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東日本大震災11年、震災報道は始まったばかり

【東日本大震災から11年。ともすれば「10年」を一区切りと考えがちだ。しかしそれで、はたしてよいのか。震災を風化させない地元放送局の取り組み】

野口 剛(tbc東北放送報道部)

 東日本大震災の発生から11年に合わせtbc東北放送では、今年も報道特別番組を制作しました。 タイトルは、『Nスタみやぎスペシャル 復興の現在地~災害から命を守るために~』(3月10日午後3時40分~午後4時50分)です。

 宮城県石巻市で津波と火災の被害を受けた震災遺構、門脇小学校を取材しあの日何があったのか振り返る一方、災害から命を守ることをテーマに避難所の備蓄の現状や課題を伝えました。(トップ画像:石巻市の震災遺構・門脇小学校)

 また、TBS/JNNでは、3月5日(土)から3月13日(日)にかけて東日本大震災11年のプロジェクトを展開し、11日(金)には『東日本大震災11年 NスタSP つなぐ、つながる』(午後1時55分~午後3時49分)を放送、私もプロデューサーとして参加しVTRの制作に携わりました。

 こちらは、「震災復興×SDGs」をテーマに被災地に生きる若者や移住者の姿を伝える一方、都市を襲う津波の脅威などについて調査報道の手法で検証しました。

 全国的には去年の震災10年を1つの節目と捉える雰囲気が強かったように思います。そのような中、私たち地元局が特別番組を制作するのはもちろんですが、TBS/JNNとしてプロジェクトを展開し番組を制作したことは、地元局として心強く感じました。「震災を忘れない、災害から命を守る」というメッセージを強く発信できたのではないかと感じています。TBSをはじめプロジェクトに参加していただいたJNN系列各局の皆様にこの場を借りて心より御礼申し上げます。

仙台市内の津波避難タワー

11年間におよぶ取材での様々な発見

 さて、私は震災発生時から報道部に所属し震災報道に携わってきましたが、この11年の番組取材で様々な新たな発見に出会いました。

 一つは、先に述べた「つなぐ、つながる」の特番で放送したVTRです。宮城県気仙沼市に住む松本魁翔さんという21歳の青年は、11年前「水を運ぶ少年」として新聞に掲載され大きな反響を呼びました。水が入った大きなペットボトルを両手に持ち歯を食いしばりながらがれきの中を歩く写真、俳優の故・高倉健さんがこの写真を台本に貼り映画の撮影に臨んでいたことでも知られています。

 番組では、松本さんの今を取り上げましたがその際、震災後に手紙のやりとりをしていたという北海道の女性とリモートで対面を果たすシーンがありました。手紙のやりとりを続けても直接顔を合わせるのは実は震災11年で初めてとのこと。番組取材をきっかけに対面が実現しました。初めて顔を合わせた時、最初は緊張した様子でしたがすぐに打ち解け、親戚の女性と話をするような親近感がありました。震災をきっかけに生まれた交流、人の温かさが感じられ胸が熱くなりました。

 もう一つは、津波検証のVTR。仙台市内の都市部を襲う津波をとらえた車載カメラの映像です。建物の隙間から激しく噴き出してくる津波、さらに後ろからも濁流が押し寄せ車は制御を失います。激しい流れに飲み込まれた車は最終的に水没しました。車載カメラはその一部始終を捉えていました。

提供:室賀裕さん

 映像を提供してくれたのは、仙台市内に住む室賀裕さん。カメラも車と共に水没しましたが専門業者に依頼して映像を復元させることができたと言います。

 この11年間に様々な津波の映像を見てきたつもりでした。しかし、車載カメラがとらえた津波の姿は初めて見るもので、その生々しさに改めて津波の恐ろしさを痛感しました。

 tbc東北放送では、この11年間、毎年3月には報道特別番組を制作してきました。8年前からは「復興の現在地」というシリーズを継続しており、定期的に被災地に関する特集を夕方のニュース番組で放送してきました。できる限り震災報道を継続してきたつもりでしたが、この11年で初めてのシーンや映像に出会い震災報道はまだまだ始まったばかりなのだという思いを強くしました。まだまだ取材すべき要素は沢山残されているのだろうと。

風化には抗えない。だからこそ

 恐らく、というか確実に東日本大震災の記憶は風化していきます。これは抗えない事実だと思います。昨今はコロナ禍であり世界に目を向けるとロシアによるウクライナ侵攻が続き、今この瞬間も人の手によって何の罪のない市民の命が奪われていると思うと胸が痛みます。あってはならないことです。

 多くの伝えるべきニュースが次々と出てくる中、1年を通じて震災報道への熱量を保ち続けることは容易ではありません。もはや抗うのではなくこの現状を受け入れる必要があります。

 だからこそ、1年に1度、3月だけは震災を思い出し振り返り、教訓を語り継ぐ必要があります。そこだけは死守しなければなりません。今年は戦後77年を迎えます。阪神淡路大震災からは27年が過ぎました。日航ジャンボ機墜落事故からは37年となります。同じように東日本大震災も20年、30年、100年と毎年、報道を積み重ねていくことが大事だと改めて感じる震災11年となりました。

 1000年に1度と言われる震災です。わずか11年で終わらせるのはあまりに早すぎます。地元局として次の番組では何を伝えられるのか、常に心に留めながら取材を続けていきたいと思っています。

都市型津波の再現実験

<執筆者略歴>
野口 剛 (のぐち・つよし)
1982年生まれ、2009年東北放送に入社し報道部配属。
各記者クラブやニュース編集長を経験し、現在は仙台市政クラブ記者。
20年10月から21年3月までの半年間は気仙沼支局長。
東日本大震災の発生後の2011年5月と10月、2013年2月にはJNN三陸支局に駐在。
<震災報道で制作した主なドキュメンタリー番組>
「イチゴと妻と~失われた集落 気仙沼・杉ノ下遺族の4年~」(15年)
「再会~震災8年 故郷・杉ノ下に生きる~」(19年)
「海、さえぎる壁~被災地の巨大防潮堤~」(21年)

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