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コロナ禍の情報発信~福島から伝えたいこと

【<放射能>と<コロナウイルス>。ともに目には見えないものと闘っている福島。さらにもう一つの「見えない敵」との闘いも始まっている。その「記憶」を「記録」し、発信し続ける地元メディアの使命】

今野貴哉(テレビユー福島 報道部長)

感染対策の徹底

 “伝えるべき現状・課題をしっかりと放送できているのだろうか”。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、このように自分たちに問いかけながら、そして感染リスクと向き合いながら報道の現場で取材を続けている。
 去年4月、社内の感染症対策の一つとして報道部をA班とB班に分ける2班態勢をとった。通常勤務でニュースを出稿する班と自宅待機班を1週間交代で行うもので、およそ2か月間この態勢が続いた。連日新型コロナウイルスのニュースを限られた人数で番組を成立させるのは極めて厳しいものだったが、これまでにない結束力が生まれたかもしれない。あれから1年。社内のデスクはすべてパーテーションで仕切られているほか、消毒の徹底、不織布マスク着用の徹底など新型コロナ対策は当たり前のようになっている。この1年という月日でコロナと向き合う生活に慣れてきたともいえるがそうしたなかで福島県内では大きな出来事がいくつもあった。

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東日本大震災とコロナ

 「東日本大震災から10年」。いまだに故郷に戻り住むことができない町があるなか、福島はあの日からどのように姿を変え、どんな未来に進もうとしているのか、一人でも多くの人に伝えていくことが福島にあるローカル局の使命だと感じていた。しかし、コロナという見えない敵は福島の復興に水を差し、私たちの取材にも影響を及ぼした。思い起こせば10年前、私たちは目に見えない“放射能”と闘っていた。これまであまり取り上げたことのない問題と向き合った。多くのメディアは原発から一定の距離以内に入らない取材規制を設けた。これは「記者の身の安全を図るために行う報道の自粛」。しかし、その規制された内側では“放射能”の恐怖と闘いながら最前線で働く人、生活する人が多くいた。“現場を取材すべきかどうか”難しい判断が迫られるなか、我々報道機関の役割を改めて考えさせられる機会でもあった。その時、私たちにとって最も大切なこと、やるべきこととしてたどりついたのが“記憶をつなぐ”ということだった。震災・原発事故は人類が今後地球上で暮らしていくなかでも重要な教訓として残していかなければならない記憶だ。その時、人は何を考え、どう行動したのか。その記憶を後世に残すためにも“記憶”を“記録”し後世に伝えていくことが私たちの使命ではないか。その報道の役割を考えたとき、ウイルスにも立ち向かい復興に向かって進んでいく福島の姿を今しっかりと取材することが我々ローカル局に求められていることだと考え前を向くことができた。
 全世界に影響を及ぼす新型コロナウイルスに関心が集まるなかでも被災地の復興工事や廃炉作業に遅れがでることは決して許されることではない。そうしたなかで福島の復興の現状、そして課題を伝え続けてきた。これは震災・原発事故の経験があったからこそ感染症対策をしっかりととりながら続けてこれたのかもしれない。

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「処理水」と風評被害

 福島の現状を伝え続けているなかでいま最も問題となっているのが東京電力福島第一原発で増え続けている“処理水”の問題だ。福島第一原発ではデブリの冷却などで毎日汚染水が増え続けている。その汚染水を「浄化処理」して、除去しきれない放射性物質トリチウムが含まれる水を敷地内にある巨大なタンクにため続けているが、2022年秋ごろには満杯となる見通しだ。そこで議論されていたのがこの処理水を海洋放出すべきかどうか。トリチウムが含まれる水を海洋放出しても安全性に問題ないとする専門家もいるが、ここで一番重要視しなければいけないのは地元の意見だった。特に漁業関係者は原発事故後、地道に地元産の魚の安全性を訴え、消費者からの信頼を取り戻そうと必死に試験操業を続けてきた。今年4月からようやく本操業に向けた移行期間に入り“1歩前進”したところに“海洋放出決定”のニュースが飛び込んできた。決定までに制限時間があり何かしらの結論を出さなければいけない実情はあるが、重要なのはその結論を出すまでの過程だ。我々も県民の多くの声を取材し伝え続けてきたが、そうした声がしっかりと政府に届いているのか、議論をし尽くしたと言えるのかなど多くの疑問を県民が感じた結果となった。ここで問題となってくる見えない敵は“風評”。政府は2年後を目途に、処理水の濃度を国の基準の約40分の1までに希釈した上で海洋放出するとしているが、“風評払拭対策”“安全性の担保”などを政府がどのように進めていくのか、この2年は非常に重要な期間となる。地元福島ではいまもなお漁業者、農林業者などが海洋放出に反対の意思を示している。「関係者の理解なしに、いかなる処分もしない」と約束していた政府と東京電力が海洋放出を実行するまでにどのような行動をとるのか。それは、地元メディアとしてもしっかりと取材をすすめ、全国の人に伝えていきたい。
 福島には多くの“見えない敵”がいる。数十年かかると言われる福島第一原発の廃炉作業や風評問題など、様々な見えない敵との戦いが続くなかで山積する福島の課題。世界からも注目される課題や問題について我々福島のメディアは、国内だけでなく、世界に発信し続ける必要があり、それが地元局の使命でもある。

<執筆者略歴>
今野貴哉(こんの・たかや)
1974年生。会津大学卒。1997年テレビユー福島入社。技術局技術部配属。2000年報道制作局報道制作部、2008年報道制作局報道部、2020年から報道局報道部長。

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