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2023年度下半期ドラマ座談会・後半(1月クール)

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【2023年度下半期のドラマについて、メディア論を専門とする研究者、ドラマに強いフリーライター、新聞社学芸部の元放送担当記者の3名が語る、その後半】

影山 貴彦(同志社女子大学教授)
田幸 和歌子(フリーライター)
倉田 陶子(毎日新聞記者)

“おっさんのアップデート”が2作品

影山 それでは、1月期にいきましょう。

田幸 1月期でどうしても語らなきゃいけないのが「不適切にもほどがある!」(TBS)と「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」(東海テレビ)の2本の“おっさんのアップデート”だと思います。

 中でも「おっさんのパンツ」は、LGBTQ当事者の方々も割とご覧になっていて、自分自身の経験と重ねて見ていて、「あっ、この感覚わかる」とおっしゃっている方が多いです。性の話だけではなく、あらゆる偏見とか差別みたいなものを、自分自身も含めて、アップデートしていかなきゃいけないんだなということに気づかされる、すごくいいドラマだなと思います。

 特にいいと思うのが、アップデートって簡単じゃないよねというところも含めて、1個1個確認しながら、2歩進んで1歩下がるようなペースで進んでいく。息子とのやりとりも含めて、わかった気になっても、わかっていないことがたくさんあることに視聴者が気づかされる丁寧な作りが、「おっさんのパンツ」の魅力だと思います。
 
 「ふてほど」はストーリーはすごくおもしろいんですけど、危うさもある作品だなと思っていて。宮藤官九郎さんとプロデューサーの磯山晶さん、このタッグでシンプルに「昭和は良かったよね」なんてことを言うわけがない。昭和と令和を対立させたいはずがない。磯山Pとクドカンのタッグをこれまでたくさんご覧になっているドラマ好きの人にとっては、すごく信頼感のあるタッグなので、そういうことじゃないよねと信じて観てきましたが、現時点では対立軸はそのままで、多様性を理解していない箇所がたくさんあります。さらに怖いのは、ふだんドラマをあまりご覧にならない方とかが、部分だけ見たり、ネット記事だけ見たりして、「やっぱり今ってうるさ過ぎるよね」という今の生きづらさ、息苦しさみたいなもののバッシングに走って、「昭和は良かったね」、「昭和万歳」みたいな方向に簡単に着地させる人を量産しちゃっていること。

 唐突なミュージカルを間に挟んでいるのは、だからこそ、これが虚構であるというのを見せる狙いがあるんでしょうが、阿部サダヲが全くアップデートできていない。それどころか、昭和のアップデートが必要だとは思っていないようで、「不適切ぐらいがちょうど良い」と周りがもてはやすんですね。

 まさか令和が昭和の良さを学ぶみたいな話になるとは思ってもみなかったので、結構戸惑っています。

倉田 私も「おっさんのパンツ」と「ふてほど」を、やっぱりおじさんアップデート作品というくくりで見ていました。

 まず、20代の人と話したときに、「おっさんのパンツ」とか、「ふてほど」の1話を見て、昭和的な考えの描写自体がもう受け付けないみたいな感じで、1話でもう見るのがしんどいみたいなことを言っていたんですね。バスの中でたばこをプカプカ吸うとか、あと、部下に対して「男らしく頑張れ」みたいな、そういう発言自体が、聞くに耐えないというか。そこをまず乗り越えてもらわないと、若い人にはしんどいのかなというところに、まず私はびっくりしたんですね。
 
 でも、「ふてほど」に関しては、私はすごく楽しく拝見しています。私も昭和生まれでもあるので、「あっ、そう言えば、こんな感じだったよな」とか、「そう言えば、電車の中とかバスの中に灰皿があったな」とか、そういう細かい描写から、昭和を思い出す懐かしい気持ちみたいなのも芽生えたりしました。

 一方で、クドカンさんと私は年齢的に10歳ぐらい違うこともあって、例えばミュージカルシーンとかでも、元ネタになっている歌を知らないから、「15の夜」が「米寿の夜」になっていることはすぐにわかったんですけど、ちあきなおみさんの歌は存じ上げなかったので、後でSNSの書き込みを見て知って、「あっ、そうなんだ」と知った。もう一回作品を見直すことで、「あっ、この歌詞をこう変えたのか」とか、そういうことを新たに知る喜びもある作品だなと思っています。

 20代の子が昭和的な表現を見るのがしんどいみたいなところもあって、そういうことに対してのバッシングのようなものが生まれているというのは、1話で諦めるのではなくて、もう少し先々まで、最後まで見たときに、トータルで判断してくれればいいのになと思っています。でも、もうそういうことを期待することも許されないのは、世代というか、20代の若い人にとってはしんどいことなので、あまり強制もできないのかな。
 
 あと、「おっさんのパンツ」に関しては、男らしさとか、女らしさとか、昭和生まれとして、そういう価値観はかつては当たり前にありましたし、世の中のおじさんの多くがやっぱり原田泰造さん演じる主人公と似たような価値観をいまだに持っているのかなとは思います。

 ただ、変わろうとしているとか、変わりたいとか、今の価値観を知りたいと思っている人もたくさんいらっしゃると思います。「おじさんってこうで、もう変わりようがないよね」という決めつけをすること自体が良くない。おじさんだって変わろうとしている人もいるんだというところをちゃんとわからせてくれる作品だなと思いました。
 
影山 お二人に熱く語っていただいたとおりで、「おっさんのパンツ」は「おっパン」などとよく言われていますけれども、あと「不適切にもほどがある!」、この2つが1月期のドラマのフラッグシップというか、同時期にこのドラマが始まったというのがまた何よりも興味深いところだと思います。
 
 「おっパン」のほうが、ストレートにアップデートしなきゃいけないなというわかりやすさがある。

「ふてほど」のほうがクドカンワールドだし、磯山晶とのタッグですから、そうそう簡単には描かない。もちろん阿部サダヲの価値観を押しつけるなんというところは、倉田さんもおっしゃったように、若い人に向けてそんなことではさらさらない。

 クドカンなり、磯山晶さんなり、スタッフとすれば、どこからでもいいから興味を持ってくれ。ネットの針が振れたらそれでいい。「それでいい」とは思ってないでしょうけど、ある種、計算ずくだと思うんです。それにしても、ネットに限らず、既成のメディアもそうですが、小さいところで「ふてほど」のネタをアップして、ドラマがこれから描こうとしているところがおざなりになっている。これから阿部サダヲがどういうふうに変化していくのかというところが見物なのに、その楽しみをそいでしまっているというのかな。これはもうメディアの責任だと思いますね。

影山 まだ2作品だけでございますので、一、二作品上げていただけますでしょうか。

イチオシは…笑った直後に泣かされる「春になったら」

田幸 「春になったら」(関テレ)は毎週毎週泣いています。恐らく20代とかの若い子が見ても、結婚問題とかで共感できるところがあると思うんですけど、年齢を重ねていって、親とか身近な人の病気とか死とか、いろいろ経験していればいるほど、父の物語も娘の物語もどちらの側もすごく共感できると思うんですね。

 しかも、上手だなと思うのが、連ドラの3カ月という枠を使って、1月の元旦に2人暮らしの父と娘が、お互いに報告があるというところからスタートする。「お先にどうぞ」、「いや、お先にどうぞ」、「じゃ、同時に言おう」、「それじゃ聞き取れない」と言いながら発表し合ったのが、「3カ月後に死んじゃいます」の父と、「3カ月後に結婚します」の娘。1話の冒頭から本当につかみが上手です。父と娘がいろいろけんかしたりしながらも、お互いを思い合う愛情もいいです。
 
 ステージ4のすい臓がんを患っているお父さんに、治療を受けてほしい、少しでも長く生きてほしいという娘の奈緒さんの気持ちもわかる。その一方で、私は50歳なので、年齢的にも自分は奈緒さんよりもむしろ木梨さんのほうに近い。だから、末期がんであと3カ月しか生きられないとわかったら、「治療を始めたら病気と闘うだけの人になってしまう」と言うお父さんの発言もすごくわかる。だったら、最後まで仕事をしていたい。最後まで父でいたい。そっち側の気持ちもすごくわかる。

 しかも、お涙ちょうだいにしてしまわないところが「春になったら」のうまさです。奈緒さんが結婚したいと思う相手が濱田岳さんで、またすごく上手なんですが、何も努力しないで勉強ができちゃって東大に入ったんだけど、もともとお笑いが好きだから、芸人になりたくて、東大を中退して芸人になった。でも、芸人としては全然売れない。端から見ると恵まれている能力を持っている人で、だから幸せかというと、自分がやりたいことと能力が合致しない。そういうことは結構あるよなとも思います。

 必ず笑いがしっかりあって、笑わせた直後に泣かせる緩急のつけ方もお上手で、監督さんは主に2人ですが、特に「かしましめし」(テレ東)の監督をやっていた松本佳奈さんの回が、笑いと涙のバランスが絶妙です。「春になったら」は実はイチオシです。

倉田 私も「春になったら」がイチオシです。まず第1話から「あっ、この3カ月、私はこの親子とともに歩むんだな」という気持ちにさせられて、作品への引き込み方がすばらしいなと思いました。
 
 余命3カ月のお父さんと、結婚を控える娘という設定だけを見ると、確実にお涙ちょうだいに仕立てようとしているなという疑いを持っていたんですが、全然そんなことはなくて、病気の治療を始めることによって残り3カ月の人生が楽しめなくなるという父親の考え方は、私の死生観とも結構似ているかなと思ったりもして、共感する部分もありました。また、自分がもし余命3カ月だったら、どう生きるかなと改めて考え直してみたりもして、やっぱり好きなことをやって死にたいというところにすごく共感できると思いました。

 一方で、少しでも長く生きてほしいという娘の立場も、自分の親がもしそうならばと考えたら、確かに好きなことをしてほしいけれども、やっぱり1日でも長く一緒にいたいなという気持ちもありますし、そういうところで、お父さんにも娘の立場にも共感しながら拝見しているところです。

影山 お二人がイチオシと言われました。僕もイチオシで上げてもいいんですけど、先ほど来言っている「ふてほど」が最後どう幕を閉じていくのかというところに期待値を込めながら、僕は「ふてほど」をナンバーワンに上げたいと思います。

 でも、「春になったら」もそれに匹敵するぐらいお二人と一緒で高い評価です。どなたが見てもスッと入りやすいストーリーというのは、やっぱりプライムタイムのドラマとして非常に適切というか合っていますね。それから、お涙ちょうだいになってないという部分では、奈緒さんも飛び切りうまい女優さんですけど、やっぱり木梨憲武さんの存在というのは、久方ぶりのドラマ主演ですが、ブランクを感じさせないうまさがある。

 芸人さんがやることによって、時によったら臭くなる場合もありますけれども、木梨さんが笑いを忘れないという部分もあったりする。四六時中ずっと生き死にのことばかりを言っているわけじゃなくて、ドラマの中盤ぐらいで親友である中井貴一さんとの関係性みたいなことをやりましたね。ああいうのを挟むと、ああ、やりよったな、うまいなと思いますね。あの辺は脚本の福田靖さんのうまさだなと思います。

影山 倉田さんから何かいかがでしょうか。

音楽への理解と愛情伝わる「さよならマエストロ」

倉田 私は今「さよならマエストロ」(TBS)に注目をしています。オーケストラのお話で、世界的な指揮者がわけあって指揮台に上らなくなって、ヨーロッパで活躍していたのが日本に帰ってきて、地方の小さなオーケストラを指揮することになる。当初、日テレさんのオーケストラのドラマ(「リバーサルオーケストラ」2023)と設定が似ているのかなとか思いながら見始めたんですけれども、やっぱり当然作品として違うわけですね。

 私が大阪の学芸部にいた時代にクラシックを取材対象として担当していたこともあるんですけれども、ドラマでクラシックが取り上げられるのはすごくうれしいなというところがまず単純にありました。

 クラシックの世界は、一部の著名な指揮者だったり、有名なピアニストやバイオリニストの方はもちろん生活も豊かで売れっ子なんですけれども、音楽だけでは食べていけないという方々もたくさんいらっしゃるんです。でも、それでもなぜ音楽をしているかというと、やっぱり一緒に演奏する楽しみが何物にもかえがたいみたいなところを皆さん持ちながら演奏活動をされている。今回の「さよならマエストロ」でも地方の小さいオケではあるんだけれども、みんなで一緒に演奏している楽しみみたいなものがしっかり描かれていて、そこはクラシックの世界をきちんとわかって書かれているんだなというのをうれしく感じています。

 あと、めちゃくちゃ小ネタで申しわけないんですが、西島さん演じる主人公のマエストロが「ベートーヴェン先生」と作曲家に「先生」をつけるんですね。そう言っているシーンがありまして、日本人の指揮者の広上淳一先生がこの作品の音楽監修をされていますが、広上先生ご自身が作曲家に必ず先生をつける方なんです。そういう細かいところまですごく気になって、うれしくなって拝見しています。

田幸 私も音楽への愛情をすごく感じる作品だなと思うんですが、倉田さんもおっしゃったように、日テレさんのオケのドラマが非常によかったので、第1話で、それと重なって見えちゃうところがあったのと、西島さんはすごくいいんですけど、シロさん(テレ東「きのう何食べた?」)が浮かんでしまうところがあった。その入り口が重なって見えてしまったのは残念かな、と。

 物語をずっと見ていくと、当然全然別の話で、父と子の関係性とかも丁寧に描かれていてすごくいいんですが、第一印象が既視感になってしまうのは惜しいところです。

“終末期“を丁寧に描いた「お別れホスピタル」

影山 「お別れホスピタル」(NHK)はいかがですか。

田幸 これは放送開始前から間違いがないだろうと。間違いない理由が「透明なゆりかご」(NHK)のチームということです。原作が沖田×華さんで、脚本が安達奈緒子さんで、演出家さんもチームと重なっています。しかも、間違いないだろうと思って観てみると、期待以上で、本当によく取材されている。医療側と家族とのかかわりみたいなところもすごく丁寧に描いている。プロの医療も家族にかなわないところがあると思いがちですが、家族だからこそ介入できないことや、家族だから我慢しちゃっているところ、家族だからこそ我慢できないことみたいな部分までしっかり踏み込んで描かれている。終末期の医療と家族とのあり方みたいなところの繊細な描き方が、さすがだなと思いました。

 今回のプロデューサーは家冨未央さんという女性の方です。「拾われた男」とか、「光秀のスマホ」とか、コロナ禍のドラマプラスドキュメンタリーみたいな「不要不急の銀河」をつくったり、宗教2世の「神の子はつぶやく」もつくってきた。家冨さんが関わる作品は個人的に信頼しています。もちろん、岸井ゆきのさんも松山ケンイチさんも、ゲストの方とかも、役者の皆さんもすごくいいです。

倉田 こちらも死生観という点で考えさせられる部分もありますし、自分の家族だったらどうだろうみたいに置きかえて、想像力をすごく刺激される。私の祖父は、終末期医療を受けないまま、寝て、朝起きたら亡くなっていたとか、我が家はそうだったので、自分の実体験として終末期医療がどういったものなのか。家族がどういう心境に陥るのかといった具体的なイメージがあまり持てずにいたのですけれども、この作品を通して想像することができたというのは、すごく自分の身になったというか、収穫になったというドラマかなと思っています。

影山 「透明なゆりかご」、「お別れホスピタル」は、いずれも同じ原作の漫画家の方であり、同じチームが集っている。こうして原作から局サイドの作り手の関係性がうまく転がったら、これだけの名作ができるんですね。こういったすばらしい事例があるので、この形をぜひほかの番組等々でも広めていってほしいです。

 倉田さんがくしくも死生観と何度かおっしゃってくださいましたが、「春になったら」もそうだし、「お別れホスピタル」がまさにそうです。これは本当に真正面からですから、暗く描こうと思ったら、物すごく暗くなるんですけど、それを救っているのは、岸井ゆきのであり、松山ケンイチである。びっくりしますけれども、出ている人がみんなうまいです。

脚本家のバランス感覚が冴える「正直不動産2」

影山 「正直不動産2」(NHK)はどうでしょうか。

田幸 「正直不動産」はやっぱり実用性と笑いといい話のバランスのよさが抜群です。なおかつ、役者さんの当て書きもうまい。当て書きをするにもかかわらず、原作ファンに怒られたりしないのが、やっぱり根本ノンジさん(脚本)のバランス感覚の良さだなと。老若男女どの層でも笑って楽しめて役に立つ、間口の広さと信頼感のある、ずっと続けてほしいドラマの1つになりました。

影山 まさにおっしゃるとおりですね。また福原遥さんが俳優として朝ドラも経験し、今映画も上映中ですが大ヒットですし、何か自信になったんでしょうね。「正直不動産」の中でも、ちょっとお芝居にゆとりが出てきている。その成長ぶりが頼もしいという感じもいたします。

「おっさんずラブ」続編に感じる物足りなさ

倉田 私は「おっさんずラブ」(テレ朝)についてちょっと語っておきたいなと思っています。2018年4月に連続ドラマの最初のシーズンが放送されたと思うのですが、そのタイミングで実は私は大阪学芸部で放送担当になりまして、第1シーズンにドはまりしました。それまでは1クールで1本か2本くらいしかドラマを見ていなかったのが、そこから日本のドラマはおもしろいなと思って見始めたきっかけの作品です。

 映画化されたり、パラレルワールドの作品がつくられたりして、気持ちが大分離れていたんですけれども、今回、続編という形で、「おっさんずラブ-リターンズ」が出てきて、すごく楽しみにしていました。笑えるシーンも多いですし、楽しくは見ているんですが、「きのう何食べた?」も私も大好きで見ている中で、「おっさんずラブ」がちょっと物足りない。好きな作品だけに、何か悔しいなという気持ちがどうしてもあります。

 「きのう何食べた?」は、シロさんとケンジの日常をただひたすら丁寧に描いているだけであんなにおもしろくなっている。「おっさんずラブ」は、ちょっと笑いに走ったり、日常とかけ離れたような、今回も元公安の人が隣に住んでいたり、何かトリッキーなことをしないとダメなのかなというモヤモヤがある。

影山 「ブラッシュアップライフ」(日テレ)の中で何回かの人生を送るときに、ドラマ担当になったカットがありましたね。そのときに、自分の経験をドラマにしようとする。そうすると、テレビ局の上司たちは、これも入れろ、あれも入れろと言って、普通の平凡なものが影も形もない変わったドラマになる。

 何でこんなことを言うかというと、「おっさんずラブ」は、TBSの貴島誠一郎さんのお嬢さんで貴島彩理さんという女性のプロデューサーですが、もしかしたら、本当はやりたいことが違ったのかな。こんなふうにいろいろなものをまぶしたくはなかったのかな。そのような気がしたりするぐらいにいろいろなものを入れて、吉田鋼太郎が何で派遣でお手伝いさん業務をやっているのか、むちゃくちゃやないか。

 何でこういうふうにがっかり感があるかというと、やっぱりLGBTQを日本の社会に考えさせるきっかけになったというか、すばらしい作品だったというところは絶対打ち消されることがないわけです。でも、それはやっぱり常に話題をまいておかなければいけないというところがちょっとアダになったのかなと。

田幸 私も本当に同意見です。人気が出過ぎてちょっと息苦しい中でつくっているものになっているのかなという印象です。あと、LGBTQを考えるきっかけになった大事な作品でありながら、社会がどんどん変わっていっているにもかかわらず、この作品はむしろ止まってしまっている。

趣里さん、草彅さんにズキズキ、ワクワク

影山 「ブギウギ」(NHK)はいかがですか。

倉田 毎朝、元気になる作品だなと思って楽しみに拝見しています。趣里さんが舞台で歌って踊ってみたいなシーンを見るだけで、元気になれる気がするんですよね。

 もともとモデルになった笠置シヅ子さんのご本人の人生をなぞっているとは思うんですけれども、世代的に笠置シヅ子さんご本人を知らないこともあって、愛する人が亡くなって、でも、その子どもを授かって、そういった女性として戦中戦後を生き抜いてきた強さみたいなところも尊敬できるなと思いますし、多分すごくレッスンされたと思うんですけれども、趣里さんの歌声もすごくすてきです。

田幸 趣里さんがお芝居の部分とステージパフォーマンスのどちらもやっていることはすごく大変で、趣里さんの奮闘が光るドラマだと思います。

 ただ、パフォーマンスに注力する分、エネルギーも手間も、何もかもそこに集中する分、そのつなぎの描写が説明不足だったり雑だったりするのは気になるところで。例えば恋人が亡くなり、スズ子が出産するときに、「おかあちゃん、おかあちゃん」と言っているのに、四国に帰ったお父さんは、その間全く話題にも上らなくて、思い出されもしなかったりする。途中退場した人が出てこない。

 私は自伝とかいろいろ関連書籍を今読んでいるんですが、ご本人の史実がすごく強くて、名場面とかおもしろいところは史実どおりなんですね。それでいて、現実のほうが残酷で、もっとドラマチックな部分を、きっと朝ドラという万人が見るコンテンツだから、配慮してマイルドにして、あまり暗くならないようにしているその分中途半端な美談になっている印象はあります。もっとそのままドロドロしたものを出してしまってもいいんじゃないかなというところがある。

 「ブギウギ」の一番すばらしいなと思うのが草彅剛さんです。草彅さんが出てくるだけでいろんな空気が変わる。絶対ワクワク楽しくなる。草彅さんの存在、羽鳥さんこそがズキズキ、ワクワクだな。

影山 田幸さんにそのまま乗っかる形にさせていただきますが、赤ちゃんが生まれると同時に、御曹司のボンが亡くなるというのは、もっと早くから亡くなっていたらしいです。妊娠してしばらくして亡くなっていた。そういった部分もリアリティーを持って描いたらいいかもしれない。僕はドラマとリアリティーはもともと違うという主義の持ち主ではあるんですけど、朝ドラとはいえ、そこはコーティングせずに描いてもよかったなとは思います。

河合優実さん、岡崎紗絵さん、影山優佳さんに注目

影山 新人の俳優さんとか、脚本家さんで気になるところとかあげてみてください。

倉田 私は「ふてほど」の純子役の河合優実さん。完全に昭和の女子高生になり切っている。去年の春ごろのNHKの作品の「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」で主演をされているときから、おもしろい女優さんだなと思って拝見していたんですが、今回の純子役でさらに好きになったといいますか、この先が楽しみだなと思っています。

田幸 私も河合優実さんは大好きです。あと、岡崎紗絵さんです。「アイのない恋人たち」(朝日放送)。今まで岡崎さんのドラマは、深夜のドラマとかいろいろ見ていたんですけど、こんなにいい役者さんだったんだと今回発見した形です。男性経験のないアラサーの等身大の人ということで、距離感とか律儀さみたいなものが、生身の本当に身近にいる女性みたいな感じで、すごくリアルに演じていらっしゃると思います。

 あと、「おっパン」のゲイの中島颯太さんです。彼はしなやかさと説得力がすごくある。

影山 僕はテレ東の「ハコビヤ」というドラマで田辺誠一さんと共演している影山優佳さんです。僕と名字が一緒ですけど。彼女の変にこびないナチュラルな演技みたいなものが、僕の中では非常に気になっています。

「変容するドラマの見られ方」に一言

影山 ドラマの内容もさることながら、その見られ方というか、見る習慣みたいなものが変わってきているという実感があります。何か感じておられますか。

田幸 やっぱりメディアの責任の部分がすごくあるなと思うのが、わかりやすいところだけつまんで記事にするのはすごく楽なんです。残念ながら、「〇〇過ぎる」的な過剰な部分だけつまんだ記事が割と読まれています。そういうのが量産されて、ドラマを見ていない人がそういうものだと判断してしまうこともある。
 作り手の方は、「そこまで知らんがな」と思うかもしれないんですけど、やっぱり表現する方は、部分だけつまんで、いいように解釈されるリスクの部分は、話題になれば良しではなく、危険性をもう少し意識していく必要があるのかもしれないなという気がしています。

倉田 私もメディアに携わる人間としてわかりやすさをどうしても原稿に求められることもわかっていますし、そういう原稿も書いてきた部分はあるんですけれども、作品、創作物は、わかりやすさだけを追求するものではなくて、わからないことにも価値があるというふうに思うので、作品のほんの一部を捉えてそこだけをクローズアップして記事にするとか、それを読んでその作品全体を価値判断するというのは、本来あってはいけないことなんだよということがもう少し広まればいいなと思います。

 あと、影山先生も常々おっしゃっているんですが、1話だけ見て、「この表現が無理だったから、もうこの作品は見ない」と言うのではなくて、何話か見て、自分に合う合わないがわかってくると思うので、もちろん時間がなくて、貴重な時間を何に費やすかというのは人それぞれではあるんですけれども、あまり早々に判断せず、もう少しゆとりのあるドラマの見方ができたらいいなと思っています。

影山 現代人は忙しくなったとよく言いますが、じゃ、昔の人はそんなに忙しくなかったのかといったら、絶対うそです。時間がないと思っているのは自分たちだけであって、時間がないから、エンターテインメントにも時間を費やせないというのはまた違う話です。

 「セクシー田中さん」(日テレ)においても、非常に悲しい出来事でしたけど、じゃ、それについてワアワア言っている人たちがどれだけの比率でドラマを見ていたのか。決して視聴率が高いドラマではありませんでしたから、追っかけて今見ている人もいるかもしれませんけど、作り手に対してちゃんとリスペクトされるべきだ。それは脚本家にしても、ディレクターにしても、プロデューサーにしても、一緒だと思います。

 受け手のお一人お一人が、作り手に対するリスペクトをぜひしてほしい。僕らは評論という立場でちょっと脇にいますが、作り手はもっともっとリスペクトされる存在だというのは強く思います。

 ドラマ1つ、映画1つというのは、行間を見て我々は楽しんできたわけですから、いわゆる倍速視聴は言うに及ばず、要約で5分、10分だけというのはやっぱり悲しいですね。作り手の物づくりに対する意欲をこれ以上そぐことが起こらないようにしたい。それが起こってしまうと、トータルの業界のクオリティーが下がってしまいますから、それは避けたいと強く思うところではあります。

 本日はどうもありがとうございました。

<この座談会は2024年2月13日に行われたものです>

<座談会参加者>
影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授 コラムニスト
毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職
朝日放送ラジオ番組審議会委員長
日本笑い学会理事、ギャラクシー賞テレビ部門委員
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」など

田幸 和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経て、フリーランスのライターに。役者など著名人インタビューを雑誌、web媒体で行うほか、『日経XWoman ARIA』での連載ほか、テレビ関連のコラムを執筆。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(共著/blueprint)など。

倉田 陶子(くらた・とうこ)
2005年、毎日新聞入社。千葉支局、成田支局、東京本社政治部、生活報道部を経て、大阪本社学芸部で放送・映画・音楽を担当。2023年5月から東京本社デジタル編集本部デジタル編成グループ副部長。

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