北京冬季オリンピックのみどころ
【来月に迫った北京冬季オリンピック。注目すべき競技、アスリートは?スポーツライターによるナビゲーション】
佐藤 俊(スポーツライター)
北京冬季五輪がいよいよ始まる。
東京五輪が終わって、わずか半年あまりだが、その興奮が冷めやらぬ中、7種目109競技で金メダルを巡る戦いが繰り広げられることになる。今大会から新しく7競技が追加されているが、日本人選手の活躍が期待される競技について取り上げてみた。
期待の大きい女子カーリング
冬季五輪は、団体競技が少ないが、その中で期待が大きいのが女子カーリングだ。
平昌五輪では、日本カーリング史上初となる銅メダルを獲得した。だが、その翌日、みんなでスタンドから見学した決勝戦がロコ・ソラーレのメンバーにとってのリスタートになった。「あそこに自分たちが立ちたかった」「次は、あそこに勝負できるようにがんばろう」と誓い合ったのだ。そして、その舞台に挑戦できる五輪に彼女たちは戻ってきた。
本大会では、1次リーグで10チームが総当たり戦で戦い、上位4チームが準決勝に進む。日本が約束の舞台に立つために迎える初戦の相手は、前回大会金メダルで世界ランキング1位のスウェーデンだ。そして、最終戦は、世界選手権優勝国のカナダとの対戦が決まっている。
世界ランキング7位の日本にとっては楽な試合はひとつもないが、彼女たちが動じる気配はない。
藤沢五月は「実力的にも世界と戦えるところまで上がってこられた。五輪に出る全てのチームに勝ったことがある。結局、相手よりも自分たちのベストパフォーマンスをどんな環境になっても出すだけ。楽しみです」と語り、やる気に満ちている。
チームの魅力は、底力だ。
北京五輪代表選考会では、2連敗からスタートし、追いつめられた中で日本代表の座を獲得。北京冬季五輪最終予選ではプレーオフで韓国に勝ち、2大会連続での五輪出場を決めた。
ロコ・ソラーレは毎試合、目標を立てて臨む。
北京冬季五輪のプレーオフの韓国戦は「気合と根性」だった。初戦、彼女たちは、どんな目標を立てて、スウェーデン戦に臨むのだろうか。前回大会以上の色のメダル獲得に期待が膨らむ。
【引き続き「楽しみな『スマイルジャパン』」に続く】
楽しみな「スマイルジャパン」
チームスポーツで、楽しみなのがアイスホッケー女子日本代表の「スマイルジャパン」だ。長野五輪で初出場を果たした後、ソチ五輪、平昌五輪、今回の北京五輪で3大会連続での出場になる。ただ、過去3大会は、世界に厳しい現実を突きつけられた。長野では6か国総当たり戦だったが、5試合全敗を喫し、ソチ五輪も予選グループ全敗で最下位に終わった。平昌五輪では、8チームが2グループに分かれて予選が行なわれ、日本は韓国と北朝鮮の合同チームに勝ち、五輪史上初めて勝利を挙げた。だが、順位決定戦でスイスに敗れて6位に終わった。
ソチ五輪から3大会連続で主将としてチームを引っ張るのが、大澤ちほだ。
高校2年の時、日本代表に招集され、それ以来、大柄な外国人選手を苦にしないフィジカルの強さとスピードを活かした攻撃が持ち味で日本の中心選手として活躍してきた。平昌五輪の後、海外勢との国際経験の差やフィジカル、スピードの差を感じてスウェーデンに行き、日々、外国人選手と対峙する中、相手の強い当たりに慣れ、得点感覚を磨いたのだ。2021年世界選手権では、得点やアシストこそなかったが献身的なプレーでチームの勝利に貢献し、過去最高の6位という結果を出した。北京冬季五輪前にはチェコ遠征が計画されていたが、世界的なコロナ禍の影響でキャンセルになってしまった。選手は自分たちの現状の力を正確に把握できない中、北京五輪本番に臨むことになる。
アイスホッケーは、日本ではマイナー競技で、なかなか日が当たらない。だが、「氷上の格闘技」と言われ、スピードと選手同士ぶつかり合う迫力は十分に見応えがあり、楽しめる。もっと注目されてもいい競技だが、それにはやはり五輪での結果が必要になる。
日本は、初戦のスウェーデン戦がキーになるだろう。
初戦に勝って波に乘ることができれば、つづくデンマークに勢いを持って臨める。さらに中国、チェコと試合がつづくが、世界選手権6位の実力を発揮できれば、これまで実現していない予選グループのトップ通過が見えてくる。
大澤は、北京五輪に向けて、並々ならぬ闘志を燃やしている。
「応援してくれる皆さんにエネルギーを与えられるように4年前より強くなった姿を見せたい。自信を持って4年間準備してきたので、積み重ねたことを出し切れる場にしたい」
優勝候補は、アメリカ、カナダで、2強時代と言われている。アイスホッケーは、なかなかアップセットが起こりづらい競技だが、勝負はやってみないと分からない。大澤を始め、4年間、積み重ねてきたものを存分に発揮し、結果を出して、日本にアイスホッケーの灯をともしてほしい。
混合競技の盛り上がり
今大会では、新たに7種目が追加されたが、その中でももっとも金メダルに近いのがノルディックスキー・ジャンプ混合団体だろう。東京五輪では柔道混合団体が盛り上がりを見せ、また卓球では混合ダブルスで水谷隼と伊藤美誠が金メダルを獲得した。ジャンプの混合は、個人とは違ってまた大いに盛り上がりそうだ。
試合は、男女各2人の計4人がチームを組み、合計得点で争う。すでに世界選手権ではこの種目が実施されており、日本は初めて行われた2013年大会で高梨沙羅、伊東大貴らで臨み、金メダルを獲得、初代王者に輝いた。2015年大会、2017年大会では3位だったが、2021年2月の世界選手権では伊藤有希、高梨沙羅、小林陵侑、佐藤幸椰ら男女のエースで挑んだ日本は5位となり、表彰台を逃した。
北京冬季五輪では、世界選手権4連覇中のドイツやオーストリア、ノルウェー、スロベニアがライバルとなりそうだが、日本も小林が今シーズンずっと好調を維持しており、高梨にも期待がかかる。まだメンバーは確定していないが、出場した場合は、団体戦には強い日本を証明し、メダル獲得を実現してほしい。
3連覇がかかる羽生結弦
個人種目の注目といえば、これまで冬季五輪大会2連覇を達成している男子フィギュアの羽生結弦だ。北京冬季五輪の選考会となった日本選手権では、ショートプログラムで国際スケート連盟(ISU)非公認ながら、ISU公認記録の今季世界最高得点となる111・31点を叩き出し、フリー211・05点、合計322・36点で2年連続6度目の日本一に輝き、代表権を獲得した。
この試合のフリーでは、事前に提出する予定構成表に初めて「4A」が明記され、演技の冒頭に「4回転アクセル」(クワッドアクセル)、いわゆる4回転半に挑戦した。両足着氷となり、ダウングレードで3回転半と判定されたが、転ばなかったことで本大会での成功の期待が膨らんだ。完成度を高めるには、羽生がいう「軸」と「回転」が重要になってくるが、4回転半を自分のものにできれば本番では余裕を持って戦える。
「4回転半へのこだわりを捨てて勝ちに行くのであれば、ほかの選択肢もある。ただ、北京を目指す覚悟を決めた背景に4回転半がある」
最大のライバルは、ネイサン・チェン(米国)になる。世界も金メダルは、二人の争いになるとみており、フランスのメディアのエキップは「オリンピック2連覇の王者は、北京でアメリカのネイサン・チェンとのタイトル防衛に臨む」と二人の対戦をクローズアップしている。
だが、羽生の視線の先には優勝、そして大会3連覇しかない。
「正直3連覇というものは考えずに過ごしてきた。子供のころの夢は2連覇だった。ただ、3連覇の権利を有しているのは僕しかいない。描いた夢ではなかったけど、またしっかりと夢の続きを描いて、子供のころ、前回、前々回とはまた違った強さで五輪に臨みたい。4回転半という武器を携えて優勝を目指します」
4回転半を成功させ、大会3連覇を達成できるだろうか。偉業が達成されれば日本は、とんでもないお祭り騒ぎになり、世界はその快挙に震撼するだろう。
5種目にエントリーする高木美帆
スピードスケートも日本を熱くさせてくれそうだ。
北京冬季五輪のスピードスケートの代表選手、15名が選出されたが、とりわけ注目が高いのが500m、1000m、1500m、3000m、団体追い抜き(チームパシュート)の5種目にエントリ―された高木美帆だ。5種目に出場すれば、2006年トリノ五輪の田畑真紀以来の快挙となる。全力での勝負がもとめられ、一時も気が抜けない五輪では、多種目に出場することでの疲労やコンディション調整が難しくなるように思えるが、高木は極めてポジティブにとらえている。
「多くの種目にトライすることが、スピードスケートが一番速くなる道だと思う。トライする理由は純粋に全部速くなりたいから」
高木は平昌五輪につづいて2大会連続での出場になるが、前回は団体追抜で金、1500m銀、1000m銅と3つのメダルを獲得した。高木は、今も1000mで世界歴代2位、1500mは1分49秒83の世界記録保持者である。順調にいけば、少なくとも1000m、1500m、団体追抜は、メダルの圏内で戦えるだろう。
1000m、1500mが年々早くなっているのは、500mでのスピード強化が実を結んできていると言える。これはマラソンも同じで、スピード力を高めるには5000mや1万mのトラックでのスピード強化が必須と言われている。高木は、ショートでスピードを磨き、それを中距離、長距離に活かして、走力をアップさせてきた。500mから3000mは、どれかを選ぶのではなく、高木の中ではどれも同じように重要なのだ。
「具体的な目標としては自分がこの上ないくらい出し切ったと言えるレースができれば必ず結果がついてくると言えるくらいの4年間を過ごしてきたと思っているので、強い気持ちで挑みたい」
髙木の決意は、氷のごとく堅い。
北京五輪には、平昌五輪で金メダルを2個獲得した姉の菜那も1500m、マススタート、団体追抜に出場予定だ。今回の北京五輪も団体追抜は金メダル候補で、姉妹揃っての共闘が実現する。だが、高木が狙うのは個人種目の金メダルだ。
「北京オリンピックに対しては自分でも驚くくらい前回の平昌大会とは違う感覚がある」
高木の中に十分に戦えるという自信があるのだろう。
5種目すべてでメダルを獲得すれば、日本スピードスケート史上初の歴史的な快挙となり、高木美帆の名前は「氷上トラックの女王」として世界中の人々に認知される。その瞬間を見逃さないようにしたい。
前回の北京五輪(夏季)
北京冬季五輪は、2月4日から20日まで開催される。日本ではコロナが落ち着いて来ているが、海外ではまだ「オミクロン株」が猛威を振るい、海外遠征などができなくなった。強化がプラン通りに進まない状況だが、東京五輪も同じような状況下で選手たちは結果を出し、国内を盛り上げた。冬の五輪もあの東京の熱気を再現させてくれるような選手の素晴らしい活躍に期待したい。
<執筆者略歴>
佐藤 俊(さとう・しゅん)
北海道出身、青山学院大学経営学部を卒業後出版社を経て、93年よりフリーのスポーツライターとして独立。サッカーを中心にW杯は98年フランス大会から18年ロシア大会まで6大会連続で取材継続中。他に箱根駅伝を始め陸上、野球、卓球、体操等さまざまなスポーツをメインに執筆。現在、Sportiva(集英社)、Numberweb、文春オンライン(ともに文藝春秋)などに寄稿している。
2021年4月よりFm yokohamaで「LANDMARK SPORTS HEROES」というアスリートへのインタビュー番組をスタート。毎週日曜日15時30分よりオンエア中。
著者に「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など多数。
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