放送継続の15日間 ~職場クラスター下の報道現場~
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放送継続の15日間 ~職場クラスター下の報道現場~

【青森のテレビ局でクラスターが発生した。逼迫した状況、限られた人員の中で、放送の継続さえ危ぶまれた苦闘のレポート】

鎌田 裕一(青森テレビ 報道制作部長)

テレビ局でのクラスター発生

 「青森県はきょう、男女あわせて14人の新型コロナウイルス感染確認を発表しました。このうち2人は青森テレビの社員で、社内の感染者はこれで6人となり、クラスターが発生しました。」
 3月16日、青森テレビの夕方の報道番組の冒頭、女性キャスターが伝えたニュースである。マスクで口を覆った彼女の隣に、いつもの男性キャスターの姿はない。画面から伝わってくるのは非常事態そのものだった。
 事の発端は5日前に遡る。本社内で2人の感染者が確認されると、次々に新規感染者が発生し、1週間後には10人にまで膨らんだ。また、青森テレビを由来とする感染ルートが別に2つ確認され、我が社の感染状況は連日、県民の関心を集めることになった。これに加え、先の男性キャスターを含む従業員28人が濃厚接触者に認定され、最大38人が出社停止となった。僅か百数十人の地方局は一時、約3分の1に当たる人員を欠くことになったのである。

【引き続き「大きな混乱、相次ぐ取材拒否」に続く】

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大きな混乱、相次ぐ取材拒否

 この事態を受け会社は、すぐに対策本部を設置。主調整室を「最後の砦」と位置づけ、他部署との動線を切り離し独立化させるとともに、可能な部署にはテレワークを指示した。また、幸いにも出社停止の該当者がいなかった報道部員を核に、放送の継続とローカル枠を維持することを大命題とした。
 こうした中、社命を担った報道現場では大きな混乱が生じていた。クラスター発生直後から取材拒否が相次ぎ、放送枠を維持するために必要なニュース項目の確保に窮する日々が続いていたのである。加えて、この頃は社内向けの感染情報が乏しかったため、万が一、自分も感染していたら、という強い不安感が渦巻いていた。そして、この状況に世間の目が更に追い打ちをかけていった。配偶者の勤務先や子どもの保育施設から自宅待機を求められる事案が複数発生したのである。中には自宅に誹謗中傷と思われる電話や自宅敷地内に置いてあった物が盗難被害に遭うケースも出るなど混乱が日ごとに増していった。一方、報道現場では、取材先に受け入れられ、且つ自身と家族の安全を担保した働き方の構築という難しい課題に直面した。

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 報道現場が出した答えは「誰もがウイルスキャリアの可能性がある」という前提での取材方法であった。主なものは以下のとおりである。
 ▽スタッフ全員を2班に分け、相互の接触を禁止し、隔日で業務にあたる。
 ▽万が一、一方の班から感染者が出た場合は、もう一方の班が全ての業務を担う。
 ▽社屋へ立ち入ることができるのはデスクと編集員、出演者、運行に携わるスタッフのみ。
 ▽記者とカメラマンは決まったペアとし、社屋外で待機。機材はデスクが準備し、出入り口で受け渡す。
 ▽記者はモバイルPCで自宅から出稿。映像素材は都度、タクシー送り。
 ▽アナウンサーと接触するスタッフは特定の1人とし、原稿の受け渡しを行う。
 こうした態勢を、2日間で作り上げ、全員で共有していった。しかし、これら急造の態勢は、必ずしも成功したとは言えなかった。自社の態勢を取材先に説明するも、にべもなく断られるケースは後を絶たず、記者たちはニュースバリューの低い自治体の統計資料ネタをかき集め、放送尺を積み上げることもあった。
 やがて、民間のPCRキットで1人、また1人と陰性が証明されると、環境は少しずつ好転し取材が可能になっていった。そして3月26日、保健所の指示の下、療養中を除いた自宅待機者が復帰し、報道現場が担った放送継続の使命が完了した。最初の感染者の発生から15日目のことであった。

コロナ禍を「自分のこと」としてとらえる

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 青森県で新型コロナ感染者が確認されてから、ほぼ1年後に発生した自社内でのクラスター。この間、感染対策の重要性を繰り返し訴える啓発活動とともに、コロナ禍にあっても県民一丸になって難局を乗り越えようというキャンペーンを立ち上げ、展開してきたにも関わらず、世間の耳目を集めることになったことで、最前線に立ち続けた報道現場のスタッフが感じた忸怩たる思いは想像をはるかに超えたものであったと思う。ただ、マスク着用、手指消毒、一定距離確保、アクリル板設置、出社前と出社時の検温、等々、声がけをしながら感染防止策をとってきたにも関わらず、社内で感染の連鎖が発生したことは否定のしようがない事実である。「青森テレビクラスター」と揶揄され、放送の継続さえ危ぶまれた15日間で気付かされたことは、それまで我々が伝えてきたことは、当事者意識に欠ける、まるで他人事のような「定型」であっということである。感染防止策は国の指針を基に会社が進めるが、このことを一従業員としてどう受け止め(当事者意識)、どう報道していくのか―(コロナを減らすという気持ちが入った報道)。
 当時の青森テレビの状況は、国民一人一人が徹底した行動変容を求められている今日の日本の姿と重なるようである。

<執筆者略歴>
鎌田裕一(かまた・ゆういち)
1971年生。青森県出身。
1995年入社。アナウンサー、本社営業を経て2012年 報道制作局報道制作部配属。
2014年 県政キャップ、選挙デスク
2018年 統括編集長
2019年 報道担当部長、2020年から報道制作部長

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