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2022年度上半期ドラマ座談会前半(4月クール)

調査情報デジタル

【2022年度上半期のドラマについて、メディア論を専門とする研究者、ドラマに強いフリーライター、新聞社学芸部の放送担当記者の3名が語る。「ちむどんどん」はどうだった?】

影山 貴彦(同志社女子大学教授)
田幸 和歌子(フリーライター)
倉田 陶子(毎日新聞記者)

挑戦的で新しかった「17才の帝国」

編集部 それでは、4月期のドラマからお話を伺いたいと思います。

田幸 できるだけバランスよく挙げたいとは思うんですが、私はNHKのドラマに偏って語ってしまうことが多くて、今回もまずはやはり「17才の帝国」(NHK)です。今までに見たことのない、アニメと実写のちょうど中間ぐらいの新しい質感でした。

 扱っているテーマが「政治」で、政治を扱うドラマはNHKで結構やっていますが、どうしても骨太社会派みたいな形になってしまって、中高年の男性が、いわゆる本格派ドラマとして見る傾向にありました。

 その点この作品は、あまり政治に関心がなく選挙に行ったこともないような若い世代に届けたいという思いで作られたと感じます。アニメを中心に書かれてきた脚本家の吉田玲子さんを起用したのもそういう狙いだと思います。

 アニメを見ているのか、実写を見ているのか、ときどきわからなくなる新しさで、政治というテーマも、アニメ的な質感によって見やすく、若い人にも届きやすくなっています。映像も音楽も若い人が好むクリエーティブでステキなものになっている。

 ただ残念ながら、実際見ていた人の反応を見ると、何だかんだで結局ドラマ好きの中高年が多いなという印象はあるんですが。作品のクオリティがすばらしいことと、こういう形の発信をしていくんだというNHKの意欲を強く感じる、新しいドラマでした。

 あと、「正直不動産」(NHK)はリアルとエンタメのバランスが非常にいい。脚本の根本ノンジさんがお上手で、たくさん取材されているからこその、不動産業界の知らない話がリアルに描かれる一方、ファンタジーの入れ方もとても軽やかで、手練れのスタッフが作っているバランスのいいドラマでした。

倉田 私もまず「17才の帝国」は挙げようと思っていました。ドラマというジャンルで、日本の政治のあり方はこのままでいいのかと強く訴えかけてきています。制作者の方々の、言葉にはできない様々な思いが込められているんじゃないか、そんな気がしながら見た作品です。

 続いて挙げたいのが「持続可能な恋ですか?」(TBS)です。私は田中圭さんを推しているので、最初から見る気満々でしたけれど、それをおいてもすばらしい作品だったと思います。恋愛や結婚に多様な形がある今の日本ですけれど、その中で「恋をする」ということについて、若い人だけでなく、30代や、中年の松重豊さんと井川遥さんの関係も含めて踏み込んだところもよかったと思いますし、同世代としてキュンとする瞬間もたくさんあって、よかったです。

 もう一つ挙げたいのが、「メンタル強め美女白川さん」(テレビ東京)。自分の容姿や性格にコンプレックスのない人はいないと思いますが、このドラマの白川さんはそういうコンプレックスを一切感じていないように見えます。

 そんな白川さんの周りの人たちが、彼女とかかわることで、完全に前向きにはなれなくても、自分の駄目なところに気づき、しかしそこを否定するのではなく、自分で自分を認めてあげられるようになる。

 コンプレックスを抱えているのは当たり前だけど、そこにこだわり過ぎて自分の人生を楽しめないのは損じゃないか、というメッセージを感じました。自分のことを完璧に認めるのは難しいですが、このドラマで、元気、勇気をもらったような、もうちょっと自分を認めて楽しく生きていこうという気持ちにさせられた作品でした。

影山 この三人はこの座談会について、事前に何の相談もしていないんですが、やはり推したい作品は重なってきますね。僕も4月期のトップスリーは「17才の帝国」「正直不動産」と「持続可能な恋ですか?」です。この3つが図抜けていたと思います。

 「17才の帝国」に関しては、やっぱり「挑戦する」というのがキーワードですね。とかく視聴者に迎合しがちな作品が多い中、若い人には振り向いてもらえないかもしれませんし、政治とエンターテインメントの相性がよくないのは、これまでの歴史が証明していますけれど、その中にあっても挑戦しようとしたところに、一番にポイントをあげたいと思います。

 内容的には、神尾楓珠さんが今をときめくというか、もう大活躍で、その重圧に負けず主役をきちんと演じられていましたけれど、やっぱり星野源さんがうまかったと思うんです。僕は星野源のドラマだったんじゃないかというふうに捉えています。

 お二人もうなずいてくれたので、そうですねって盛り上がりたいところですけど、ここで悲しい情報を言いますと、「17才の帝国」は、大学の教え子はやはり壊滅的に見ていませんでした。

田幸 やっぱりそうなんですね。

影山 田幸さんがおっしゃったように、中高年あるいはドラマ好きは見ている。ただ、そこからの広がりが、僕はあまりデータ至上主義ではないので、逐一データを捉えていませんけれど、数字、視聴率という部分では、報われなかったかもしれません。しかし、繰り返しになりますが、チャレンジ精神はぜひ持ち続けてほしいと思います。

 田幸さんが、NHKのドラマがついつい挙がってしまうとおっしゃったのが象徴的で、新しいチャレンジは今、主にNHKがやっていて、民放はその後をついていっているという印象が拭えません。ドラマに限らず、何か新しいことをやろうとするのはNHKだというのは、放送マンは皆ある程度認めざるを得ないところで、ぜひ民放の皆さんに頑張ってほしいと思います。

「正直不動産」と「持続可能な恋ですか?」

影山 「正直不動産」もとても面白かった。ちょっと気のきいたことをわざと言うわけではないですが、やはりコロナ禍と関係があると思っています。家というものに対する価値観、注目度というか、皆の視線が外に向いていたのが、コロナ禍で内なる家族とか家そのものに向いたことが追い風になったかと思います。

 その証拠に、今年の7月期には「魔法のリノベ」(カンテレ)があって、不動産まわりのドラマが続きました。前の「家売るオンナ」(日本テレビ・2016)はちょっと飛び道具的なドラマでしたけれど、「家について考える」ことに対して視聴者が前向きだったということはあると思います。

 出演者でいうと、山下智久さんもよかったですが、福原遥さんがよかった。同性の女性から見ると、ちょっと単細胞的な役で、若い女性はもう少ししっかりモノを考えているよと思われるかもしれません。

 そこをあえて単純なキャラクターを演じているわけですが、彼女がこのドラマの中のエンターテインメント、明るさみたいなところをうまく背負っていたという感じがします。NHKとしてはそれが朝ドラにつながるわけで、うまい作戦かとも思います。

 「持続可能な恋ですか?」ですが、倉田さんが田中圭推しならば、僕はもう井川遥推しです。オッチャンでもオバチャンでも若者でもそうですけれど、シンプルなことですが、やっぱり推しがあって、それを目当てに見る。推しが出ているから何があっても見るんだというのを、ついついプロの人間たちは、「何だよ、あのドラマは」みたいな感じで軽く見がちなんですけれど、推しがいるというか、推しに対する活動というのは、こういう閉塞的な社会において大事だろうと思います。

 もちろんこのことは、「持続可能な恋ですか?」の中身については関係ない話で、中身もすばらしいドラマでした。松重豊さんの、枯れそうで枯れない感じを見ると、我々世代も頑張らなきゃと思いますよね。捨てたもんじゃないぞと。もちろん井川遥さんに出会えるわけではないですが、夢を見させてもらうのもドラマですから。

 恋愛物ではありますが、親子関係のベクトルを強くしている。松重豊さんと上野樹里さんの親子関係の描き方がとってもよかったと思います。TBSらしいというか、新しい形のホームドラマとして成功したと思います。
 
田幸 私も「持続可能な恋ですか?」はすばらしいドラマだと思って楽しみに見ていましたが、すごくもったいないと感じているのが、恋愛ドラマだろうと思って、見なかった人が結構いるんです。

 たしかに恋愛ドラマでもあるけれど、やっぱりこれって家族の物語なんですよね。そっちが心を打たれるところだった。すごく面白い親子だけれども、実は・・・というところが後半で見えてきて、びっくりしました。親のことが見えているようで全然見えてなかったこととか、そこまでで描かれなかったことが、後半に行くに従って見えてくる。その構成もとてもよかったです。

 上野さん演じる主人公は、見ていない人にとっては、多分すてきな30代で、結婚しない主義の人といったイメージじゃないかと思うんですが、実際はそうではないんですよね。結婚しない理由も、したくないという「主義」ではなくて、自分のことで精いっぱいなんだと。それってすごく共感する方が多いんじゃないかと思います

 恋愛ドラマオンリーに見えてしまったことと、あともう一点、「持続可能」というワードに対して構えたり敬遠する人が多くて、名作なのに結果として見ない人が多くなってしまったのがもったいなかったです。

影山 「持続可能な恋ですか?」というのも、悪いタイトルではないんだけれど、最初に乗り損なったというかね。

倉田 同僚と話をしていても、「持続可能な」というワードをテレビのニュースや情報番組でよく聞くこともあって「それに乗っかった作品なんでしょ?」みたいに言われたりしたんです。「違うんだよ」と言ったんですけれど、もう半分ぐらい物語が進んでいて、「今さら見ないかな」と言われてちょっと悲しかったです。

田幸 そうですよね。見続けるとこのタイトルの意味がすごく響いてくるんですけれど、何しろずっと乗ってない人が大量にいる中で進んでしまった。

影山 それは本当にテレビの宿命ですね。父と娘のドラマでは、同じTBSで「パパとムスメの7日間」(2007)という名作がありますが、あんなふうにストレートにタイトルを出してもよかったかもしれませんが、それは皆さんがいろいろ考えてのことでしょうからね。

「悪女(わる)」のヒロインは?

影山 「悪女(わる)」(日本テレビ)はどうでしたか。

倉田 何だかんだ最後まで楽しく拝見しました。最初、このヒロインは暑苦しいなとは思ったんです(笑)。ただ苦手意識を持ったものの、ヒロインの前向きで元気なところは、見習わなきゃいけない要素だなと思いました。

 出世したいとか、社長になるとか、日本人はなかなか声に出して言えないじゃないですか。そこをストレートに言うのは、自分にすごくプレッシャーをかけることでもあるけれど、社会人としてそれを言えるのは大きな強みだと感じました。

 それを「あいつ、出世したいとか言ってるけど全然駄目じゃん」みたいにバカにする姿勢こそ恥ずかしいのかと思ったり、いろいろ考えさせられましたね。単純にヒロインが元気なので、私もちょっと元気になれるみたいな、そういう単純な見方もしつつ、最後まで楽しみました。

田幸 私も、第一、二話ぐらいのときに、ヒロインのハイテンションぶりに引いてしまいました。ワァ、すごいなって。でも見ていくうちに、あっ、この子全然邪気もないし、ほんとにいい子なんだな、かわいいなと思えてくる。最初にドン引きさせられた人も、気づいたら何となく好感を抱くところに持っていっているのは、今田美桜さんの熱演のたまものだと思います。

 あと、今田さんと江口のりこさんの掛け合いがかわいくって、ちょっと噴き出してしまうところがありました。その点、江口さんのお芝居がいいだけに、あのキャラクターはもうちょっと掘り下げてほしかったです。

影山 掘り下げる、というワードが出ましたが、今のドラマは全体的に、あまり深く掘り下げたり、あまり緻密に描くと、逆に視聴者はついてこないという傾向があるのかもしれません。ドラマを見る目が肥えた人たちが喜ぶ作品が一方にありながら、そうではないものがもてはやされがちでもある。

 我々の仕事、ドラマのことをしゃべったり、書いたり、取材したりという中で、もてはやされるものを否定してはいけないという気はもちろんします。今は、しっかりしたドラマを、しっかりとした目で見ろみたいな、昔の熱血物みたいな感じで言う時代ではないだろうと。

「ちむどんどん」の評価

編集部 何かと話題だった「ちむどんどん」(NHK)についてはいかがでしょう。

田幸 私は、一、二週見たときに、すごい意欲作なんじゃないかと思ったんです。主人公たちの上を何度も何度も米軍機が通ったり、本土の私たちが沖縄に押しつけている負の面を描くんだろうと思わせる空気が見えていたんです。

 語らない親たちの抱えている暗くて重いもの、それを子どもたちには見せないようにして精一杯明るく元気に生きていく。そのさまを一週目で描いたことで、この作品はすごいことになるぞと思って楽しみにしていました。

 でも、それが三週目から、かなりドタバタに変わってしまった。本土復帰の際に交通事情やルール、通貨など様々なものが劇的に変化したはずなんです。ですからそこは詐欺の話とかではなく、沖縄でその時実際に何が起こったのか、リアルなさまを見たかった視聴者はそれなりにいると思うんです。しかし、そういう沖縄に起こった変化は全然見せずに、東京でのドタバタを描いたのがやっぱりもったいない。

 ただ、「おかえりモネ」(2021)が、ゆっくりとした進まない物語で震災に対する心情を描写したときには、「見づらい」という批判もあったので、そういうことも踏まえて明るく描こうという意図もあったのかもしれません。ですけれど、沖縄を今描く意味って何だろうと考えると、もう少しやれることがあったんじゃないかと感じます。

倉田 私も、本土復帰の節目に沖縄を舞台にしたドラマを作ると聞いて、戦争の惨禍や、今もある米軍基地といったことを、ストレートに描かないにしても、沖縄が抱えている苦しさ、沖縄の人々が今も抱えている本土への葛藤のようなものが、におい立つんじゃないかなと思っていたんです。

 そこを一、二週目ぐらいで感じ取っていたので、すごく期待していたんですが、結局ヒロインが東京に出てきてからは、そういった方向性はなく、ドタバタ劇のような印象になりました。

 さらに言うと、ヒロインのキャラクターにもいろいろ共感できない部分がありました。

 若さゆえの失敗というのはもちろんあって、それを乗り越えて成長してほしいと思いながら朝ドラを見ているんですけれども、ヒロイン自身の中での「失敗をした。では次はこうしよう」という、次につながる失敗の消化が見えないんです。その結果、同じトラブルが起きたときにまた同じように突っ走ってしまって、周りは置いてけぼり状態、成長が感じられにくいと思いました。

影山 僕も人間は不完全であるほど愛おしいと思うんですけど、ヒロインがあまりにも成長しなさ過ぎへんか、ということですね。一ミリでもええから、もうちょっと成長してくれよ。同じ失敗を何遍すんねん、デジャブ現象を何遍見せられんねんということはあります。

倉田 そうなんです。もう少しヒロインの成長を取り上げてくれれば共感もできただろうし、毎日毎日反省会も開かなくてよかったんじゃないかなと感じています。

ネットとドラマの関係を考える

影山 今、反省会というキーワードが出ましたが、このドラマを語る時に「ちむどんどん反省会」の存在というのは無視できないと思います。それが是なのか非なのかはともかく、です。『ネットと朝ドラ』というタイトルの本も出版されましたね。朝ドラだけの現象ではないかもしれませんが、ネットでのさまざまな視聴者の意見をドラマは無視できなくなっている。それが今のテレビなんだということがとても興味深いところです。

 僕は、ちむどんどん反省会をコラムで取り上げたので、反省会に旗を振っていると考えている方もいらっしゃるようです。しかし僕は常に是々非々です。反省会の場では、とってもいい意見も出る一方、みずからのフラストレーションや怒りを、ドラマは別にどうでもいいんだとばかりに、むしゃくしゃしている思いだけを発信してスッキリする。そういう部分もある。

 それをやっちゃいけないということはありませんが、いわゆる本来のドラマの楽しみ方ではないと思います。反省会で、つくり手や演者が大いに参考になる部分もあれば、これは全然気にしなくていいよという部分も現実としてあります。

田幸 かつてはネット内に潜っている人たちがちょこちょこ実況の中でツッコミを入れて、その声は出演者やスタッフにはほとんど届かなかったんですね。だからこそのお楽しみでもあったんですけど、今はSNSで、出演者やスタッフへの直接攻撃となって向かってしまう。

 ドラマ作りにかかわっている人たちは自分の仕事を全うしているにもかかわらず攻撃され、うまく守られていない。そしてこの現象には実はメディア自身が加担していると思います。毎日毎日、「ちむどんどん」の悪口記事をどのくらい出すんだというぐらい出てくるので、メディアのあり方も含めて、いろいろ考えさせられました。

影山 エンターテインメントにもっと幅広く興味を持つべきなのに、やはりネット社会で、一つの話題がはじけるというか、針が振れると思うと、メディア側がそれに勢いよく食いついちゃうというか、必死になるというか。

田幸 そうなんです。やっぱりみんな弱っているところに、ハイエナのように群がっていく感じがしています。

倉田 「ちむどんどん」に関しては、私も褒めるのはなかなか難しいんですが、「もう何なの、きょうの話」って思いながらも、結局、翌日も見ちゃう。視聴は結局やめられないんですね。そこにやっぱり朝ドラの、何十年も積み重ねてきた歴史が持つ魔力のようなものがあると感じます。

 ドラマの好き嫌いはどの作品に対してもあるので、「これは好き」とか、「これは嫌い」とか言いながら、嫌いなものをちょっとでも楽しむためのツールとして、「ちむどんどん反省会」も生まれてきたのかな。そこは今の時代っぽいのかなと思います。

影山 ワアワア言うのは自由だけれど、その気持ちが偏狭な感じになってはよくないですよね。いろいろなことを認めながら楽しくワアワア言うというか、それも含めてエンターテインメントなので、そこはエンターテインメントの域を逸脱しないようにしてほしいと、僕は専門家として願いますね。

 それと、沖縄復帰50年というのは、やはりドラマの大きなテーマだったはずなんです。しかし、NHKの人間じゃないからわかりませんけど、ドラマの企画を通すときに、強力なキーワードがあるから通りやすいということはあると思います。

 紙の上でドラマの企画を通しておいて、そこから、よっしゃ、それで先に進めようと。つくり手にはそういうことがあります。そういう部分で、企画が通ったは通ったけれど、そのテーマが形としてドラマの中でうまく成長しなかった、あるいはさせなかったということはあるかもしれません。

 文句が多くなって申し訳ないけれど、帳尻を合わせれば、60年を超える朝ドラだからこそ、これだけの注目度というところはあると思います。

印象に残った俳優

影山 印象に残った俳優さんはいかがでしょう。

田幸 「メンタル強め美女白川さん」で白川さんを演じた井桁弘恵さんがよかったです。女の人って、男の目よりも同性の目を気にする人が多いと思います。特に自身が美人であったり能力が高かったりすればするほど、ひがまれないように同性の目を意識して生きている人が多いんですよね。

 その点、ひがまれて、無視されたり、マウントを取られたりしても、ネガティブな感情を軽やかにはねのける、そこの対処を井桁さんがとっても明るく軽やかに、嫌味なく演じていました。この役を嫌われずにできるのは、実はとても難しいことだと思います。

 原作がそもそもいいんですが、井桁さんがリアリティーを与えつつ、実際こういう人がいそうだという魅力的な主人公を表現していました。井桁さんは初主演ですけれど、注目です。

倉田 私も井桁さんを挙げようと思っていました。井桁さんの演技を見たのはこれが初めてか、もしくは見ていてもあまり印象に残らなかったんだと思うんです。

 田幸さんがおっしゃったように、井桁さん自身が美人であって、うらやましいなとか、言葉では直接言われなくても、そういう女性からの嫉妬のような感情を感じて生きてきたと思いますが、それを感じさせない。演技力のある方だなと実感しました。

 あと、この作品の中に朝比奈林檎という役名の、頬が赤くなることがコンプレックスの女の子が出てくるんですが、彼女を演じたのが東野絢香さんという方です。「おちょやん」(NHK・2020~21)ではヒロインの友人を演じていました。

 まだ脇役の俳優さんですが、林檎ちゃんの生きづらさと同時に、そこをうまく自分の中で解消していく過程をすごくすてきに演じられていました。「おちょやん」のときから気になっていたので、今回また見ることができてうれしかったです。

影山 僕は「未来への10カウント」(テレビ朝日)の満島ひかりさん。やっぱりドラマをまとめたというか、彼女の存在でいい形になったんじゃないかと思います。コメディエンヌとしての才覚もすごくあって、満島ひかり恐るべしといいますか、この後7月期のドラマの話をするときに出てくる坂元裕二さん脚本の作品でも欠かせない人材です。

 それから「やんごとなき一族」(フジテレビ)の松本若菜さん。これはもう僕らがわざわざ言わなくてもいいですけど、言わなかったら、「それぐらい挙げとけよ」って言われそうですから。顔芸ばかりがフィーチャーされがちですけれど、演技自体すごくうまくなられましたね。女優として一皮も二皮もむけたなと思います。

 あと、「先生のおとりよせ」(テレビ東京)の向井理さんと北村有起哉さん。向井さんが小説家、北村有起哉さんが漫画家で、その二人がコラボして一つの作品をつくるという内容ですが、深夜(0時52分〜)でこのぜいたくな二人。間違いのない二人が間違いのない仕事をしたわけですが、ちょっと広げて言えば、俳優さんたち、事務所も含めてですが、放送される時間帯にもうあんまりこだわってないなという気がします。

 有名であればあるほど、ひとかどの仕事をなさった方であればあるほど、放送時間帯に関係なく、自分のやりたい役柄、やりたい仕事、ドラマに出演するということが大いに出てきていると感じます。お二人の共演はすばらしかったと思います。

注目したい作り手

影山 印象に残った作り手についてはいかがですか。

田幸 プロデューサーになるんですが、大ベテランの訓覇圭さん(NHK)を挙げたいと思います。「ハゲタカ」(2007)、「あまちゃん」(2013)、「いだてん」(2019)も手がけられた大ベテランなのに、「きれいのくに」(2021)とか、今回の「17才の帝国」とか、めちゃくちゃギリギリの攻めをしてくるところがすごいという印象です。

 そしてもう一人、NHKエンタープライズのプロデューサーの勝田夏子さん。この7月期の「空白を満たしなさい」を作られましたけれど、その前の「今ここにある危機とぼくの好感度について」(2021)も勝田さんでした。訓覇さんと勝田さんが手がける作品は、今一番攻めていてハズレがありません。このあたり、プロデューサーに注目して見ていきたいと思います。

倉田 脚本家で言うと、「17才の帝国」に戻りますが、吉田玲子さんです。アニメを中心に書かれてきた方で、私はアニメに詳しくなかったんですが、こんなすばらしいものを書く人がいるんだと思い、吉田さんの過去の作品を見たくなって、今アニメの世界に入り込み始めています。そういうきっかけを与えてくれた方でもあるので、吉田さんの作品はこれからも必ず追っていこうと決めています。

田幸 そういう広がりも楽しいですよね。過去作を追っかけるという。

倉田 世界を広げてくれたというありがたい気持ちです。

編集部 続いて7月期のドラマについてお願いします。

(後半へ続く~11月7日公開予定)

<座談会参加者紹介>
影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授 コラムニスト
毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職
朝日放送ラジオ番組審議会委員長
日本笑い学会理事、ギャラクシー賞テレビ部門委員
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」など

田幸 和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経て、フリーランスのライターに。役者など著名人インタビューを雑誌、web媒体で行うほか、『日経XWoman ARIA』での連載ほか、テレビ関連のコラムを執筆。Yahoo!のエンタメ個人オーサー・公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(共著/blueprint)など。

倉田 陶子(くらた・とうこ)
2005年、毎日新聞入社。千葉支局、東京本社生活報道部などを経て、現在、大阪本社学芸部で放送・映画・音楽を担当。

<この座談会は2022年9月12日に行われたものです>

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chousa@tbs-mri.co.jp


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