<シリーズ SDGsの実践者たち> 第35回 パリオリンピック™・パラリンピックが取り組んだ「持続可能性」とは(前編)
「調査情報デジタル」編集部
二酸化炭素の排出量を半分以下に
パリ2024オリンピック・パラリンピックは、2016年のリオデジャネイロ大会以来の有観客での開催となった。7月26日から17日間開催されたオリンピックは史上最高の約956万枚、8月28日から12日間開催されたパラリンピックは2012年のロンドン大会に次ぐ史上2位の約258万枚のチケットを販売。両大会とも会場は大きな盛り上がりを見せて、組織委員会は大会が「成功」したと総括した。
パリ2024大会は、競技面以外でも大きく注目された点があった。それは運営面だ。過去の大会と比べて二酸化炭素の排出量を半分以下にするなど、持続可能性のある大会運営を目指した。
その取り組みは多岐にわたる。ハード面では競技施設の95%が、既存の施設や仮設の施設だった。東京2020大会で、国立競技場をはじめ7つの恒久施設が新たに建設されたことに比べると、新規の施設建設は圧倒的に少なかった。
既存の施設では、1998年のサッカーワールドカップの際に建設されたスタッド・ド・フランスや、2017年にオープンしたパリ・ラ・デファンス・アリーナなどのほか、1900年のパリ万国博覧会のために建設されたグラン・パレなどの歴史的な建造物も利用された。
世界的な観光地に作られた仮設の競技会場
仮設の施設が作られた場所も、パリの歴史が感じられる場所だった。その多くが、パリ市内にある世界遺産や観光名所。エッフェル塔、ヴェルサイユ宮殿、コンコルド広場など、世界的な観光地の中にスタジアムがあるのは、これまでの大会では見られない光景だった。
開会式が競技場以外で行われたのも初めてだ。オリンピックの開会式はセーヌ川で、パラリンピックの開会式はシャンゼリゼ通りとコンコルド広場の仮設会場で開催され、各国の選手団の行進を無料で観ることができた。
仮設会場で使用されたのは、再利用が可能な資材。オリンピック開催中にメダリストたちを祝福する会場だったトロカデロ広場のチャンピオンズパークや、コンコルド広場の仮設会場は、利用が終わると早々に解体工事が進められ、資材は分別して回収されていた。
一方で、新たに建設された会場は、環境に配慮された建物になっている。パリ北部に新設されたポルト・ド・ラ・シャペル・アリーナは、外面の80%が緑で覆われているほか、リサイクル素材のアルミなどの資材が使われた。アリーナは今後、地元のプロバスケットボールの本拠地などとして利用される予定だ。
このアリーナをはじめ、選手村などの新設された建物は、大会後の利用方法が明確に決まっている。スポーツ施設以外にも、公共施設や住宅、オフィスなどに利用できることを前提に設計が行われていた。そしてどの施設も、再生可能エネルギーが利用されるなど、環境に配慮していることが大前提となっている。
ペットボトル飲料の販売や使い捨てプラ持ち込みは禁止
二酸化炭素の排出量削減を目指す取り組みは、競技会場や、関連イベントが行われている会場でも行われていた。それは、ペットボトル飲料の販売禁止と、マイボトルの利用の推進だ。
飲料を販売するコーナーでは、デポジット制のカップが使われた。飲み終わった後に返却すれば、クレジットカードに2ユーロが返却される。各会場に多くの観客が詰めかけていたものの、返却専用のブースが設置されていたことで、特に混乱も起きていなかった。
マイボトルを持っている来場者も多かった。パリ市内には給水スポットが設置され、誰でも水を無料で飲むことができる。ただ、日本人にとってやや驚きだったのが、競技会場内の給水スポットだ。
給水スポットになっていたのは、トイレの手洗い場だった。もちろん、飲料水として使うことに何の問題もない。訪れた人たちは特に気にすることなく、マイボトルの給水を行っていた。
フランスでは、2020年からプラスチック製の使い捨て容器や食器の販売を禁止する法律が施行されている。競技会場では使い捨てプラスチックの持ち込み自体が禁止された。
日本国内でも、サッカーJリーグの会場などで、リユースカップの利用が行われているケースがある。ただ、パリ2024大会の脱プラスチックと脱ペットボトルの取り組みは徹底していた。
オリンピックとパラリンピックの閉会式と陸上競技が開催されたスタッド・ド・フランスは、8万人の収容が可能な巨大なスタジアムだ。ペットボトル飲料の販売や使い捨てプラスチックの利用が許されていたとしたら、この会場だけでも両大会が開催されていた期間中に莫大な量が消費され、ごみとして出ていただろう。
大会のために大きな会場は新設せず、ペットボトルや使い捨てプラスチックは禁止する。「持続可能性」を目指すことは、そのまま大会のレガシーにもつながっていく。
後編では、パリ2024大会の「デジタル化」と「バリアフリー」について見ていきたい。
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