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データからみえる今日の世相~ファンが踊れば「にわか」も踊る!?熱戦のW杯サッカー〜

【盛り上がるサッカーW杯。熱く見守るファンはどんな人?】

江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)

 今年2022年は、4年に1度の男子ワールドカップ(W杯)サッカーの年。本大会は中東のカタールで11月20日から12月18日にかけて開催。この原稿はちょうど日本代表戦の前に書いています。
 前回18年のロシア大会ではベスト16だった日本。森保一監督は「ベスト8以上に行く、歴史を変える、という目標を持ってこの大会に臨んでいる」(22年11月23日付毎日新聞)と意気込みを語っていますが、どこまで活躍するか期待する人は多いはず。

 かく言う筆者はサッカー素人で、ふだん試合中継もほとんど見ず。日本が活躍しだすと急激に関心を持つ、完全な「にわかファン」です。
 筋金入りのサポーターには苦々しい存在なのか、それでも盛り上がるなら「まあ、いいか」と思ってもらっているのか。

 逆に「にわか」からは、ふだんからW杯サッカー観戦を心待ちにする人はどういう人なのか、気になります。その姿にデータで迫るべく、JNNデータバンク定例全国調査を紐解いてみました。

W杯サッカー観戦、男性30~40代が待望

  毎年11月実施のJNNデータバンク定例全国調査には、01年から「テレビ観戦するのが楽しみな国際スポーツイベント」という項目があります。昨年(21年)は24個の選択肢からいくつでも選んでもらいましたが、その結果の上位を回答者全体と男女別で示したのが、次の横棒グラフです。

  全体で最も楽しみにされている夏季オリンピックに冬季オリンピックが続き、男子W杯サッカーは3番目にランクイン。
 以下、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、世界陸上、世界フィギュアスケートの順ですが、TBSが中継に関わっているWBCや世界陸上が上位にランクインしているのは、筆者としてもうれしいところ。

  男女別に見ると、男性の順位は全体と一致する一方、女性では夏季・冬季のオリンピックの次は世界フィギュアスケートが第3位。男子W杯サッカーは第4位で、その次がグラフにはない「世界バレー」、第6位が世界陸上という順番でした。

  オリンピックや陸上は男女とも同じくらいの人気ですが、サッカーや野球は男性優位、フィギュアスケートは女性優位と、スポーツイベントによって男女の好みが分かれる傾向もうかがえます。

  男子W杯サッカーファンの男性優位は、性年代の内訳を見るとより明白です。ファン以外の「その他」では男性が4割程度なのに対し、ファンでは実に7割が男性。しかも年代では30~40代と50代~60代がそれぞれ3割程度を占めていました。

 サッカーファン=若者というイメージでしたが、昨今の少子高齢化傾向を考えると、若年層は元々人口が少ないので占める割合も低いのかも。そう考えて性年代ごとにファンの比率を比べてみたら、男性10~20代で3割程度なのに対し、男性30代以上は4割を超えるファン率でした。

  思えばJリーグ開幕が93年で、日本・韓国のW杯サッカー共同開催が02年。現在の男性30~40代は、日本の男子サッカーが巨大イベントとして成長していく様を、生まれた頃から青年期にかけて目撃してきました。
 彼らが子どもの頃には、小中学生のスポーツ環境が大きく変化し、野球とサッカーは「Jリーグの発足で人気が逆転した」(96年12月17日付大阪読売新聞)と言われています。

  こうしたこともあって、男性30~40代は特にサッカーに親しみがあり、W杯サッカー観戦が特に楽しみなのかも知れません。

スポーツは「するものにあらず、見るものなり」

  男子W杯サッカーのテレビ観戦が楽しみなファンたちは、スポーツそのもののことをどう考えているでしょうか。

  JNNデータバンク定例全国調査の「スポーツについてのふだんの態度や考え方」について、ファンとそれ以外の「その他」の人を比べてみたのが、次の横棒グラフです。

 これを見ると、ファンで多いのが「スポーツは自分でするよりみるほうが好き」と「美容や健康のためにとくにスポーツはしていない」という意見。実に約半数がそう答えています。
 しかし、この意見はファンだけでなく、その他の人でも多く選ばれています。年齢が上がれば、自分でスポーツするより見る機会も増えるでしょうし、高齢化でそうした層が全体として増えているのかもしれません。

  一方、ファンの回答で際立っているのが「個人技のスポーツより集団スポーツのほうが好き」。約半数がそう回答し、その他の人が3割弱なのと対照的です。サッカー好きなのだから、さもありなんというところ。

  また「よく知らないスポーツでも日本人が活躍していればテレビで見たい」という意見への賛同は、その他の人が3割弱に対して、ファンでは4割。何となく「にわか」の香りがしなくもないですが、好意的に解釈すれば、好きなスポーツだけでなく、いろいろなスポーツを「見る」ことのきっかけを持ち合わせているといえるかもしれません。

  スポーツのテレビ観戦が楽しみな男子W杯サッカーファン。その人たちにとって、2021年開催の東京オリンピック・パラリンピックも楽しいイベントだったようで、次の横棒グラフからそうした様子がうかがえます。

 ファンの7割が「東京オリンピック・パラリンピックをテレビ中継で見た」、6割が「楽しかった」と回答。その他の人たちは全社が5割、後者が4割という選択率なので、それらを大幅に上回っています。

 また、本来20年の開催が新型コロナ流行で21年に延期となりましたが、そのことを肯定的に評価する意見も、ファンでは多く見られました。

  2020東京オリンピックのほうは、後でお金にまつわる話が出てきてすっかりイメージダウンしてしまった感があります。しかしアスリートの頑張りや観客の応援は、まぎれもなくその瞬間の真実でした。

  スポーツを「見る」ことの醍醐味は、最高の瞬間を期待しながら、何が起こるか分からないスリルを多くの人と同時に共有すること。
 その競技に精通したファンも、流行で乗っかった「にわか」も一緒に盛り上がれるものがある、というのは素晴らしいことだと思います。

  4年前はベスト16で終わった日本の男子W杯サッカー。今回はどこまで行けるか、4年間の変化が試されるときです。
 そして4年前のW杯開催国ロシアが、まさか4年後にこんな状況になっているとは。再び世界の全ての人々が、スポーツの醍醐味を純粋に味わえるようになってほしいと願わずにはいられません。 

<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は総合マーケティングラボに在籍。

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