データからみえる今日の世相~暑い、でも、泳がない~
江利川 滋(TBSマーケティング局)
猛暑やら大雨やらで連日大変な天気が続く夏のこの頃。
気象庁の「気候変動監視レポート2023」によると、全国的に猛暑日や熱帯夜が増加しているとのこと。都市部では周辺地域より気温が高くなりがちで(ヒートアイランド現象)、東京ではこの100年で夏の平均気温が2.3℃も上がったそうです。
こんなに暑い夏には、冷たいプールで一泳ぎ。あるいは浜辺に繰り出して、海水浴を満喫するのも楽しそう。
しかし、50代半ばの筆者が我が身を振り返ると、プールや海に出かけたことが、ここ数年、全くないことに気づきました。
元々それほど運動好きでもない筆者は、水には浮くものの、少し泳げばすぐグッタリ。自分からプールに行きたがることもなし。
子どもが生まれた10数年前、夏は海が近い妻の実家に帰省して海水浴場へ。子どもが小学校低学年のときは、浮き輪を付けさせて波打ち際で遊んだものの、習い事のスイミングスクールで次第に親より泳ぎが上達。
そうなると、お父さんは海に行っても子どもに構ってもらえず、一人ぽつねんと波に浮かんでみたりして。
結局、年1回の海水浴が貴重な泳ぎのチャンスでしたが、新型コロナ禍で帰省もできなくなるうちに、ここ数年の水泳経験はゼロに。
夏に泳ぐのは当たり前と思いきや、実は意外と泳いでいないのかも。この予想、それなりにデータの裏付けもあるようなのです。
水泳や海水浴をする割合は減る一方
TBSテレビをキー局とする全国ネットワークのJNNが、1970年代から毎年実施しているTBS生活DATAライブラリ定例全国調査(注1)。
その中にあるのが、主にレジャーやスポーツについて「最近1年間でしたことのある行動」をいくつでも答えてもらう質問項目。一緒に、全く同じ選択肢で「これからしてみたい行動」も尋ねています。
これらの質問での「プールなどでの水泳」と「海水浴」の選択率について、74年以降の首都圏在住13~59歳男女のデータで折れ線グラフを作ってみると、次のようになりました(注2)。
これを見ると、「したことがある行動」としての海水浴は、70年代の行動率が4割前後でしたが、80年代以降は数字を落とし続けています。一方、元々は3割弱だった「プールなどでの水泳」の行動率は、90年代後半に3割強とやや盛り上がりを見せるものの、やはり減少傾向。
途中、94年に突如急増しているのは、前年(93年)の記録的冷夏が一転して記録的猛暑となったためと推測。ちなみに、東京の8月の最高気温は、94年8月3日に記録した39.1℃が今でも歴代1位です(24年8月8日現在)。
一方、20年~21年と急減したのは新型コロナ禍の影響。その後やや数字を戻すものの、全体の減少傾向を一挙に加速させた観があります。
「これからしてみたい行動」では、70年代に3割の選択率だった海水浴が、80年代にプールなどでの水泳と同程度の2割に低下。これらが90年代後半にともに1割強に減って横ばいという推移。
かつて、海水浴や水泳は「してみたい」というより「するもの」だったのが、だんだん「しないもの」になってきている模様です。
海だ!プールだ!飛び込め、子ども(とその家族)!
そうか、みんな泳がなくなっているのか、とデータで確認。
ここで思い返したのが、子どもが小さいときには海水浴にも行ったけど、大きくなったら沙汰止みになった我が家のこと。
もしかして、子どもがいる家なら海水浴やプールに泳ぎに行ったりするかも。特に幼稚園・保育園の未就学児や小学生なら、自分から泳ぎに行きたがったりして。そんな仮説を確認するために、次の集計をしてみました。
まず、未就学児(4歳~)や小学生と同居しているかどうかで、回答者を「同居あり」と「その他」に分類。
それぞれについて、「海水浴」または「プールなどでの水泳」のどちらか(あるいは両方)を「したことがある行動」として選んだ人の割合、すなわち海水浴・水泳行動率を計算。
その推移を折れ線グラフにしたのが下の図です。
すると、案の定、子どもと同居している人のほうが海水浴・水泳行動率が常に高いことが判明。
大まかにいって、90年代前半くらいまでは、同居ありが5~6割、その他が4割くらいの行動率が、90年代後半に同居ありで7割近くまで急増。その他との差が3割近く開きますが、それでも00年代以降、行動率はだんだん減少。新型コロナ禍の影響もはっきり刻まれています。
最初の折れ線グラフで示した、回答者全体の傾向と重ね合わせると、海水浴や水泳の行動率が全体として高かった90年代前半は、同居ありとその他の間も比較的詰まっていました。
続く90年代後半以降は、全体の行動率が下がるなか、子どもとその同居家族が行動率の押し上げに貢献していたようです。
それでもなお、海水浴・水泳の行動率は減少し続けていますが……。
なぜ泳がなくなっているのか
なぜ海水浴・水泳の行動率が下がっているのか。その理由を直接尋ねた質問はないため、他の質問への回答から想像してみます。
関係しそうだと思ったのが「休日の過ごし方についての意識」。
79年から調べていて、あてはまるものをいくつでも選んでもらう選択肢の中に、「休日は外で楽しむほうが好き」というアウトドア派と「家でくつろぐほうが好き」というインドア派を表すものがあります。
海やプールに行きたがるのがアウトドア派なら、減少しているのはアウトドア派かも、と想像しつつ、両者の推移を折れ線グラフにすると、以下のようになりました。
世の中では、常にアウトドア派よりインドア派のほうが多く、90年代前半頃までは前者が5割弱、後者が4割弱といったところ。
これが大体90年代後半くらいから、徐々に両者の差が開き、今ではインドア派が約5割、アウトドア派が3割弱となっています。
アウトドア派が減りつつある感じもしますが、海水浴・水泳行動率の減り具合に比べると穏やかで、これだけが原因とは言いがたい印象。
そこで目にしたのが「消えゆく 夏休み水泳指導」という記事(2024年8月4日付朝日新聞)。異常な暑さや教員の働き方改革を背景に、学校のプールでの水泳指導を取りやめる例が近年相次いでいるとのことです。
また、TBSテレビ系列JNN28局のニュースサイト「TBS NEWS DIG Powered by JNN」には、教員の働き方改革や老朽化プールの建て替え予算の壁を理由に、水泳の授業を学校ではなくスポーツジムで行うケースを紹介するニュースがありました(2023年7月6日付【Nスタ解説】)。
先に引用した新聞記事によると、学校の水泳指導では「事故で水に落ちたときの対応を学ぶ着衣泳の練習を促している」そうで、子どもの命を守る取組が続けられていることには一安心。
とはいえ、学校で水泳の授業が減ったり、老朽化した学校のプールを建て替えなかったりと、子どもの水泳環境も縮小方向になりつつある模様。
子どもですら泳ぎが遠のく、過酷な今の夏。このままだと「昔は夏にわざわざ外に出かけて泳ごうとしたらしいが、よくそんな危ないことをしたもんだ」と言われたりして。
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