<シリーズ SDGsの実践者たち> 第16回 「SDGs折り返しの年」2023年のキーワードは
「調査情報デジタル」編集部
2030年までに持続可能なよりよい世界を目指す、持続可能な開発目標「SDGs」。国連サミットで加盟国の全会一致によって採択されたのは2015年だった。2023年は目標達成に向けて折り返しの年になる。この1年に注目されるキーワードや、議論が高まることが予想されるSDGs関連のキーワードについて見ていきたい。
国連が9月に公表予定の「GSDR」
「GSDR」は、持続可能な開発に関するグローバル・レポート(Global Sustainable Development Report)のこと。国連事務総長が任命した科学者グループによって起草され、6つの機関からなるタスクチームが支援して、4年に1回発行されている。
レポートの目的は、2030年の目標達成に向けたフォローアップやレビューを行って、SDGsの進捗を加速させること。2019年に続く2回目のレポートが公表されるのが2023年9月の予定だ。
日本政府も2023年に国連で開催されるSDGsサミットに向け、SDGs実施指針の2度目の改定を予定している。「SDGs推進円卓会議」の民間構成員によるパートナーシップ会議が、提言に向けて意見を出してきた。
ただ、これまで2回開催された会議では、多くの目標について達成に向けて厳しい見方をする声が挙がった。日本には「SDGsを推進するための基本法がない」といった指摘もある。
また、日本は議長国として2023年5月にG7広島サミットを開催する。ここでもSDGsへの取り組みは大きなテーマの1つだ。節目と言える2023年は、日本がSDGsを加速させる方針を打ち出せるかどうかが問われる年になりそうだ。
新たな世界目標「ネイチャーポジティブ」とは
2022年12月、カナダ・モントリオールで国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開催された。生物多様性COPへの世界中からの参加者はこれまでは数千人程度だったが、今回は企業や金融機関などの関係者も詰めかけて、過去最大の1万8000人が参加した。
この会議で議論されたのは、2030年の生物多様性に関する世界目標。キーワードは、ネイチャーポジティブだ。
ネイチャーポジティブは、生物多様性の損失にストップをかけるとともに、さらに反転して回復軌道に乗せることを指す。自然を優先する施策とも言われる。温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルとともに、重要な考え方に位置付けられた。
企業の関心が高まっている理由は、世界経済フォーラムが2020年に発表したレポート「自然とビジネスの未来」にある。このレポートで、ネイチャーポジティブ経済に移行することで、2030年までに3億9500万人の雇用が創出されることと、10兆ドル規模のビジネスチャンスが生み出されることが指摘されたからだ。
生物多様性COP15では、2030年までに各国が取り組む23項目の新たな世界目標が採択された。世界全体で陸地と海のそれぞれ30%以上を保全地域にすることや、外来種の侵入を半減させることなどが盛り込まれた。
この合意を受けて、各国は生物多様性に関する国家戦略を策定する。日本は生物多様性が破壊の危機に瀕している、世界36の「ホットスポット」の1地域に特定されていて、2023年に国家戦略を策定することを目指している。
「カーボンプライシング」を2028年にも導入へ
政府は2022年12月、カーボンプライシングを導入する方針を決めた。簡単に言えば、二酸化炭素の排出に課金をして、排出削減を促す政策だ。
課金は賦課金と排出量取引の2種類を組み合わせる。賦課金は、石炭や石油など化石燃料を輸入する業者から二酸化炭素の排出量に応じて徴収するもので、2028年度頃の導入を目指す。
排出量取引は二酸化炭素の排出量を削減した分を、株式や債権のように市場で売買するもので、2026年度以降に始める。2033年度には、電力会社に対して二酸化炭素の排出枠を買い取らせる制度もスタートする。カーボンプライシングの導入時期が示されたのは初めてだ。
日本の気候変動対策は、ヨーロッパに比べると大きく遅れを取っている。日本の二酸化炭素排出量の約8割は企業が占めていて、企業からの排出量が減らないことが大きな要因だ。政府はカーボンプライシングによって企業に構造転換を促すとともに、企業の脱炭素に向けた投資を支援する新たな国債「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」(仮称)の財源の一部を確保する考えだ。
ただ、カーボンプライシングでは、企業などに課税する炭素税の導入も検討されたが見送られた。その一方で、電力会社や石油などの元売り会社は、課金された分を料金に上乗せする可能性があるため、国民の負担が増えることが予想される。しかも、賦課金はのちに引き上げられることも示されている。国民に中期的、長期的な負担を強いることになるのかどうか、2023年からは広く丁寧な議論が必要ではないだろうか。
エネルギー高騰で注目高まる「PPA」
電力の契約について、PPAという言葉を聞くようになってきた。PPAはPower Purchase Agreementの略で、電力購入契約を意味する。PPA事業者と契約することで、太陽光発電の設備を初期費用ゼロで導入できる仕組みだ。
導入の方法はいくつかある。自宅の屋根や事業所内に太陽光発電設備を設置するオンサイトPPAや、遠隔地の発電所から送配電網を通して電力を調達するオフサイトPPA。それに、再生可能エネルギー発電所による電力と環境価値を分離して、環境価値を購入するバーチャルPPAもある。バーチャルPPAではすでに契約している事業者から電力が供給されるので、契約変更などはなく手軽に導入できる。
いずれの方法も、太陽光などの発電設備は電気事業者が設置するので、契約する家庭や企業は設備投資費用などが必要ない。東京都が2025年から条例を施行することが決まった、新築住宅などに対する太陽光パネルの設置義務化も、PPAでの対応が可能だ。
PPAが注目されている背景には、エネルギー価格の高騰がある。以前は再生可能エネルギーの電力の価格は、化石燃料による発電に比べると割高だった。それが電気料金の値上げによって決して割高ではなくなった。PPAに参入する事業者も増えている。2023年はPPAが拡大する年になりそうだ。
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