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<シリーズ SDGsの実践者たち> 第23回 環境に配慮した新素材と廃プラをリサイクルする工場とは

【廃プラスチックのマテリアルリサイクル率は約20%に留まる。この状況を変えようと、新たなリサイクル工場が神奈川県横須賀市で稼働している】

「調査情報デジタル」編集部

世界初の機能を持つ、国内最大級のリサイクル工場

 神奈川県横須賀市に去年11月に完成したTBM横須賀工場。素材メーカーのTBMが製造・販売している新素材のLIMEXと、廃プラスチックをリサイクルするプラントだ。LIMEXは石灰石を主な原料とした素材で、プラスチックや紙の代替製品になる。試験運転を経て、今年4月に本格稼働した。

 工場では回収した使用済みのLIMEXと、廃プラスチックを同時にラインに投入すると、それぞれ自動で選別される。洗浄などの工程を経て、使用済みLIMEXと廃プラスチックはそれぞれペレットと呼ばれる原料に生まれ変わる。新素材であるLIMEXと、地域から回収した廃プラスチックを同時に選別して再生できる工場は世界初だ。

 さらに、廃プラスチックのリサイクル工場としては国内最大級を誇る。年間で4万トンの使用済みLIMEXと廃プラスチックを受け入れて、2万4000トンのペレットにリサイクルする能力を持つ。

 この工場のように廃棄物を新たな製品として再生利用するリサイクルの方法が、マテリアルリサイクルだ。横須賀工場の福山雄介工場長は、工場に込められた思いを次のように説明する。

 「LIMEXの社会での普及率が上がっていくなかで、一般的な家庭のプラスチックごみと一緒に回収をしていくケースがあります。LIMEXとプラスチックごみをしっかりと選別して、どちらもリサイクルしたいという思いからこの工場を構想しました」

TBM横須賀工場 福山雄介工場長

環境への配慮と資源循環を実現するLIMEXとは

 石灰石を主な原料とするLIMEXは、炭酸カルシウムなどの無機物を50%以上含む素材だ。日本規格協会のJSA規格では「無機成分を主成分とする無機・有機複合マテリアル」と定義されている。

石灰石を主原料とするLIMEX

 石油由来のプラスチックと比較すると、原料を調達する段階での二酸化炭素排出量を約50分の1に抑えることができる。さらに、焼却する際の二酸化炭素排出量も約58%削減できるなど、環境への負荷が低い。石灰石自体は地球上に豊富に存在していて、日本でも自給自足できることから安定供給が可能だ。

 TBMは2011年に創業。LIMEXの開発と製造・販売に取り組み、現在までに1万社以上がLIMEX製品を使用している。

 紙の代替品になるのは「LIMEX Sheet」。石灰石と樹脂を混ぜ、薄く伸ばして製造するため、製造時における水の使用量は一般的な紙に比べて約97%削減できる。紙よりも水に強く、名刺や冊子、レストランのメニューなどに使われている。

LIMEXの紙代替製品

 プラスチックの代替品になるのは「LIMEX Pellet」。ペレットを成型することで、レジ袋や惣菜の容器などのプラスチック代替品のほか、天井ボードなどの建築資材にも活用が広がっている。

LIMEXのプラスチック代替製品

 また、TBMの事業はLIMEXの製造や販売に留まらない。資源循環を実現することも事業の大きな柱だ。LIMEX自体をリサイクルして、再び素材として利用できる。実際にレストランのメニューとして使用したLIMEXを、トレーとして再生するといった再商品化も実現している。

 LIMEXを導入した企業には、使用済みのLIMEXを回収するサービスを提供。回収した量に応じて名刺やクリアファイルなどLIMEXで作ったオフィス製品と交換する。ただ、回収するのはLIMEXだけではない。オフィスに回収ボックスを設置して、廃プラスチックの回収も同時に行っているのだ。

地域の廃プラスチックも回収してリサイクル

 廃プラスチックの回収は地域とも連携している。横須賀市が収集したプラスチックを受け入れて、ペレットとして再生する。横須賀市と連携して、去年4月に施行されたプラスチック資源循環促進法に基づく環境大臣認定と経済産業大臣認定を取得した。

 また、鎌倉市や逗子市など周辺自治体で発生した廃プラスチックも受け入れていて、リサイクルされたペレットから、物流などで使われる荷物を載せる台であるパレットや、プラスチック製のカゴなどが作られるという。

 自社製品のLIMEXだけでなく、廃プラスチックのリサイクルも担う理由を、福山工場長は「日本でマテリアルリサイクルを普及させるため」と説明する。

 「日本国内では年間に800万トン以上の廃プラスチックが発生していて、そのうち7割以上が焼却されるか、熱源として利用するサーマルリサイクルによって影も形もなくなっています。プラスチックのマテリアルリサイクルは約20%程度に過ぎません。

 この現状を何とか変えたい。マテリアルリサイクルを普及させることで、廃プラスチックをもう一度プラスチックとして社会に循環させていきたいというのも、この工場の大きな目的です」

 横須賀工場を建設するにあたって、TBMでは補助金などは一切受けていない。横須賀市との連携は、市が収集した廃プラスチックを受け入れるもので、運営費などの助成もない。あくまで一企業として、LIMEXと廃プラスチックのリサイクルを普及させることを目的としている。

リサイクル工場を全国展開へ

 横須賀工場は4月の本格稼働後、LIMEXの回収と廃プラスチックの受け入れ量を順調に伸ばしている。

 「4月から受け入れ量が急激に増えたことで、当初は考えていたように処理ができない工程もあったものの、現在は課題を克服しながら処理量を増やしています。今後も段階的に増やして、できるだけ早い時期に目標としている年間4万トンの処理を実現したいと思っています」

 もちろん、横須賀工場が国内最大級の処理能力を持つといっても、1か所だけでは日本のマテリアルリサイクル率を劇的に向上させることはできない。そこで、TBMが計画しているのは、このリサイクル工場を全国展開することだ。

 「廃プラスチックを資源としてもう一度社会に戻したいというニーズは、全国にあります。この横須賀工場で資源循環を実現すると同時に、今後3年から5年の間に、同様のリサイクル工場を国内に2、3拠点建設していく計画です。

 さらに、将来的には全国で10拠点ほど展開できればと考えています。拠点を広げていくことで、国内のマテリアルリサイクルの現状を変えていきたいですね」

 マテリアルリサイクルが当たり前になる世の中を実現するため、横須賀工場によってその第一歩を踏み出している。

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