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2023年活躍を期待したい選手たち

【パリオリンピックを翌年に控える2023年。WBC、世界陸上など大きな大会も多い。そこで注目すべきアスリートは誰か?】

佐藤 俊(スポーツライター)

 2022年は、11月から12月にかけて開催されたサッカーのW杯において、日本代表の活躍で日本のスポーツシーンは、大いに盛り上がったが、2023年も大きな大会がつづく。そこで注目すべき選手はいったい誰になるのだろうか。

ワールドベースボールクラシック・村上宗隆

 まず、3月に日本やアメリカのフロリダなどで開催されるワールドベースボールクラシックに出場する日本チームだが、メジャーで活躍する大谷翔平、鈴木誠也も参戦予定だという。彼らを侍ジャパンで見られるのは素敵なことだが、1番の注目は2022年シーズン、最年少で3冠王に輝き、ヤクルトをリーグ2連覇に導いた「村神さま」こと、村上宗隆(ヤクルト)だ。

 今秋には、3年総額18億円の大型契約を結び、メジャー行きの話も球団と話し合い、ポスティングシステムでの移籍が容認されたという。今すぐにでもメジャーで見てみたいが、早期のメジャー移籍は難しい。

 現在22歳の村上は、プロ2年目からレギュラーに定着し、5年後の27年中に海外フリーエージェント(FA)権を取得予定。それ以前のメジャー挑戦はポスティング制度の利用になるが、ネックとなっているのが25歳未満の海外選手に適用される「国際ボーナス・プール」(通称、25歳ルール)だ。

 メジャーリーグの球団が日本などのプロリーグから25歳未満(6シーズン未満)の外国人選手を獲得する際、契約金、年俸などを含めて460万-575万ドルに制限するルールで、マイナー契約からのスタートとなる。それゆえ、理想は25歳でのポスティングによる移籍になる。

 今回のワールドベースボールクラシックへの出場は、3年後のメジャー移籍に向けてのお披露目になる。準決勝からはフロリダでの試合ということで多くのメジャー球団関係者、スカウト、代理人が足を運び、最年少3冠を達成した日本の至宝を見ることになるだろう。

 村上にとっては、日本の優勝を目指すとともに、自己の評価を高める最大の見本市になる。村上自身も「世界一を獲ることを目標に掲げていますし、それを実現させたいなと思っています。その中でもしっかりと活躍して、チームを勝たせられるような働きをしたいと思います」と語る。56本の本塁打をかっとばした打撃で、世界中を驚かせてほしい。

サッカー女子ワールドカップ・浜野まいか

 7月には、オーストラリアとニュージーランドでサッカー女子ワールドカップが開催される。男子はカタールW杯でドイツ、スペインを撃破するなど、ベスト16に進出、サッカー人気を回復させ、日本国内を大いに盛り上げた。次は、なでしこジャパンの登場になるわけだ。

 なでしこジャパンは、2011年ドイツ開催の女子ワールドカップで優勝し、15年カナダ大会は準優勝、19年フランス大会はベスト16に終わった。2度目の優勝を果たすべく、世代交代が進み、チームは若返ったが、その中にあってブレイクしそうなのが、浜野まいか(INAC神戸)だ。

 浜野は、2022年8月、コスタリカで開催されたU20女子W杯で準優勝を果たしたU20女子日本代表のエースとしてプレーし、4得点を挙げて大会MVPに選出された。線は細いが、抜群の動き出しとスピード、優れたシュートセンスを持ち、「メッシみたいになりたい」と語るストライカーだ。  

 すでに10月の親善試合で、なでしこジャパン入りを果たしており、これからチーム戦術に馴染み、周囲との連携が密になっていけば出場機会を増やしていけるだろう。澤穂希が引退した後、スター選手がいなくなり、なでしこジャパンそのものの人気も以前ほどではなくなった。

 女子プロリーグのWEリーグも秋春制でスタートしたが観客動員で伸び悩んでいる。だが、カタールW杯での日本代表の活躍で流れが変わったように、彼女たちの活躍がなでしこジャパンの人気復活の導火線になる可能性は十分にある。そこでさらに浜野のような世界で活躍する若いスターが出てくれば、女子サッカーへの注目度が一段と高まるだろう。「W杯で活躍して、いずれ世界のビッグクラブでプレーしたい」と語る浜野だが、その夢をW杯で実現できるか、楽しみだ。

世界陸上・北口榛花

 8月にはブダペストで世界陸上が開催される。コロナの影響で、2022年のアメリカ・コロラド州オレゴンでの世界陸上から2年連続での大会になるが、まだ出場する選手は決まっていない。ただ、世界陸上の参加出場記録を破り、参加資格を得た選手はいる。

 北口榛花(JAL)は、やり投の日本代表選手に正式に選出される可能が高いが、そうなると大会では非常に活躍が楽しみだ。2022年のオレゴン世界選手権では、日本の陸上女子フィールド種目でオリンピック、世界選手権を通して史上初となる銅メダルを獲得した。うれし涙を流しながら「歴史を作ることができた」とメダルを手にした姿が印象的だった。

 北口はさらなるレベルアップのために大会後、欧州のダイヤモンドリーグに参戦し、ファイナルでは3位に入賞し、実力をさらにアップさせている。シーズン通しての活躍が目立ったが、今年の漢字一文字には突破の「破」を選んだ。

 「自分の枠も日本人の枠も抜け出せた。世界と対等に戦えた一年だった。来年も世界選手権がある。オレゴンでは入賞を目標にしてメダルをとれちゃったみたいな感じ。次はメダルを目標にして、メダルをとって帰ってきて、メダルの色が今年よりも良い色であればいいな」と語った。ブダペストでは涙ではなく、満面の笑みの北口スマイルが見られるだろうか。

ラグビーW杯・齋藤直人

 9月には、ラグビーW杯がフランスで開催される。前回、2019年の日本でのW杯開催で日本代表は準々決勝で南アフリカに敗れたが、それまでスコットランドに勝利するなど素晴らしいプレーを見せ、日本に空前のラグビーブームを巻き起こした。

 今回は、前回大会以上の結果が期待されるが、日本代表チームにあって注目されているのが、スクラムハーフ(SH)の齋藤直人(サントリー)だ。早稲田大学では主将を務め、2019年の大学選手権では11シーズンぶりの優勝に導いた。卒業後はサントリーに入社し、昨年に日本代表の初キャップを得た。

 パススキル、キックやランを駆使した攻撃を展開するなど、状況判断力に長けたSHでプレースキックも正確。今のチームのスピード攻撃の起点になり得る選手。座右の銘は、「努力に勝る天才なし」で、うまくなるために24時間ラグビー漬けの毎日を送り、周囲からは練習の虫といわれるほどだ。

 「23年のフランスでは自分がSHの1番手としてプレーしたい」と日本代表のレギュラー取りのモチベーションも高い。現在の日本代表のSHは、2019年W杯で、全試合出場をした流大(サントリー)や茂野海人(トヨタ)らがおり、チーム内の競争は非常に激しい。代表のSHを長く務めた田中史朗のような選手になれるのか。将来の日本代表を担う1人として、SHの主力を意味する9番の定着を期待したい選手だ。

パリ五輪のマラソン代表選手は?

 10月には、パリ五輪のマラソン代表を決めるMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)が東京で開催される。そのレースへの出場権を得た選手たちが集い、1発勝負でマラソン代表を決めることになる。

 ちなみに前回は中村匠吾(富士通)が優勝し、服部勇馬(トヨタ)が2位で東京五輪のマラソン代表となった。大迫傑(ナイキ)は3位に入り、その後ファイナルレースで最後の切符を勝ち取り、本番では6位入賞を果たした。女子は、前田穂南(天満屋)が優勝し、鈴木亜由子(JP日本郵政G)が2位、そして一山麻緒(当時・ワコール、現・資生堂)がファイナルレースで最後の椅子を得て、本番では8位入賞を果たした。

 今回のMGCは、男子では鈴木健吾(富士通)、女子は一山麻緒(資生堂)に注目だ。

 鈴木は、2021年2月のびわ湖毎日マラソンで2時間4分56秒の日本記録を出し、2022年3月の東京マラソンでは2時間5分28秒でオレゴン世界選手権のマラソン代表の座を勝ち取った。世界選手権はレース直前にコロナに罹患し、走ることができなかったが、それゆえにパリ五輪に対する気持ちは非常に強い。実際、誰にも負けないぐらいの距離を踏み、その練習量は圧倒的で実業団の他選手が驚くほどだ。

 レースでは、力みのないランニングフォームで走り、筋肉や関節にかかる負担を軽減、最高の省エネ走行を実現している。これらを追求しているのは、東京マラソンで感じたキプチョゲら世界のトップレベルとの差をいかに縮めていくかを課題として考えているからでもある。

 鈴木は「自己ベストでも世界とは3分の差がありますし、3分というのを縮めるのは簡単ではありません。でも、毎日の練習を積み重ねていけば、レースで勝負できるチャンスが出てくるかもしれない。MGCは、クリアすべき場所でしかなく、僕が目指すのはパリ五輪です」と語る。マラソンに集中して練習に取り組むために実業団の重要レースであるニューイヤー駅伝を仲間に託しているが、その分はMGCでの結果で返す覚悟でいる。

 一山は、鈴木健吾と2021年12月に結婚し、2022年4月にワコールから東京拠点のチームの資生堂に移籍した。世界最速の夫婦としてギネスに掲載されるほどだが、一山は結婚をして、自分でいろんなことをやることが競技面でもプラスになっているという。

 「海外の選手は食事も全部、自分で作っているし、自分のことは自分でやるのは当たり前なんです。それに料理を作ることで栄養面を考えるなど知識が増えますし、それが体作りにも繋がります」と一山は語る。

 合宿を鈴木と一緒にこなすことがあり、彼から補強など学ぶことも多いという。世界との距離をまだ遠く感じている一山だが、「いつか日本記録を切って世界と戦える日を信じてやるしかない」と決意を固め、まずはMGCで世界挑戦への権利を獲得する。そうして、夫婦でパリ五輪のマラソンコースを日の丸をつけて走るのが二人の大きな目標だ。
 

<執筆者略歴>
佐藤 俊(さとう・しゅん)
北海道出身、青山学院大学経営学部を卒業後出版社を経て、93年よりフリーのスポーツライターとして独立。サッカーを中心にW杯は98年フランス大会から22年カタール大会まで7大会連続で取材継続中。他に箱根駅伝を始め陸上、野球、卓球、体操等さまざまなスポーツをメインに執筆。現在、Sportiva(集英社)、Numberweb、文春オンライン(ともに文藝春秋)などに寄稿している。 2021年4月よりFm yokohamaで「LANDMARK SPORTS HEROES」というアスリートへのインタビュー番組をスタート。毎週日曜日15時30分よりオンエア中。 著者に「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など多数。

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