データからみえる今日の世相~オカルト+合理的+アンバランス=?~
江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)
子どもの頃、不思議な話を聞いたり読んだりするのが好きでした。
いつの時代も子どもはそういう話が好きなものでしょうが、筆者が子どもの頃は日本中がその手の話で持ちきりでした。
そう、1970年代のオカルトブームです。
「オカルト」とは、「念力または超能力によって感知出来るという超自然の世界」で、「その世界の存在を信じない人には、不安と恐怖を与えることがある」とのこと(新明解国語辞典第八版)。
70年代は、合理主義・科学万能主義で突き進んだ戦後の高度経済成長が石油危機で行き詰まり、公害問題など負の側面も見えてきた時期。
世間に漂いだした将来への不安感が、それまでの科学的な常識を超えた世界を取り沙汰するオカルト的思考とぴったりはまったようです。
ブームの起爆剤となったベストセラー『ノストラダムスの大予言』(五島勉著、祥伝社)の発行が、今からちょうど半世紀前の73年。フランスの占星術師ノストラダムスの「1999年7の月、空から恐怖の大王が降ってくる」という予言に「人類滅亡か」などと震え上がっていました。
そこから20年経って、1999年が近づく90年代にも第二次オカルトブームが盛り上がりましたが、結局何でもなかったことはご存じの通り。
そこからさらに20年、オカルト的思考は今……?
超能力は信じないけど、虫のしらせはありそう
オカルト的なものについてもばっちり対応するデータを備えているのが、この記事でもおなじみのTBS総合嗜好調査。
衣食住から趣味レジャー、人物・企業から、なるほどと思うことわざまで、ありとあらゆる領域の「好きなもの」を、まさにオカルトブーム花盛りの70年代から毎年調べ続けている驚異の時系列調査です。
その中に「『ありそうだ』『いそうだ』と思うもの」をいくつでも選ばせる質問があり、これがまさにオカルト意識をとらえています。
最新調査(22年10月実施)では20個のオカルト項目が選択肢になっており、東京地区の回答を集計したのが次の棒グラフです。
グラフを見ると、最も「ありそうだ」と思われているのは「虫のしらせ・第六感」で全体の4割が支持。ちなみに第六感とは、五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)以外の働きによる知覚、つまり「勘」のこと。
次点の「つき・運・バイオリズム」とともに、理由が説明しづらくて「そうとしか言えない」ような体験を多くの人が実感している模様。
一方、辞書の「オカルト」説明にもある超能力は、調査では「千里眼・テレパシー・超能力」という選択肢で、支持率わずか4%。
他の支持率下位は「四次元の世界」や「恐竜の生き残り」「伝説的な生き物」など、かつてオカルトブームで熱く語られた事柄ばかり。しかし、これらの存在を信じる人のほうが今や「伝説的な生き物」並の希少的存在になっているようです。
女性はコト(心理)・男性はモノ(物体)
続いて、回答者を性年代に分けて、20個のオカルト項目との関係を1枚の図にしてみたのが次の散布図です(注)。
図を見ると、右から左に向かって年齢が上がっていき、図の上側に女性、下側に男性が分布していることがわかります。また、この図では「同じような選ばれ方の項目」や「その項目の選択率が相対的に高い性年代」が、原点から見て同じ方向に位置するようになります。
そのことに気をつけると、図の上半分を占める女性では、右側の10~20代で「占い」、中央の30代で「お守り・おはらい・まじない」、左側の中高年で「先祖の見えない助け」「奇蹟」「前世からの因縁」などを信じる人が多い様子。
一方、図の下半分に位置する男性では、右側の10~20代で「幽霊・妖怪・魔もの」や「動植物の精・たましい」、中央の30代で「UFO」、左の中高年で「つき・運・バイオリズム」「虫のしらせ・第六感」などを「ありそうだ」「いそうだ」と思っている人が多い模様。
総じて、女性は運勢や縁といった心理的な「コト」、男性は未確認の生物や物体といった物理的な「モノ」の存在にひかれている印象です。
オカルトにひかれる「合理的」な人
ところで、TBS総合嗜好調査には「好きな言葉」という質問もあり、その中に「合理的」という選択肢があります。
またまた辞書で調べると、「合理」には2つの解釈があり、1つは「その考え(方法)が論理的に正しいと判断されること」、もう1つは「理屈には合っていること」でした。
東京地区で回答者全体の1割弱を占める「合理的」という言葉が好きな人。オカルトは受け付けないように思えますが、実際はどうなのか。
回答者を「合理的」という言葉が好きな人とそれ以外に分けて、オカルト項目の支持率を集計してみたのが、次の棒グラフです。
すると意外や意外。多くの項目であまり差がないばかりか、「虫のしらせ・第六感」や「お守り・おはらい・まじない」「死後の世界」などは、「合理的」好きのほうでかなり支持者が多いのです。
オカルトを語る合理主義者など、不合理の極み?しかし、物理学者にして夏目漱石門下の文人、寺田寅彦にいわせれば、「化け物がないと思うのはかえってほんとうの迷信である。(略) 怪異に戦慄する心持ちがなくなれば、もう科学は死んでしまうのである」(『化け物の進化』)とのこと。
人智の及ぶところを見極め、未知を畏怖する気持ちこそ科学する心でしょうか。再び寺田曰く、「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだ」(『小爆発二件』)。
この「科学する心」と「怪異に戦慄する心持ち」がアンバランスなのではないかと思わされるのが、いわゆる陰謀論を奉じる人々の存在です。
記憶に新しいのが、トランプ政権時代にアメリカの極右勢力が主張した陰謀論「Qアノン」で、世界を裏で操る「ディープステート」(影の政府)から民衆を守るためにトランプ氏が戦っている、という主旨のものです。
2021年1月6日、バイデン氏を次期大統領に確定しようとしていたアメリカの連邦議会議事堂を、トランプ敗北を信じないQアノン信奉者らが襲撃した事件は、衝撃以外の何物でもありませんでした。
どんな前提でも、そこから「理屈には合っている」ように考えを進めることは出来ます。Qアノンが前提なら、襲撃は「合理的」かも知れません。
70年代や90年代日本のオカルトブームが今では楽しい思い出なのは、何だかんだいっても「科学する心」あるいは「健全な常識」がベースにあったからだという気がします。
「正当にこわがることはなかなかむつかしいことだ」と、つくづく思う今日この頃です。
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