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<シリーズ SDGsの実践者たち> 第25回 SDGs折り返しの年に見えた課題とは

【2030年までにSDGsの目標を達成することは危機的な状況だ。世界と日本の課題とは。】

「調査情報デジタル」編集部

「SDGsの達成は危機に瀕している」

 SDGsをめぐる首脳級の会合「SDGsサミット」が、アメリカ・ニューヨークの国連本部で9月18日と19日に開催された。

 SDGsは、Sustainable Development Goalsの略。2015年の国連サミットにおいて、加盟する全193か国に採択された「持続的な開発目標」のことだ。持続可能でよりよい世界を目指すために、2030年までに達成を目指す国際的な目標で、17のゴールと169のターゲットを設定して「地球上の誰一人取り残さないこと」を誓っている。

 2023年はSDGsの達成期限に向けた折り返しの年だ。しかし、今回のサミットで確認されたのは、目標達成が危機的状況にあることだった。

 サミットの冒頭で採択された政治宣言は、「SDGsの達成は危機に瀕している」として、「ほとんどのSDGsの進捗が遅々として進まないか、2015年の基準よりも後退している」ことを指摘した。その上で、「あらゆるレベルにおいてあらゆるステークホルダーが継続的、根本的、変革的かつ緊急の行動をとることにコミットする」と、早急の軌道修正と進捗の加速を誓った。

高所得国と低所得国の格差が広がった

 世界全体と各国のSDGsの達成状況を数値化した「持続可能な開発報告書」の2023年版は、今年7月に発表されている。内容はコロナ禍やロシアのウクライナ侵攻などの影響を受けた2022年の状況が反映されたものだ。

 コロナ禍以前から実行が進まないとされていたのは、気候変動や生物多様性の損失、不平等などに対する対策だった。さらに、折り返しの年を迎えて、貧困の撲滅やジェンダーの平等、教育、飢餓の撲滅などが大幅に後退していることが明らかになった。

 報告書によると、極度の貧困下で暮らす人の数は、この30年で初めて増加した。目標1「貧困をなくそう」の項目では、今の傾向が続けば、2030年までに5億7500万人が依然として極度の貧困の中で暮らすことになると警鐘を鳴らす。国民の貧困水準を半減できる国は3分の1しかないと予測している。

 また、目標2「飢餓をゼロに」では、目標達成は「危機に瀕している」として、世界全体で6億人以上が2030年に飢餓に直面すると警告した。このように報告書からは、高所得国と低所得国の格差が広がっていることが窺える。

 サミットで国連のグテーレス事務総長は、達成に向けて順調に進展している目標はわずか15%しかなく、その多くは軌道を外れていて、「SDGsには世界的な救済計画が必要だ」と訴えた。グテーレス事務総長はSDGsを達成するため、先進国の首脳に対して年間5000億ドルを投じることを求めている。

日本はSDGsを「認知」も行動に移せず

 では、日本の現状はどうだろうか。SDGs達成度ランキングでは、上位をヨーロッパの国々が占める。2023年版のランキング1位はフィンランドで、3年連続でトップとなった。2位以降はスウェーデン、デンマーク、ドイツ、オーストリアと続く。

 日本のランキングは21位。前年の19位から順位を落とした。ヨーロッパの国以外では最も高い順位ではあるものの、2017年の11位をピークに順位は低下傾向にあり、初めて20位台に転落した。

 報告書では17の目標ごとに、取り組みの進捗度合いを「達成済み」「課題が残る」「重要な課題がある」「深刻な課題がある」の4段階で評価している。日本が「達成済み」なのは目標4「質の高い教育をみんなに」と、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の2つだけだった。

 一方、最低の評価である「深刻な課題がある」には、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標12「つくる責任、つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさも守ろう」の5つが挙げられた。

 ジェンダー平等は国会議員の女性比率の低さや、男女の賃金格差が問題視された。気候変動については二酸化炭素の排出量が多いことなどが、「つくる責任、つかう責任」についてはプラスチックごみの多さなどが問題となっている。これらの課題は従来から最低の評価を受けていながら、改善が進んでいないものだ。

 日本ではSDGsという言葉は認知されている。電通が2023年5月に発表した「SDGsに関する生活者調査」では、SDGsの認知率は91.6%と9割を超えた。内容まで含めて知っていると回答した人の割合は40.4%で、2018年に実施した第1回調査から11倍以上に増加している。SDGsという言葉は浸透したものの、十分に行動に移せていないのが日本の現状ではないだろうか。

 SDGsサミットでは9月19日、岸田文雄総理が演説し、「本年末には、SDGs推進のための戦略を、新しい時代に合わせたものに改訂する予定です」と表明した。ただ、現時点ではどのような改訂になるのかは不明だ。SDGsを達成するためには、世界も、日本も、これまで以上に取り組みを加速することが求められている。

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