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コロナ禍のマスターズ中継

【異例の開催となった2020年のマスターズ。この事態に対し40年以上の経験を生かして乗り切った中継の現場とは。】

内野 浩志 (TBSスパークル スポーツアスリート本部)
小西 孝典 (TBSテレビ スポーツ局中継制作部)

かつてない異例の開催

 晴れ渡る青い空、鮮やかな緑の芝、色とりどりに咲き乱れる春の花々、そこに集う世界の名手達、そして彼等のプレーを讃える地鳴りのようなパトロンの歓声・・・
 2020年、毎年4月に当たり前のように開催されてきた世界最高の夢舞台「マスターズ」がいよいよ開幕まであと1ヶ月というところで新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、4月開催を断念し、延期となった。
 その後11月に無観客での開催と発表されたが、そのどちらも史上初めてという誰もが想像しえない状況下で行われることになった2020マスターズ。

 TBSは1976年から40年以上マスターズのLIVE中継を放送してきたが、当然このような事態は初めてのことであり、まず最初に中継スタッフとして感じたことは、様々な制限が想定される中で番組のクオリティを落とさず中継できるのかということであった。

厳しい制限の中での対応

 2019年までは地上波、BS合わせて4日間約32時間の生中継を制作するため、解説者、アナウンサー、制作及び技術スタッフなど日本から約30名、現地アメリカの技術スタッフ、コーディネーターなど20数名、総勢50名以上をオーガスタに送り込んでいる。
 しかし日本以上に新型コロナウイルスが猛威を振るっているアメリカにそれだけの人数を渡航させることのリスク、そして仮に現地に派遣した場合でもそのスタッフは帰国後2週間の隔離期間が発生し、その後の業務などに大きな支障をきたすのは間違いなく、現地制作をこれまで通りの通常の体制で行うのは困難な状況に追い込まれた。
 ましてプロ野球、駅伝、ゴルフと11月のTBS系列スポーツ中継は目白押し。特にそのゴルフではTBSが主催している男子ツアーの三井住友VISA太平洋マスターズの開催週にこのマスターズが4月から移ってくるという想定外の不運も重なり、ゴルフ中継スタッフ、実況アナともにスクランブル状態に。

4③マスターズ資料3(日米マスターズ告知) (1)

〈同日開幕を逆手に取り「11月のTBSは昼も夜もマスターズ」というPRを展開〉

 さらに無観客開催が決定したことにより、万全の感染症対策を取るため、オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブから中継スタッフの人数をできる限り減らしてほしいという依頼も届いた。以上の状況から総合的に判断し、現地オーガスタで行ってきた中継のベースをTBS放送センターに移し、アメリカから送られてくる映像に対しTBSのスタジオでコメントをつけるといういわゆるオフチューブ中継という形をとることにした。

2020マスターズ中継概要~渡航は2人だけ

 昨年までは、基本的にホスト局CBSが制作する中継映像に日本人選手の映像を現地中継車で挟み込んでいくというスタイル。
 CBSの中継のみでは日本人選手はTOP5までにいないとほぼ映ってこないので、TBSのユニカメラ(TBS独自のカメラ)とCBSに提供してもらっている各ホール60台以上のカメラの映像信号を組み合わせて日本人選手のプレーを挟み込む形で映像を制作していた。
 その映像に解説、実況、コースリポートなどの音声を一本化して東京にTBSプログラムとして伝送、そして日本語のグラフィックをTBSのサブでつけてOA送出というのがこれまでの流れであった。

 現場の陣容が大きく変わった昨年は、現場中継車にTBSユニカメラとCBSの各ホールの映像信号を取り込み、日本人のプレー映像を選択するまでは例年通りだが、そこでプログラムを作成せず、専用回線で随時切り換えながらTBS本社へ伝送。
 それとは別回線でホスト局のCBS中継映像も伝送し、本社サブ(Pサブ)でCBSの中継映像をベースに日本人の映像を挟みこみ、本社スタジオ(Pスタ)でコメントをつけるという、現場で行っていたほとんどの作業を本社で行う形を取った。

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 上述した通り、大勢のスタッフを送り込めないため、この作業をするためのギリギリ最低限の2名が日本から渡航。現地アメリカのスタッフも絞り、全体で20名弱という1/3の陣容でのオペレーションとなった。
 アナウンサーも現地に行かなかったため、選手インタビューはPGAツアーなどの取材経験が豊富な現地の日本人コーディネーターが担当。とはいえプロのインタビュアーではないので基本的にはLIVEでは取らず、収録したものをショートディレイでOA送出した。

コロナ対策はバブル方式

 新型コロナウイルス感染症対策としてオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブが用意した施設でコースに入る関係者全員がPCR検査を受診。
 また中継スタッフの食事に関してPCR検査後は他者との接触を避けるため、期間中の外食をすべてNGとし、コースでのランチ以外、全スタッフはTBSが所有する家(通称:TBSハウス)もしくはそこから持ち帰ってのホテルの部屋で取ることとした。
 コース、ホテル、TBSハウスの3カ所だけの移動に限定するいわゆるバブル方式でスタッフと外界とを完全に遮断した。

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 以上のように中継の体制を変更、コロナウイルス感染症対策にも気を配ったこともあり、中継自体は無事OAすることはできた。

活かされた「経験の積み重ね」

 これまで選手、解説者として合わせて30回以上オーガスタの地を踏んでいる中嶋常幸プロ、2008年からオンコース解説を務めていただいている芹澤信雄プロというコースを知り尽くしているコメンタリー陣、そしてマスターズ中継に長年携わってきた制作、技術スタッフの経験値で現場の雰囲気は何とか伝えられたと思っている。
 その結果、多くの方からこれまでの中継と遜色なかったというありがたい言葉もいただいた。
 しかし本当に現場の空気、選手の息遣いをいつものように伝えられたのかどうか、その点に関しては難しいものであったのではないかとも感じている。
 やはりスポーツのLIVE中継は現場で行ってこそ伝えることのできる場面も様々あることを今回の中継で改めて感じることができた。

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そして2021マスターズは

 今年のマスターズ中継において、昨年の経験を踏まえ2つの試みを行うこととした。
 
①コメンタリーの現地派遣
 2021年は無観客ではなく観客を入れて開催されることが決定したため現地に伊藤隆佑アナウンサーを派遣。
 そのため今年のマスターズでは選手のインタビューもLIVEが可能になり、さらに現地からのリポートなど、現地の臨場感をしっかり届けられる中継を目指す。
 
②練習場にリモートカメラの設置
 コースの練習場にTBS放送センターから遠隔操作できるリモートカメラを設置。TBSのサブで操作することで、現地に行かせるリスクとスタッフの渡航費という2点を削減することが可能となった。
 
 上記の試みで昨年以上に現地オーガスタの空気、臨場感をしっかり伝えたいと考えている。
 
 昨年よりもバージョンアップして中継する2021マスターズ。スタッフ一同、松山英樹選手が栄光のグリーンジャケットに袖を通すその時が来ることを信じて、最高の瞬間をお届けしたいと考えております。

<執筆者略歴>
内野浩志 (うちの・ひろし) 2020年分執筆
1994年東京放送入社。2003年よりゴルフ中継をメインにバレーボール、サッカー等を担当。ロンドン五輪、リオ五輪現場プロデューサー。2018年世界バレープロデューサー。2020年マスターズ中継プロデューサー。2021年TBSスパークルスポーツアスリート本部へ出向。番組統括プロデューサーをつとめる。

小西孝典(こにし・たかのり) 2021年分執筆
2006年TBSテレビ入社。2010年スポーツ局中継制作部で世界バレーを担当。同年スポーツニュース部でゴルフ取材ディレクター。2013年よりスポーツ局中継制作部で世界陸上、アジア大会、リオ五輪、ゴルフ中継全般を担当。2021年マスターズ中継プロデューサー。