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2023年度上半期ドラマ座談会前半(4月クール)

【2023年度上半期のドラマについて、メディア論を専門とする研究者、ドラマに強いフリーライター、新聞社学芸部の元放送担当記者の3名が語る。前田敦子に注目集まる】

影山 貴彦(同志社女子大学教授)
田幸 和歌子(フリーライター)
倉田 陶子(毎日新聞社)

ラジオをめぐる二つのドラマ

編集部 4月ドラマからお話し頂ければと思います。

影山 私、ギャラクシー賞の審査委員をやっていまして、「波よ聞いてくれ」(テレビ朝日)と「日曜の夜ぐらいは…」(ABCテレビ)が月間賞を受賞しています。その2作品からでいかがでしょう。
 
田幸 影山先生も書かれていて、すごく不思議だなと思ったのは、まったく同じタイミングで、ラジオの力を題材とした作品が2つ放送されたことです。

 「波よ聞いてくれ」は、ラジオDJを演じる小芝風花さんの見事なマシンガントークにびっくりしました。今までは優等生的な役のイメージが強かったんですけど、まっキンキンの金髪にして、全く噛まずに、すごいテンポで長ぜりふを言う。その新境地に驚きました。

 原作の漫画が面白くて、アニメの出来もすごくよかったんです。アニメの秀作があるのに、実写化するのは、リスクがあると思っていたんですけど、小芝さんがアニメの声優さんを思い起こさせるようなトークで、おそらくアニメファンもすごく楽しんだろうと思います。

 ドラマを見ているというより、実際にラジオ番組を聴いているとか、ライブに参加しているような臨場感があって、視聴者も参加するワクワク感を得られたすばらしい番組だったと思います。

倉田 たしかにライブ感がすごくて、小芝さんのしゃべりにどんどん引き込まれました。小芝さんというと、かわいらしくて、真っ当な人の役が多いイメージでしたので、こんなにはっちゃけたお姉ちゃんをやれるんだという新たな像が見られましたね。彼女は関西ご出身なので、しゃべりのテンポが、関西弁ではないけれども、関西人らしいところが生かされたなと思いながら見ていました。
 
影山 この作品は小芝さんの代表作になるという確信があります。ぶっ飛んでいるんですよね。やさぐれ感もあるんですけど、非常にピュアに生きていて、ずぶの素人がDJとして成功するというサクセスストーリーでもあります。ぶっ飛んでるんですけど、よくよく聴いていると、とても真っ当なことを言っている。

 北村一輝さんがチーフディレクターの役なんですが、彼がまたよかったですね。独特の一輝さんカラーで主人公を、育てていないようで、きっちり育てていく。彼女のほうも彼を大いに信頼している。私はテレビとラジオ両方の制作に携わってましたけど、番組制作のリアリティがすごくありました。編成が出てきたり、ラジオのドタバタ感があったり。

「日曜の夜ぐらいは…」が描いたもの

田幸 「日曜の夜ぐらいは…」も私はすごく好きです。ラジオ番組を通じて知り合った三人の物語なんですが、脚本の岡田惠和さんが今まで描いてきた貧困とか、工場での地道な生活とか、そういった状況の中でも、実はすごく優しい世界になっている。

 その優しさの前提に「高額の宝くじが当たる」という、とんでもなくファンタジーな出だしがあるんですが、普通だったら、宝くじが当たったら今の生活から抜け出せるという夢物語になるところが、当たってから地に足が着いた生活が始まる。

 今は、宝くじが当たれば人生一発逆転できるような甘い世の中じゃない。そこまで貧困が来ているという切実さがベースにあるからこそ、2話目あたりまでは悪いことが起きて結構ヘビーだったんですけど、それ以降は少しずつ優しい世界になっていく。裏切られるのかと思いきや、そうではない。それこそが、いかに現実世界が貧しく、しんどくなっているかの裏返しだと感じました。

 女性同士のワチャワチャを岡田さんはよく描くんですけど、そのワチャワチャぶりを、「リアルな女同士ってああじゃない」とか「あれは男性から見た女子のワチャワチャだよね」という声もあります。けれどもこの作品では、もともとすごく孤立した人同士が、つながりがなかったからこそ必死で手を取り合っているんです。その必死感みたいなものは、リアリティの問題とは切り離したほうがいいと思って、興味深く見ていました。

倉田 私は4月期で一番好きです。実は私、5月に大阪から東京に異動しました。さらに入社して二十年弱で、初めて記者職を離れて、慣れないデスクワークを始めたんです。正直5、6月、このドラマが放送されている間、私自身もすごくしんどくて、若い女性三人が、宝くじというイレギュラーな、ドッキリみたいなラッキーなことがありつつも、しんどい状況から、日常をしっかり自分たちの力で変えていく姿がすごく励みになりました。

 家族との関係がしんどさの大きな要因になっている部分があって、でも「家族だから仲よくしなきゃいけない」とか「親だから尊敬しなきゃいけない」とか、そういう伝統的な家族観にとらわれ過ぎず、自立して生きていくことで幸せが見つかるよ、というメッセージが感じられて、岡田さんの脚本はすごいなと思いました。

影山 岡田さんの優しさが溢れた、ある種のおとぎ話ですね。これまで本当に一生懸命生きてきたけれど、なかなか光が差さなかった若い女性三人が、高額の宝くじを当てる。それによって、じゃ、カフェを出そうといって、開店まで持っていく。悪そうに見えても、とびっきり悪い人は出てこないのが岡田作品の特徴ですよね。

 でも、開店までこぎつけて、めでたしめでたしだけでは終わらない。最後のナレーションで、妄想を引っ張り出しながら、今の日本社会に向けてのメッセージを清野菜名さんがナレーションでやわらかく読み上げるんです。まだ見てない方がいらっしゃると思いますので細かくは言えませんが、最終回のナレーション部分はぜひ注目してほしいです。

 「波よ聞いてくれ」は全編がラジオですし、「日曜の夜ぐらいは…」は見も知らない三人が仲よくなるきっかけがラジオリスナーのバス旅行なんですね。テレビのイベントの集まりとラジオのイベントの集まりを比べると、やはりラジオのリスナーは、東西を問わずすごく熱いんです。そういった意味で、ラジオ愛に満ちた両作品でした。

 ラジオはいいメディアだと皆さん言うんですけど、じゃあメディアとして右肩上がりかというと、そうではない。ラジオ番組の中だけで「ラジオはいい」と言っているのが今の現実なんです。ですから、ラジオ以外の場所でラジオをアピールしないといけなくて、その意味で、こうしたテレビドラマという形でラジオにもっともっとスポットが当たっていったらいいなと思っています。

前田敦子の凄み

田幸 あとは「かしましめし」(テレビ東京)と「往生際の意味を知れ!」(MBS)を推したいと思います。

 「かしましめし」は、共通の知り合いの死をきっかけに再会した三人が共同生活を送るという作品ですが、三人それぞれが心の傷を抱えている。前田敦子さんは、デザイナーとしてすごくセンスがあるのに、会社の上司のパワハラで退職に追い込まれる。前田さんのもとの彼氏とつき合っていたゲイの男性も、いつも悪い男に振り回されている。成海璃子さんは突然婚約を破棄されてしまう。

 それぞれの再生の物語で、すごくよくできているんですが、とにかく前田敦子さんがすごい。4月期・7月期は、あっちゃんを見る時期だったと思います。

 「かしましめし」で心に傷を抱えた繊細で優し過ぎる女性を演じている一方、同時期の「育休刑事」(NHK)では、キレッキレの面白いお姉さんを演じていました。さらに7月期の「彼女たちの犯罪」(読売テレビ)ではまた全然違って、抑圧されて籠の中の鳥だった女性が羽ばたいていく過程で、犯罪に手を染める。どれもこれも芝居に見えないんです。

 前田さんが演じると、本当にそういう女性が生きているようにしか見えない。計算とかも見えない。こういう人なんだと。とにかく前田さんがいると引きつけられてしまって、目で追ってしまうすごい女優さんだと改めて確認したのがこの半年で、一気に見られた私はすごく充実していたと思いました。

影山 同感です。僕もアイドルは得意じゃないですけど、秋元康さんはよくぞ前田さんをセンターにしたなと。今に至るまでの活躍を見越していたのかどうか、大したものだと思います。

倉田 たしかに「かしましめし」と「育休刑事」は同じ人が演じているとはまったく思えず、すごい女優さんだったんだと改めて感じました。その中でも「育休刑事」は、私はもう癒しドラマとして見ていまして…。

 慣れない仕事で疲れ果てて、難しいドラマを見るのがちょっときつい心理状態のときに、「育休刑事」は、もちろん刑事物なので事件も出てくるんですけれど、全体が何となく明るい雰囲気で、何より赤ちゃんの蓮くんがかわい過ぎる。蓮くんを見るためにこのドラマを見るみたいなところがありました。

 もちろんストーリーや内容を追うのがドラマの醍醐味だとは思うのですが、ただただ癒されるドラマというのもあっていいと思いました。放送担当の記者として見るときには、深い見方をしなければならないですが、一視聴者の立場になったときには、こういう癒し系のドラマもすごくありがたいと感じました。

影山 とてもよくわかります。

今後が期待の二人

田幸 「往生際の意味を知れ!」は「きれいのくに」(NHK・2021)でコンビを組んで話題になった青木柚さんと見上愛さんが、ダブル主演をつとめました。「きれいのくに」のタッグもすごくよかったですし、原作も面白いので楽しみにしていました。

 実際に見たら、見上さんは原作からそのまま飛び出したような再現度でした。実は原作者はもともと実写化する場合として見上さんをイメージされていたようですが、原作ファンもびっくりの高再現度です。逆に、青木さんは、原作からは全く思い浮かばないタイプの役者さんで、似てはいないんです。しかし彼が演じることで、すごくややこしくこじらせていて面倒くさい、だけどかっこよさや可愛さもある生きた男性像になっています。

 この二人が組むだけで何か新しいものを見せてくれるぞという期待がドラマ好きの中にはあるんじゃないかな。この二人でめちゃくちゃとんがった作品をいっぱいやってほしいと今後にも期待します。

「あなたがしてくれなくても」

倉田 私が気になって見続けたのが「あなたがしてくれなくても」(フジテレビ)。セックスレスの二組の夫婦、奈緒さんと永山瑛太さん、岩田剛典さんと田中みな実さんが出てきます。

 湿度が高めというか、じっとりした感じのドラマで、見ていてすっきりするわけではないんです。でも、奈緒さん演じる女性が、セックスレスについて誰にも言えず、夫にも理解されず、鬱々とした状態から、理解者と出会い、決して自分の欲望のままに進むわけではないですが、悩みながら、選択しながら、前向きに進んでいく姿がすごくいいなと思いました。主人公の成長に私も励まされたドラマでした。

影山 僕は永山瑛太君の大ファンでして、ある意味途中から彼のドラマになったかなという思いもありました。

 それから、奈緒さんが着ている伸びたTシャツに生活感が出ていて、その辺もすばらしかったです。

田幸 そうなんですよ。奈緒さんの安心しきった感がすごくて、シャツの首回りがベロベロに伸びていたり、パンツのゴムも伸びていたり、やっぱり恋愛期間とは違う、夫婦になってからの関係性ですよね。別に油断していたり、だらしなくなっているわけではないですけれど、安心感からそうなっている奈緒さんの生々しさ。永山瑛太さんが平気でゲップしたりするのも、安心しているからこそだというのがすごくわかる。

 あと、田中みな実さんがすごくハマリ役だと思いました。私たちの同業にも、こういう人がいるというか、そうなりそうなときがある。やっぱりすごく忙しいときや、仕事でも今が勝負時というタイミングが、現代の多くの女性にはありますよね。そういうときに求められても「疲れているからちょっと」っていうことは、正直女性側にもあると思うんです。

 そういう面を、これまでのドラマはあまり描いてきませんでした。セックスレスを描くときは、大体女性が求めて拒絶されるというパターンがさんざんこすられてきました。それに対して、仕事などいろんなものを抱えている女性側の「そんなに大事なこと?」という本音に踏み込んだのはすごく大きいと思います。

 その一方、序盤のほうでは、田中みな実さんが「拒絶するくらいだったら結婚しなきゃいいのに」と大多数の視聴者に言われていて「相手の求めに応じないなら、結婚しなきゃ良いと言われるぐらいセックスレスはダメなことなの?」という思いもあって。女性側、男性側のいろいろな生々しい思いをのぞき見るような感覚になりました。

 あと、原作に比べると、岩田さんがかっこよ過ぎる部分もあったんですけど、それでも情けなく、頼りなく、かわいらしいところも見えて、何様目線だという感じですけど(笑)、ガンちゃんはいい役者になったなと改めて思いました。

癒しを求めて見るドラマ

影山 少し話が戻りますが、倉田さんがおっしゃった、疲れた中で癒しを求めて見るテレビドラマというポイントは大事だと思います。僕らはこれで御飯を食べているので、ドラマを斜めから見たり、裏から見たり、作品を吟味したりという見方をするわけです。

 たとえば以前、われわれは「エルピス」(カンテレ・2022)を大絶賛したわけです。大きな賞も取りましたし。だけど、さっきの倉田さんの言葉でいうと、視聴者の方が疲れて帰ってきて、いい作品だというのは十分わかるんだけれど、重た過ぎて、もう勘弁してよというのもテレビドラマですよね。映画館に足を運ぶ作品と、テレビドラマの特質の違いを感じます。

 ひとつの例として、この4月期に「それってパクリじゃないですか?」(日本テレビ)という「知的財産」をめぐるドラマがありました。芳根京子さんが熱演していましたが、やっぱり特許などの「知的財産」は難しい。上手に説明をしてはくれるんですが「そんな難しい勉強なんか、ドラマ見ながらしたないねん」と思われたら、もう負けというか、見てはもらえない。ドラマとしては良く工夫もして、いい作品に仕上がっていましたが。

 芳根さんで思い出すのは、北海道テレビ放送がつくった「チャンネルはそのまま!」(HTB・2019)です。彼女が新米のテレビ記者を演じた作品で、あの感じを期待していたんですが、ついついテーマ性が重くなったり難しくなってくると、視聴者には厳しいものがあるのかな。

 「それってパクリ」は一例で言いましたが、今の社会に生きる少なからずの人たちが疲れているんでしょう。ちょっと小難しくなると、受け入れてもらえない場合が多々あります。何を疲れているんやろということで、僕ら若かりし頃はそんなに疲れてなかったけど、今やっぱり疲れてますよね。僕らは年のせいで疲れてるかもしれませんけど(笑)。今はそういう社会なんですよ。なんだか真綿で首を絞められているような社会だと感じるときがあります。

「だが、情熱はある」と「ラストマン」

影山 それから、「だが、情熱はある」(日本テレビ)、これもいいドラマなんです。僕、笑いも専門の一つなものですから。芸人を等身大に描いていましたし、髙橋海人君も森本慎太郎君も実在する芸人に寄せて演じていて、よくできたドラマでした。しかし、数字的には恵まれなかった。

 僕らは芸人の裏側というか、等身大をめっちゃ見たいんやけど、いや、それは別にいいですとか、しっかり笑わせてくれたら、それでいいからという視聴者もいるのでしょう。もちろんそういう人ばかりではなく、笑いにコアな人は絶対このドラマに飛びついているんですけど、そこまでのものを求めていない人もいる、その辺があらわれたのかなという気がします。

 一方の成功例と言えば「ラストマン‐全盲の捜査官‐」(TBS)でしょうね。福山雅治さんと大泉洋さんのカップリングの勝利。ドラマは非日常のようであり、日常であるというか。多くの視聴者が、福山さんと大泉さんがふだんからとても仲がいいことを知っているわけです。知っていて、その二人がドラマの中で活躍するのを楽しんでいる。

 ラスト数秒ですけど、何かプライベートトークのような場面がありましたよね。あれがやはり日常をシュッと出すというか、演出のうまさかなと思うんです。日常と非日常みたいなものを、ドラマを通して感じました。

「王様に捧ぐ薬指」

田幸 あと、「王様に捧ぐ薬指」(TBS)。これは本当にごめんなさいですけど、別の媒体での第一話を見ての採点で、「何だこれ?子どもだましか?」と感じて、かなり低く評価してしまったんです。それこそボロクソ、みたいな書き方で。ところが、じわじわと面白くなっていって、後半、面白さがすごく伸びていった。

 SNSの感想などを見ていると、まずはひたすら橋本環奈さんと山田涼介君の顔面に癒されている人が多いんです。ドラマの見方は人それぞれで、そういう美しさ、キラキラしたものをめでるというのも一つの楽しみ方だと思います。

 しかもそれに加えて、橋本さんも山田さんもコメディが上手なので、見ているうちに、二人の掛け合いがどんどん心地よくなってくるんです。配信もすごく伸びたので、配信で楽しむという今の流れにも沿ったつくり方だったと思います。

倉田 私も軽く見られて楽しそうだなという雰囲気で見始めたんですが、だんだん面白くなっていきました。連続ドラマは最後まで見て一つの作品だというのを改めて感じましたね。

 山田さんと橋本さんのビジュアルが本当にきれいなので、それを見るだけで目が癒され、何かぜいたくなものを見ている感じがあって、日常から離れられるドラマだったと、ストーリー、内容も含めて思いました。

影山 「王様に捧ぐ薬指」はやっぱり右肩上がりで上がりました。倉光泰子さんが脚本家のお一人なんですね。倉光さんはこういう作品も書くのかと。医療ものなどシリアスなドラマがお得意な方で、そういうバックグラウンドの力がありますから、ストーリーに説得力がありました。

 橋本さんも山田さんも、当代の人気者というだけではなくて、二人ともユーモアのセンスがあり、ちゃんと演技力もある俳優さんです。だから、たまたまうまくいったわけではなく、いろいろなところが複合要素となって、しっかりと力をつけていった成功例だと思います。単なるサクセスストーリーで終わらなかったいいドラマだったと思います。

田幸 驚いたんですが、この作品のキャスト、タイトル、内容からして、大人の男性が見るドラマには到底見えないじゃないですか。ところが、この作品きっかけで、山田さんに中年男性ファンがふえているんですよ。

影山 そうですか。

田幸 山田さんを初めて好きになった、みたいな中高年男性がでてきているのを見て、あっ、すごいなと思いました。

影山 山田さんは本当にうまいですね。彼がセミの役をやった「セミオトコ」(テレビ朝日・2019)という作品もありました。セミの役で、女の子と出会って、七日間で死ぬ、みたいな。あれもよかったです。

田幸 あれも岡田惠和さんの脚本でしたね。

三人が一致した「印象に残った俳優」

編集部 役者さんで印象に残った人はいかがですか。

倉田 私は「あなたがしてくれなくても」に出ていた、さとうほなみさん。

田幸 私もそう思いました。

影山 僕もです。これは三人ともですね。

倉田 永山瑛太さんのカフェにアルバイトで来ていて、やさぐれた雰囲気なんだけれども、永山さんとの肉体関係もあるという物語のキーの一つになる人なんです。

 私はこの方は完全にミュージシャンだと思っていて、(編集部注:<ゲスの極み乙女><マイクロコズム>のメンバー。ミュージシャンとしての名前は「ほな・いこか」)ちゃんと演技を拝見したのはこの作品が初めてだったんですが、あれっ、女優さんだっけ?みたいに、もう完全に俳優さんとしてすばらしい演技でした。7月期の「彼女たちの犯罪」にも出演しているので、もっともっと演技の仕事もしてほしいと思います。

田幸 ものすごくウエットな生々しい、ザラッとした感じが出せる注目の女優さんだと思って期待しています。

めるるの存在感

田幸 あとは「日曜の夜ぐらいは…」のめるる(生見愛瑠)です。「スクール革命!」(日本テレビ)での、天然で明るくニコニコしている彼女と、女優業のめるるさんが全く結びつかない。「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」(日本テレビ・2021)も「石子と羽男‐そんなコトで訴えます?‐」(TBS・2022)もよかったんですけれども、この作品で女優としてのステージがまた変わりましたね。

 本当にナチュラルなんです。泣いていないのに泣いている気持ちが伝わってくるシーンとかも、涙を見せることだけが心の痛みの表現じゃないということを、めるるさんの演技で感じました。今後も期待しています。

 もう一人、「だが、情熱はある」での髙橋海人さんにはびっくりしました。予告を見て、森本慎太郎さんが山里亮太さんにビジュアル的に寄せた再現度の高さには驚いていたんです。一方見た目は似ても似つかない若林正恭さんを、あんなにも声まね、しゃべりまねだけではなく、何なら若林さんの内面性まで表現している感じが、こんなに深い理解ができる役者さんなんだということにすごく驚きました。

影山 全然違う傾向の方を一人挙げると「テイオーの長い休日」(東海テレビ)の船越英一郎さん。かつて2時間サスペンスの帝王だった俳優が、今は落ちぶれて仕事がなくなっているという役です。そこに戸田菜穂さんが新マネージャーとしてやってきて、彼女と彼女の家族までも主人公と同居し出す。

 ホームドラマ、ホームコメディというところもやりつつ、頑固だけれど、実は人情味溢れる人物を演じられています。難しいですし、ベタ中のベタなんですけど、船越さんのような方でないと演じられないと思います。作品もシニアクラスの応援歌になっていましたので、ここにお名前を挙げておきたいと思います。

編集部 では引き続き、7月期のドラマについてお願いします。

(後半へ続く~11月6日公開予定)

<この座談会は2023年9月12日に行われたものです> 

<座談会参加者>
影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授 コラムニスト
毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職
朝日放送ラジオ番組審議会委員長
日本笑い学会理事、ギャラクシー賞テレビ部門委員
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」など

田幸 和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経て、フリーランスのライターに。役者など著名人インタビューを雑誌、web媒体で行うほか、『日経XWoman ARIA』での連載ほか、テレビ関連のコラムを執筆。エンタメ分野のYahoo!ニュースエキスパート・公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(共著/blueprint)など。

倉田 陶子(くらた・とうこ)
2005年、毎日新聞入社。千葉支局、成田支局、東京本社政治部、生活報道部を経て、大阪本社学芸部で放送・映画・音楽を担当。2023年5月から東京本社デジタル編集本部デジタル編成グループ副部長。

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