<シリーズ SDGsの実践者たち> 第13回 市民主体で取り組む「生ごみの資源化」
「調査情報デジタル」編集部
町内会の建物などがある土地に、見慣れない機械が置かれている。住民が何かを入れた容器を持ってきて機械の鍵をあけると、容器の中身を投入した。中身は生ごみだった。
この機械は電動式の生ごみ処理機。投入された生ごみは撹拌され、微生物の力などによって分解される。分解された生ごみは10分の1ほどの量になって出てきて、土になじませれば肥料として利用できる。
東京都町田市の真光寺3丁目町内会では、「リサイクル広場真光寺」を2009年に開設。従来はごみとして捨てていたものを毎週日曜日に回収し、資源化に取り組んでいる。
広場の一角に生ごみ処理機を導入したのは2017年。1回で最大16キロの生ごみを処理する能力があり、利用者は鍵を渡され、いつでも生ごみを持ってくることができる。
この日、生ごみを持ってきた長島恒嘉さんは、処理機を使い始めてからの変化を次のように話している。
「ここで生ごみを処理することで、家庭から出すごみがかなり軽くなりました。ごみの重量の大部分を生ごみが占めていたのでしょう。バケツに入れてもってくるだけなので簡単です」
町内会では以前から別の方法でごみの堆肥化に取り組んでいた。町内会長の島田英雄さんは、市が大型の生ごみ処理機を貸し出しているのを知り、住民の意見で導入を決めたと説明する。
「この地区では家庭で生ごみ処理機を利用している世帯も多いのですが、高齢化も進み、家庭で堆肥として処理するのが難しくなったと話す人もいます。また、集合住宅の場合は使い道がありません。家庭で堆肥を利用しない場合は、できた堆肥を引き取って、無農薬栽培をしている人たちに提供しています」
市民主導の生ごみを減らす取り組み
町田市の生ごみを減らす取り組みには、長い歴史がある。もともとは兼業農家が多い地域で、家庭での生ごみ処理は当たり前のように行われていた。
1970年代に入ると市内でニュータウンの建設が進み、人口が急増。市内の各地でごみが散乱するようになったことで、ごみを減らす運動が市民の側から起きる。
市では住民の声を受けて、1988年から生ごみの堆肥化容器を頒布。1998年からは電動式生ごみ処理機の購入を補助する制度を始めた。制度は現在も続いていて、これまでに7000件の補助を行なっている。
地域に大型の生ごみ処理機の貸し出しを始めたのは2008年からで、電気代も市が負担する。真光寺3丁目町内会を含め、設置は市内70地区に広がった。
町内会で生ごみ処理機を管理している仲村久子さんは、この地区で暮らしはじめて生ごみを捨てたことはないと話す。
「結婚して60年近くが経ちますが、生ごみを市のごみ収集に出したことは一度もありません。ずっと庭で堆肥化していますが、夏は野菜を作る面積が広くなって庭のスペースがなくなるので、この時期だけ地区の処理機を使っています。私たちの合い言葉は『生ごみは宝』です」
生ごみの資源化を実現する施設
同じ規模の自治体に比べれば生ごみの量が少ない町田市だが、それでも収集した可燃ごみ全体に占める生ごみの割合は30%を超える。市では2019年に収集した年間2万2000トンの生ごみを、2030年には1万8000トンに減らす計画だ。ただ、コロナ禍で家庭ごみが増えた影響で、2021年には2万4000トンに増えている。
家庭用生ごみ処理機の購入補助金制度や、段ボールコンポストの講習会などを開催して、生ごみの自己処理を市民に呼びかけているものの、堆肥の使い道がない世帯は二の足を踏む。そもそも関心がない世帯も少なくないだろう。
そこで町田市は、違う方法で生ごみの資源化を始めた。収集した生ごみをバイオガスにして発電しようと、町田市バイオエネルギーセンターを建設し、2022年1月から稼働している。市民会議などから提言された「生ごみの資源化」に向かって一歩進めたもので、生ごみをバイオガス化するごみ焼却施設は東日本では初めてだ。
最大の特徴は、可燃ごみのなかから機械選別で生ごみ等を選別できることだ。ドラム式の選別装置にごみが投入されると、プラスチックに比べて重さのある生ごみや紙、木くずなどは、回転するドラムの穴から落ちてくる。この落ちてきたごみを発酵させてバイオガスを作る。
発生したバイオガスを使って発電が行われており、最新の技術によって少ない量のごみでも効率よく発電が出来るという。生み出された電気は約3分の1をセンターの電力として使い、約3分の2は売電している。センターでは不燃ごみについても、資源として再利用できるものを手作業で選別するなど、可能な限りの資源化を進めている。
普段の生活では「生ごみは捨てるのが当然」と考えている人がほとんどだろう。しかし、町田市民は「生ごみは資源化できる」と考えて、自ら行動し、行政も動かしてきた。
町田市のように、生ごみを「ごみ」ではなく「資源」にするために必要なのは、考え方を変えることと、少しの工夫だけではないだろうか。
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