見出し画像

2025年注目の日本アスリート~卓球、水泳、槍投げ、そして大谷翔平

【来年も日本アスリートの活躍に期待が高まる。それぞれの種目の注目選手と注目ポイントは】

佐藤 俊(スポーツライター)


中国から警戒される卓球のニューカマー

 2024年は、パリ五輪が開催され、またロサンゼルス・ドジャースのワールドシリーズ優勝に貢献した大谷翔平、山本由伸の活躍などで日本のスポーツ界は、大いに盛り上がった。2025年も五輪ロスを感じさせないくらい多くの世界大会が開催され、日本人選手の活躍が見られそうだ。

 卓球では、今年は張本美和、早田ひなの活躍が目立ったが、来年は今年10月のWTTチャンピオンズモンペリエの女子シングルスで初出場初優勝を果たした20歳の大藤沙月(ミキハウス)が表舞台に出てくるだろう。

 この決勝では張本美和(木下グループ)を4-2(11-4、9-11、9-11、13-11、11-7、11-4)で下し、2回戦では平野美宇、3回戦では伊藤美誠を破った。中国からは「また新たな強敵が加わったようだ」と報道されるなど警戒されている。

 11月のWTTファイナルズはランキングトップ16位までの選手が集う世界大会だが、そこで伊藤を破るなどしてベスト8入り。4月の世界ランキングは125位だったが、今や8位までアップした。

 大藤の良さは、男子顔負けの強烈なバック、フォアだ。台から離れてもその強打の威力はすごく、張本もそれに対応できずに敗れた。「シングルスではまだ上がたくさんいるので、1つずつ課題と向き合いたい」と意気込む大藤だが、1月の全日本卓球選手権で優勝する可能性は十分にあり、中国に迫いつき、追い越せと急成長を見せる日本卓球界を盛り上げてくれるだろう。

パリ五輪での惨敗からリベンジ狙う競泳陣

 7月には、水泳世界選手権大会がシンガポールで開催される。

 パリ五輪で日本競泳陣が獲得したメダルは、男子400m個人メドレーの松下知之(東洋大)の銀メダルひとつのみ。メダルなしに終わった1996年アトランタ大会以降では最も少ない数となり、惨敗を喫した。そこから再スタートを切る日本競泳陣だが、注目はパリ五輪でも活躍した松下だ。

 パリ五輪では世界王者のレオン・マルシャン(フランス)について行かず、後半勝負で6位から一気に2位に順位を上げるクレバーなレースを見せた。得意は自由形、この時も力強いストロークから繰り出されるスピードを活かして痛快な逆転劇を見せた。

 今年4月、同じ栃木出身で憧れの萩野公介を追って東洋大に進学。萩野や北島康介を育てた平井伯昌コーチの指導を受け、今も成長を続けている。

 「マルシャン選手という高い壁はあるが、自分はチャレンジャーとして挑んでいきたい。4年後のロス五輪はまた違った気持ちで迎えられると思うので、4年間かけて頑張りたい」と語り、ロス五輪を見据えている。

 来年7月の大会は、そのための第1歩となるレース。3位内をキープし、安定した強さを見せることで泳ぎの再現性を実現し、高い壁を乗り越えていってほしい。また、男子では平泳ぎ200mの渡辺一平、200m自由形の松元克央にもパリのリベンジの期待がかかる。

 女子では、鈴木聡美が楽しみだ。33歳ながらパリ五輪で平泳ぎ200mで4位に入り、健在ぶりをアピールした。2012年のロンドン五輪では100m平泳ぎで銅メダル、200m平泳ぎで銀メダル、400mメドレーリレーで銅メダルを獲得し、日本競泳女子史上初の1大会で3つのメダルを得た。

 その後、リオ五輪では100m平泳ぎに出場するも準決勝敗退、東京五輪は代表枠を得られなかった。一時は引退も考えたが、コーチの助言や「納得いくまで競技を全うしたかった。自分の殻を破り、変化を受け入れる」と気持ちを切り替えることで、トレーニングに意欲的に取り組み、新たな泳法に行きついた。

 2023年の世界水泳では100m平泳ぎで14年ぶりに自己ベストを更新し、2024年3月の代表選考会では青木玲緒樹を破り、記録をさらに伸ばした。10代で活躍する選手が多い中、30代に突入し、衰えるどころか、強さを増している。パリ五輪明けの世界選手権になるが、前回大会で自己ベストを更新したように、今回も自己ベスト更新してメダルを獲得し、年齢の壁をぶち破ってほしい。

バスケットボール、「最も小さい」選手に送られる喝采

 8月には、FIBA(国際バスケットボール連盟)アジアカップがサウジアラビアで開催される。

 日本は、中国、モンゴル、グアムの予選Cグループで3戦全勝でトップ通過。1971年以来の優勝を目指して戦うことになるが、キーマンになるのが河村勇輝だ。パリ五輪後、NBAのメンフィス・グリズリーズに移籍し、昨年10月、田臥勇太、渡邊雄太、八村塁に続く日本人4人目のNBAデビューを果たした。ハイライト動画として"バズった"巧みなノールックパスを始め、3ポイントシュートなど、点が獲れるポイントガードとして存在感を増している。

 今季、NBAに選手登録された河村の身長は5フィート8インチ(約173センチ)。全30チームの約520選手で最も小さい。それでも機敏な動きやパスセンスで大柄の選手の隙間を縫うように駆け抜ける河村のプレーに全米のファンは喝采を叫ぶ。河村を軸に、54年ぶりのアジア制覇を狙う日本のバスケは注目だ。

世界ランキング2位で勢いづく男子バレー

 9月には、バレーボール男子世界選手権大会がフィリピンで開催される。パリ五輪では、準々決勝でイタリアに敗れ、メダル獲得には届かなかった。五輪前に行われたネーションズリーグでは決勝に進出し、惜しくもフランスに敗れたが世界ランキング2位にまで上り詰めた。

 チームのエースは、石川祐希だが、五輪では西田有志、高橋藍の若手が活躍し、世界選手権もこの二人がチームの命運を握ることになるだろう。ただ、西田は、パリ五輪でイタリアに敗れた後、SNSで「いったん代表を休憩します。進化して戻る予定なのでそれまで待っていてください」と述べており、代表活動を停止している。

 仲間を鼓舞し、チームを盛り上げるキャラクターとスパイクを含めた攻撃力は日本に欠かせないもの。復帰の舞台として、世界選手権は申し分ない大会であり、そこで石川に代わるエースの働きを見せてくれるに違いない。

槍投げ、北口榛花の強さの源は?

 秋には、東京で世界陸上選手権大会が開催される。34年ぶりの東京での開催になるが、トラック&フィールドで多くの日本人選手の活躍が期待される。代表内定しているのは、まだわずかだが、これから続々と代表が決まることになる。

 代表内定している中で最も期待値が高いのは、槍投げの北口榛花だ。

 2023年のブダぺスト世界選手権では最後の一投で66m73を投げて金メダルを獲得し、パリ五輪では、決勝で最初の一投で65m80をマークし、金メダルを獲得した。今や無敵を誇る北口だが、目立つのは大舞台での強さ、パフォーマンスを出し切る力だろう。

 小さい頃からバスケ、水泳、バドミントンなどのスポーツに加え、高校から陸上を始めた。槍投げに偏るのではなく、100mや4×100m のリレーなどにも出場し、バランス良くトレーニングをしてきた。

 多くの試合を経験することで、緊張こそするものの「小学生の時からスポーツをしてきて、規模は違いますが『試合』というものをずっと経験しているので、自分が試合で良いパフォーマンスをするためのルーティンが決まっています。それができれば問題ない。勝つときは勝つし、負けるときは負ける」という割り切りのメンタルがここ一番という時の勝負強さを生んでいる。

 東京では、魅せるやり投げで優勝し、世界の選手やファンに好感を持たれているとびっきりの笑顔を見せてくれるはずだ。

 参加資格有資格者では、もし代表に選出された場合、以下の選手の期待が膨らむ。100mのサニブラウン・ハキームの決勝進出が楽しみであるし、マラソンでは来年3月に國學院大を卒業予定で今年の大阪マラソンで2時間6分18秒の学生記録をマークした平林清澄、3000m障害でパリ五輪8位の三浦龍司、女子1500mの田中希実が好レースを展開してくれるだろう。

体操、岡慎之助にかかる期待

 10月には世界体操選手権がインドネシアで開催される。注目されるのは、パリ五輪でリオ五輪以来2大会ぶりの男子団体金メダル獲得に貢献し、個人総合、そして種目別の鉄棒でも金メダルを獲った岡慎之助だ。

 2022年に前十字靭帯断裂の大怪我を負い、長期離脱を余儀なくされた。だが、そのリハビリの期間中、岡は上半身の力が最も必要な吊り輪に取り組んだ。日本選手の多くが苦手としており、「日本に必要なパーツだと思ってもらえる」と考えたからだ。「パリ大会でメダルを獲得したい」という強い思いから苦しい練習を耐えた。

 その結果、表現や力強さに磨きをかけ、種目別の鉄棒では着地をピタリと決めて金メダル、平行棒ではミスのない演技で銅メダルに輝いた。内村航平の後継者として、今後の活躍が期待されており、来年10月の世界選手権はパリでの結果がフロックではなかったことを証明する場でもある。まだ、21歳、伸び代しかないだけに、パリ五輪よりもさらに進化した体操を見せてくれるはずだ。

やっぱり大谷翔平

 そして最後は、やはり大谷翔平だろう。

 今季、ドジャース移籍1年目でDHながら前人未踏の50‐50を達成し、ワールドシリーズでは左肩の故障をおして出場、2020年以来4年ぶりの世界一に貢献した。ナ・リーグのMVPを獲得するなど、記録ずくめのシーズンになったが、来シーズンは投手としての復帰が濃厚で、そうなれば「二刀流」に戻ることになる。

 打撃では、素晴らしい成績を残したが、二刀流になった時、とりわけ投手の部分でどれだけの成績を上げることができるのか。サイ・ヤング賞を獲得するぐらいの活躍を実現すれば、ドジャースのリーグ連覇も見えてくる。日本はもちろん、世界中の野球ファンが大谷に注目する1年になるだろう。

<執筆者略歴>
佐藤 俊(さとう・しゅん)
北海道出身、青山学院大学経営学部を卒業後出版社を経て、93年よりフリーのスポーツライターとして独立。サッカーを中心にW杯は98年フランス大会から22年カタール大会まで7大会連続で取材継続中。他に箱根駅伝を始め陸上、野球、卓球等さまざまなスポーツをメインに執筆。現在、Sportiva(集英社)、Numberweb、文春オンライン(ともに文藝春秋)などに寄稿している。

著者に「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根5区」(徳間書店)など多数。

この記事に関するご意見等は下記にお寄せ下さい。
chousa@tbs-mri.co.jp