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2024年注目のアスリート

【パリ五輪の開催やメジャーリーグでの日本人選手への期待など、2024年もアスリートたちから目が離せない。注目すべき選手は?】

佐藤 俊(スポーツライター)


サッカーアジアカップでの注目選手

 2023年は、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での優勝、ベスト8を賭けてアルゼンチンと壮絶な試合を見せてくれたラグビーW杯フランス大会、またバスケットボール男子日本代表が48年ぶりに自力で五輪出場を決めるなど、日本のスポーツシーンは大いに盛り上がった。

 2024年は、パリ五輪が開催され、スポーツへの関心がより一層高まる1年になりそうだが、そのなかで特に注目すべき選手を取り上げてみた。

 1月は、カタールでアジアカップが開催され、日本代表が出場する。

 カタールW杯以降、日本は親善試合でドイツ、トルコを破るなど怒涛の8連勝を飾り、昨年12月現在、FIFAランキング17位になり、アジアで最上位になった。

 上り調子の日本がアジアカップで戦う相手はアジアの国になるが、次のW杯でベスト8入りを目指す森保一監督は「優勝しかない」と、目標を明確にしている。そのためにメンバーは、ケガなどで招集できない選手以外は、基本的にベストメンバーで組む予定だ。遠藤航、冨安健洋、伊東純也、鎌田大地、三笘薫ら主力が参加予定で優勝に向けて、万全で挑むだろう。

 また、この大会は、熾烈なレギュラー争いを繰り広げている選手が主軸になるかどうかを決める大会にもなる。

 そこで注目したいのが、久保建英だ。

 カタールW杯では、レギュラーから外れ、「こんなに悔しい思いをしたことがない」というほど苦しい時間を過ごした。次のW杯では主役になるべく、スペインのソシエダで結果を出し、主力選手として輝きつつある。

 昨年からスピードを磨き、トップスピードに入るまでの初速が格段に速くなり、ドリブルのキレもそれに伴い、鋭さを増した。相手がファールでしか止められないドリブルは、三笘のとはタイプが異なるが、日本の大きな武器になる。「次のW杯では自分が中心になる」と久保はそう語っているが、アジアカップでアジアの国々を相手に高い個人技とチームメイトとの連携プレーでゴールに絡み、さらに課題の守備での成長を証明することができれば、三笘につづくレギュラーの太鼓判を押されるはずだ。

 アジアカップでは、覚醒し、凄みを増した久保を見てみたい。

卓球女子、激しい五輪切符争い 

 1月末には、卓球の日本選手権が開催される。

 今回は、単に日本一を決めるだけではなく、パリ五輪の卓球女子シングルス代表を決める際に必要な選考ポイントが与えられる最後の大会になり、パリ五輪の椅子を争う選手にとっては非常に重要な試合になる。

 現在、パリ五輪の選考ポイントの1位は、早田ひな(790.5点)、2位が平野美宇(486点)、3位が伊藤美誠(451.5点)という順だ (2023年12月20日現在)。早田は、シングルス代表の座をほぼ手中に収めているが、2位の平野、3位の伊藤は僅差で熾烈な代表争いをつづけている。

 伊藤は、12月の女子WTTファイナルで中国人選手を破り、優勝すれば40ポイントを獲得し、2位の平野を逆転することができた。だが、ベスト8で中国人選手に勝つことができず、34.5ポイント差のまま日本選手権を迎えることになった。

 日本選手権は、優勝すれば120ポイントが加算されるが、平野が4強に進出した場合、伊藤は優勝が絶対条件になり、逆に平野が決勝に行けば内定が確実になる。

 伊藤は、リオ五輪で女子団体銅メダル、東京五輪では混合ダブルスで金メダル、女子団体で銀メダル、シングルスで銅メダルと、すべてのメダルを獲得する活躍を見せた。パリ五輪については、「シングルスでは東京五輪以上、団体では中国に勝って金メダルを目指したい」と、並々ならぬ決意を見せている。

 平野は、リオ五輪は悔しいサポート役になり、東京五輪では女子団体で銀メダルを獲得した。だが、シングルスでの出場が叶わず、「パリ五輪ではシングルスで出場して、メダルを獲りたい」とそのことを目標に、代表レースを戦ってきた。シングルスの椅子を勝ち取りたい気持ちは、伊藤に負けず劣らず、非常に強い。

 すでに組み合わせが発表されており、両者は、決勝まで対戦しない。対戦成績は、伊藤が16勝、平野が8勝だ。日本選手権という大きな舞台で、どちらがパリ行のラストチケットを手にするのか。卓球界は、大一番から2024シーズンの幕を開けることになる。

山本由伸の活躍に期待

 3月29日には、アメリカのメジャーリーグが開幕する。

 最大の注目は、もちろんドジャースに移籍した大谷翔平になるが、同様に大きな注目を集めているのが、大谷とチームメイトになった山本由伸投手だ。

 山本の獲得競争は、当初ヤンキースが優位かと思われていたが、山本が西海岸の温暖な気候でのプレーや大谷との共闘を望み、さらに小さい頃からドジャースに憧れていたこともあり、最終的にドジャースを選択。12年総額3億2500万ドル(465億円)のビッグな契約が決まった。

 山本は、21年から23年にかけて、防御率、最多勝利、勝率、奪三振の投手4冠を3年連続で達成してオリックスのリーグ3連覇に貢献。ここ3年で49勝を挙げるなど数字では他の追随を許さない圧倒的な活躍を見せた。また、昨年の阪神との日本シリーズでは、初戦に打ち込まれて敗戦投手になったが、6戦目では完投勝利でやり返し、ファンの目にその勇姿を焼き付けた。

 ドジャースでの日本人投手と言えば、野茂英雄、石井一久、黒田博樹、ダルビッシュ有、前田健太らの名前が上がるが、一番印象深いのは、野茂だろう。独特のトルネード投法でノーヒットノーランを始め、96年、02年、03年には16勝を挙げるなど、ドジャースで一時代を築いた。

 山本には大谷が野手に専念する24年シーズンをエースとしてフル回転し、野茂以来の活躍が期待されている。日本の至宝のふたりが共闘する姿は、野球ファンにはたまらない。実力的には昨年メッツに入団し、12勝7敗と大活躍した千賀滉大投手よりも上との評価もあるが、果たしてどのくらいインパクトのある投球を見せ、結果を残せるのか、非常に楽しみだ。

いよいよパリ五輪、阿部兄妹

 7月26日からパリ五輪が開催される。

 21年の東京五輪から3年しかなく、「もう五輪か」という感じだが、日本勢の活躍が期待される中、まず注目したいのが、柔道の阿部一二三と阿部詩の兄妹だ。

 兄の一二三は、東京五輪66キロ級で見事、金メダルを獲得。3歳下の妹の詩も52キロ級で金メダルを獲得した。ふたりとも金メダルを獲った瞬間から次のパリ五輪での金メダル獲得を宣言し、それぞれ昨年5月のドーハ世界選手権において各階級で優勝。翌6月、五輪本番の1年1か月前という日本柔道史上最速での五輪代表内定を決めた。

 一二三は、背負い投げや袖釣り込み腰など担ぎ技のキレが抜群で、常に「一本勝ち」を狙う柔道で世界を制してきた。その一方で減量で苦しみ、試合でエネルギー不足に陥ることがあった。そのため、必要な栄養を摂取しながらエネルギー貯蔵に影響する筋肉を維持、最後に水を抜いて減量をしやすい状態を作り、計量後に短時間でエネルギーを回復できるようにした。その結果、パワーのある体で試合に臨めるようになり、ドーハ世界選手権では多彩な技で決勝戦まで3試合をすべて一本勝ち。決勝では宿敵・丸山城志郎と対戦し、反則勝ちして優勝を決めた。

 詩は、東京五輪の後、痛めていた両肩の手術に踏み切り、リハビリに入った。自分の柔道が戻るまで、1年半を要したが、その期間をあえて楽しもうと前向きにとらえ、旅行などにも出て、リフレッシュした。復帰後、昨年5月のドーハ世界選手権では決勝まで一本勝ちで優勝した。

 また、パリ五輪内定後、初めての公式戦となる東京グランドスラム52キロ級では、決勝でパリ五輪で最大のライバル国になるだろうフランスのネトを59秒で秒殺。得意の袖釣り込み腰、内股が研究し尽くされている中、足技をうまく使い、小内刈りで一本勝ちをした。「警戒されているので(選択肢に)足技があると思われると、自分の担ぎ技に入りやすくなる」と磨いてきた技がハマったことに手応えを感じていた。

 兄の一二三も東京グランドスラムの66キロ級で優勝し、今やこの兄妹を止められる相手はいない。一二三は、「圧倒的な存在になりたい。パリで2連覇、兄妹でも2連覇。すごく難しいことだけど挑戦したい」と意気込み、詩も「次も兄と一緒に金メダルを獲って日本に持って帰ってきます」と改めて兄妹での金メダル獲得宣言をした。

 史上最強の兄妹は、前人未踏の記録を驚くぐらいあっさりと打ち立ててくれるだろう。

マラソン、期待の星はこの選手

 マラソンは、パリ五輪のマラソン男子代表の選考レースであるMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)が大いに盛り上がったが、本番も日本の選手の活躍が期待できそうだ。

 男子、女子ともに最後の1枠はまだ未定(3月に決定予定)だが、すでに内定を勝ち取ったのが男子は小山直城、赤﨑暁、女子が鈴木優花、一山麻緒の4名だ。一山以外は、初めての五輪出場になるが、この中で期待が膨らむのが、赤﨑だ。

 拓大時代は4年連続で箱根駅伝(1年:10区12位、2年:3区10位、3年:1区18位、4年:3区9位)を経験したが、思うような結果を残せなかった。だが、実業団(九電工)に入り、マラソンに挑戦すると2022年デビュー戦となった別府大分毎日マラソンでいきなりサブテンを達成。MGC対象レースとなった同年12月の福岡国際マラソンでは2時間9分1秒の自己ベストで8位入賞(日本人2位)を果たし、MGCへの挑戦権を獲得した。

 その後、スピード強化に取り組み、昨年7月のホクレンディスタンス北見大会5000mでは東京五輪3000m障害7位の三浦龍司(順大)にラストで競り勝ち、13分28秒70のセカンドベストをマークした。「三浦君が本調子ではないので完全に勝ったとはいえないですが、このスピードがマラソンの最後に活きてくると思います」と、スピード強化がうまく行った手応えを感じていた。

 MGCは、そのスピードへの取り組みが、成果として出たレースになった。40キロ手前からの上りは、事前に坂で練習をしてきたので苦しむことなく淡々と進み、そこから大迫傑、川内優輝を突き放していった。「怖かった」ことから何度もうしろを振り返ったが、国立競技場に入って来た時にはトラックでは負けないと思い、2位以内を確信したという。「今のまま五輪に出たら、こてんぱんにやられるので、違う練習に取り組み、強い選手になってパリでは入賞を目標に、最低でも何かしらの爪痕を残して来たいと思います」と赤﨑は語る。

 中学時代まではバレーボール選手。高校で陸上をスタートして、9年間でマラソンの日本代表に上り詰めた。4本目のマラソンとなるパリ五輪では、終盤まで集団の中で存在を消すクレバーな走りで、強力なアフリカ勢と上位を争う走りを見せてほしい。

<執筆者略歴>
佐藤 俊(さとう・しゅん)
北海道出身、青山学院大学経営学部を卒業後出版社を経て、93年よりフリーのスポーツライターとして独立。サッカーを中心にW杯は98年フランス大会から22年カタール大会まで7大会連続で取材継続中。他に箱根駅伝、マラソンなどの陸上、卓球等さまざまなスポーツをメインに執筆。現在、Sportiva(集英社)、Numberweb、文春オンライン(ともに文藝春秋)などに寄稿している。
著書に「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など多数。

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