<シリーズ SDGsの実践者たち> 第6回「SDGs未来都市」北海道下川町の人々
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<シリーズ SDGsの実践者たち> 第6回「SDGs未来都市」北海道下川町の人々

調査情報デジタル
【北海道の小さな町で行われているSDGsへの取り組みが、実は世界に知られている。森林を有効に使ったその取り組みとは】

「調査情報デジタル」編集部

 北海道の道北に位置する下川町は、人口わずか3200人。土地の9割は森林で、真夏の最高気温が30度以上になる一方、真冬には氷点下30度以下の厳しい寒さになる。これらのデータからは暮らしにくそうに思えるが、実はSDGsの先進都市として国内のみならず世界にもその名を知られている。森の暮らしを求めて移住してくる人も多い地域だ。

 下川町では60年以上前から循環型森林経営に取り組み、地域資源である森林を余すことなく使っている。さらに約20年前からは、森林総合産業の構築とエネルギーの自給、それに超高齢化に対応した持続可能な地域づくりを進めてきた。これらの取り組みをベースに、2015年に国連で採決されたSDGsの考え方を取り入れて、下川町版のSDGsとして7つのゴールを独自に策定するなど、多様な人々との共創でまちづくりを進めている。SDGsの達成に積極的に取り組む「SDGs未来都市」の下川町を取材した。

森林を余すところなく使う

 下川町の中心部から車ですぐ行ける場所には町有林が広がる。間伐作業が行われている森林を、町の担当者に案内してもらった。

3⑦ 画像2 トドマツ

町有林で育つトドマツ 

 間伐が進められていたのは、植林によって育てられているトドマツ。足を踏み入れると、森の香りを感じることができる。中には自然のシラカバの姿もある。この美しい森林を余すことなく使って産業を生み出しているのが、下川町が進める循環型森林経営だ。

 下川町は面積の9割が森林で、そのうちの8.3%にあたる4688平方メートルが町有林。毎年50ヘクタールずつ植林し、60年育ててから伐採する計画的な森林経営を行なっている。

3⑦ 画像3 町有林

計画的に森林経営をしている町有林:下川町提供

 また、間伐したものも含め、伐採された木はほぼ全て町内の業者で製材、加工される。森林産業を川上から川下まで町内で完結することで、多くの雇用を生み出している。

3⑦ 画像4 フォレストファミリー

製材から加工まで一貫して行う下川フォレストファミリー

3⑦ 画像5 集成材

床や壁などに使われる集成材

 町内には製材工場など、森林産業だけで8社9工場がある。下川フォレストファミリーは下川町森林組合の集成材加工部門を2014年に分離して設立。木材の乾燥、製材、加工のほか、オーダーメイドで家具や木工製品を開発している。町有林は厳格に管理された森林であることを示すFSC認証を取得しており、製品には認証が刻印される。

3⑦ 画像6 オーダーメイド

オーダーメイドで家具を作る工場

3⑦ 画像7 木工製品

コロナ禍で開発したパーテーションを支える木工製品

 下川町で育てられた木は、木材として利用されない部分も全て活用される。下川フォレストファミリーでは、作業過程で出た木くずを活用したバイオマス熱供給システムで工場の暖房を賄っている。

3⑦ 画像8 バイオマス熱供給

木くずを活用したバイオマスで熱を供給

 枝や葉も様々な製品開発に活用される。そのうちの一つが、従来は伐採の現場に置かれていたトドマツの葉から作られたエッセンシャルオイル。森林組合が2000年に事業化し、2012年に株式会社化した「フプの森」が製造と販売を行う。オイルのほか、アロマミストやハンドクリームなど様々な製品を開発して、取扱店やインターネットで販売している。

3⑦ SDGsさしかえ画像 商品

「フプの森」の商品。フプはアイヌ語でトドマツのこと

地域消滅の危機を乗り越えてきた下川町

 下川町で循環型森林経営が確立された背景には、地域が消滅する危機を何度も乗り越えてきた歴史がある。

3⑦ 画像10 町役場

下川町役場

 1901年に岐阜県からの入植によって開拓された下川町は、原木の安定供給や雇用の確保などを目指して、1953年に1221ヘクタールの国有林を取得。当時の町予算が1.2億円しかない中で、8800万円を投じて購入した。

 ところが、翌年の洞爺湖台風と呼ばれる台風15号で森林は甚大な被害を受け、天然林産業は不可能になった。1956年には財政再建団体に転落。そこで、1960年から木材の伐採と収穫を計画的に行う循環型森林経営が始まった。

 1960年時点では金や銅の生産もあり、人口は1万5000人を超えていた。それが、木材の輸入自由化による林業の衰退や、鉱山の休止、鉄道廃止などによって人口は激減。1980年の国勢調査の人口減少率は道内でワースト1位、全国ワースト4位を記録した。

 この状況を何とかしようと、官民あげての地域活性化活動に取り組み始める。1999年から始めたのが、持続可能な地域づくり。森林総合産業を構築する経済と、エネルギーの自給と低炭素化を目指す環境、それに超高齢化に対応する社会の3側面から価値を生み出し、地域の課題を総合的に解決する取り組みを20年以上続けている。

 象徴的な取り組みの一つが、一の橋地区のバイオビレッジ。一の橋地区は1960年代には2000人が暮らしていたが、2009年には人口95人、高齢化率51.6%の限界集落になっていた。この集落を再生するため、高齢者が暮らしやすい集住化住宅を建設。各住居や郵便局などが屋根付きの通路でつながり、雪かきの必要がなくなるなど、高齢者が暮らしやすい環境を整備した。

3⑦ 画像⑪ 集住化住宅

一の橋地区の集住化住宅:下川町提供

3⑦ 画像12 通路でつながる

郵便局やカフェ、各住居が屋根付きの通路でつながる

 地区には木質チップを原料にして熱水を作るバイオマス施設を整備。集住化住宅や公共施設などに熱水を送って、熱源として利用している。冬場は灯油などに比べてコストが削減できる一方、灯油販売業界には木質チップを製造する事業を指定管理者として委託している。

3⑦ 画像13 パイプ

バイオマス施設から集住化住宅や公共施設に熱水を送る

3⑦ 画像14 木質バイオマス施設

木質バイオマス施設。不要な木材を破砕した木材チップが運び込まれる

 バイオマス施設の熱を使って、国内最北端の椎茸の菌床栽培といった新たな産業も起こしている。その結果、雇用も創出。この取り組みは2017年の第1回ジャパンSDGsアワードで内閣総理大臣賞を受賞。下川町の取り組みは国連など国際会議でも報告するなど世界に注目されている。

3⑦ 画像15 椎茸その1

バイオマスの熱を利用した椎茸の菌床栽培施設

3⑦ 画像16 椎茸その2

バイオマスの熱を利用した椎茸の菌床栽培施設

3⑦ 画像17  鹿

一の橋地区に現れたエゾシカ

住民が作った「下川町版SDGs」7つのゴール

 下川町のまちづくりは、町内で暮らす多様な人々のパートナーシップによって進められ ている。

 森林を生かした持続可能な地域づくりには、行政や企業に加えて、町民グループも大きな役割を担っている。その一つがNPO法人森の生活。移住してきた人が中心となって活動する団体で、幼児から高校生までを対象にした体験型の森林環境教育や、森を生かしたまちづくり事業を展開している。

 さらに、SDGsの言葉が生まれたことで、住民が一体となってSDGsを取り入れたまちづくりを進めている。それが、下川町版SDGs「2030年における下川町のありたい姿」だ。

3⑦ SDGs 下川町図表

下川町版SDGs

 7つのゴールの策定は住民主導で行われた。町民委員10人と、役場の中堅職員10人が13回にわたって協議したほか、住民有志の会や女性中心の住民グループも意見を出し、中学生もワークショップで考えるなど、あらゆる世代が参加した。

 その結果、7つのゴールには住民の思いが明確に表現されている。国連のSDGsでは「誰ひとり取り残さない」ことを謳うが、下川町では「誰ひとり取り残されないまち」と一言一句にこだわり、住民がそれぞれにできることを考えて行動している。

 すると、地域で育った若者も新たな取り組みを始めた。高齢者や子育て世代のためにと弁当や配食、ケータリングの店を開業したのが「ケータのケータリング」。紙の弁当箱や下川町産のFSC認証の割り箸を使うほか、弁当箱を持参すれば50円引きにするなど、環境に配慮した店づくりをしている。

3⑦ 画像18 ケータリング

コロナ禍で開業した「ケータのケータリング」

3⑦ 画像19 お弁当

店の弁当箱は紙製、弁当箱持参は50円引き

 また、下川町版SDGsで住民の関心が最も高いのは、ゴール7の「子どもたちの笑顔と未来世代の幸せを育むまち」。そこで、町民がさらに議論し、具体的な目標を設定した「地域教育ビジョン」を策定。地域、家庭、教育現場がつながって、子どもが誰ひとり取り残されず、全体が大きな家のようなまちづくりを進めている。

 循環型森林経営も下川町版SDGsも、目指しているのは「自分不在の未来のための仕事」。下川町の持続可能なまちづくりは、すべての住民が実践者となっている。

3⑦ 画像20 滝

町内を流れるポンモサンル川の糸毛の滝。豊かな自然に囲まれている。

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