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データからみえる今日の世相~「スマホの寝落ちで早寝する」のはホント?~

【スマホがあるから早く寝る?スマホがあっても早く寝る?】

江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)

 9月のことを、旧暦では「長月(ながつき)」と言います。その語源には諸説ありますが、秋になって夜がだんだん長くなる「夜長月(よながつき)」の略とするのが有力ともいわれているようです。

 秋に夜が長くなるのは昼夜の長さが等しいとされる秋分以降で、今年(2022年)の秋分の日は9月23日。「長月」なのに9月の約3分の2は昼のほうが長いのは、旧暦9月が現在の暦(太陽暦)の9月から1ヶ月くらい後ろにズレているからで、さもありなん。

 さて、そんなこんなで夜が長くなってくる頃ですが、「長い夜」と言うといろいろしながら夜を過ごす「夜ふかし」を思い浮かべるかも知れません(筆者は世代的に歌手の松山千春さんを思い浮かべますが)。
 しかし、この頃はあまり夜ふかしをしないらしいと言ったら、「それはそうでしょ」と思いますか?「そんなことある?」と思いますか?

夜12時過ぎには寝ている人が7割弱

 平日の夜、寝ている人の割合(就寝率)は30分刻みでどう推移するか(注1)。それを1991年から10年おきに折れ線グラフで示したのが次の図です。データは、TBSテレビをキー局とするJNN系列が毎年実施のJNNデータバンク定例全国調査から、首都圏在住13~59歳男女を集計した結果です。

 グラフの左端は22時(夜10時)~22時半で、その時間帯の平日就寝率は約30年前の91年だと20%。そこから10年置きに2001年が13%、11年が14%、21年が16%と大体2割弱という感じです。さすがに昔も今も、夜の10時台も前半だと起きている人がほとんどです。

 そこから91年のグラフを追いかけると、23時台前半が43%、24時台前半が67%、25時台前半が85%と順調に就寝率が増加。だいたい1時間ごとに2割くらい増えていく感じです。
 バブル景気が崩壊したこの頃は、「不夜城」とか「眠らない街・Tokyo」とかいうイメージですが、今から見ると、みんな割合しっかり寝ていたのだろうか、という印象を持ちます。

 そこから10年経った01年は、23時台前半が30%、24時台前半が60%、25時台前半が80%と、91年より全体的に1割くらい就寝率が低下。
 91年と01年の24時台前半について比べると、外出率は91年も01年も6%で変わらず。在宅起床率が91年は27%、01年が34%で、01年の就寝率低下は外の夜遊びではなく、家での夜ふかしが増えたためのようです。

 では、家で何を夜ふかししていたのか?はっきりしたことは言えませんが、インターネットの普及は関係あるかもしれません。
 日本でネット利用が一般に普及し始めたのはWindows95発売の95年からと言われますが、翌96年からJNNデータバンク定例全国調査でもネット利用の質問を開始。その時の利用率は1割弱でしたが、01年には半数を超えていました(注2)。
 さらに10年後の11年も就寝率の推移は01年とほとんど変わらず。ちなみにネット利用率は81%まで増加していました。

 しかし、そこから10年経った21年では、23時台後半までは01年や11年と同程度、91年より明らかに低い就寝率が、24時台前半でグッと増加。91年並みの66%となり、そこから後は91年と同じ割合で推移しています。

 22時~23時台は10年前・20年前と同じくらい起きているのに、24時台になると30年前と同じくらいに7割弱が床に就いている今。一体、何が起こっているのでしょうか。

スマホ使いは早く寝る?

 ここで非常に参考になる情報を紹介します。「若者の睡眠増え8時間に 10年で1割、生活様式変化」(2020年6月29日付、日本経済新聞電子版)というタイトルの新聞記事です。
 記事では調査会社・ビデオリサーチと大手広告会社・電通による調査結果(首都圏で毎年6月実施)を紹介。それによると、20~34歳男性の平均睡眠時間は09年の平均7時間11分が19年は7時間55分に、同年代の女性も09年の7時間19分が19年の7時間59分へ、それぞれ1割ほど増加していました。
 睡眠時間の増加について、記事では「就寝時間が早まったためで、仕事や夜遊びより自宅で過ごす生活様式の変化などに加え、横になってスマートフォンを見ながら眠ってしまう『寝落ち』が影響している可能性」を指摘しています。

 就寝時間が早まったことについて、スマホの影響がありそうだということで、早速JNNデータバンクでも11年と21年のデータを確認しました。
 まずはスマホの所有率。首都圏在住13~59歳男女だと、11年では25%と4人に1人程度だったのが、21年では92%とほぼ全員所有。10年間でスマホは私たちの生活必需品になったと言えそうです。

 さて、もしスマホが就寝時間に影響するなら、10年前でもスマホユーザー(注3)は早く寝ていたりしたのでしょうか?
 それを確かめるために、11年と21年のそれぞれでスマホ所有者と非所有者を分けて、平日就寝率の推移を比べてみたのが次の図です。

 これを見ると、11年にスマホ所有者が非所有者より早く寝ていたということはなく、むしろ所有者は全体として低い就寝率で推移していました。そして21年は、所有者の就寝率が11年の非所有者と同程度に達しています。

 集計の結果では、スマホ所有が就寝時間を早めるというより、前からそれなりの時間に寝ていたスマホ非所有者に、この10年でスマホが普及したようにも見えます。
 10年前に普及率が4人に1人だった頃のスマホ所有者は、その67%が団塊ジュニア(71~74年生まれ)を含む20~30代でした。一方、21年はスマホが幅広い世代に広がり団塊ジュニアも40代になり、20~30代の割合は44%と相対的に減少しています。仮に昔も今も若年層が宵っ張りだとしても、高齢化が進む全体への影響度は減っていることも考えられます。

 しかしJNNデータバンクでも若年層の就寝率上昇は確認されていて、新聞記事と同じ首都圏の男女20~34歳では、11年に48%だった24時台前半の就寝率が21年は56%に増えていました。
 若年層が宵っ張りでなくなっているとしたら、やはりスマホで寝落ちしているのでしょうか…?

変わってきているスマホの使い途

 そこで最後に、若年層がスマホを何に使っているのかを、昔と今で比べてみることにしました。
 11年と21年では質問文や選択肢が若干違っていて(注4)、直接比較するのは難しいのですが、それぞれ男女20~34歳で集計し、上位項目を横棒グラフにしたのが下の図です。

 これを見ると、11年は「ニュース」「天気予報」「地図情報」など何らかの情報検索や「SNS」の利用率が高く、これらは21年でも上位に入っています。しかし、21年には「無料通話アプリ(LINEなど)」や「動画投稿サイト(YouTubeなど)」などもランクインしていることがわかります。

 10年前は何らかの情報を得る「手段」としての役割がメインだったスマホも、今は「誰かとつながる」や「コンテンツを楽しむ」といった、それ自体が「目的」であるような利用の比重が高まっているようです。そうなると、四六時中スマホから目が離せなくなって寝落ち、ということもやっぱり増えているかも知れません。

 しかし、寝る直前にスマホ画面の光を浴びていると、睡眠の質が悪くなるというのもよく聞く話。せっかく早く寝られるなら、スマホもオフにしてさっさと寝るのが上策です。スマホ所有も止めてしまえば、もっと早く寝られるのはデータで示したとおり。

 でも、そうもいかないままスマホを握りしめつつ、「長い夜」を迎えてしまう人のなんと多いことか!

(注1)
JNNデータバンク定例全国調査では、いろいろな生活行動をした時間を、平日・土曜・日曜別に朝6時から翌朝6時までの24時間を30分刻みで分けたマス目に印を付けてもらう方式で調べています。今回テーマの「就寝」は直接尋ねていないため、全体(100%)から在宅起床率(家にいて起きていた割合)と外出率を引いたものを便宜的に就寝率としています。
注2)
96年当時、JNNデータバンク定例調査は5月と10月の年2回行われており、首都圏在住13~59歳男女で集計したインターネット利用率は、96年5月が7%、10月が9%でした(サンプル数は5月が731人、10月が721人)。01年には年1回の11月調査となっていて、同様に集計した利用率は52%でした(サンプル数は1430人)。
注3)
厳密にいうとスマホ所有者とスマホユーザーは必ずしも同一ではありません。しかし、11年も21年もスマホ所有者でスマホ利用がない人は1%に満たなかったため、ここでは所有者=ユーザーとして扱っています。
注4)
11年は「あなたは、次のような情報サービスを携帯電話やPHS・スマートフォンで利用していますか」という質問に32個の選択肢(「情報サービスを見る機能はない」含む)、21年は「あなたは、次にあげる3つの機器をどのようなことに使っていますか」という質問で3つの機器(タブレット端末、パソコン、スマートフォン)ごとに40個の選択肢があり、それぞれあてはまるものをいくつでも選んでもらっています。

<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は総合マーケティングラボに在籍。

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