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<シリーズ SDGsの実践者たち> 第24回 築地のフードロスを創作料理で救う

【築地のフードロスを創作料理で惣菜に変える鮮魚店「クリトモ商店」の取り組みとは】

「調査情報デジタル」編集部

 東京・築地場外市場の波除神社近くにある「クリトモ商店」。国産のマグロなどの卸売を手がけ、海外にも輸出している。

 普段はシャッターを下ろしているが、不定期の土曜日に店が開く。売られているのは、魚介を使った惣菜と加工品だ。

 そのメニューは少し変わっている。マグロの血合いのビンダルーカレーは、通常は捨てられる血合いの部分をたっぷり使う。本マグロのテールツナは、こちらも一般には流通しない、マグロの尻尾で作ったものだ。

 本マグロのテールツナ(左)とマグロの血合いのビンダルーカレー

 惣菜や加工品には、大間などで水揚げされた国産の天然マグロが使われることも多い。他にも、鰹の骨のまわりについている肉など、珍しい部位を使うこともある。この日は小アジの南蛮漬けや、鯛のクスクスサラダなども並んでいた。

 クリトモ商店は、鮮魚店勤務や魚のバイヤーなどを経験した賀茂晃輔さんと、妻で料理家でもある栗原友さん夫婦が、2021年に開業した卸売の鮮魚店だ。国産の天然マグロをはじめ、多くの種類の魚を扱っている。

賀茂晃輔さんと栗原友さん夫婦

 惣菜を作り始めたのは、クリトモ商店を開業してまもなくの頃。仕入れた魚を無駄にしたくないと考えて作り始めると、他の業者からも通常は捨てられる部位が持ち込まれるようになった。

 もちろん、捨てられる部位といっても、もとは高級魚であり、調理すれば美味しく食べることができる。栗原さんがレシピを考えて、手頃な価格で提供できるメニューを考案。月に数回、不定期の土曜日に店頭で販売しているほか、インターネットでも販売している。

 マグロの血あいのビンダルーカレーは看板商品の一つ。栗原さんは血合いを手間暇かけて調理して、スパイスカレーに仕上げている。

 「血合いだけをまとめて冷凍して、量が集まったところでビンダルーを作ります。解凍して、骨から身を削いで、漬け込むだけで1日。火入れ、粗熱取りなどにも時間がかかり、3日をかけて完成します。

 皆さん、血合いが美味しいことを知らないですよね。魚で無駄になるところはありません。普段捨てられているものでも、美味しい惣菜に生まれかわることを知ってもらいたくて始めました。それに、ただで引き取ったものがお金に変わるのも、販売を始めたきっかけのひとつです」

 この日も取材をしていると、業者からマグロのアゴ肉とホホ肉が持ち込まれた。

マグロのアゴ肉
マグロのホホ肉

 栗原さん「ホホ肉はステーキ用にできる。アゴ肉はどうしようかな。煮たり、蒸したり、何かに付けてバーベキュー用にしようか」

 偶然入ってきた素材から、調理法を考える。賀茂さんによると、かつてマグロはホホ、脳天、カマなど多くの部分が捨てられていたという。

 賀茂さん「これは国産の天然マグロです。業者の方から『使ってくれるのなら』と言われてもらいました。ホホ肉を使う店は以前よりも増えてきましたが、アゴ肉は今もほとんど使われていないですね」

 クリトモ商店が取り組んでいるのは、フードロスの問題だけではない。海洋プラスチックの問題に取り組むNPO法人湘南ビジョン研究所の活動にも協力している。

 惣菜の容器には、土に還る素材でできたバイオプラスチックのカップと、紙製のものを使っている。バイオプラスチックは100円の容器代をもらって、そのうち80円を湘南ビジョン研究所に寄付する。店内には寄付する旨も掲示されている。

バイオプラスチック製と紙製の容器

 寄付を始めたのは2022年4月から。前年にビーチクリーンのイベントに参加した時に、栗原さんは湘南ビジョン研究所の関係者から、初めて海洋プラスチックの問題について聞いた。

 「海洋プラスチックの問題を初めて知って、かなりショックを受けました。私たちも鮮魚店なので、発泡スチロールは必ず使います。自分たちに何ができるのだろうと考えて、容器はバイオプラスチックに変えて、NPOの活動に協力するようになりました」

 ただ、バイオプラスチックのコストは大きく、容器代100円をもらっても8割寄付するので、クリトモ商店としては赤字になる。それでもバイオプラスチックを使う理由を栗原さんはこう説明する。

 「容器代をもらうことで、お客さんにもプラスチックを使わない活動や、海洋プラスチック問題に取り組む活動に参加してもらうことができます。これまで容器代をいただくことを断られたことは、2回しかありません。お客さんは賛同してくれています」

 栗原さんは料理家として多くのレシピ本を手がけていて、魚を美味しく食べることをテーマにした本も出版しているほか、キユーピーと共同で「さしみのたれ」も開発している。

栗原さんが開発した「さしみのたれ」

 クリトモ商店で作ってきた惣菜のレシピも、数えきれないほどある。手に入った珍しい部位や、販売しなかった部位を使って、日々新しいメニューが生まれている。この日は秋鮭のインド風漬けを仕込んでいた。完成するとインターネットの通販サイトにアップされる。

仕込み中の「秋鮭のインド風漬け」

 惣菜の販売日は、朝9時に開店すると馴染みの客が詰めかけ、昼までにはほとんどの惣菜が売り切れてしまう。かといって、儲けようと考えて多く作り過ぎるわけでもない。魚を無駄なく美味しく食べてもらうことが惣菜を販売する目的だ。その理由を栗原さんはこう表現した。

 「海のおかげで食べさせてもらっているのだから、海に優しくしておかないと」

 クリトモ商店は自らの商売でできることを考えて、築地のフードロス問題や海を守る活動に取り組んでいる。その輪は、徐々にではあるけれども、魚を扱う業者仲間や惣菜を買い求める客に広がりつつある。

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chousa@tbs-mri.co.jp 


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