭素の削減を大切な話題だと考えているデータがあります。
カーボンニュートラルを進めると同時に、福祉社会の実現も目指しています。二酸化炭素を削減するからといって人々のウェルビーイングを損なってはいけません。バランスをとりながら進める目標を立てて取り組んでいます」
レーッタ・プロンタカネン参事官
プラスチックをできるだけ使わない社会
環境に対する取り組みは、人々の生活にも浸透している。EUではプラスチック製レジ袋の1人あたりの年間使用量を2019年までに90枚以下、2025年までに40枚以下に削減することを、2015年に加盟国に対して指令として発布した。フィンランドではこの指令が出る前から、レジ袋を有料にしていた店もあった。今では1枚の金額が日本円で約30円と高い。
「日本では1枚3円から5円くらいですよね。フィンランドでは1桁違います。ただ、この規制が始まるかなり前から、スーパーでの買い物にはバスケットやエコバッグを使うのが当たり前でした。私の母もエコバッグを持って買い物をしていました。レジ袋を使う人は少ないですね。
プラスチックの容器もできるだけ使いません。フィンランドは1人あたりのコーヒー消費量が実質世界一位で、昔からカフェに座ってコーヒーを楽しむのが主流です。最近はテイクアウトする人も増えていますが、国内の森林産業大手が開発した木を使った容器や、木と植物をベースにした新素材のストローなどが使われています。
その背景には、消費者の環境への意識の高さがあると思います。消費者は企業に対して環境に優しいものを求めています。病院や医療現場などではプラスチックが欠かせませんが、代替品で間に合うのであれば、別のものを使おうという意識が強いですね」
気候変動の影響が目に見えやすいフィンランド
フィンランドでは政府による規制が先行しているわけではない。炭素税は課しているものの、再生エネルギーの使用や電気自動車の充電器の設置などには補助金を出す。気候変動問題に取り組むことによるオプションを示して、選択してもらうアプローチをとっている。
環境への取り組みを政府が強要しなくても、世界トップレベルの取り組みができている理由について、プロンタカネン参事官は「世界のどこに住んでいるかが影響しているという見方もある」と指摘する。
「フィンランドは北に位置しています。国の北部は本来であれば雪がたくさん降っていたのに、以前のように降らなくなったことで、気候変動の影響を直に感じています。あまり雪が降らない地域の人たちは気付きづらいかもしれませんが、フィンランドの国民にとっては気候変動の影響は目に見えやすいのです。
また、フィンランドには自然享受権があります。誰でも森の中に入って、自由にベリー類やキノコ類など、自然の恵みを採ることができる権利です。それだけ自然が身近にあり、身近なものであるがゆえに、責任も感じて自然を守る意識が働いているのだと思います」
国民の環境を守る意識は、フィンランドの産業にも大きな影響を与えている。次回は、フィンランドの企業が取り組む「循環型経済」について考える。
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