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2023年度下半期ドラマ座談会前半(10月クール)

【2023年度下半期のドラマについて、メディア論を専門とする研究者、ドラマに強いフリーライター、新聞社学芸部の元放送担当記者の3名が語る】

影山 貴彦(同志社女子大学教授)
田幸 和歌子(フリーライター)
倉田 陶子(毎日新聞記者)


「SHUT UP」が世の中に問いかけたもの

影山 10月ドラマ、いかがだったでしょう。

田幸 10月期~1月期にまたがっていますが、一番気になったのが「SHUT UP」(テレ東)です。性的同意を真正面から描いたほか、貧困あり、パパ活ありのドラマですが、女性の連帯がテーマとなった作品でした。貧困層の子がお金持ちの子たちのパーティーに行って妊娠してしまう。彼女は自分自身を責めてしまうんです。

 自分にも非があるんじゃないかと思った女の子が、性的同意とはどういうものか、「イエス以外はイエスじゃない」ということを学んでいく過程も重要ですが、たくさんの要素を詰め込みつつ、取ってつけたような話題性狙いの作品ではない。物語の描き方が本当に丁寧です。

 妊娠させる男性がリアルだったのは、自分より下に見ている女性には遊びで手を出すのに、自分と同等というか、同じ階級だと思っているカノジョは、しっかりキープして丁重に扱う。女性蔑視と格差のリアルが生々しくて。

 「あのこは貴族」(2021)という映画でも描かれている「本当にこんな世界があるの?」と驚くような格差が、日本ですごく広がっている気がします。それでいて、映画の「ウーマン・トーキング 私たちの選択」(2022)で描かれた女性の連帯と対話のような現代性もこのドラマにはある。

 特筆すべきは、脚本がオリジナルということです。原作ものではなく、その上、複数の方が書いている。これだけのクオリティーなのだから、作家性の高い脚本家一人の世界観でつくられたのかと思ったらそうではない。

 これはプロデューサーの力が大きいんです。本間かなみさんという若手の女性です。「チェリまほ」と呼ばれて高評価を得た「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(テレ東・2020)や「うきわ」(テレ東・2021)「今夜すきやきだよ」(テレ東・2023)といった秀作も本間さんです。

 この三作品はいずれも漫画原作なので、漫画のドラマ化がうまい方かと思っていたら、初めてのオリジナル作品が本作でした。「本間かなみブランド」が確立されたと思います。

影山 主演の仁村紗和さんはNHKの夜ドラ「あなたのブツが、ここに」(2022)での演技が印象に残りましたが、ここでまたすばらしい作品に出会った感があります。今、芸能界で話題になっている性加害とすぐに結びつけてはいけませんが、私たちが抱えている問題を広く扱っていると思いました。

倉田 性的同意という非常にセンシティブな問題をちゃんとドラマで描いていること自体、すごいと感じました。現実社会で問題になっている中、男女ともに考えるきっかけになると思います。

 この作品のように、エンタメの形で社会問題を描くことがドラマに求められる役割の一つだと思うんです。もちろん、ただ楽しい作品も必要ですが、ちゃんと考えさせられるこういったドラマがふえたらいいと、将来も含めて思いました。

「おじさんと姪」の幸せな関係

田幸 よかったのは「姪のメイ」(テレ東)。エキセントリックな役が多い本郷奏多さんが、今回は本郷さんぽくもありつつ、エキセントリックじゃない等身大の、普通の、素のおじさんをやっている。また、映画「こちらあみ子」(2022)にも出ていた姪役の大沢一菜さんの大物感がすごい。事故で両親を亡くした女の子とそのおじさんの福島での1カ月の生活を描いているんですが、やりとりの自然さと、震災を風化させない思い。実際に福島で撮影している。そういうつくり手の思いもいいです。

 「おじさんと姪」の組合せは、一つの鉱脈ですね。金子茂樹さんが脚本を書いた「俺の話は長い」(日テレ・2019)を見たときから、おじさんと姪はアリだと思っていました。このドラマでの二人は、ちょっとぎこちないけど、良い関係です。ベタベタしないけれど、愛がある。ほどよい距離と温度のぬるま湯の愛みたいなものを描くのは、今の時代に合っていたと思います。

映像と音声の新しい試み

田幸 新しい試みだったのは、NHKの「あれからどうした」。東京藝大の佐藤雅彦さんの研究室でつくった「5月」という映像作家集団の作品です。三人で脚本も演出も編集も全部やり、もともとは先生と教え子の三人なのに上下関係がないんです。

 Googleドキュメントを使って同時に三人全員で脚本をつくっていく。同時に書き込んで、修正して、修正して、いいものを残していく。そのようなつくり方は世界的にも珍しいそうですが、それがびっくりでした。

 聞こえている音声と、見えている映像がずれているという全く新しい映像表現です。前の日に飲んでいた仲間と、翌日「あれからどうした」と話しあう。登場人物は家族だったり、警察官だったり、各回で変わるんですが「あれからどうした」と聞かれると、後ろめたいことがあってごまかす人もいれば、大した意味もないのにサービストークで盛っちゃう人もいて、不思議となぜか人はうそをつくんですね。

 全くセリフのない、実際に起きていた映像を流しながら、そこに、うそをついている音をかぶせる。ものすごく高度で難しいことをやっているようでありながら、どういうことかは映像を見ると一目瞭然。すごく不思議でおもしろい映像体験をつくり出していました。

 しかもおもしろいのが、「5月」の皆さんは、新しい映像手法を考えることが一番好きで、物語自体には全然興味がないこと。描きたいものは別にない。社会問題を描きたいわけでもないし、人間ドラマを描きたいわけでもない。この手法を用いるためだけに取材して物語をつくったという、ドラマ畑の人では考えられないことをやっているんです。映像の可能性はまだいっぱいあるなと、大いに感じる作品でした。

影山 新しい試みという点では、群を抜いていた感じがします。

倉田 最初は、ながら見しようとしたんですけど、そんなこと絶対できない作品でした。画面にちゃんと目を向けて、セリフもちゃんと聞いて、テレビに釘づけになるのを狙っているなと感じましたし、見終わった後に、実はそうだったのかとすっきりする楽しさもありました。

「セクシー田中さん」の魅力

倉田 「セクシー田中さん」(日テレ)。悲しい出来事がありましたが、作品としてすごく魅かれていました。

 いい作品だなと思ったのは、登場人物の描き方です。社会生活を営む上で、誰しも周囲の視線を気にしながら生きていますし、私自身もそうです。そんな中、この作品の田中さんがベリーダンサーとして踊る姿がすごくかっこよくて、ベリーダンスという自分のやりたいことを追求している姿勢がとてもすてきでした。

 あと、めるるちゃん(生見愛瑠)演じる、昼間の職場の同僚もすごく素直で、興味を抱いた田中さんに対してまっすぐにアプローチする姿勢に魅かれました。並行して原作の漫画を読み始めたら、こちらも本当にいい作品で、すばらしい漫画に出会わせてくれたドラマとしてもよかったと思います。

影山 この作品、ドラマとしてすばらしいのに、メディアがその部分を置いてきぼりにしているところがあります。誰が悪いとかいうこととは全く別に、ドラマとしてすぐれた作品だということは、声を大にして言っておきたいと思います。

「コタツがない家」、ドラマにおける<老い>

倉田 「コタツがない家」(日テレ)がおもしろかったです。実の父と夫と息子が家族の中にいて、この三人がそれぞれダメなところがある困った人たちなんです。その彼らをめぐる様々なゴタゴタに、小池栄子さん演じる主人公が、娘として、妻として、母として一人で立ち向かう姿を描いて、家族のあり方を考えさせられました。

 私も40代になって親との関係を考えるとき、子どもの頃とは違う悩みが出てきます。親の「老い」や将来に対する不安が現実的になってきて、それは自分自身に対する不安でもあるわけですが。

 ここに出てくる父親は詐欺に引っかかって財産を失い、妻とは熟年離婚していて、行き場がなくなっている。うちの両親に当てはめるわけではないですけれど、それでも例えば母が先に亡くなったとき、父は一人で生きていけるだろうかという不安に急に襲われたりします。

 そういうところを結構シビアに感じつつも、家族内の言葉の応酬がすごくおもしろいんです。金子茂樹さんの脚本は「俺の話は長い」もそうでしたが、セリフの応酬がおもしろいというのを改めて感じました。

影山 今、倉田さんが「老い」ということをおっしゃいましたが、同時期に放送された「きのう何食べた?season2」(テレ東)でも「老い」が語られていました。年を重ねてこれからどうなっていくのか。ゲイカップルというフィーチャリングだけでなく、愛し合っている二人が、これからどうなるか。老いていって、老人ホームにとかなんとかという話も出てきたところが実にうまいと思いました。

 テレビドラマは、若い人に見てほしいという切実な部分もありながら、実際にドラマ視聴を支えている年齢層は高くなっています。その中で、中高年に向けて、「老い」を真正面から考える作品が出てきたのは目立つ動きだと思います。月9あたりで「老い」をやってみたらどうかな。まあそれは、個人的な意見ですみません。

大きなことは起きない「いちばん好きな花」

影山 あとは「いちばん好きな花」(フジ)ですね。脚本家はまだ30歳の生方美久さんです。「silent」(フジ・2022)を書いた方で、連続ドラマはこれでまだ二作め。「silent」に比べて小粒という面はありますが、人間関係に悩む、生きづらさを抱える男女を描いています。

 生方さんがすごいのは、大きな、ドラマチックな何かが起こるわけじゃないのに、心の機微というようなものをしっかり描いているところですね。

 ギャラクシー賞の審査会で、審査員としてこの作品を強く推したんですが、敗れました。審査員の一人から冗談半分で「あれだけの美男美女がそろって、そんなに悩むことがどうしてあるのか?」みたいに言われたんです。「いや、それを言っちゃ終わりじゃないですか」と言いたかったけど、言わなかったです。

 人の悩みをドラマでどう描くかという点で、深みがあり、この期の秀作の一つだと思います。

「ゆりあ先生の赤い糸」と<介護>

影山 菅野美穂さん主演の「ゆりあ先生の赤い糸」(テレ朝)はどうでした?

田幸 原作を読んでいたので、最初は、菅野さんのゆりあ先生像が原作と大分違って、ゆりあ先生はああじゃないと思ったんです。でも、ドラマはドラマとして見ると、なかなかよかった。何よりよかったのは「介護は自分一人で背負っちゃダメ。他の人を巻き込まなきゃダメ」というメッセージです。これは今の時代にぜひ発信すべきことだと思います。

影山 老いと介護というのは、今日言いたかったことの一つですが、それを全面的に出していました。

 介護を正面から描いて、そこで疲弊していくのではなく、恋するヒロインでしたからね。それから、夫との微妙な感情。夫もたいがいな人物で、捨ててしまってもいいんでしょうけど、そうはしない。あそこまでくじけないヒロインはなかなかいないと思います。

倉田 夫が介護状態なところに、夫とわけありの若い男性が家に入ってきて、一緒に介護する。そんなことはあり得ないと思いつつ、でも、田幸さんがおっしゃったように、介護は一人で抱え込んじゃダメで、それこそ介護疲れによる事件も起きているわけですから、周りの誰でもいいから巻き込んじゃえというバイタリティーがないと乗り越えられないのかと思いました。

 あと、ゆりあさん本人が若い男性と恋をするわけですけれど、介護だけに捉われず、こういうふうにみんなが介護もしつつ、ほかのことにも熱中できる環境があったら、介護に対するネガティブなイメージも少しは減るでしょうし、介護自体をそんなに苦痛に感じずに対応できるんじゃないかと思いますが、しかし自分だったらこれはとてもできないとも感じました。

二本のNHK夜ドラマ

影山 NHKの夜ドラ。これはNHKに言いたいんですが、何で22時45分スタートなんやろ。リアルタイムで見ていたら、他局のドラマの最後の最後、ドラマに限りませんが、ラスト5、6分の一番いいところじゃないですか。夜ドラを非常に高く評価しているだけに、ぜひ検討して頂きたい。

 まあ、それはおいておいて「わたしの一番最悪なともだち」と「ミワさんなりすます」です。「ミワさん」のほうが割と広く評価を受けたのかな。ただ「わたしの一番最悪なともだち」は、蒔田彩珠さんと髙石あかりさんのコンビネーションがとてもよかった。

田幸 二人ともいいですよね。

影山 「最悪なともだち」も、ある意味「なりすまし」ですよね。自分より優秀だと思っている友人のキャラを頂いて、それになり切ってエントリーシートを書いて就職に成功する。そこから憑依するわけじゃないけれど、グイグイと伸びていく。でもその友人は自分にとって親友なのか何なのか、ずっと自分の中で抱えているという絶妙な関係性です。

 こうした女性同士の友情なのか腐れ縁なのか何かわからないけど、これを描いた作品はこれまでなかったですね。

田幸 「最悪なともだち」の脚本を書いた兵藤るりさんも若い女性です。女性の心理描写が本当にリアルで生々しい。一番気になる、憧れもあるのに、目の上のたんこぶみたいな相手は、多かれ少なかれどんな人にもいると思うんです。この関係性がすごくよかった。

倉田 「最悪なともだち」「ミワさん」、どちらも女性同士の深いつながり、関係性が描かれていました。テレビドラマというと、恋愛ドラマが大はやりしたり、医療物、警察物、いろいろブームがありましたけれど、ここ数年、女性同士の連帯、シスターフッドが日本のドラマでも描かれ始めたなと感じています。

 「ミワさん」もそうですが、男社会で生きる女性からすると、せめて女性には味方になってほしいんです。でも、もちろんそうじゃない女性もいるわけで、そんな中、この二作品には、居心地のいい女性同士の関係性が描かれていて、安心する気持ちになれました。

 あと、日本を代表する名優「八海様」を推しているミワさんのオタクぶり。自分も推し活をしている身として「あっ、すごくわかる」というところがたくさんありました。

影山 倉田さんも推し活をしているのですね。

倉田 何人か推しがいます。推しの家であんなふうに家政婦として働くのは、気持ちが高ぶり過ぎて、メンタルがもたないと思いながら見ていました。

田幸 ああいうオタクの解像度もすごく上手ですし、ミワさんを演じた松本穂香さんも、ご自身もオタク気質なのかもしれませんが本当に上手でした。

影山 女性の生き方がフィーチャーされた10月期という印象がありますね。「ゆりあ先生の赤い糸」もそうですし「マイ・セカンド・アオハル」(TBS)の広瀬アリスさんの学び直しもそうでしょうし。

「自転しながら公転する」

影山 「ミワさん」の松本穂香さんで言うと、彼女が主演した「自転しながら公転する」(読売テレビ)もいいドラマでした。

田幸 松本さんもよかったんですけど、何より収穫は藤原季節さん。本当に魅力のある役者さんです。30歳なのにアルバイトでぷらぷらして、元ヤンのちょっとダメだけど、優しい人みたいな魅力。もう藤原さんにしか出せない空気がありました。これまで彼はお金を払って映画館で見る役者さんというイメージがあったので、連ドラにもっと出てほしいと思います。

影山 この作品も、家族との関係性が一つのテーマで、東京でバリバリやっていた主人公が田舎に引っ込んで、これからどうしたらいいのか悩む。友達が結婚して子どももできて、それを横目で見ながら葛藤し、考えながらというときに藤原さんと出会う。リアリティーもあり、細やかな描き方をしていて、共感しながら見ていました。

「下剋上球児」

影山 高校野球の世界を描いた「下剋上球児」(TBS)はいかがでしたか。

倉田 おもしろかったです。鈴木亮平さんが好きなので、期待して見始めました。

 私の勤め先の毎日新聞がセンバツを主催しているので、新人は必ず高校野球の取材をさせられるんです。そこで求められるのは、球児の泣ける話や、感動的な話を記事にすることで、そのことにやや違和感を感じつつも、そういう取材をして書いてきました。昨今、高校球児の頑張りをマスコミが搾取しているような風潮も若干感じる中で、このドラマを見始めた面もあります。

 でも、やっぱり球児の頑張りや成長は、ドラマの中ですが、見ていてさわやかで、すてきだと純粋に感じるんですね。また、試合のシーンが、他の野球ドラマに比べて長く感じたんですけれど、全然飽きないんです。一つ一つのプレーに、演じる役者さんの気持ち、役柄としての野球に対する真摯な思いが溢れていて、やっぱり高校野球はいいなと改めて思いました。そしてやっぱり鈴木亮平さんはうまいなと。

影山 鈴木亮平さんに外れなしですね。一方で、プロデューサーが新井順子さん、演出が塚原あゆ子さんという名コンビですから、いわゆる野球ドラマだけに終わらない、人間ドラマとして彫りの深いものになっていました。

 ワンエピソードだけ言うと、最終回を実際に甲子園球場で撮影しているんです。Xでエキストラ募集をかけたところ、最初はエントリーがそれほどでもなかったのに、鈴木亮平さんが一言Xで呼びかけたら、いきなり抽選になるぐらい応募が来たらしいです。

 僕の大学の教え子も、甲子園にエキストラで行きました。ふだんドラマやテレビの勉強をしているわけですけれど「先生、ドラマの撮影って、こんなに大変なんですね」ということを身をもって学習して、感激して帰ってきました。
 
田幸 一つだけ、賛否が分かれると思いますが、アニメーションが入るんです。これは要らないんじゃないかと思いました。そこで気持ちが分断される気がして、私としては生身の人間だけで見たかったです。

影山 制作の意図は、もちろんあったんでしょうけれど、役者さんたちがしっかり演じていただけに、という思いはありますね。

「くすぶり女とすん止め女」

倉田 「くすぶり女とすん止め女」(テレ東)。MEGUMIさんが企画・プロデュースした作品です。モラハラ夫との離婚を決意した専業主婦が、生活のために就職をする。その就職先に、20代の女性社員がいるんですが、こちらは、自分は恋愛でも仕事でもトップに立てないという悩みを持っている。その二人が出会って、話が動いていくドラマです。

 恋愛でも仕事でもトップに立てないという20代女性の心理がすごく気になったんです。今の20代前半の人は、子どもの頃からあまり競争しなくていい、誰かを蹴落すのではなく、みんなで等しく幸せになろうみたいな価値観の教育を受けてきたんだと思っていて、職場の若手の話を聞いても、競争心に欠ける点が見受けられることもあって、今の20代前半はそういう感じだと思っていたんです。

 でも、この女性の描き方を見たとき、トップに立てないことに悩むということは、やっぱり人間としての競争心は当然若い子も持っているんだと。一番になりたいというのは自然な感情で、それを否定して、みんな平等でいいとか、駆けっこも一緒にゴールとか、そういう価値観が強く広がり過ぎることの弊害もあると思いました。

 20代前半の人に対する私の思い込みに対して、それはちょっと違う、という気づきを与えてくれた作品でした。

影山 僕もふだん20歳前後の女子大生と一緒にいて、刺激というほどではないですが、例えば就職活動を前にした教え子にあえてハッパをかけるんです。

 別に就活や就職が全てではないけれど、やるんだったら言いわけせず、何に勝つか負けるか僕もよくわからないけど、勝ってこいよ、行けよと言うと、ハッとして表情が変わる学生が令和の今でもいます。

田幸 私もこの作品で、今の中高年が勝手に思い込んでいる若者像と違う面を描いたのがすごくいいと思いました。

 私の娘は今23歳ですが、ガツガツして、勉強もよくします。それなのに、私と同年代で子どものいない人に「今の若い子は」みたいに語られると、モヤッとして「いや、みんながそうじゃないだろう」と思うことが結構あります。リアルを知らずに若い子を「こうだ」と決めつけたがる中高年に見てほしいですね。

当事者が演じるドラマ

影山 そのほか、これだけは言っておきたいということがあればお願いします。

田幸 「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」(NHK)に当事者である聾者の方がたくさん出演されていました。「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(NHK・2023)もダウン症の当事者が出られた。世界的にはもっと進んでいて、映画「Codaコーダ あいのうた」(2021)もそうでした。日本では遅ればせながらですが、すごくいいことだと思います。

 障がいのある方の役者としてのチャンスを健常者がつんじゃいけない、という作り手のスタンスでつくられています。「デフ・ヴォイス」も、「家族だから」も、NHKの坂部康二さんが手がけられていますが、民放でも広まっていくといいなと思います。

 あと、これまでだと障がいの描き方が、例えば聾の人が出てくると、「恋愛における障がい」としての描き方が中心でしたが、恋愛が全てじゃないと。家族の中の存在として描かれて、プラスでミステリーも絡んだりするところに「デフ・ヴォイス」の新しさを感じました。恋愛ばかりじゃない流れ、そして当事者がちゃんと演じる。これはすごくいい傾向だと思います。

印象に残った俳優

影山 この俳優さんがよかったという人はいますか。

田幸 「SHUT UP」で、女性を妊娠させる金持ちの大学生をやった一ノ瀬颯さん。特撮出身で、これまでさわやか系の好青年役が多かったんですね。実際に取材したことがあるんですが、本人はさわやかでいい青年ですが、今回、自分がやっていることの何が悪いのか理解できないエリート大学生がすごくはまっていて、役者の幅が大きく広がったと思いました。「わたしの一番最悪なともだち」の蒔田彩珠さんはもはや貫禄という感じで、髙石あかりさんは今後が楽しみです。

影山 髙石さんもですが、蒔田彩珠さんが、内省的な心の機微をうまく演じていました。これから年を重ねていく上でも楽しみだと思います。
 
倉田 「コタツがない家」で主人公の息子を演じた作間龍斗さん。母親に対しての態度が本当にムカつくダメ息子です。母親役が小池栄子さん、父親役が吉岡秀隆さん、おじいちゃん役が小林薫さんという、そうそうたる名優を相手にこれだけの演技ができるのは、かなりな大物だと思って、この後注目しようと思っています。

活躍した脚本家

影山 脚本家に話を転じると、やはり「コタツ」の金子茂樹さんはすばらしい。俳優たちをきちんと生かしている感じがします。「きのう何食べた?」をずっと書いている安達奈緒子さんもやっぱりさすがです。
 
田幸 安達さんの脚本は1月期の「お別れホスピタル」(NHK) もいいですし、本当に繊細でうまいと思います。あと根本ノンジさんがうまいうえに、ものすごい本数をこなしている。

影山 めちゃくちゃ売れっ子ですね。

田幸 10月期は「パリピ孔明」(フジ)。評価が分かれていますが、私は大好きです。やはりこういう笑える作品が一本は欲しい。原作もおかしいんですけど、それとは違うドラマだからこそのおかしさがあります。その笑いの中で、ディーン・フジオカさんが登場する中国パートが生きてくる。あの「切なおかしさ」みたいなバランスが、根本さんはうまいんですよね。

 10月期では「サ道2023SP」(テレ東)も書かれていますし、1月期は「正直不動産2」(NHK)を書き、これだけの数をこなしながら、2024年度後期の朝ドラ「おむすび」の準備もしている。どれだけ仕事をするんだと思いつつ、根本さんが書くと聞けば安心します。すごい脚本家さんだと、ここのところの働きぶりを見て改めて思いました。

影山 では1月期のドラマにいきましょう。

(後半へ続く~4月1日(月)公開予定)

<この座談会は2024年2月13日に行われたものです>

<座談会参加者>
影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授 コラムニスト
毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職
朝日放送ラジオ番組審議会委員長
日本笑い学会理事、ギャラクシー賞テレビ部門委員
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」など

田幸 和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経て、フリーランスのライターに。役者など著名人インタビューを雑誌、web媒体で行うほか、『日経XWoman ARIA』での連載ほか、テレビ関連のコラムを執筆。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(共著/blueprint)など。

倉田 陶子(くらた・とうこ)
2005年、毎日新聞入社。千葉支局、成田支局、東京本社政治部、生活報道部を経て、大阪本社学芸部で放送・映画・音楽を担当。2023年5月から東京本社デジタル編集本部デジタル編成グループ副部長。

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