ツイッターのゆくえ
山本 康正(京都大学経営管理大学院客員教授)
イーロン・マスク氏買収後のツイッター、課題と今後の展望は
起業家のイーロン・マスク氏がツイッターを買収しCEOに就任してから、2月27日で4か月が経過した。これまでのところ試行錯誤を繰り返している印象だ。マスク氏のワンマン経営によって一気に変わるのかと思っていたが、ツイートの閲覧数表示など頻繁に仕様変更を行ってはいるものの、プラスに働くかどうかは実施してみないとわからない部分も多い。有料サブスクリプションサービスのTwitter Blue(ツイッターブルー)では、認証マークの付与をサービス内容に追加したが、すぐに一般ユーザーの新規登録を取り止めるなど混乱も起きた。試行錯誤をしつつ、高速でPDCAサイクルを回しているイメージだ。
マスク氏が当初から掲げていたツイッター改革のビジョンは、デジタル世界におけるタウンコミュニティを実現し、言論の自由があって、優れた意見が集まる場所にしたいというものだった。それが人類にとって良いことだというメッセージを発信していた。人類のためを語るのは、私利私欲を隠すための大義名分ではないかと疑う人もいる。しかし、マスク氏は利益を出して株価を上げることよりも、良いプロダクトを世に出そうと考えるエンジニア気質なので、本気で実現しようと思っていると私は見ている。
ただ、ビジョン通りに執行できるかどうかは別だ。ある意味、ツイッターが荒れ放題な状態は変わっていない。別の人の画像を流用することに対するフィルターなどはなく、コンテンツの安全性は上がっていないのが現状だ。上品とは言えないコミュニティはそれはそれで面白いと思う人もいるものの、ツイッターから離れた人が再び戻ってくるような変化は起きていないのではないだろうか。本稿ではツイッターの現状について課題を指摘しながら、今後の展望を考えてみたい。
有料サービス「ツイッターブルー」の課題
買収後に実施された代表的な仕様変更が、2021年6月からアメリカなどで提供していたツイッターブルーに関するものだ。先に触れたように新規登録を一旦取り止めたあと、12月中旬に再開。日本では1月11日からサービスの提供が始まった。契約者はこれまではできなかった投稿の編集を、投稿後30分以内であれば5回までできるようになったほか、長尺動画をアップロードすることも可能だ。
認証マークは現在、一般ユーザーにも付与されている。登録時に電話番号認証を行って、承認されるとアカウントに青いチェックマークがつく。認証マークがあることによって、自分に箔がつくと考えるユーザーもいるかもしれない。しかし、認証を金で買えることは、逆に価値を下げていることにならないだろうか。仮にオリンピックの金メダルが買えるものだったらとしたら、価値は極端に下がるだろう。
ツイッターブルーはその後も新たな施策を打ち出している。マスク氏は2月3日、契約者を対象に、「本日からクリエイターの返信スレッドに表示される広告の広告収入をクリエイターと共有」するとツイートした。ただ、現時点で分配方法などの詳細は明らかにされていない。
ビューアー数を伸ばしたクリエイターに対して、広告収入の一部を還元する取り組みはYouTube(ユーチューブ)ですでに行われている。ツイッターでも秀逸なコンテンツに対して、広告収入の一部をクリエイターと共有するのは、本来であれば当たり前だろう。その際に大事なのが、コンテンツが他のクリエイターのパクリではないことだ。
最近のツイッターを見ていてよくない光景だと感じているのは、どこからか盗用してきた過去の衝撃的な動画や画像をツイートして、続いて自己啓発ビジネスなどの自分の広告をツイートする行為が横行していることだ。しかも、それらの行為は偽アカウントによって行われている。この状態が放置されたままでは、ツイッターブルーに料金を支払って真面目に投稿する側としては、やっていられない気持ちになるのではないだろうか。
ユーチューブでは、著作権がある動画や音楽が使われている場合は遮断されるが、ツイッターは同様の対応をしていない。コストはかかるだろうが、技術的にはできる部分があるはずだ。少しは対応しているのかもしれないが、そうであれば精度が甘いし、あまりに自由すぎる。このままの状態では、ツイッターブルーによる収益分配は十分に機能するとは思えない。
もちろん、マスク氏はこういった問題も解決しようと思っているだろう。しかし、使い勝手をもっと良くしてほしいとか、インフラを強くしなければならないとか、他に優先順位の高いものがたくさんあるため、約4か月の期間ではまだたどり着いていないのが実情ではないだろうか。試行錯誤をしながら苦しんでいるように見えていて、改革はまだまだの状態といえる。
ツイッターにジャーナリズムの観点はない
マスク氏はツイッターを自由に意見を交換できる場にしたいと考える一方で、ジャーナリズムの観点はあまりないように感じられる。マスク氏自身はジャーナリストではないし、訓練を積んでいるわけでもない。意見は中立でなければならないとも考えていないだろう。
ジャーナリズムの観点があれば、2021年1月の米議会襲撃事件を受け「永久凍結」されていたドナルド・トランプ元米大統領の個人アカウントを、凍結解除することはなかったと考えられる。
しかし、ツイッターをメディアとして捉えた場合、様々な偽の情報や嘘の情報が出回ることによって、社会に与える影響は大きい。エビデンスに基づいていないことには怖さも感じる。新型コロナのワクチンをめぐるツイートでは、エビデンスに基づいていない投稿が駆け巡ったことでワクチンの接種率が下がり、死者が増えたことが指摘されている。センセーショナルであればあるほど情報が拡散して、インフォデミックになる。
そのことによって社会に悪影響が出ることを、マスク氏が計算しているようには思えない。それでは人を褒めるような投稿は広がらず、悪いニュースの方が伝わりやすい状況のままだ。現状でも炎上している投稿の方が多く、単なる炎上増幅装置になりかねない。まともな人ほどツイッターから出て行く状況が、今後も続く可能性がある。
改革の成否はマスク氏の目指す方向に進むかどうか
結局のところ、ツイッターの改革がうまくいくかどうかは、マスク氏が目指している方向に進んでいけるかという点に尽きる。しかし、実際はユーザー同士がすぐに喧嘩をしてしまう。匿名アカウントに限らず、実名アカウントであっても、会ったこともない人に暴言を吐くことが当たり前になっている。人の良心に任せたような仕組みだけでは、うまく機能していないのだ。
うまく機能させるためには、名司会者、名モデレーターが必要で、その役割をマスク氏自身が担えるかどうかが重要だ。フォロワー数世界トップは米元大統領のバラク・オバマ氏の約1.3 億人で、マスク氏の約1.2億人はその次に多い。
マスク氏はフォロワーが多いだけでなく、アクティブにツイートしているほか、ユーザーからの改善の提案なども拾い上げている。マスク氏と距離を置きたいと考える一部の広告主は離れているものの、ツイッターに対するマスク氏自身の貢献度は高い。
マスク氏のツイートや打ち出す施策をユーザーが理解して、その考えに沿ったツイッターの使い方に切り替えることができるのかどうか。さらに言えば、自動化されたBotやAIチャットサービスのChatGPTなどを使って偽コンテンツを作り、ツイッターを無法地帯のようにしている勢力との戦いにマスク氏が勝てるのかどうかが、改革の成否を左右すると見ている。
マスク氏のカリスマ性に可能性
マスク氏は金融サービスのペイパルの元中心メンバーで、電気自動車や蓄電池を製造販売するテスラ、民間初の有人宇宙飛行を実現したロケット事業のスペースX、通信衛星でインターネットを提供するスターリンクなど様々な事業を手がける。しかし、ツイッターに関してはこれまでとは別次元の挑戦だと感じている。
ハードウェアやソフトウェアを開発して、コードがうまく動けば何とかなるこれまでの事業とは違って、ツイッターの改革では人間という感情の生き物とどう接していくのかが重要だ。多様性や幅広い視点が求められる分野でもある。
マスク氏にとっては、ロケット事業や衛星インターネットサービスの提供とツイッターの改革は、どちらが上でも下でもなく、並列関係にあると考えられる。物理的なものが向上しているにもかかわらず、人間対人間の言論空間が機能していないことが、人類の課題だと捉えているのかもしれない。インターネット上でのコミュニケーションという意味では、最も難しいところを手がけているといえるだろう。
マスク氏はCEO就任直後に従業員を大量解雇するなど、成果に対して厳しいところがある一方、強いカリスマ性がある。自身の哲学によってエンジニアから信頼を得て、尊敬されることで、物事を動かすことができる。ツイッターも共同創業者の一人であるジャック・ドーシー氏というカリスマCEOがいた頃は良かったが、彼が去ってからは士気が下がってしまった。
おそらく、今のツイッターは、少し前のマイクロソフトと言えるのではないだろうか。共同創業者のビル・ゲイツ氏がCEOだった頃は順調だったが、次のスティーブ・バルマー氏の時にモバイルでグーグルやアップルに遅れをとり、動画でも他社に敗れた。散々な状態だったのを立て直したのが、3人目となる現在のCEOのサティア・ナデラ氏だ。
カリスマ性があるマスク氏が率いていることを考えると、ツイッターの今後には可能性がある。とはいえ、楽観視はできないし、絶対にうまくいくとも言えない。マスク氏が改革を成し遂げることができるのか、心配しつつ注視している。
<聞き手・編集部 田中圭太郎>
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