地方における新型コロナウイルスワクチン接種
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地方における新型コロナウイルスワクチン接種

調査情報デジタル
【「岩手ゼロ」と呼ばれた岩手県にもコロナ禍は押し寄せた。秋田との県境に位置する町が、高い高齢化率と少ない医療資源の中、効率的にワクチン接種を行うことができたのはなぜか】

江幡 平三郎(IBC岩手放送報道部 担当部長)

 かつて「岩手ゼロ」という言葉が検索ワードで上位に入るなど、2020年7月まで岩手県内では新型コロナウイルスの感染が確認されていなかった。しかし、そんな岩手でも7月29日に最初の患者が確認されて以降、人口規模に応じた数の患者が発生し、去年の今ごろは県民の注目は日々の患者数よりも、むしろワクチン接種に移りつつあった。いつ打てるのか?どの市町村が早いのか?私たちも連日、ワクチン接種に関するニュースを報じていた。

 本州一広い岩手県には33の市町村がある。ワクチン接種は市町村が主体となり、県が国との調整役を担うのが基本だが、ひとくちに市町村と言っても人口規模で言っても県都・盛岡市(約29万人)と県内で最も人口の少ない普代村(約2千7百人)では100倍以上の差があり、医療資源や行政職員の数にも開きがある。

 そうした違いは接種体制の構築や進め方、そしてそこから生じる様々な課題にも違いを生んだ。例えば高齢者への接種が加速しはじめた2021年のゴールデンウィーク明け、全国的には予約をめぐる混乱が多く報じられていて、県内でも盛岡市など人口の多い市部では同様の混乱が見られた。ところが町村部の接種はそれと全く様相を異にしていた。

バス送迎付きの集団接種

24④ 画像② 接種会場へのバスを待つ高齢者②

 秋田との県境に位置する西和賀町は県内で唯一高齢化率が5割を超えている町だ。接種に対応できる医療機関は町立西和賀さわうち病院の一か所のみ。高い高齢化率と少ない医療資源。西和賀町では地区ごとに接種日を決めて、町民バスの送迎付きで町立西和賀さわうち病院での集団接種を行うという手法をとった。

 予約をめぐる混乱など生じる余地がない。町が決めた日程に町民が従うという形に住民の異論はないのか、接種が行われる日曜日に町を訪ねてみた。バス停には接種を待つ地域の高齢者が集まっていた。これでは誰が打ったか、誰が打たなかったか筒抜けである。足元のおぼつかない方も少なくなく、そうした方を比較的若くて元気な高齢者がサポートしていた。

 接種の進め方に対する人々の受け止めも、「予約の手間が無くて良い」「地区ごとに同じ日にした方が忘れないで済む」と好意的な受け止めばかりだった。過疎の町では医療、交通など生活全般において様々な制約がある。ワクチン接種において個人の権利やプライバシーの保護が最大限尊重されるべきなのは言うまでもないが、それに加えてコロナ前から直面しているそうした制約との折り合いが過疎の町では欠かせないと実感させられた。

 会場では日頃、訪問活動をしている保健師が一人一人に対応していて、訪れた高齢者は最近の体調のことなどゆっくりと話を聞いてもらっていた。

24④ 画像③ 接種会場へのバスを待つ高齢者たち

7人に接種できる特殊なシリンジを使用

 盛岡市の北東に位置する岩泉町は本州一広い町だ。東京23区の1.5倍ほどの面積に約8千900人が暮らす。町民へのワクチン接種は、この町唯一の公的病院である済生会岩泉病院が一手に引き受けていた。町と病院が連携して、予約受付などの事務作業と集団接種会場の運営を行政が、実際の接種を病院が行うという形で集団接種を進めていた。

 国内でファイザー製ワクチンの接種が始まったばかりの頃、ワクチン1バイアル(瓶)からは5人にしか接種が出来なかった。国内で流通しているシリンジでは注射針の根元部分に残る、つまり無駄になる薬液の量が多く、5人分しか採れなかったためだ。

 その後、国内でも6人に接種できるシリンジが行き渡るようになったが、岩泉町では1バイアルから7人に接種できる特殊なシリンジを使用していた。通常シリンジは厚生労働省がまとめて確保し、その都度、市町村に配給していたが、時期によって確保したシリンジや針が異なり、時にはワクチン接種に不適当なサイズのものなどもあって現場を混乱させた。

 そうした中、済生会岩泉病院では国内メーカーがファイザー製ワクチン接種のために新たに開発した7人接種が可能なシリンジを独自に購入し使用していた。注射針とシリンジが一体となったもので、無駄になる薬液の量はわずか1/15。7人分の採取ができるとメーカーによって実証試験されていた。

24④ 画像①④  岩泉町で導入された7回接種用のシリンジ

 私が取材した8月は再びワクチン不足が大きな問題になっていた時期だが、7人用シリンジの導入効果もあって岩泉町では8月末までに12歳以上の町民の約9割に接種を完了させた。ちなみに接種を望む町民の声に応え、かつ現場を混乱させないために導入したこのシリンジの購入代金は済生会岩泉病院が負担している。

 厚労省は医療機関がシリンジの工夫などでファイザー製ワクチン1バイアルから7回接種を行うことについては“医療機関の判断に任せる”としている一方で、その場合の代金は“国支給のシリンジを使用できない相当の理由がない限り、医療機関で支払うものと考えている”としている。また、ファイザー社に対してシリンジの工夫で7回採れることについて照会や確認を取ることは“するつもりはない”としている。

 今、ワクチン接種は3回目の追加接種と5歳から11歳の小児接種へとフェイズが移っている。県内では1,2回目の混乱を受けて高齢者の追加接種に関してはネット予約ではなく西和賀町のように行政が接種日を決めて案内を出すスタイルに変更した自治体が増えている。

<執筆者略歴>
江幡 平三郎(えばた・へいざぶろう) 
1991年アナウンサーとしてIBC岩手放送入社。営業部署に配属後、沿岸部の東部支社在籍時に東日本大震災が発生。以降、営業マンとして被災企業の復興を見つめる。2016年4月、ニュースエコーキャスターとしてアナウンサーに復帰。復興支援室事務局次長を兼務。

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