見出し画像

データからみえる今日の世相~生成AI、使いたい?使いたくない?~

【果たして生成AIがこのコラムを書く日は来るのか?】

江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)

 毎月このコラムを書いていますが、すぐにテーマが決まってスイスイ書けるのは希で、ウンウンうなりながら絞り出しているのが常。
 案の定今回も苦しく、誰かアイデアをくれないかと悩んでいて、ふと思い浮かんだのが最近話題の生成AI。

 そもそもAIとはArtificial Intelligence(人工知能)の略。
 「電子計算機に、高度の判断機能を持ったプログラムを記憶させ、大量の知識をデータベースとして備えて、推論・学習など人間の知能の働きに近い能力を持たせようとするもの」(新明解国語辞典第八版)とのこと。

 こうしたAIの一種である生成AIについて、例えば、TBS NEWS DIG Powered by JNNの2023年4月22日付ニュース「対話型AI『チャットGPT』とは?~課題を検証~【BIZスクエア】」では、次のように説明されています。

 世界中のデータをネットなどで吸い上げてAI解析することで新しい絵や動画、文章のようなものをAIが生み出します。これらの総称を生成系AIと言います。(早稲田大学ビジネススクール教授・入山章栄氏)

 高度な処理ではあるものの、あらかじめ決められたことを自動で行うのが従来のAIだとすれば、生成AIはちょっとした指示から、人間と同等以上の水準のコンテンツを新たに生成するもの、と言えるかもしれません。

 そうするとこのコラムも「最近の話題がテーマで2500~3000文字くらいの文章に、関連するデータのグラフを数枚つけて」とお願いすれば、パッと出てきてハイ出来上がり、みたいになったりして……?

 作業を効率化するとか人間の仕事を奪うとか、いろいろ言われる生成AI。世の人々はそれをどう思っているのでしょうか。
 それをJNNデータバンク首都圏追加パネル調査のデータでみてみます。

男たちは、生成AIを「知っている」と自負

 今年(2023年) 8月に行われたJNNデータバンク首都圏追加パネル調査では、首都圏在住の13~75歳男女865名に、「あなたは『生成AI』(ChatGPTなど)を知っていますか」と質問しました。

 その結果、「くわしく知っている」3%と「まあ知っている」24%の合計が3割弱。残りが「名前は聞いたことがある程度」36%、「知らない」37%で、全体が大体同じくらいに三分割されている感じ。
 この3群の性年代構成を示したのが、次の帯グラフの①です。

 パッと見て目を引くのは、回答者全体や他の群と比べて、生成AIを「知っている」群で男性各層の占める割合が多いこと。特に回答者全体では1割程度の10~20代男性が、「知っている」では2割を占めています。
 一方、「名前だけ」では50代以上の女性が回答者全体に比べてやや多く、「知らない」では50代以上に加えて30~40代女性も多めです。
 総じて、生成AIのような先端技術の話題は、男性(特に若年層)の興味関心が高いようです。

 さらに、「知っている」と「名前だけ」の人に今後の利用意向も尋ねたところ、上のグラフ②に示す通り、両群ではっきりした差が出ました。
 「知っている」では、半数が「機会があれば使いたい」と答え、積極的に使いたい人と合わせると実に6割強が利用に前向き。
 一方、「名前だけ」だと利用に前向きなのは3割弱程度で、4割は「わからない」と回答。名前だけの知識では判断がつかないのは、ごもっとも。

その違いは、ネットやSNSへの親和性にも

 AIの性能向上には大量のデータ学習が必要ですが、生成AIはインターネット上にある膨大な文章や画像、映像などのビッグデータを学習しています。
 インターネットが全世界に普及し、一般の人々も含めて盛んに情報やコンテンツを発信するようになって初めて、AIの学習に使えるデータが大量かつ容易に手に入る環境が整いました。

 生成AIはいわばインターネット時代の産物で、両者は切っても切れない関係。だとすれば、人々の生成AIへの態度とインターネットへの態度にも、何らかの関係が見られるかも……。

 そう考えて、回答者を生成AIへの態度で「使いたい」「使いたくない」「分からない」「生成AIを知らない」の4群に分け、インターネットやSNSについて「自分にあてはまる意見」を複数選ぶ質問への回答を比べてみました。
 そのなかで特徴的な結果を取り上げたのが、次の棒グラフです。

 棒グラフに示した5つの意見のうち、「使いたい」派の該当率が最も高かったものが4つ。これらはネットやSNSを使うことの利点や使わないことの欠点を述べた意見で、生成AIを「使いたい」派は、ネットやSNSは使うべきであり、使わないと不利になると考えていることが見てとれます。
 さらに「わからない」派も、3つの意見で「使いたい」派に次ぐ該当率を示しました。生成AIの利用は決めかねても、ネットやSNSは使わないとマズいと考えている人も多そうなのが、興味深いところ。

 一方、生成AIを「使いたくない」派では、ネットやSNS非利用による不利への賛同は相対的に低く、「ネットやSNSの情報は、すぐには信用できないもののほうが多い」というネット・SNS情報への不信の高さが断トツ。

 生成AIを使いたいかどうかという態度の違いと、ネットやSNSの利用やそこで流れる情報への親和性または警戒感には、関係がありそうです。

その違いは、レジャー志向にも

 生成AIを「使いたい」派や「使いたくない」派がどんな人か、別の角度から光を当てるべく、レジャーへの意見と掛け合わせてみたのが次の棒グラフ。

 レジャーについて自分にあてはまる意見を複数選んでもらったところ、生成AIを「使いたい」派では、「自分でコースやスケジュールを決める」や「趣味の道具やツールをそろえる」の該当率が抜群。「道具に凝って、自分であれこれやりたい」性分が、生成AI利用にも通じていそうな感じです。

 一方、「使いたくない」派は「休日は家でくつろぐ」のが好きで、観光地巡りはノーサンキュー。「わざわざふだんと変わったことをしたがらない」性分が生成AI拒否にも通じていそう、と言うのは強引でしょうか。

生成AIがコラムを書く日

 さて、今回も何とかここまで書いてきましたが、筆者自身もこのコラム執筆で生成AIを使いたいかどうか、考えてみました。

 コラムのアイデア出しには生成AIが使えるかも知れません。しかし、すごく面白いストーリーが一瞬で生成されても、裏付けるデータの所在とその正しさを確認する手間は、生成そのものより面倒かも知れません。
 ここで毎回紹介するJNNデータバンクTBS総合嗜好調査データはその都度新たに集計しており、生成AIに事前学習や引用させてはいません。

 何より、筆者なりのデータの読み解きを書くのがこのコラム。生成AI任せにできない(してはいけない)ところがある限り、筆者が生成AIに取って代わられる日は来ないはず(編集長の方針次第ですが)。

<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は総合マーケティングラボに在籍。

この記事に関するご意見等は下記にお寄せ下さい。
chousa@tbs-mri.co.jp

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!