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<シリーズ SDGsの実践者たち> 第8回「理想の再生エネルギー」地熱の活用は進むか

【二酸化炭素を排出せず、原料の輸入も不要な地熱発電。しかも日本は世界3位の地熱資源量をもっている。ところが地熱発電の割合は0.3%。その理由は】

「調査情報デジタル」編集部

 石油や石炭などの化石燃料は必要なく、1日24時間を通して安定した発電が可能。資源が枯渇することもない。そんな理想的な再生可能エネルギーが地熱だ。

 国内最大の地熱発電所は、大分県九重町にある八丁原発電所。阿蘇くじゅう国立公園内でもあるくじゅう連山の山あいで、大きな蒸気を上げている。

山あいから蒸気を上げる八丁原発電所

 八丁原発電所は九州電力が運営。11万kWの発電能力を持ち、約3万7000世帯の電力をまかなう。

タービン2基で発電、11万kWの発電能力を持つ

 同じ発電を火力発電所で行う場合には、年間20万kL、ドラム缶で100万本分の石油が必要になる。地熱発電は設備には金がかかるものの、簡単に言えば地下にあるエネルギーを活用するだけなので原料は不要。火力発電所と同じくらいのコストで運営できるという。

日本での大規模地熱発電は戦後に始まる

 世界で初めて地熱発電が行われたのは1904年。イタリアのトスカーナ地方、ラルデレロで天然の蒸気を利用した発電に成功した。国内では1925年に大分県別府町(現在の別府市)で1.12kWの出力を持つ地熱発電に成功するが、その規模は小さなものだった。

 大規模な地熱発電の開発が始まったのは、第二次世界大戦の終結後。戦後の電力不足を背景に、九州と東北で調査と研究が行われるようになった。日本初の本格的な地熱発電は1966年に岩手県の松川発電所で始まった。

 九州電力の前身である九州配電が、くじゅう連山周辺で地熱発電の調査を始めたのは1949年から。1967年には電力会社としては初めてとなる大岳発電所の運転を開始し、10年後の1977年から八丁原発電所の1号機が稼働している。

 現在九州電力は5つの地熱発電所で約21万kWの発電能力を持つ。日本国内の地熱発電容量が約60万kWなので、約3分の1を占めることになる。

温水を大気で冷却させる冷却塔

世界第3位の資源量を生かせない理由は

 この連載で前回、日本の地熱資源量は2347万kWで、世界第3位の規模を誇るものの、国内の電源構成に占める地熱発電の割合は2020年の時点でわずか0.3%しかないことに触れた。

 世界で最も大きな地熱発電設備を持つのはアメリカで、国策として地熱発電を進めているインドネシアやフィリピンが続く。インドネシアのスマトラにある世界最大級の地熱発電所を開発したのは九州電力だ。発電も手がけ、インドネシアの国有電力会社に売電している。

 日本の地熱発電の能力は以前は世界で10位以内だった。それが現在は順位を下げている。豊富な地熱資源がありながら生かせていないのだ。

 なぜ日本では地熱の開発が進んでいないのか。地元の同意が必要なのはもちろんだが、それ以外にも大きく2つの理由がある。

 1つは、調査を初めてから発電ができるまでのリードタイムが10年かかること。調査は地表から地質、重力、電磁波などを探査して、熱水が湧き出る断層を探査する。断層がある場所の見当をつけて、掘削を始める。

 しかし、その井戸から発電に十分な熱量が確保できるかどうかは、掘ってみないと分からない。事業として成り立つのかどうかが10年経たないと判断できず、企業にとっては簡単に踏み出すことができない面がある。

地熱エネルギーを取り出す蒸気井

 もう1つは、地熱発電に適した熱源の多くが自然公園内に偏在していること。自然公園内に工作物を設置する場合には、景観に配慮するための規制が自然公園法で定められている。環境省もしくは出先機関の承認も必要だ。

 八丁原発電所が自然公園内で大規模な発電ができているのは、開発当時にはまだ規制がなかったためだった。それでも、景観への配慮はしてきた。発電施設を山に隠れた低い場所に作ることで、周辺の道路からは見えないようにしている。ただ、その後に作られた規制によって、国内では大規模な地熱の開発が進まなかった。

発電所の構造物は山に隠れて見えない

規制緩和で地熱発電の利用は進むか

 九州電力の他の地熱発電所は、大分県と鹿児島県にある。九州電力全体で地熱発電が占める割合は1%前後だが、安定供給の役割を果たしていると八丁原発電所の竹内一孝所長は説明する。

 「天候に左右されないことが地熱発電の優れている点ですね。国産のエネルギーですので、1%前後であっても約50年間安定して発電しております。先人が地下に大規模な地熱貯留層を発見したことと、地元の理解が得られたことで、今も恩恵を得られています」

 理想の再生可能エネルギーである地熱は、その利点が改めて注目されていて、経済産業省は2030年に地熱の発電容量を150万kWにする目標を掲げた。その目標を受けて、自然公園内での地熱開発についてはここ数年で規制緩和が進められている。

 規制緩和の動きに呼応して、九州電力は2022年4月から、八丁原発電所にほど近い泉水山北部地域で地熱資源調査を開始した。自社の強みでもある地熱発電を成長産業の一つとして位置づけている。

 国の目標達成は現実的には不可能だが、SDGsの目標達成に取り組む機運の高まりによって、大規模地熱発電所の開発が前に進み始めたのは確かだ。二酸化炭素を排出せず、原料の輸入も必要ない地熱発電は、ローカル電源として今後も一定の役割を果たしていくのではないだろうか。

八丁原発電所近くの長者原から望むくじゅう連山

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