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データからみえる今日の世相~お正月には何をする?

【お正月の行事といえば定番のものが思い浮かぶが、実は行われなくなっているものも多い。あなたはどれとどれを実行していますか?】

江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)

 年も改まりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
 一昨年から始まったコロナ禍で昨年のお正月は帰省もできず。その後、感染第5波が落ち着いたものの変異ウイルス・オミクロン株の広がりが相まっていて、どう行動するのかも人それぞれ、手探り状態です。

 昨年に続きいつもと違うお正月をお過ごしの方も多いかも知れませんが、そもそも「いつものお正月」って何をするものでしょうか?

「世の人々は正月に何をしているのか」などというと「そんなの決まってるでしょ、アレとコレと…」と思い浮かぶことが多々ありそうです。
 ところが、意外と行われなくなっている行事もあるんですね。それを示すのがTBS総合嗜好調査のデータです。

新年の行事は「西高東低」「老高若低」

TBSテレビが東京と阪神で実施しているTBS総合嗜好調査では、1980年から「あなたまたはお宅でかかさずなさる行事」を毎年質問しています。
 季節ごとの様々な年中行事や「家族の誕生日祝い」などの選択肢(当初は20個、現在は40個)から、当てはまるものをいくつでも選んでもらいます。

 この「欠かさずする行事」質問の最新結果(2021年10月実施)から「お正月の行事」を取り出して、東京・阪神それぞれで、若・中年層(13~59歳)と高年層(60~74歳)の比較をしてみたのが次の図です。
 なお、図の項目は東京の若・中年層で多い順に並べてあります。

欠かさずする年始の行事+

【引き続き「欠かさずする年始の行事」分析に続く】

 全体として選択率が高いのは「年賀状を書く」「おせち料理を食べる」の2つでした。それぞれ東京では若・中年層の5割弱と高年層の7割弱、阪神は東京よりやや高く若・中年層の5割強と高年層の7割強が、欠かさずしていると回答しています。

 まずはお正月といえば「年賀状」と「おせち料理」のツートップ、というのが今の世間の通り相場のようです。

 続いて選択率が高いのは「お年玉」です。
 現在50代の筆者が小学生のころは、お正月に親族が集まり、子どもたちが祖父母や親戚からお年玉をもらっていました。筆者の親世代は兄弟姉妹(筆者にとっての「おじ・おば」)が多かったので、結構な臨時収入でした。

 そこでデータをよくみると東西とも、若・中年層では先ほどのツートップと同じくらいの選択率であるのに対し、高年層では関西で6割、東京では5割弱とツートップよりも低い値になっています。
 少子高齢化が進んだためか、お年玉を渡すような孫がいる高年層も少なくなっているのかも知れません。

 また、年代による差が大きいのが「鏡もち・おそなえを飾る」や「門松・輪かざり」でした。
 東西とも高年層の半分が鏡もちやおそなえを飾っていますが、若・中年層では4人に1人程度。門松・輪かざりも高年層では関東で4割強、関西で3割弱の実施率ですが、若・中年層では1~2割程度となっています。

 お正月の行事は本来、新年の神様(年神様)をお迎えし、もてなし、見送るために行い、鏡もちや門松、輪かざりは年神様の依り代です。こうした理解がだんだん薄れており、行う人も減っているのかも知れません。

 一方、自宅に神様をお迎えするより自分が出向くということなのか、「初もうで」は東西で4~5割とわりあい多くの人が行っている行事でした。

 全体としてお正月の行事を行う人の割合は、西のほうが東より、高年層のほうが若・中年層より多いようです。逆に若・中年層の行為率が低いというと「お正月行事も先細り?」という感じがします。
 それをデータでみてみましょう。

 次の図は、東京で最も行われているお正月行事の「年賀状を書く」について、1980年から41年間の推移をまとめたものです。

年賀状を書く率の推移

 若・中年層全体では、2000年代前半くらいまで約8割の人が年賀状を欠かさず書いていました。それが05年頃から徐々に減り始め、10年代前半では7割、後半では6割で、ついに最新データでは5割を割り込んでいます。

 これを年代別に見たとき、最も減り方が激しいのが20代です。
 20代の若者も80年代には8割が年賀状を欠かさず書いていましたが、90年代後半から減少が始まり、10年代前半には半数程度に。さらにここ数年で激しく減り、最新データでは3割を切ってしまいました。

 インターネットやSNSの普及により指先一つでメッセージを送ることが可能な今、わざわざハガキを買ってデザインを考える手間を掛けるのは、いかにも面倒なことかも知れません。
 また、個人情報やプライバシーへの意識の高まりで、人の住所を知ることが簡単ではなくなっています。昔は学校や職場で自宅の住所や電話番号入りの名簿が出回っていた記憶がありますが、今では考えにくい話です。

 最近知り合う親しい人はSNSアカウントを知っていても住所は知らないから年賀状は出さない。むしろ最近は会わなくなったけれど、昔付き合いがあって住所を知っている人にこそ、年賀状を出して近況を伝え合う。
 今どきの年賀状は、年1回程度で細くつながりを保つツールになっているのかも知れません。

 そんな年賀状も廃れつつあるとすると、お正月イコール「おせち料理」ということになってしまうのでしょうか。
 ちなみに「おせちもいいけどカレーもね」という有名なキャッチフレーズのCMが登場したのは1976年で、その頃の小学生だった人が今50代。すなわち筆者と同年代です。
 振り返れば、確かに形骸化するお正月行事とともに昭和・平成を歩んできた気がします。令和のお正月はコロナ禍でさらにいつもと違っていますが、この先は一体どうなっていくのでしょうか?

<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は総合マーケティングラボに在籍。

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chousa@tbs-mri.co.jp


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