見出し画像

データからみえる今日の世相~「いくつでも、お答えください」にどう答えるか~

【アンケート調査、あなたはする側?される側?】

江利川 滋(TBSマーケティング局)

 あなたは日頃、アンケートによく回答しますか?

 インターネットのWebサイトで買い物をしたり、何かのサービスを使ったりすると、「商品の使い勝手」「サービスの満足度」「手続のわかりやすさ」、さらに「友人・知人にどれくらいオススメしたいか」等々、あれこれ尋ねられた経験は誰しも一度や二度ではないはず。

 こうしたアンケートは、売り手が買い手の意見を聞き、商品・サービスの改良、広告・宣伝や売り方の改善に役立てるという、いわゆるマーケティング活動の一環で行われています。
 インターネットやスマートフォンが広く世の中に普及した今、この手のアンケートは昔に比べて格段に早く安く実施が可能です。

 消費者の声が企業に届きやすくなったという点では良いものの、インターネットで何かするたびに「どうだった?」「どうしたらいい?」などと質問攻めに遭うのはウンザリ。何事も「過ぎたるは及ばざるが如し」。

 世の中には昔から、こうしたマーケティングリサーチの他にも、世論調査など数多くのアンケート調査が存在。インターネットやスマートフォンの普及以前は、紙の調査票を使うのが一般的でした。

 紙でもWebでも、調査で注目するのは、質問で示した選択肢がどれくらい選ばれたかという「選択率」。どの選択肢が一番選ばれたか、その選択肢が表す意見・行動の該当者がどれくらいいるかなど、知りたい情報が山盛り。

 そのように重要な選択率ですが、その数字にはさまざまな要因が影響。最大の要因は、もちろん「それにあてはまる人が実際に多い(少ない)」という実態があることで、調査はその確認のために行うものと言えます。
 しかし、それ以外にも影響する要因は多く、調査を行うときも、その結果を読むときも、そうした要因への注意が必要です。

 今回取り上げるのは、そうした要因の一つである「回答形式」です。

「いくつでも(MA)」と「3つまで(3A)」

 調査では、1つの質問にたくさんの選択肢が示され、その中から自分にあてはまるものをいくつでも選ぶ形式があります。
 これを「複数回答(multiple answers)形式」といい、調査の現場では英語の頭文字をとって「MA」と略称することがしばしば。

 一方、選べる数を限った「制限複数回答(limited multiple response)形式」というものもあります。例えば最大3つまで選択可のものは「3つの回答(three answers)」から「3A」と略称したりします(注1)。
 同じ質問の同じ選択肢でも、「選択肢を何個選べるか」によって選択率の数字は大きく変わってきます。

 しかし、同じ選択肢の同じ質問を異なる回答形式で調べて比べることは珍しく、どれだけ数字が変わるか示されることもあまりありません。
 ところが、TBS生活DATAライブラリ定例全国調査(注2)では、1995年5月にその珍しい試みを行ったことがあります。

 70年代に始まるTBS生活DATAライブラリ定例全国調査は、現在では年1回11月の実施ですが、99年まで5月と10月の年2回実施でした。
 調査には選択肢が30個の「社会全般の関心事」と29個の「日常身辺の関心事」の質問が含まれ、ある月はMA、別の月は3Aで調査を実施。
 しかし、調査ごとに回答者が変わり、調査月も違い、選択肢もその時の世情を反映して、言い回しを微妙に変えたり別のものに差し替えたり。

 そんなことでMAと3Aの直接比較が難しいなか、95年5月調査では、同じ回答者に同一選択肢の質問を2つの形式で回答してもらいました(注3)。

社会全般の関心事は直線的

 前置きが長くなりましたが、早速、結果を見てみましょう。
 同じ選択肢のMA選択率を横軸、3A選択率を縦軸にとって、「社会全般の関心事」30個の選択肢をプロットしたのが次の散布図です。項目番号は、MA選択率での順位を表しています。

 散布図で右上にあり、MA選択率トップの①「犯罪・事件・非行」(77%)は、3A選択率でもトップですが、数字は50%とその差は27ポイント。
 これに続く②「地震・異常天候などの天然災害」(MA:60%)も、3A選択率は2位ながら30%で30ポイント差。
 その後は、③「国の政治」が3Aで4位(MA:41%、3A:16%)、④「税負担・税制問題」が3Aで6位(MA:37%、3A:13%)、⑤「国の経済」が3Aで3位(MA:37%、3A:16%)と、両者の順位がやや乱れ気味。
 しかし⑦~⑩あたりは、数字こそ20ポイント程度の開きが見られるものの、右肩上がりの直線上に順序よく項目が整列している印象です。

 全体をまとめてみると、95年5月時点の「社会全般の関心事」は誰もが関心を持つ事柄が明確で、それが散布図の右上に飛び出ています。
 MAと3Aで、絶対的な数字はかなり違いますが、一方の上位が他方で下位といった極端なズレは見られず、全体として直線的な分布といえます。

日常身辺の関心事もまあ直線的?

 一方、「日常身辺の関心事」29個の選択肢も同様に散布図にしました。こちらも、項目番号はMA選択率での順位を表しています。

 「日常身辺の関心事」では、①「健康・病気」(MA:52%、3A:30%)が2つの回答形式で選択率首位ながら、数字は22ポイントの開き。
 「社会全般の関心事」の1位や2位はMAで6~7割の選択率でしたが、こちらの1位は5割程度。95年5月当時、「何が社会の重大事か」は世間で共通していたようですが、日常の暮らしは人それぞれなので、関心事の一致度もそこそこ止まり、ということだったのかも知れません。

 その後のランキングは、②「旅行・ハイキング・自然散策」(MA:38%、3A:13%)は3A8位、③「老後の問題」(MA:37%、3A:21%)は3A2位、④「家族みんなのこと」(MA:35%、3A:18%)は3A5位、⑤「預貯金・収入・利殖」(MA:35%、3A:16%)は3A6位と、やや混戦気味。
 MAと3Aの数字の開きがそれぞれ20ポイント近くあるのは、「社会全般の関心事」と同様ながら、こちらのほうは順位が入り混じった感じ。散布図の項目の並びも、ややゴチャゴチャした印象です。

 とはいえ、こちらも「社会全般の関心事」同様、極端に順位のズレた項目は出現していないので、多少ピントをあまくすれば、右肩上がりの直線的分布と言えなくもなさそうです。

どんな調査が望ましいのか

 同じ質問でも、回答形式がMAか3Aかで、数字の出方にかなり差が生じることを見てきました。その一方で、(少なくともここで取り上げた質問では)項目の順位が2つの回答形式で極端にズレることはなく、選択肢の大まかな大小関係は両者で似た感じになることも見てとれました。

 そもそも調査の質問で選択肢をたくさん用意するのは、その質問に対して色々な回答があり得ると想定されるからです。
 回答者にとって、「アレもコレもあてはまる」という気持ちをそのまま反映できるMAは、その意味で答えやすいと言えます。
 一方、回答を3つに絞る3Aは「アレとコレとどちらがよりあてはまるか」をいちいち考えさせるため、回答者の負担が大きい形式です。

 しかし、調査する側では、どれも同じくらいの選択率で軽重の見分けがつきにくいMAより、回答者が重みを付ける3Aの結果のほうが、どれに注目すれば良いかハッキリして使いやすいこともあります。

 また、答えやすいというMAでも、適当な選択肢を2~3個選んだら、他があてはまるかどうか考えるのは止めて、回答者が次の質問に行ってしまうという現象も確認されており、一筋縄ではいきません(注4)。
 どんな回答形式を用いるかは調査する側が決めることですが、回答結果の質は回答者が決めることになります。

 紙の調査票を使っていた時代、お金がかかるアンケート調査の企画・運営は専門家の仕事でした。しかし、早くて安価な調査が可能な今、普通のビジネスパーソンが調査を実施することも一般的になってきました。
 このコラムの冒頭で「あなたは日頃、アンケートによく回答しますか?」と問いました。今、同じ回答者に「あなたは日頃、よくアンケートをしますか?」と質問しても、それなりの該当率になるかも知れません。

 調査をする側、される側の両方になる人には、「質問が過剰で長大で難解な、自分なら回答しないような調査を人に強いるのは、結果も荒れるから止めよう」と伝えたいです。何事も「過ぎたるは及ばざるが如し」ですから。

注1:筆者の経験では、「3A」という言い方は一般的な単語というより、調査業界内の用語のように思います。
注2:TBS生活DATAライブラリは、1971年の開始以来「JNNデータバンク」という名称で続けてきましたが、2024年4月に改称しました。
注3:具体的には、社会全般および日常身辺の関心事のそれぞれについて、最初に「現在あなたが特に関心をお持ちになっていることを次の中からいくつでもお知らせください」とMAで質問し、次に「今お答えいただいたものの中で、現在あなたが特に関心をお持ちになっていることを3つまでお知らせください」と3Aで重ね聞きしました。
注4:江利川・山田(2023)は、選択肢ごとに「あてはまるかどうか」を必ず答えさせる「個別強制選択(forced choice;FC)形式」とMAを比較した結果から、FC形式を推奨しています。

引用文献
江利川滋・山田一成(2023)個別強制選択形式の有効性評価 山田一成(編著)Web調査の基礎 誠信書房 pp.53-76. 

<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は法務・コンプライアンス方面を主務に、マーケティング局も兼任。

この記事に関するご意見等は下記にお寄せ下さい。
chousa@tbs-mri.co.jp