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データからみえる今日の世相~多いようで少ないのは友達?友達の多い人?~

【今、危機に瀕する「大人の友達付き合い」!?】

江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)

 だんだん年の瀬も押し詰まってきて、そろそろ年賀状の準備をしようとパソコンの住所録を見返し始めました。今は年賀状のやりとりだけになった友人やお世話になった人のことを、久しぶりに思い出す時期です。

 年賀状といえば、会社の大先輩で「年賀状は毎年千枚くらい出す」といっていた営業の方がおられました。曰く「たかだか数十円のハガキを出すだけで顔つなぎが出来るなら安いもの」。
 もう20年くらい前の話で、今もそんなに年賀状を出されるのか存じませんが、「そんな大変なこと、自分には出来ない」と思った覚えがあります。

 現在50代半ばの筆者の場合、友人は学生時代の仲間が大半で、年賀状の付き合いすら目減り気味。年賀状の相手は仕事上の知り合いがほとんど。
 大人になれば誰でも、付き合いのある友達は減るものかも知れません。しかし、人付き合いが好きだったり得意な人は、折々に声をかけたり出かけたりする友達も多いでしょうから、そのあたりは個人差が大きそう。

 筆者自身はそうではないので、「友達が多い人」ってどんな人だろうと興味があります。それをデータで追いかけようと思ったら、JNNデータバンク定例全国調査データの出番です。

大人になると減る「友達は多い」人

 TBSテレビをキー局とする全国28局の民放テレビネットワークJNNが、毎年行っているJNNデータバンク定例全国調査。
 その中の「自分の性格や人柄」の質問の選択肢「どちらかといえば友達は多いほう」の該当率を男女で年代別にまとめたのが、次の横棒グラフです。

 これを見ると、10代では男女とも4人に1人くらいが「友達は多いほうだ」と自認していることがわかります。一方、20代以降の大人ではその割合が半減してしまい、どの年代も1割強程度に。
 冒頭に「大人になれば誰でも、付き合いのある友達は減るもの」と書きましたが、それがデータで裏付けられた格好です。

 思うに、人付き合いの幅は成長とともに広がるもの。幼い頃は親兄弟などの家族、次に学校の同級生など、さらに社会に出て知り合う老若男女と、対象の幅も親しさの深浅も多様化していきます。
 また「学生時代の親友は損得抜きの一生モノ」とも聞きます。裏を返せば、大人だと仕事がらみに金銭がらみ、立場と立場の向き合いが増えて、「ただ気が合うから」といった付き合い方は起こりにくいのかも知れません。

 そう考えると、学生が多い10代では人付き合いの多くが友達、大人では昔の友と別れつつ新たな友が増えにくい様子がデータに表れているのかも。
 そうだとすると、大人でも「友達は多い」人というのは、本当に人付き合いの達人なのかもしれません。

 そこで、20代以上に絞って「友達は多い」と答えた人とそうでない「その他」の人を比べ、大人で「友達は多い」人の横顔に迫ってみたいと思います。

「友達は多い」大人は、「いかにも」な人

 次のグラフは、JNNデータバンク定例全国調査で「自分にあてはまる意見・行動」かどうか調べている項目から、「友達は多い」大人とその他の大人で選択率の差が大きいものを並べたものです。

 「ユーモアや遊び」「若く見える」「個性」「関心」「付き合いの幅を広げる」など、「友達は多い」大人が自分にあてはまるという言葉を並べてみると、何だかとてもポジティブで「いかにも」な自画像が見えてきます。
 社交的、活動的、前向き、愉快、明るさといったイメージで、一緒にいると楽しそうな感じ。なるほど、人が集まりそうな印象です。

 さらに、旅行やレジャーについての意見も比べた次のグラフをみても、同じような印象がうかがえます。

 まとまった休みには計画を立てて、外に出かけるのが好き。グループで楽しめることも好きで、そうしたことに多少お金がかかってもOK。
 これを見ると、新型コロナ大流行のときの行動制限で、一番ダメージを受けたのがこの「友達は多い」大人だったのでは、と思わされます。
 社交的で能動的、仲間と出かけて散財を楽しむ「友達は多い」大人。物価高だ円安だと気鬱な世の中を明るく回してくれそうな、今一番社会に望まれているタイプの人なのかも知れません。

「友達は多い」大人はどこに行った?

 「友達は多い」大人をさんざん持ち上げましたが、ここにちょっと不都合なデータがあります。

 JNNデータバンク定例全国調査では、「どちらかといえば友達は多いほう」という項目を1978年から45年間調べ続けています。20~50代について、その推移を男女別に示したのが次の折れ線グラフです。

 実はこの45年間で「友達は多い」大人の割合が激減しているのです。

 グラフを見ると、全体にいつの頃でも男性より女性のほうが「友達は多い」という人の割合は多いですが、動向は男女で共通しています。
 「友達は多い」大人の割合は80年代に3割強でしたが、バブルがはじけた90年代初頭以降、直線的に減少。ここ最近は1割程度になっています。

 なぜ「友達は多い」大人は減るのか。その理由は定かではありません。
 日頃接する人はいるものの、「友達」というほど濃い間柄ではない顔見知りが多いのか。はたまたSNSで何百人、何千人と「友達」がいる人に比べれば、自分の友達は多くはない、と考えるようになったか。
 あるいは、自分のことに精一杯で、友達付き合いする余裕のない人が増えてしまったのでしょうか。

 いずれにせよ、今一番社会に望まれているタイプの人が減っているのを見ると、世の中があまりいい感じになっていない気がします。

 そういえば、この頃は年賀状を書く人の割合も減ってきています(調査情報デジタル「データからみえる今日の世相~お正月には何をする?」2022年1月11日)。
 さすがに年賀状を書く人が減っているのは「友達が減っているから」ではないと思います。しかし、年賀状をやりとりする程度の友達を思い出す機会が、世の中から失われつつあるとはいえるかも知れません。

<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は総合マーケティングラボに在籍。

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