視聴者の声~テレビ番組はそもそも誰のためにあるのか?
村田典子(TBSテレビ視聴者サービス部)
ゴールデンウィークもいつにも増して多様なご意見を頂いた。普段は仕事で見られない方もお休み期間中にご覧になってくださったとしたら非常に嬉しい限りだ。
と同時に、以前のGWのように海外旅行に行ってしまってご意見が少なくなるという現象がないことで、まだまだコロナ禍だと実感する。五月半ばとなると屋外でマスクを外していいケースなどが改めて政府より発表されたが、「マスクをはずすことをあまり奨励しないで欲しい」「マスクを外すかどうかは個人の問題です」というご意見もまだまだ届く。
さて、GW中はTBSはSDGsウィークと題してイベントや特番、レギュラーの各番組でも関連したSP企画がOAされた。それぞれ好評のご意見を頂き有難い限りだ。
世の中の動きもあってか、最近はジェンダー平等に関するご意見もよくいただく。「番組には様々なゲストがいるのに、料理をしていたのは若い女性タレントさんだけでした。テレビで家事は女性がするものというイメージを助長しないで欲しいです」「テロップの表示で男性の名前は青色で、女性の名前はピンク色で書くというイメージ付けはもうやめませんか?」「男の子の好きな電車のおもちゃ・・・と紹介されていましたが、今の時代、こういう決めつけはどうなんでしょうか?」。
おそらく10年前にはこれほどいただくことがなかったご意見だ。当該番組で女性だけが料理をしたのはたまたまであり、他の回では男性も料理をしているのだが、視聴者に「料理をするのは女性と決めつけている」と捉えられる可能性があることを制作者は理解しておかなければいけない。反対に料理やスィーツの味を評価する番組などでは「審査員に男性のシェフやパティシェしかいないのはおかしくないですか?」というご意見もいただく。
今までもテレビの前で、或いは家庭で、海外で暮らしてみて、違和感を感じていたこと、或いは気づかないふりをしていたことが、声を出して「おかしいんじゃないか」と自然に言えるような時代になったともいえるだろう。
そういえば、私が小学生の頃、手先が器用で理科の実験なども得意だったという父は、たまたま電子レンジのデモンストレーションに来た方にケーキの作り方を教えてもらった際、いとも簡単にチョコレート味のホールケーキを作り、当時私が通っていた絵画教室のクリスマス会に差し入れをしてくれたことがあった。
昭和の時代である。「お父様が作られたの?!」皆に大きく驚かれて、以来ずっと私の父は「ケーキが作れるお父さま」という素敵な称号を授かった。実は父がケーキを作ったのはその時一回限りだったのだが、とにかく約40年前、当時はそれぐらい父親が料理をするということが、日本では珍しいこととして受け入れられていたのだ。
その時から比べれば大分変わったといえるかもしれないが、実感としては日本は遅いぐらいと感じている。Z世代と呼ばれる2000年前後に生まれた若者たちは海外暮らしを経験する人たちや多様な背景を持った友人たちと接することで、考え方はもっと柔軟だと感じている。テレビもそんな人たちに見てもらうには遅れていられない。
コロナで幼少の子どもが入院するケースが増えているというニュースを紹介する際に「この病院ではお母さんも一緒に付き添えます」と番組で紹介したところ、「付き添いはお母さんだけがするものではありません、保護者と言ってください」というご意見をいただき、その通りと思った事もあった。
一旦持ってしまった価値観を崩すのは結構時間がかかるかもしれないが、古くからの習慣や思い込みをなくして、視聴者の新しい価値観をしなやかにインプットしていくことが重要だ。
そして、テレビというメディアが今もなお人々の価値観を作っていくことに多大な影響を与えるという事実を受け止め、テレビの制作者は世の中の空気をしっかり読み解きながら、視聴者に興味をもって見続けて貰えるコンテンツを作り続けなければいけないのであろう。
テレビ番組とは、受け取る、見て下さる視聴者がいて初めて番組として成立するもの。作り手が勝手に作りたいものだけを制作して、見たい人がいなくてもいい、というのとはちょっと違う。芸術作品を作り、わかる人だけに伝わればいい…といったスタンスとも違う。
だからこそ、私たちは視聴者が我々の制作する番組を見てどう感じ、何を想ったかを知ることが必要で、ご意見は言わばテレビ制作の生命線でもある。
陽射しが強くなったり大雨が降ったり、気温の変化も著しいが、世界の状況も刻々と変わっていく。視聴者は今、この時何を感じているのか。時代を反映したご意見や想いから、気づきや学びを得ることがとても大切だと実感する毎日である。
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