見出し画像

データからみえる今日の世相~どこまでやる?家の中の整理~

⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎
「調査情報デジタル」より重要なお知らせ
「調査情報デジタル」は2024年6月よりすべての記事が無料のウィークリーマガジンになります。これまでご購読頂いた皆様にあらためて感謝申し上げます。無料化にあたりご購読者の皆様にお手続き頂くことは特にございません。今後とも「調査情報デジタル」をよろしくお願い申し上げます。
⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎

【大型連休に大掃除。きちんとしているような、してないような】

江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)

 今年(2024年)のゴールデンウィーク(GW)はいかがお過ごしでしたか。新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが変わったのが、昨年のGW終わりの5月8日。それから1年経ち、ようやくコロナ以前のGWが戻ってきた感じもあります。

 せっかくの大型連休は、ふだんできないことをするチャンス。旅行やレジャーはもちろんですが、部屋の片付けに着手した人も多いのでは?

 かく言う我が家も、大型家具の買い換えに不要なオーディオ機器の処分、さらには襖(ふすま)の張り替えと、家内の整理を一挙敢行。
 片付けたほうがいい、整理したほうがいいと長年思いながら、面倒だったり、ほかに用事があったりで、結局その都度先送りにした過去。しかし、一念発起の家人に押されて、いろいろ手配したら本当にスッキリ。

 こうした「家の中の整理」にまつわる気持ち。今回はその移り変わりを、TBS生活DATAライブラリ(注1)で眺めてみます。

家の中の整理をめぐる男女の差・時代の差

 TBS生活DATAライブラリは、TBSテレビをキー局とする全国テレビ系列のJNNが、1970年代から続けている大規模ライフスタイル調査。
 そこにはいろいろな意見・態度から、自分にあてはまるものをいくつでも選択する質問があり、その中に次の選択肢が入っています。

  • 家の中をきちんと整理しておかないと気がすまない

  • 家の中が多少整理されていなくてもそれほど気にならない

 こうしたことがあてはまる人が、世の中にどれくらいいるのか。それを調べた調査は他にもあるかもしれませんが、それを半世紀近く毎年調べ続けているのはTBS生活DATAライブラリ以外に聞いたことがありません。

 この極めてユニークなデータを男女別に集計して、日本人の「家の中の整理」意識の推移を示したのが次の折れ線グラフです。

 グラフを見ると、70年代後半は女性の半数が「気がすまない」人で、「気にならない」は3割弱。男性も前者が5割弱、後者が3割強と、当時は「家の中は片付けるもの」という態度が主流派。

 しかし、そこから「気がすまない」が減少の一途をたどり、男性は早くも80年代で4割を下回り、女性も90年代には3割台に突入。
 入れ替わるように「気にならない」が80年代から増加し、90年代に「気がすまない」と逆転して、現在は男女とも4割強で推移。

 減少傾向の「気がすまない」ですが、該当率は常に女性が男性を上回っています。一方、かつては男性の該当率が高かった「気にならない」は、90年代半ばから女性が肉薄し、今やわずかに女性が上回るほど。
 「家内の片付けは、女性がちゃんとしていて、男性が無頓着」というのは雑なステレオタイプに過ぎず、実状はもう少し込み入っています。

コーホート分析が明かす時代の効果

 「家の中の整理」意識のように長期間に及ぶ時系列データでは、その数値の変動を「年齢」「時代」「世代(コーホートとも呼びます)」の3効果に分解し、各々の大きさを検討する「コーホート分析」も可能です(注2)。
 本コラムのバックナンバーでは、漫画家・松本零士さん(23年逝去)の作品を分析して、「X世代に人気」というコーホート効果を報告したことも。

 はたして「家の中の整理」意識の推移は、どの効果によるものか?
 そこを確かめるべく、男女の「気がすまない」「気にならない」を個別に分析。3つの効果ごとにその結果をまとめたのが次の折れ線グラフです。
 いずれも、グラフの上に行くほど各々の意識への該当率を高める(下に行くほど低める)ように作用していることを表しています。

 グラフから、年齢効果では男女とも10代~20代後半まで「気にならない」傾向が強いものの、年齢が上がると「気がすまない」が強まります。ただ、なぜか女性40代後半だけ「気にならない」と「気がすまない」に再逆転があり、体調変化などライフサイクル上の何かがあるのかも、と気になります。
 また、コーホート効果では、若年世代のほうが年配世代より「気にならない」傾向があり、50~60年代生まれあたりに境目がある感じです。
 しかし、3つのグラフを全体として眺めると、年齢効果やコーホート効果に比べて、時代効果のグラフで上下の振れ幅が大きいことが分かります。
 これは「時代が進むにつれて、どの年代・世代でも『気にならない』という傾向が強まっている」という意味ですが、3つの効果のうち時代効果が特に大きいことの表れでもあります(注3)。

部屋の整理と「家族と他人」

 老いも若きも、女も男も、時代が進むごとに「家の中が多少整理されていなくてもそれほど気にならない」様子。
 これに似た成り行きになっている意識が他にもある気がして、TBS生活DATAライブラリをあれこれ探ってみると……。

 ありました!
 1976年から調べ続けている、次の選択肢がそれです。

  • 家族も大切だが、家族以外とのつき合いにつとめて時間をさきたい

  • 他人とのつきあいより、家族との時間をできるだけ長くとりたい

 そして、これらを男女別に集計した結果が次の折れ線グラフです。

 70年代後半から80年代にかけて、「家族より他人」(男性4割弱・女性3割)が「他人より家族」(男女とも2割強)より多かったのですが、前者の減少と後者の増加が相まって、90年代に逆転。近年は「家族より他人」が2割強、「他人より家族」が4割となっています。
 この成り行き、ちょうど「家の中の整理」意識の「気がすまない」が「家族より他人」、「気にならない」が「他人より家族」に対応しています。

 身内より他人様(ひとさま)とのつき合いを重視すると、例えば、そうした他人を自宅に招いたり、自分の暮らしぶりが他人にどう見えるかを気にしたり、といったことも多くなるかも知れません。
 すると、家の中を片付けないと気がすまなくなるかも知れません。
 逆に、取り繕った外面より、あられもない姿を見せ合って暮らす家族の時間が長くなると、多少散らかった家でも気にならない気がします。

 「家の中の整理」意識と「家族と他人」の優先順位の関係は定かではありません。しかし、前者にも「他人を気にするか、自分や身内を気にするか」といった判断が幾分かは含まれているようにも思えます。

 自宅は自分や家族にとって快適な環境であるのが第一で、人目を気にしすぎて完璧な状態の維持に腐心するのは気詰まり。しかし、多少の散らかりに目をつぶり続けて、気がつけばゴミ屋敷寸前というのも極端な話。

 となると、日々それなりに片付けるものの、だんだん積み重なる無駄なアレコレをときどき一念発起で始末する、というのがいい塩梅でしょうか。

注1: TBS生活DATAライブラリは、1971年の開始以来「JNNデータバンク」という名称で続けてきましたが、2024年4月に改称しました。
注2:TBS生活DATAライブラリ定例全国調査は、1993年以降13~69歳が対象ですが、分析の基となるコーホート表は分析の都合から「15~59歳の5歳刻み」「1975年から5年置き」のデータで作成しました。また、本稿では朝野(2012)で紹介されている「パラメータの簡易推定法」で計算を行いました。
注3:男性の『気にならない』について、データの変動全体を100%としたとき、3つの効果が占める割合(パラメータの分散の構成比)は「年齢効果33%・時代効果33%・コーホート効果35%」でした(%値は小数第一位を四捨五入、以下同様)。同様に男性の『気がすまない』では31%・45%・24%、女性の『気にならない』では26%・49%・25%、女性の『気がすまない』では32%・48%・21%となり、男性の『気にならない』のみ3つの効果が同等で、それ以外は時代効果が最も大きいという結果でした。

参考文献:朝野煕彦(2012)『マーケティング・リサーチ ―プロになるための7つのヒント』講談社.

<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は総合マーケティングラボに在籍。

この記事に関するご意見等は下記にお寄せ下さい。
chousa@tbs-mri.co.jp

ここから先は

0字
メディアのありようが鋭く問われている現代。メディアの果たすべき役割は何か? メディアの現場では何が起きているのか?メディアの発するメッセージは誰に、どのように受け止められているか。ドラマ、バラエティなどエンタテインメントの話題もあわせ、幅広い情報をお届けします。

TBSが1958年に創刊した情報誌「調査情報」が、デジタル版の定期購読マガジンとしてリニューアル。テレビ、メディアに関する多彩な論考と情報…