SDGsで‟社会を動かす起点“となる
新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症については、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。またコロナワクチンに関する情報は首相官邸のウェブサイトをご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
見出し画像

SDGsで‟社会を動かす起点“となる

【世界の潮流となりつつあるSDGs。「やらなくてはならないこと」ではなく、社会貢献であると同時に「ビジネスチャンス」でもある。企業にとって死活問題といっても過言ではない状況でのテレビ局の取り組みは】

井上 波(TBSホールディングス SDGs企画部)

 「これからはリサイクルだけじゃなくて、リユースとリデュースも頑張りたいと思います!」リモートの画面の向こうから男の子の元気な声が聞こえてきた。港区立青南小学校の4年生を対象に行ったTBSの『SDGs特別授業』での一幕。10歳11歳ではまだSDGsのことなんてほとんどわからないだろうとたかをくくって、パワポの「地球温暖化」という言葉にも丁寧にルビを振って授業に臨んだ。もちろん「3R=reduce(減らす)・reuse(繰り返し使う)・recycle(再資源化する)」なんて難しいし、まだ早いだろうと思って入れてもいなかった。しかし冒頭の発言のように、子どもたちは私の想像をはるかに超えてきた。『地球を笑顔にするWEEK』で放送したSDGs関連のVTRを食い入るように見てくれて、「自分でやってみようと思うことはありますか?」と聞くと、画面の中に何十本もの手が上がった。これも私たちがSDGsキャンペーンを始めたことで生まれた縁だと考えると、自分たちのやっていることは間違っていないと勇気づけられた。

8③画像②小学校生徒

港区立青南小学校「SDGs特別授業」の様子(21年7月6日)

8③画像③小学校スタッフ

オンラインで授業を行う日比麻音子アナウンサーと筆者

【引き続き「社会貢献がビジネスになる」に続く】

社会貢献がビジネスになる

 2018年の秋、北京支局から戻った私は、会社人生で初めて報道局を出ることになった。「報道以外の仕事にもトライして欲しい」そう言われたものの、配属された先の上司は明らかに私を使いあぐねている…。25年近く報道記者しかやってこなかった自分に何ができるのだろうか?と途方に暮れていた。そんなときに、以前からお世話になっていた国連広報センターの根本かおる所長に「TBSはSDGsにどのくらい取り組んでいるの?」と聞かれたのが、すべての始まりだった。
 
 2015年に国連が全会一致で採択したSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)は、貧困・格差・環境破壊・地球温暖化など国際社会が共通して抱える課題を17の目標として掲げ、2030年までの解決を目指している。「地球上の誰一人取り残さない」ことを誓っていて、国連や国家だけでなく、企業や個人も含めた「みんなで」取り組むことが達成のカギだとされている。
 これまでは「いかに儲かっているか」が、企業を評価する際の最大の基準だった。ところがSDGs的な考え方では、環境を破壊したり、人権を無視してまで儲ける企業は評価されないどころか、投資家からも消費者・利用者からもそっぽを向かれてしまう。つまり、SDGsへの取り組みは今後企業にとって死活問題になると言っても過言ではないのだ。

 TBSでは2018年に報道番組でシリーズ『海を殺すな~プラスチック汚染』を放送したり、新電力サービス『みんな電力』へ出資と業務提携を行うなど、‟SDGs的”な取り組みは従来から行われていた。しかし、それらをSDGsという言葉でくくって大きな動きにするような流れにはなっていなかった。一方、世界で名の知られたような企業は既に本腰を入れ始め、胸にカラフルなバッジを付けたサラリーマンが目立つようになっていた。
 これなら自分の記者としての経験を活かして、社会にも貢献できるかもしれない。私はまず同じような意識を持つ仲間と勉強会を始めた。理解が進むと、SDGsは「ビジネスを通じて社会課題を解決する」ことを是としていて、「やらなくてはならない」という受け身の考え方より、むしろ社会貢献であると同時にビジネスチャンスでもあると捉え、「いまこそやるべきだ」と考えるようになった。
 そこで、2019年の夏に国連の『SDGsメディア・コンパクト』に加盟するとともに、会社に本格的な提案を始めた。メディア・コンパクトへの加盟は、メディア企業としてSDGsの達成に貢献していくことをいわば宣言するものだが、私としては、会社の中の人たちに‟その気になってもらう‟という狙いもあった。その後世の中の流れも相まって経営層の理解が進み、2020年の春にプロジェクトチームが結成され、夏には『SDGs企画部』も出来て、TBSが本格的にSDGsに取り組む環境が整った。

8③画像④ SDG採択を記念してライトアップされた国連本部

SDGsの採択に合わせて17の目標が映し出された国連本部(2015年9月)

画期的なSDGsキャンペーンが実現

 メディア企業としてどのようにSDGsに貢献していくか。まずは私たちの本分である「放送を通じて伝えること」を実践しようと、2020年秋、TBSテレビ、TBSラジオ、BS-TBSの3波が参加する初めての全社的なSDGsキャンペーン『地球を笑顔にするWEEK』の実施が決まった。
 キャンペーンにあたって私たちがこだわったのが、報道や情報番組などSDGsと親和性が高い番組だけでなく、ゴールデン・プライム帯のバラエティーなども巻き込んで、より幅広い視聴者へのタッチポイントを作るということ。最初は自分たちの番組のテイストを壊さずにSDGsを取り込んでいくことに戸惑いもあったと思うが、試行錯誤しながらも多くのバラエティー番組が参加してくれた。『世界くらべてみたら』は、南米コロンビアの山奥の電気のない村に住む女の子が、コロナ禍に携帯でリモート授業を受けるために毎日ジップラインで山を下りて町まで携帯を充電に行っている様子など、過酷な環境の元でも学ぼうとしている子どもたちについて、現地コーディネーターの取材で伝えた。『東大王』にはキャンペーン大使が出演し、東大生たちとSDGsをめぐるクイズで闘って、なんと大使側が競り勝った。20年11月のキャンペーン第1弾ではTBSテレビの30以上の番組が参加し、SDGs関連の総放送時間は19時間に上った。21年のゴールデンウィークに行った第2弾ではさらに広がって36番組に増え、総放送時間はなんと24時間以上になった。視聴者センターには、「大好きなアイドルが環境に良い取り組みをしていたので、私も真似をしたいと思いました」といったメールも寄せられ、より幅広い層に届けたいという私たちの思いが叶ったのがとても嬉しかった。
 もうひとつのこだわりは、SDGsに熱心に取り組んでいる企業を巻き込んで、共に推進するという座組を作ることだった。通常、番組を提供する企業のことは「スポンサー」と呼ぶが、このキャンペーンにおいては「パートナー」という位置づけで、一緒にSDGsを推進していくという志のもと、競合を排除せずに募集した。それぞれの社の取り組みを紹介するだけでなく、競合他社の取り組みも含めて「良いものは紹介する」ことを理解の上で参加していただいている。

 メディアが『地球を笑顔にするWEEK』のようなSDGsにフォーカスした大々的なキャンペーンを実施するのは日本では初めてで、世界でも例を見ないことらしい。ありがたいことに国連からも評価していただき、キャンペーン第1弾に合わせてグテーレス事務総長の単独インタビューが実現した。事務総長は気候変動や新型コロナウイルスなど今の地球が抱える様々な困難に触れ「私が伝えたいのは希望です。世界は難しい事態に直面していますが、私たちは人間の粘り強さと勇気を目にしてきました。そうした力で、地球を守る持続可能な社会を実現しましょう!」と日本の人々にメッセージを送った。

 こうして順調にスタートした私たちのキャンペーンだが、企業がビジネスを使って社会貢献をしていく上で常に意識していかなければならないのは、‟利益追求と社会貢献のバランスを欠いてはならない“ということではないかと思う。
 SDGsに取り組んでいるように見せかけて実態が伴っていなかったり、メリットだけを享受しようとしていることを批判する際に使われる「SDGsウォッシュ」という言葉がある。「間違いや欠点などを取り繕ってごまかす」という意味のある英語の‟whitewash”が元になっていて、「環境に優しい素材を使った商品をアピールしているのに、実は海外で過酷な労働を強いて製造していた」というような例が挙げられる。消費者の意識が高い欧米では、不買運動に発展しているケースもある。
 社会課題の解決に企業が取り組み、そこに利益が生まれるのには何の後ろめたいことも無い。しかし、利益の追求が社会貢献より前に出てきてしまうと「ウォッシュ」と批判されかねない。これからますますSDGsがブームになっていく中で、私たち自身も襟を正していかなければならないし、同時に一緒に組むパートナーについても、責任を持って見ていかなくてはならない。

8③画像①キービジュアル

2021年春『地球を笑顔にするWEEK』のキービジュアル

キャンペーンの幅を広げ「社会を動かす起点」となる

 今年の4月に電通が行った「第4回 SDGsに関する生活者調査」によると、日本のSDGs認知率は54.2%と、去年1月の29.1%からほぼ倍増したことがわかった。しかも認知経路はテレビ番組が47.3%と、2位のインターネット(32.0%)を大きく引き離していて、情報伝達においては近年インターネットに押されっぱなしのテレビにとっては面目躍如となった。我々のキャンペーンが少しでも貢献できたのであればそんな嬉しいことはないし、今後も息長く続けていかなければならないと強く思う。

 TBSのブランドプロミスは『最高の‟時“で、明日の世界をつくる。』。私たちが生み出すコンテンツを放送の枠を超えて無限に拡げ、社会を動かす起点となることを目指している。「いまの若者たちはあまりテレビを見ない」とよく言われるが、‟社会を動かす”という意味においては、まだまだテレビの役割は大きいはずだと信じている。ただテレビだけでは足りない。インターネットやSNSなどを使ったり、他のメディアとも組んだり、あらゆる方法でキャンペーンの幅を広げていかなければ、社会を動かす起点にはなりえない。
 そのための試みのひとつが、今年のGWのキャンペーン第2弾に合わせて行った『地球を笑顔にするFESTIVAL~オンライン』。子どもたちに楽しくSDGsについて学んでもらおうと、『未来の気象予報士体験』『目の見えない人と一緒に遊ぼう!』『みんなで楽しむリサイクル』などのオンラインワークショップを開催した。もともとはリアルで開催する予定だったものをコロナの感染再拡大で断念し、オンラインに切り替えたのだが、結果的には全国の子どもたちに参加してもらうことができた。画面の向こうで一緒に踊ったり、楽しそうにクイズに答えたりしている子どもたちの姿を見て、オンライン活用の可能性を大いに感じた。
 さらに、この夏はTBS×SDGsの取り組みを発信する拠点として7月22日から『地球を笑顔にするHOUSE』を赤坂サカスの一角にオープンした。放送のキャンペーンと連動させて、実際に視聴者が見て触れることができる展示や、参加できるワークショップなど、SDGsを‟自分ごとにする“きっかけを提供するような場にしたいと考えている。「放送×オンライン×リアル」をうまく融合させることができれば、キャンペーンはさらに進化するはずだ。

 実はSDGsの17の目標の中で、私たちのようなメディアが一番得意とするのが、17番の「パートナーシップで目標を達成する」だと思っている。TBSだけでできることは少ない。だが、私たちが旗振り役となって政府、自治体、企業、そして視聴者を巻き込んでパートナーシップを作り上げ、それがムーブメントになっていけば、貧困や地球温暖化の解決といった途方もない目標も、少しは実現に近づくのではないかと期待している。

8③画像⑤『地球を笑顔にするHOUSE』のオープニングイベント (1)

『地球を笑顔にするHOUSE』のオープニングには世界でSDGsを広げる活動をしているハローキティが登場

<執筆者略歴>
井上 波(いのうえ なみ)TBS HD 社長室 SDGs企画部・部長
91年入社。報道カメラマン、社会部・警視庁担当記者、『ニュースの森』ディレクターなどを経て、98年から05年まで7年間『筑紫哲也NEWS23』ディレクター。05年から09年までワシントン特派員としてオバマ大統領が誕生した選挙などを取材。帰国後、外信部デスク、『報道特集』ディレクターを経て、14年から18年まで北京支局長。習近平政権の取材だけでなく、人権派弁護士の長期取材なども行った。任期中には4度の北朝鮮取材も経験した。帰国後、19年に国際戦略部長、2020年から現職。

この記事に関するご意見等は下記にお寄せ下さい。
chousa@tbs-mri.co.jp



ありがとうございます。今後の『調査情報デジタル』にご期待ください。
TBSが1958年に創刊した情報誌「調査情報」が、デジタル版の定期購読マガジンとしてリニューアル。テレビ、メディアに関する多彩な論考と情報を掲載。最新号のみ有料(200円)ですが、バックナンバーは常に無料でお読みいただけます。