データからみえる今日の世相~失われつつある?!冬の「こたつでみかん」〜
江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)
2022年から23年にかけてのこの冬は、各地で大雪が降ったというニュースで持ちきりです。東北地方の日本海側や北陸地方などで特に多いようですが、四国でも高知市で14センチ、徳島市でも10センチと観測史上最高を記録しました(22年12月24日付毎日新聞)。
さすがに降りすぎの感もありますが、冬に雪が降るのは当たり前。「冬といったら雪」くらいに思っている人も多いのでは。
実は「そう思っている人は本当に多い」ということを裏付けるデータがあります。それがTBS総合嗜好調査です。
衣食住レジャーからメディア接触など、ありとあらゆる分野の「好きなこと」を扱うこの調査では、春夏秋冬それぞれの季節に「ふさわしいと思うもの」を09年から調べています。
17個の選択肢(「この中にはない」含む)からいくつでも選んでもらうこの質問。「冬にふさわしいと思うもの」の最新結果は、1位「雪」77%、2位「クリスマス」67%、3位「正月」63%でした(22年10月実施、東京地区・13~74才男女1,280名を集計)。
そんな中、寒いなら「こたつ」、こたつに入れば「みかん」を食べるのも日本の冬の風物詩。……と思っていたら、「冬にふさわしいと思うもの」データでは「こたつ」47%、「みかん」40%と半数割れ。
「えっ、みんな、冬は『こたつでみかん』じゃないの?」と思い、データで「こたつ」事情と「みかん」事情を探ってみました。
減るこたつ、増える床暖、安定のエアコン
何でも調べるTBS総合嗜好調査には、暖房器具の所有を尋ねた質問もあり、実に70年代後半から毎年調べ続けています。
その中から「電気こたつ」「電気カーペット」「ストーブ(石油)」「ルームエアコン(電気)」「床暖房」の5つについて、東京地区の世帯所有率推移をまとめてみると、次の折れ線グラフのようになりました(注1)。
40年以上昔の78年当時、電気こたつの所有率は実に93%でした。しかし年々所有率が低下し、22年現在では30%まで下落。
同様に、78年には70%の世帯が持っていた石油ストーブも減少の一途をたどり、22年の所有率は14%。今でも冬になると近所に軽快な音楽を鳴らした灯油販売車が来るのですが、案外利用者は少ないかも知れません。
一方、独特な動きを描いているのが電気カーペット。
減る一方の電気こたつや石油ストーブと入れ替わるように、90年代まで一直線に普及率が増加しています。
畳敷きから椅子とテーブルの生活様式が一般化して、冬にこたつという感じでもないけれど、石油ストーブは火事が怖い。となると、手軽に足下が温められる電気カーペットは打ってつけかも知れません。
しかし、2000年頃をピークに電気カーペットの所有率も低下。それと入れ替わるように伸びているのが床暖房です。
足下から温める機能はどちらも一緒ですが、床暖房のほうが遥かに大がかりで高額のため、昔から調査項目には入っていたものの、普及率はなかなか伸びませんでした。
当初は主に一戸建ての持ち家で設置されたようですが、00年代以降、分譲マンションなどでも設置が増え、全体の普及率を押し上げている模様。
そして何といってもルームエアコン。高度経済成長期の60年代は「3C(カラーテレビ、エアコン〈クーラー〉、自動車〈カー〉)」の1つで高嶺の花でしたが、現在は冷暖房兼用家電として最もポピュラーな存在です。
「冬はこたつ」と思っていましたが、今やこたつがある家は東京で3軒に1軒だというのが、結構意外でした。
好きな果物は昔から「いちご」だけど……
「こたつでみかん」の「こたつ」は寂しい結果でしたが、「みかん」のほうはどうでしょうか。
同じくTBS総合嗜好調査から、好きな果物の調査結果を見てみます。
こちらも70年代後半から、選択肢を増やしたり見直したりしながら毎年調べ続けていて、今では36種の果物から好きなものをいくつでも選んでもらっています。
ここでは「みかん」に加えて、数字の動きに特徴のある「いちご」「メロン」も取り上げて、折れ線グラフにしてみました。
実は70年代後半から、最も好まれている果物は「いちご」です。常に好意度トップを維持しているものの、78年の61%が22年に49%と長期的には数字が下がる傾向にあります。
「みかん」のグラフは「いちご」を1割くらい下に平行移動させた感じ。80年代は5割前後あった好意度が、90年代初頭のバブル崩壊以後に徐々に下がり、00年代以降は4割前後で推移しています。
一方、高級フルーツのイメージが強い「メロン」は、80年代まで半数強の人が好んでいましたが、やはりバブル崩壊頃から低下傾向にあります。
90年代末頃から、ブロック状に切り分けた「カットフルーツ」としてスーパーやコンビニで出回り始め、「皮をむく面倒がないうえ、生ゴミが出ない」として人気に(00年11月22日付日経新聞夕刊)。しかし、好意度は漸減し、現在の愛好者は3人に1人といったところ。
3つの果物の動向に共通するのは、好意度が徐々に下がっている点です。そのことを直接的に示すデータとして、TBS総合嗜好調査の「好きな副食・間食」という項目があります。
「副食」は「おかず」、「間食」は「おやつ」のことで、主食以外に好きな物を尋ねるこの質問も70年代後半から続いており、「魚」「肉」「野菜」「菓子・スナック類」などの選択肢に「果物」が含まれています(注2)。
果物のことを古くは「水菓子」と言ったように、果物は「おかず」というより「おやつ」という感じがします。そこで、「菓子・スナック類」の推移と比較してみたのが次の折れ線グラフです。
78年当時、菓子・スナック好きが26%だったのに対し、果物好きは63%と倍以上も開きがありました。
しかし、この40年以上の間に果物好きは減る一方で、菓子・スナック好きは微増を続け、09年には両者が逆転。22年では果物好きが30%、菓子・スナック好きが34%と拮抗状態です。
こうした果物離れの状況について、早くも91年の新聞記事では農水省担当者が「ケーキ、お菓子などおいしいものがいっぱいある。胃袋の大きさは同じですから、その分、果実の消費が減ったということではないか」とコメントしています(91年6月20日付読売家庭経済新聞)。
みかんについて言えば、日米交渉で91年から始まった米国産オレンジの輸入自由化が、日本のみかん農家に大きな打撃を与えたといわれます。それに対応するため、生産者は「一般のミカンより二~三倍高い値段がつく」高級なミカン作りに乗り出したそう(90年11月19日付日経新聞夕刊)。
皮をむくのが面倒とか、値段が高くなったとか、おいしいお菓子があるとかで、いろいろあって果物離れが進んでいる模様です。
冬は「こたつでみかん」と思っていたら、「こたつ」も「みかん」も分が悪い様子。
時代が変わり生活も変わっていくのは仕方のないこと。でも、ここから10年、20年経ったとき、雪以外にこれといって冬らしいものはない、などとなっていなければよいのですが……。
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