視聴者の声~多様性がひろく認められる社会へ
【「多様性の尊重」が求められる現代。テレビなどのメディアはその課題とどう向き合っているのか】
村田典子(TBSテレビ視聴者サービス部)
10月にはプロ野球のドラフト会議があり、弊社では毎年ライブで中継、夜には特番をお送りしている。今回の特番のタイトルは「THE運命の1日」。視聴者からは「昨年までの『お母さんありがとう』からタイトルが変わり、選手を支える母親だけでない家族、学校、チームメート、地域の人たちなど多種多様な人々を取り上げていて良かった。選手が育ってきた環境も様々で、多様性を感じられ、今の時代に合っていた」という内容のご意見を複数頂いた。
この「多様性」、近年、色々な場所で意識されている言葉だ。しかし「多様性」を本当の意味で理解し、向き合っているかというと、どうだろうか。
今夏「多様性と調和」を大きく掲げ開催された東京オリンピック。しかし式典の度に繰り返された「Ladies and gentlemen」のアナウンスに、多様性がないがしろにされていると感じた方も多かったのではないだろうか?海外では既に「everyone」など別の言葉に置き換えられているのにと。視聴者センターにも「(評価をする番組で)審査員が男性だけというのは多様性に配慮していないのでは?」「観客席に若い女性だけというのは違和感があります」などのご意見が届く。
エントリーの新基準も制定された米国のアカデミー賞においては、ここ数年、既に外国出身の監督や女性、黒人やアジア人が以前より受賞するようになった。もちろん多様性を反映してよりフェアになったということの表れだが、アメリカのショービジネス界では映画だけでなく舞台などでもルールがあり多様性を反映した変化が顕著だ。建国の父を主人公に描いた大ヒットミュージカル「Hamilton」のオリジナル版では、建国の父たちを非白人が演じ、白人は一人しか出演せず、その役柄設定にも意味があって皮肉が効いていた。配信の学園ドラマなども一昔前とは登場人物の役柄設定が大きく変わっている。様々なルーツを持つ、スタイルも千差万別な俳優陣が等身大の悩みを抱える人物を演じていて、そこにはジェンダーレスな友人もごく自然に存在している。日本を含むアジアや他の国でも新しい設定のドラマなどが作られるようになり、人々の多様性に対する意識がドラマやアートを通して自然に定着していくということはとても大事なことだと感じる。
先頃、ポーランドで行われたショパンコンクールで日本人ピアニストの反田恭平さんが2位、小林愛実さんが4位に入賞した。2人の快挙を報道したニュースに対して「どうして1位の人のことはどこ(の局)も報道しないのか?日本人だけを取り上げるのは(世界的な価値判断から考えると)おかしいのでは?」というご意見が複数あった。このショパンコンクールは受賞該当者がいないこともあるので、1位が誰だったのかは注目に値するし、1位のカナダのブルース・リウさんは事実、素晴らしい演奏を披露していた。どちらも報道することこそが多様性を受容し、尊重していることではないのか、という意見と私は受け取った。
その反田さん小林さんのインタビューを早速放送した「NEWS23」が好評で、「放送できなかった分も含めて全部ネットで配信して欲しい」というご要望も届いた。最近の視聴者はテレビの放送と配信とを併用してどちらも楽しんでいる。テレビの見方も時間の使い方も人それぞれ、正に多様性のある時代だ。
「NEWS23」では衆議院選挙を睨んで与野党9党首による討論会を放送しこちらも反響があったが、そこにリモート参加した若者が大学生だけだったことに関して「もっと様々な境遇の若者を集めて、質問してもらいたかった」というご意見もあった。
さて、我が家にはいわゆるZ世代に当たる大学生の娘がいるが、ファッションも行動もジェンダーレスな彼女たちは、そもそも親世代ほど、性別や年齢にとらわれた生き方をしていないと感じる。国内だけにとどまらない友人の中には40代、50代の人もいれば、トランスジェンダーを自認する人もいる。
Z世代には、女性だから、男性だから、何歳だからという「縛り」のようなものがないようだ。SNSでいつでもどこでも繋がれる彼女らは国という枠も取り払って、各々の個性を尊重し、協力し合い、より豊かな人生を切り開いて歩んでいるように感じる。老いては子に従え、ではないが学ぶことも多そうだ。
<執筆者略歴>
村田典子(むらた・のりこ)
1965年生、1989年TBS入社、
ラジオニュース、ラジオ制作、情報番組プロデューサー、宣伝部長などを経て
現在、視聴者サービス部長
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