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データからみえる今日の世相      ~今どきの「おしゃれ重視派」~

調査情報デジタル

【おしゃれ重視傾向の動きに、世相を読み取ってみる】

江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)

 今年の夏も暑かったですが、秋10月ともなると衣替えのシーズン。会社勤めの男性では、クールビズで身につけられることのなかった上着やネクタイが、再び出番を迎えているかも知れません。
 しかし、この頃ではビジネスマンの服装もカジュアル化が進み、秋冬だからといってスーツを着るとも限らなくなっています。

 いずれにせよ「装いの秋」ということで、おしゃれが好きな人は「今年はどんなファッションを楽しもうか」と心待ちなのでは?

 そんな「おしゃれ心」について、TBS総合嗜好調査に興味深いデータがありました。

年々高まる「おしゃれ重視傾向」

 毎年10月実施のTBS総合嗜好調査では、1981年から「おしゃれや身だしなみに時間とお金をかけ、自分を若々しく美しくしようとする傾向(おしゃれ重視傾向)」がどれくらいの人にあてはまるかを調べています。
 この傾向の該当率について、2021年まで41年間の推移を東京地区で男女年代別に集計したのが、次の折れ線グラフです。

 全体に「男性より女性」「40~50代の中年層より20~30代の若年層」でおしゃれ重視傾向の該当率が高くなっています。そして、80年代前半頃に比べて最近の該当率は1~2割程度高いこともわかります。

 グラフを丹念にながめると、バブル経済が膨らんだ80年代後半におしゃれ重視傾向が増えていて、特に男女とも中年層の伸びが顕著です。
 当時「DCブランド」と呼ばれる高級ファッションブランドが若者に大流行でしたが、「デザイナーズブランドで自己主張したり、小物でさりげなくおしゃれ心を示したり」という「ヤングサラリーマンのおしゃれ熱が、中年層にも広がっている」との新聞記事もありました(87年3月31日付、日本経済新聞夕刊)。

 バブルが崩壊した90年代以降、おしゃれ重視傾向は女性でじりじりと微増していくものの、男性では若年層が3割前後、中年層が2割強~3割弱で00年代前半まで横ばい。しかし、この間、80年代から言われ始めていた「カジュアルデー」に90年代半ばから火がついており、その頃から自由な服装での出勤が広がりだしています。
 そして、男性でビジネスウェアの軽装化やカジュアル化が本格的に定着するきっかけとなったのが、05年開始のクールビズではないでしょうか。男性のおしゃれ重視傾向が再び増えだすのが、ちょうど00年代半ば頃です。

80年代初頭のおしゃれアイテム

 クールビズをごく大雑把にいえば、夏に軽装して過度な冷房を控え省エネにつなげるというアイデア。このアイデアの前身と言えるのが「省エネルック」で、第2次石油危機の79年に通商産業省(現・経済産業省)が盛んにPRしていました。
 当時の新聞記事には「ファッション“保守派”の多い日本男性に半そでスーツが定着するまでにはもう少し時間がかかりそう」(79年6月12日付、日本経済新聞)とありますが、ジャケットが半袖のスーツというのはお世辞にも格好いいと思えず、全く定着しませんでした。

 新聞にはファッション保守派と書かれた当時の男性。TBS総合嗜好調査でおしゃれ重視傾向を調べ始めた81年では、その傾向を自認している人、すなわち「おしゃれ重視派」は男性の若年層で26%、中年層で23%でした。裏を返せば男性の4人に3人は「おしゃれに無頓着」という計算です。
 ちなみに女性は若年層こそ44%でしたが、中年層は26%で男性と似たり寄ったり。女性も年を重ねるとおしゃれを自重した時代だったのかも。

 ところでTBS総合嗜好調査には「おしゃれ」関連質問が多数あり、「日頃その色や柄などに特に気をくばって身につけている洋品・装身具」もその1つ。男女別に分けた選択肢から、いくつでも選んでもらう形式です。

 81年には少数派だったおしゃれ重視派が、特に気をくばっていると答えた品物の上位をまとめたのが、次の棒グラフです。

 81年当時のおしゃれ重視派について若年層と年配層のトップ3を比べると、男性は「ネクタイ」「ワイシャツ」「靴」、女性は「靴」「バッグ」「ハンカチ」と同一のアイテムが並びます。
 これらはいわゆるフォーマルウェアに関連するアイテムで、年代の違いを問わずに共通していました。

 「年代の違いを超えて共通」というのは、これらのアイテムの選択率の高さからもうかがえます。例えば男性の「ネクタイ」や女性の「靴」は6~7割のおしゃれ重視派が「気を配る」と回答。その他のアイテムも上位は5~6割程度の選択率となっていて、おしゃれ重視派の多くが同じものに「気を配って」いました。

 81年当時は、4人に1人程度のおしゃれ重視派が、フォーマル関連の洋品・装身具を「おしゃれアイテム」のスタンダードとしていた模様です。

自分なりのおしゃれ、自分なりの生き方

 それから40年あまり。21年調査の最新データで「気を配る洋品・装身具」について同様の集計を行うと、以下のグラフのようになりました。

 これを見ると、男性では「腕時計」が若年層・中年層に共通してトップですが、その後はそれぞれ。若年層の「スマートフォン・携帯電話ケース」というのは、いかにも今どきという感じです。
 一方、女性では順番は異なるものの、「ピアス」「バッグ」「靴」がトップ3で共通しています。81年の「ハンカチ」が「ピアス」に入れ替わっており、これも今どきという感じでしょうか。

 81年と比べると、今はおしゃれ重視派が格段に増えています。その一方で、トップ3にランクインしたアイテムの選択率は3~4割程度と、必ずしも高いとは言えません。
 乱暴にまとめれば、40年近く前は少数のおしゃれ重視派がフォーマル向けのアイテムに気を配っていたのに対し、今はおしゃれ重視派の裾野が広がった分、気を配るアイテムも分散している、ということかも知れません。

 その昔「カジュアルデー」が言われ出したのは、「自由な職場環境で仕事の面で大いに創造性を発揮してもらおう」という経営者の狙いがあったそうです(87年8月25日付、読売新聞夕刊)。
 クールビズなどをきっかけに、ビジネスウェアのカジュアル化は着実に浸透し、今どきは、いわゆるフォーマルな服装でなくても見とがめられたり、だらしないと非難されたりすることも減ってきたと思います。

 バブル以前は、仕事着はフォーマルなものを着て、気を配るアイテムもスタンダードがあり、会社からいわれたように働いていれば間違いない時代だったかも知れません。
 しかし、バブル崩壊以後の失われた30年間では、仕事着などは人を不快にしなければOKで、それより見通し不透明な時代に自力で道を切り拓く能力のほうがよっぽど大切になっているのではないかと思います。

 フォーマル・スタンダードだけでなく、自分なりの「おしゃれ」も大切にする傾向。それはおしゃれに限らず、仕事も生き方も自分なりの仕方が大切になっている(あるいは自分で何とかするしかない)世の中の傾向も反映しているのかも知れません。

<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は総合マーケティングラボに在籍。

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chousa@tbs-mri.co.jp


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