データからみえる今日の世相~いくつになっても好きなキャラクターがあるって、イイですよね!?
江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)
2022年5月から劇場で映画「シン・ウルトラマン」が公開されています。企画・脚本が「エヴァンゲリオン」の庵野秀明氏、監督が「平成ガメラシリーズ」の樋口真嗣氏で、1960年代生まれの二人(庵野氏が60年、樋口氏が65年)は16年公開の「シン・ゴジラ」でもタッグを組んでいました。
50代半ばの筆者も68年生まれで、子どもの頃からウルトラマンを始め多くの特撮・アニメ・漫画などに文字通り浴びるように接してきました。
そして、21世紀も22年過ぎた今、再び作られるウルトラマンがどのようなものか、大変興味があります。
ということで筆者は今でもウルトラマンが好きなのですが、他の世代ではどんなキャラクターが好まれているのでしょうか。
特定の年代が推すキャラクターもあれば、世代を超えて愛されるものもあり、それは男女でも違っていそうです。
そこで、13歳から74歳までを対象とするTBS総合嗜好調査の「好きなキャラクター」質問を分析してみると……?
古希を迎えたあのキャラクターが女性に大人気
昨年10月に実施した最新のTBS総合嗜好調査では、58個のキャラクターの名前を「この中にはない」という選択肢と一緒にならべて、好きなものをいくつでも選んでもらうという質問をしています。
この質問を東京地区データ(13~74歳男女・1,284名回答)について、性年代ごとにトップ5(同率含む)を集計してみました。ここでは、10代・30代・50代・70代を男性・女性に分けた結果を示します。
それぞれの年代で男女を見比べると、好きなキャラクターは男女でかなり違うことが分かります。同年代で男女共通なのは、30代の「鬼滅の刃」と10代の「トム&ジェリー」の2つでした。
男性で年代間を比べると、70代では「スーパーマン」や「ゴジラ」などその世代の子ども時代に一世を風靡したものがランクイン。下の世代とは一線を画しています。
筆者も属する50代ではやはり「ウルトラマン」や「仮面ライダー」が人気ですが、それ以外でランクインした「ルパン三世」「ガンダム」は30代とも共通し、加えて10代まで共通する「鬼滅の刃」も入っています。
30代では「スターウォーズ」や「ドラえもん」人気が特徴的ですが、10代とも共通する「ワンピース」がランクイン。
10代ではポケモンの「ピカチュウ」の他に、特定コンテンツのキャラクターではないボーカロイド「初音ミク」のランクインが目を引きます。
男性には上下の世代で共通するキャラクターがいくつかあり、「鬼滅の刃」が10代・30代・50代にランクインしましたが、全年代を制覇した人気者は見当たりませんでした。
一方、女性では「スヌーピー」と「トトロ」が全年代でランクイン。
88年登場のトトロも息が長いですが、1950年にアメリカの漫画『ピーナッツ』に登場したスヌーピーは、人間で言えば古希(70歳)の御祝いも過ぎたレジェンドです。
全年代制覇には至らなかったものの、30代・50代・70代でランクインした「くまのプーさん」も含めて、女性には老いも若きも全世代的に好きなキャラクターが複数ありました。
また、女性10代では「チップとデール」「トイ・ストーリー」「ディズニープリンセス」といったディズニーキャラクターの多さも目を引きます。
上記の分析では20代・40代・60代を省きましたが、それらも含めた全体で、どのキャラクターがどの年代に人気なのかも知りたいところです。
そこで、そうしたことを1枚の散布図に表す「コレスポンデンス分析」を、男女それぞれで行ってみました(注)。
散布図では「同じような選ばれ方のキャラクター」や「そのキャラクターの選択率が高い年代」が近くに集まります。また、多くの年代で選択率が高いキャラクターは原点のそばに位置し、特定の年代で選ばれがちなキャラクターは原点から見てその年代と同じ方向に位置します。
では、最初に男性の分析結果を見てみましょう。
まず、右上の男性60~70代の周りには、彼らが草創期のテレビ放送で馴染んだ「鉄腕アトム」「ポパイ」「スーパーマン」が並んでいます。
そして図の下側に30代~50代が位置し、60~70年代に始まったテレビ放送の後続シリーズが今も続く「ウルトラマン」や「仮面ライダー」「ルパン三世」「ドラえもん」「ガンダム」が点在。男の子向けテレビ番組黄金期のキャラクターとその視聴世代がしっかり結びついています。
さらに原点付近の左側、30代と20代の間に「ドラゴンクエスト」「ワンピース」「鬼滅の刃」と80年代以降登場のゲームや少年ジャンプ系コンテンツが存在。どれも今の日本ポップカルチャーを支えるものばかりです。
一方、図の左上の10代は、テレビ黄金期のヒーローものよりも、可愛くデフォルメされた動物キャラクターを好んでいるように見えます。
男性では、世代が図上でU字型に並び、好むキャラクターとの対応が割合はっきりしている印象があります。
一方、女性は年代の並びが男性のようなU字型でもなく、規則性がつかみにくい感じです。
そして国産初のテレビアニメ「鉄腕アトム」が、それをリアルタイムで楽しんだ60代の方向に飛び出しているのと、テレビ黄金期の男の子向けキャラクターが一切見当たらないのが(当然ながら)特徴です。
そして可愛くデフォルメされた動物キャラクターが多数、原点付近に集まっています。母親が娘と、さらに孫娘とも同じキャラクターを好んでおり(その一部は男性10代も好んでおり)、その主要なものにディズニーキャラクターが多く含まれているようです。
女性では、世代を超えて可愛いキャラクターが愛でられている印象です。
男女とも総じて、子どもの頃に好きだったキャラクターを今も大切にしている様子がうかがえます。
冒頭で筆者はウルトラマンが好きだと書きましたが、その昔なら「50歳過ぎのいい大人がいつまでも子供っぽい」などと言われたかも知れません。
しかし、戦後日本の豊かな社会が高度成長期生まれの子どもたち(筆者もその一人)に、好きなものを手放さずにそのまま年を重ねることを可能にした、という実感があります。
子ども向けテレビ黄金期の60~70年代には、今よりも遥かに多くの特撮・アニメがあふれ、子どもたちはそれを浴びながら「面白い」「好きだ」と楽しみました。
続く青年期は、安定成長の経済がバブル化し、サブカルチャー全盛の80年代。その頃に「社会とは、文化とは、大人とはかくあるべし」という通念より「自分の好きなもの」に重きを置く心性が培われたように思います。
それは、貧困が減り一億総中流と言われた当時の経済状況に裏打ちされた、ある種の精神的モラトリアム状態だったのかも知れません。
そうした心性を持つ人々から、ある人は大人も(あるいは大人が)楽しめる特撮・アニメなどを作るクリエイターになり、ある人は大人の経済力でグッズを「大人買い」する消費者になりました。
そして特撮・アニメ・マンガは、クールジャパン戦略を掲げる政府が日本のソフトパワー強化の要素として目を付ける存在にもなりました。
戦争も生活に追われる貧困もなく、平和で豊かな戦後日本だったからこそ、お子様向けのコンテンツに入れ込むことが許され、世界が注目する魅力的なポップカルチャーにまで発達したのだと思います。
一方、現在の日本社会は戦争状態でこそないものの、一定の格差と貧困の存在は認めざるを得ない状況です。このまま社会不安の度合いが高まれば、ポップカルチャーどころの話ではなくなるかも知れません。
「自分の好きなもの」を好きでいられる社会を守るのは、ウルトラマンではなく大人として社会に向き合う私たち自身ですね。
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