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<シリーズ SDGsの実践者たち> 第14回 ごみを「燃やさない」全国初の処理施設

調査情報デジタル

【香川県に焼却炉のないごみ処理施設がある。微生物の力を利用してごみを処理することで、二酸化炭素排出量の大幅な削減に成功しているのだ。現地からのレポート】

「調査情報デジタル」編集部

 人口約6万人の香川県三豊市にある、ごみ処理施設「バイオマス資源化センターみとよ」。事業者や市民が出す年間約1万トンの「燃えるごみ」を処理している。

 搬入口には次々とごみ収集車がやってくる。しかし、よく見ると施設には煙突がない。建物の見た目は大きな倉庫のようだ。

バイオマス資源化センターみとよ

 日本ではごみを焼却するのが当たり前だが、ここには焼却施設がない。トンネルコンポストと呼ばれる方式によってバイオマスの力でごみを処理し、分解されたごみを固形燃料の原料に変えている。日本初の「燃やさない」ごみ処理施設なのだ。

微生物の力でごみを分解・乾燥する

 施設の中に入ってみると、収集車が持ち込んだごみは、すぐに破砕機に入れられている。通常のごみ焼却場ではピットに大量のごみがたまっているが、ここでは搬入されたごみはすぐに破砕されるため、たまることはない。

持ち込まれたごみはすぐに破砕機へ

 破砕されたごみは、ベルトコンベアで運ばれて赤いミキサーのような機械に入っていく。ごみと一緒に投入されているのは、この施設でできた微生物だ。微生物はもともと捨てられたごみに付着しているもので、この微生物の力を使ってごみは処理される。

ミキサーで微生物とごみを混ぜ合わせる
左側の黒い粒状のものにごみ処理に使われる微生物が付着している

 微生物と混ぜ合わされたごみは、長さ35メートルのバイオトンネルと呼ばれるコンクリートの部屋で17日間かけて発酵させる。発酵によって微生物から熱が発生し、水分は蒸発。ごみは分解された状態で出てくる。

発酵、分解、乾燥を経て出てきたごみ

 出てきたものは微生物によって殺菌されているため、臭いもほとんどない。これが固形燃料の原料になる。できた固形燃料は、石炭の代替エネルギーとして近隣の製紙工場などで使われている。

処理されたごみから作られた固形燃料

 臭いがないと同時に、処理施設内で働く人が少ないことにも気づく。施設には6人が勤務していて、現場を担当するのは4人だけ。職員は1日8時間勤務で、微生物が24時間365日働いてくれるのだ。

脱炭素の課題とエネルギー問題の両方を解決

 「バイオマス資源化センターみとよ」が稼働したのは2017年。三豊市はごみを燃やさず、二酸化炭素を出さないごみ処理施設の建設を表明し、優れた提案から事業者を選ぶプロポーザル方式で業者を公募した。

 提案した8社の中から選ばれたのは、生ごみを微生物で処理する技術を持つ「パブリック」と、プラスチックごみのリサイクル技術をもつ「エビス紙料」が共同出資した「エコマスター」だった。民設民営方式で作られたため、三豊市は建設費を負担せず、ごみ処理の委託費をエコマスターに支払う形で運営している。

 この施設の稼働によって、二酸化炭素の排出量は大幅に削減された。2021年度の二酸化炭素の排出削減効果は年間で1万172トンにのぼる。1万トンは、スギの木約71万本が1年間に吸収する二酸化炭素の量に相当する。

 これだけ多くの排出量削減は、2つの点から実現されている。1点目は、これまでの焼却で排出していた二酸化炭素3926トンが、トンネルコンポスト方式の採用によってゼロになったことだ。

 もう1点は、最終的にできた固形燃料が石炭の代わりに使われることによる削減だ。石炭を使用した場合と比べると、6246トンの削減になっている。

 固形燃料化は二酸化炭素の排出削減だけでなく、エネルギー問題の解決にも寄与する。エネルギー自給率が24.7%と低く、現在高騰している石炭、石油、天然ガスを輸入に頼っている日本にとって、エネルギーを自給できる手段にもなるからだ。

 固形燃料は石炭よりもやや燃焼効率は落ちるものの、価格は石炭よりはるかに安い。燃やした場合の二酸化炭素の排出量も、石炭に比べると少ない。何よりも、これまで燃やしていたごみがエネルギーに変わることが画期的だ。

海外から見れば日本は「焼却大国」

 トンネルコンポスト方式は、イタリアやドイツなど、ヨーロッパではごみ処理の方式としてすでに普及している。

 エコマスターではイタリアから設備を輸入して、香川大学や山梨大学と共同研究を進め、日本での実用化の道を探った。実際に三豊市で収集された可燃ごみに微生物を混ぜて、どれくらいの日数で発酵乾燥が終わるのかを実証実験し、17日間が必要だと割り出した。

 微生物が発酵する際には強い臭いを発する。この臭いを消しているのが、木のチップを敷き詰めたバイオフィルター。チップの表面には臭いの元となる物質を分解する微生物がたくさんついていて、フィルターを通ることで臭いは無くなる。ごみの処理から消臭まですべて微生物の力を利用している。

臭いの元になる物質を分解するバイオフィルター

 微生物によって大量のごみが処理できることに驚くかもしれない。しかし、海外から見て異常に映るのは、むしろ日本のごみ処理の方法だ。基本的には焼却で、焼却処理するごみの量は世界一だ。日本はいわば「焼却大国」なのである。

 しかも、生ごみは水分を多く含むため、ヨーロッパの人々は「日本の水は燃えるのか?」と疑問を持つという。水分を含む可燃ごみの焼却には高温が必要になる。にもかかわらず、いまだに日本では焼却による処理がほとんどなのだ。

「燃やさないごみ処理施設」の建設に追い風

 「バイオマス資源化センターみとよ」には、稼働以来視察や見学が相次いでいる。新型コロナウイルス感染症が拡大する前には年間2000人以上を受け入れていて、日経BP総合研究所が実施した「全国自治体・視察件数ランキング2020」では全国4位に入った。また、国内だけでなく、東南アジア、中南米、アフリカなど世界中からも視察に訪れている。

 トンネルコンポスト方式の導入に課題があるとすれば、処理するごみの量に応じて、大きなバイオトンネルを設置する土地が必要になることだ。約1万トンのごみの処理には、約1万平方メートルの面積が必要になる。これでは都市部での導入は難しい。その一方で、土地が豊富にある人口が5万から10万人くらいの規模の自治体であれば、比較的導入はしやすい。

 最近ではさらに注目度が増してきた。環境省はトンネルコンポストと固形燃料化の施設を、「循環型社会形成推進交付金」の対象にした。ごみ処理施設には交付金が支出されるが、「バイオマス資源化センターみとよ」は対象になっていなかった。今後ごみ処理施設の建て替えを計画している自治体などで、導入を検討するケースが増えそうだ。

 また、2030年のSDGs達成に取り組む機運の高まりや、政府が2050年のカーボンニュートラルを目標に掲げたことも追い風といえる。脱炭素とエネルギー創出を実現する施設としても、関心は高まりつつある。

 三豊市の小学校では、4年生になると「バイオマス資源化センターみとよ」を見学する。三豊市で育った児童にとっては、ごみは燃やさずに微生物が処理することが、すでに当たり前になっている。ごみを「燃やさない」ことが、日本中で当たり前になる日はくるのだろうか。

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chousa@tbs-mri.co.jp


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