<シリーズ SDGsの実践者たち> 第20回 「廃棄うどん」ゼロを目指す、讃岐うどんの挑戦
「調査情報デジタル」編集部
香川県内の「廃棄うどん」は年間約3000トン?
讃岐うどんの本場、香川県。「うどん県」として知られるこの地では、うどん用小麦粉の使用量が年間約6万トンに及ぶ。香川県によると、この量は全国1位で、2位の埼玉県の2倍以上となっている。
県内ではうどん店が軒を連ねるだけではなく、スーパーに並ぶ家庭用からお土産品まで、大量のうどんが日々生産されている。
ここは高松市にあるさぬき麺業の工場。1926(大正15)年にうどん店として開業し、現在県内のほか、東京と大阪でも手打ちうどん店を展開するほか、この工場でゆで麺や半生うどんなどを生産している。
ただ、どのうどん店にも共通の悩みがあると、さぬき麺業の香川政明社長が打ち明ける。
「うどんを作るいろいろな過程で、生地の両側の切れ端や、形が揃わない麺など、どうしてもロスが出ます。この工場だけでも月に約12トンのうどん残渣が出て、その廃棄のために月に30万円支払っています。本当は廃棄うどんを出したくないのですが、どうしても出てしまうのです」
廃棄されるうどんは切れ端だけではない。コシが特徴の讃岐うどんの場合、店頭でゆでてから20分~30分以上経過した麺は、客に出すことができない。本当は捨てたくはないが、讃岐うどんの品質を守るためにしようがないことだという。
香川県内では、うどんに使用されている小麦粉のうち、約5%が廃棄されていると考えられている。年間約6万トンが使用されているので、廃棄うどんの量は小麦粉に換算して年間約3000トンと推計される。
10年前に実用化した〝うどん発電〟
大量の廃棄うどんを有効活用できないかと、製麺業者や環境保護団体、それに行政も加わって、2012年に「うどんまるごと循環コンソーシアム」が設立された。最初は廃棄うどんを原料にしてエタノールを取り出す装置を作り、うどん店のゆで釜の燃料として使う取り組みが行われた。
さらに発展し、2013年に実用化したのが〝うどん発電〟だ。設備を開発したのは、高松市の産業機械メーカーのちよだ製作所。うどんなど食品廃棄物を活用して発電する設備を、自社工場で運用しているほか、全国のスーパーや食品会社にも販売している。
発電の仕組みは次のような流れだ。まず、うどんの切れ端などの食品廃棄物が持ち込まれると、細かく砕きながら発酵装置に入れる。酵素や酵母、水を加えて発酵させることで、メタンガスが発生する。
発生したガスを発電装置に送り込み、燃焼させることでタービンをまわして発電する。ガスが一定量溜まると、自動的に発電が始まるようになっていて、電気は四国電力に売電している。
ちよだ製作所では、さまざまなプラントや、トンネルなどの工事で使用する特殊車両などを開発してきた。担当の尾嵜哲夫さんは、20年前に依頼があったメタン発酵プラントの開発が〝うどん発電〟の事業化につながったという。
「メタン発酵プラントの製造は、2003年に依頼があった際に、当社の社長がドイツの技術者から学んだのが最初です。翌年にプラントを納入したあと、自社でも環境事業に取り組む必要があると考えて、実験装置を作りながら開発を続けました。
その過程で、2009年に香川県から廃棄うどんを再利用できるアイデアがないかと相談を受けたことで、廃棄うどんからエタノールを作る装置を開発しました。この装置をさらに発展させることで、発電ができる設備の実用化に成功しました」
循環型農業を実現し、環境にも貢献
〝うどん発電〟は多くのメディアに注目された。だが、メタン発酵プラントのメリットは発電だけではない。
発酵させたあとの物質である消化液は、液体肥料として米の栽培に使用されている。さらに乾燥させることで、固形肥料ができる。この肥料を使ってうどん用の小麦を育てることで、循環型の農業が実現した。
また、製麺所や食品会社が自社にメタン発酵プラントを導入すると、そのメリットはさらに大きくなる。
まず、現在廃棄しているうどんを全て利用できるので、産業廃棄物としての処分費用がゼロになる。同時に、運搬によって排出されていた二酸化炭素や、処分場で燃やされることで発生していた二酸化炭素もゼロになるのだ。
ちよだ製作所では、自ら産業廃棄物処理業者として必要な免許を取得。うどんや野菜などの食品廃棄物を受け入れて、発電と堆肥化を行っている。自社で蓄積したノウハウを活かすことで、プラントと発電設備は中小企業でも納入できる価格を実現した。
うどんの食品ロスをゼロにしたい
とはいえ、プラントと発電設備をうどんの製麺所や店舗で導入するには、価格面でのハードルがある。
さぬき麺業では、ちよだ製作所のプラントに廃棄うどんを運び込む以外にも、廃棄うどんの活用方法を模索している。
ひとつは、高松市が行っている下水の汚泥を使った発電だ。汚泥に廃棄うどんを混ぜることで、ガスの発生量が増えると考えられていて、市が去年から実験を始めた。さぬき麺業など複数の事業者が市と協定を結んで実験に参加している。
もうひとつは、スーパーなどに納入するうどんのゆで麺で、内容量がわずかに足りないために廃棄していたものを、子ども食堂に寄付する取り組みだ。
「内容量を200グラムに設定して、機械で自動的に袋詰めをしているのですが、本当に1%未満の誤差で、200グラムに満たない製品ができてしまいます。内容量の表示と異なるので販売できず、以前は廃棄するしかありませんでした。
それが、うどんまるごと循環プロジェクトの紹介で、子ども食堂を運営している方々が引き取りにきてくれるようになりました。私たちの取り組みは、些細なものかもしれません。それでも、将来的にはうどんの食品残渣を何とかゼロにして、すべて有効活用できるようにしたいと考えています」(さぬき麺業・香川政明社長)
うどんの廃棄をゼロにするために、讃岐うどんの関係者の試行錯誤は今後も続く。
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