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オミクロン禍の放送継続とBCP

【猛威を振るったコロナ禍のなか、放送を継続するために全国のテレビ局はどう工夫し、どう戦ったか】

「調査情報デジタル」編集部

 オミクロン株の感染拡大により、年明けの1月中旬以降、テレビ局でもBCPという言葉がコロナ第5波に続き再び飛び交う日々を迎えている。BCPとは、Business Continuity Planningの略で、緊急事態における事業継続計画のことである。テレビ局では放送をどう継続していくか、これが切羽詰まった大問題となった。

 オミクロン株の強い感染力により感染者数は言うまでもないが、濃厚接触者が膨れ上がった。厚生労働省では当初、待機期間を14日間としていたが、それが10日間へ、さらに7日間に短縮された。このままでは社会機能の維持が難しくなってしまうという側面もあったと思う。それでも7日間という待機期間は現場に大きなダメージを与えた。全国どこの会社も似たような事情に直面したと思うが、テレビ局の場合は出演者が感染し、濃厚接触者に認定される対象者が増え、生放送番組では出演者に代役を当てるケースが続出した。

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 1月末にはTBSでも、安住紳一郎アナウンサーが『THE TIME,』で感染防止のために自宅からリモート出演したのをご記憶の方も多いと思う。共演していた女性アナウンサーの陽性が判明したための対応だったが、1月下旬くらいから、こうした出演者の感染報告が他局も含めて相次ぎ、現場は混乱した。放送がピンチに陥るケースは枚挙に暇がなく、オミクロン株の感染力を考えれば今後も予断を許さない。

放送継続が危ぶまれた事態

 『調査情報デジタル』では、全国の放送局がコロナ禍でいかに感染防止を行い、どのように取材し放送を継続してきたか、一年間にわたり全国各局の対応を連載してきた。人員の限られた地方の放送局では感染の拡大は即、放送継続が危ぶまれる一大事態となる。

 青森テレビからの報告は、他人事ではないコロナ禍での教訓を示してくれると同時にBCPの大切さを私たちに教えてくれる。

 それは昨年3月16日のことだった。

 青森テレビの夕方のニュース。マスクをした女性キャスターがニュースを読み上げる。
 「青森県はきょう、男女合わせて14人の新型コロナウイルスの感染確認を発表しました。このうち2人は青森テレビの社員で、社内の感染者はこれで6人となり、クラスターが発生しました」。いつもはその隣にいる男性キャスターも濃厚接触者と認定され、その姿はない。百数十人の従業員のうち28人が濃厚接触者と認定され、最大38人が出社停止という非常事態となった。

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 青森テレビはただちに対策本部を設置し、放送の継続とローカル放送枠の維持を大命題として臨んだ。

①スタッフ全員を2班に分け、相互の接触を禁止し、隔日で当たる
②一方の班に感染者が出た場合は、もう一方の班が全業務を行う
③社屋への立ち入りはデスク、編集員、出演者、運行に携わるスタッフのみ
④記者、カメラマンは決まったペアとし、社屋外で待機。機材はデスクが出入り口で受け渡す
⑤記者は自宅からモバイルPCで出稿。映像素材は都度、タクシー送り
⑥アナウンサーと接触するスタッフは特定の一人とし、原稿の受け渡しを行う

 こうした努力を続けている間も取材拒否や誹謗中傷はあったという。青森テレビの置かれた状況に思いを馳せると自宅待機者が復帰するまでのおよそ15日間、現場の苦労はいかばかりだっただろうかと思う。と同時にこうした対策が有効に機能したからこそ、それだけの日数で済んだケースとも言えるだろう(詳しくは青森テレビ 「放送継続の15日間」をお読みください)。

 全国各局のBCPをみると、青森テレビでだけでなく、2班態勢を取る事例は多い。テレビユー福島ではコロナウイルス感染が始まった2年前の4月から報道部を2班に分け、一週間交代で行う態勢をいち早く続けたという。震災・原発事故、そして風評被害に直面した経験を持つ同局だからこその対応の早さだったのではないかと思う。

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 筆者の知るところ番組打ち合わせや会議のリモート化にとどまらず、コロナ対策は詰まるところ人間同士の非接触の効果が大きく、万が一に備えて2班態勢や3班態勢で臨む放送現場は多い。不幸にも1班に感染が拡大しても、セパレートしておけば別班で乗り切ることができる。数少ない人員の中での別班化は負担も大きいが、コロナ禍の対策として行っている放送局は多い。

緊迫する災害報道の現場

 この一年間の放送局のコロナ禍の対応を各局の記事から見てみると、コロナ禍でテレビ報道は何を伝えるべきか、知事会見の垂れ流しになっていないかなどコロナ禍での報道の在り方を問うものが多かったが、同時に当初から各局が神経を尖らせたのは、感染防止対策を施しながらの取材の在り方だったように思う。インタビューの共同取材が増えると同時に、インタビュー時のソーシャルディスタンスの確保、リモートでの取材も増えた。

 とりわけ、災害現場では神経をすり減らす取材が続くことになった。

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 第5波が迫っていた昨年7月に起きた「熱海・土石流」災害での静岡放送の取材対応は「三密」を避ける取材の大切さを私たちに教えてくれる。当時、熱海には全国から応援を含めた取材クルーが集中した。熱海市伊豆山は高齢化率が高い地区だったことに加え、500人以上の住民が避難を余儀なくされた。二次災害防止のため、取材ポイントが限定されたこともクルー集中による「密」を助長した。いつクラスターが発生してもおかしくない条件はそろっていた。取材でのクラスターの発生、それだけは絶対に避けなければならないと現場に居合わせた各局の取材陣は心に堅く誓っていたに違いない。

 幹事社を中心に各社が協力し,複数人一緒の車移動の回避に始まり、囲みインタビューの代表取材への切り替えなど、できることは何でもやっている(詳しくは、コロナ禍の災害報道 「熱海・土石流」取材の中で をお読みください)。

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 こうした取材側の努力に加えて、熱海市の災害現場でクラスターが発生しなかったのにはもう一つ理由があった。観光地という土地柄、宿泊施設が多く、複数のホテルが避難所になるという異例の対応が実現したことだ。これで三密を避けることができた。こうした関係者の努力があってホテルでの避難生活が終わるまでの4か月間、熱海では被災者の感染は報告されなかったのである。

 今、放送現場では報道に限らず、ドラマ、バラエティ、ドキュメンタリ―などすべての現場で、放送継続の努力が続いている。この一年間の各局の放送の舞台裏でのコロナ禍の対応を読み返すとき、危機の時のふるまい方のヒントが多くあるように思う。

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chousa@tbs-mri.co.jp


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