データからみえる今日の世相~ユーミン半世紀、歌は世につれ余は歌につれ~
江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)
ユーミンの愛称で親しまれているシンガーソングライターの松任谷由実が、1972年のデビューから今年で50周年。10月に記念のベストアルバムが発売されましたが、御多分に洩れず筆者も購入済みです。
今年54歳の筆者の音楽生活は、その時その時にテレビやラジオで流れている曲を耳にして、たまに気に入ったらCDを買う程度。ネットの音楽配信定額サービスに手を出すほどには入れ込んでいないという薄さです。
そんな筆者ですらユーミンの楽曲は昔から折々で触れており、馴染みの曲が多々収められているベストアルバムには大満足。
50年にわたって芸能活動を続けてきたユーミン。TBS総合嗜好調査でその人気の軌跡を振り返ってみました。
ユーミンはバブルで絶頂、今もなお
毎年10月実施のTBS総合嗜好調査には、たくさんの女性タレントの名前をならべて好きな人を何人でも選んでもらう調査項目があります。ユーミンは77年から断続的に選択肢になっていて、昨年(2021年)までの好感度の推移を東京地区で集計したのが次の折れ線グラフです。
荒井由実としてデビューしたユーミンは76年に結婚し、77年当時は既に松任谷由実でした。しかし77年と78年の調査ではなぜか選択肢が「荒井由実」となっており、その好意度は7%程度。
これについて、22年9月25日放送のテレビ番組『関ジャム完全燃SHOW』(テレビ朝日系)に出演したユーミンが興味深いことを語っています。
「すごいブームだったんですよ、荒井由実が。結婚した途端、潮が引くように人気も落ち、動員も落ち…」
「地方のポスターに“元”荒井由実とか書いてあるんですよ。(略)それがね、モチベーションにもなりました。音楽的な雰囲気も含めて『荒井由実を絶対超えるんだ』って」
調査データは図らずもその状況を捉えていたようですが、その後、81年公開の角川映画『ねらわれた学園』主題歌として書き下ろされたシングル「守ってあげたい」がヒットして再ブレイク。82年に11%だった好感度も急上昇し、85年に16%へ。
続く80年代後半~90年代前半はバブル景気とその余韻があった頃。88年の「Delight Slight Light KISS」から95年の「KATHMANDU」まで、毎年発表されたアルバムがすべてミリオンセラーになりました。
ドラマの主題歌も多く、93年『誰にも言えない』(TBS系)の「真夏の夜の夢」や94年『春よ、来い』(NHK朝ドラ)の同名曲などが印象深い人は、筆者の世代には多いはず。
好感度も89年と91年に19%を記録し、まさに人気絶頂でした。
その後、好感度は10%前後をキープしながら、今も楽曲発表、コンサートツアー、タイアップと精力的に活動を続けるユーミン。
こうして振り返ると、いつも日本の音楽シーンの最前線にユーミンがいて、私たちの暮らしに寄りそってくれていた気がします。
実は、そうした気持ちを実感しているのは、まさに筆者やその少し上の世代だということがデータからみえてきます。
ユーミンの好感度の推移を、年代ごとに分けて集計した次の折れ線グラフがそれです。
このグラフをながめると、最初期から80年代前半は10代がユーミン人気を支えていたことがわかります。84年の好感度37%という数字が、その人気の絶大さをはっきり示しています。
次いで、80年代後半は20代(好感度のピークは89年32%、以下同様)、90年代は30代(93年33%と97年27%)、00年代は40代(01年25%)、10年代は50代(13年と18年にいずれも24%)と、時代とともに好感度のピークを示す年代も上昇しています。
TBS総合嗜好調査では、05年から60代、14年から70代(70~74歳)を調査対象に追加しています。その集計値もグラフに付け加えると、直近の21年では60代の23%がユーミン好感度としては最も高い値でした。
このグラフから、若い頃に好きだったユーミンを、年を取っても好きで居続ける人が多いということがわかります。
年を取っても好きで居続けるもの
50年前にデビューし、30年前のバブル期に人気絶頂で、今も人気をキープし続けるユーミン。人気商売の芸能界でその存在感を示し続けることがどれほど大変か、ちょっと想像もつきません。
例えば、TBS総合嗜好調査の「好きな女性タレント」の10代と50代の集計結果を、1977年と2021年で比べた次の棒グラフを見てみてください。
77年で10代の好きな女性タレントのトップは俳優の竹下景子、次いで、ピンク・レディー、キャンディーズ、太田裕美と当時のアイドルが並びます。
荒井由実から松任谷由実になったユーミンも、人気が落ちたと言いながら、当時の10代には21%の好感度がありました。
一方、50代では歌手の八代亜紀が2位で、後は当時30~40代のベテラン俳優が上位にランクイン。とはいえ、当時の50代には若い頃から映画やテレビで馴染んだ人たちです。ちなみに当時の50代のユーミン好感度は2%。
世代がかなり違うのだから、好きな女性タレントも違って当たり前。その考えは、戦前・戦中に青春を過ごした50代と戦後生まれの10代を比べた77年には、あてはまるだろうと思います。
しかし、21年の10代と50代では、双方で4人のタレントが重複。40歳近く年の開きがあっても、巨視的には戦後若者文化の大きな流れの中にある(あった)今の10代と50代の嗜好には相通じる部分もあるようです。
ユーミンはまず70年代に若者に支持され、その若者たちを引きつけながら年を重ねつつ、後に続く新たな若者も魅了してきました。
好きな女性タレントが時代とともに激しく入れ替わる中、戦後若者文化の進展とシンクロしたユーミンの50年にわたる人気は、まさに時代の産物といえるのではないでしょうか。
好きな女性タレントと同様に、世代差の有無がはっきり見てとれるのが音楽の好みです。「好きな音楽ジャンル」に先ほどと同様の集計をしてみると、次の棒グラフのような結果になりました。
まず77年の10代と50代では、音楽の好みが全く違うことがわかります。一方、21年の10代と50代は最も好きなジャンルがJ-POPで、どちらも全体としてポップス系の音楽を好む傾向に共通性がうかがえます。
さらに興味深いのは、77年の10代が40数年経って21年の50代になり、音楽の好みはどうなったか、です。
好きな音楽ジャンルの選択肢は77年と21年でかなり違うので、直接比べるのは難しいですが、77年当時の10代が好きだったニューミュージック(ユーミンもそう呼ばれていました)やポップス調歌謡曲は、21年の50代のJ-POPやナツメロものに受け継がれているようです。
同様に、77年に好きだといわれた映画音楽や外国のポピュラーも、21年の50代が好きなジャンルに挙げています。
「歌は世につれ世は歌につれ」といいますが、若い頃に好きだった歌を好きで居続けることが戦後の日本文化を形作った面もあるかもしれません。そうしたことの1つの結晶が「ユーミン」だと思いますが、如何?
この記事に関するご意見等は下記にお寄せ下さい。
chousa@tbs-mri.co.jp