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連載「放送と配信が区別できない世界でー個人情報保護の観点からー」

【放送と配信の垣根はいまや無いに等しい。この状況下で、個人情報の保護はいかになされるべきか。専門家による連載の最終回】

大平 修司(弁護士)
矢内 一正(TBSテレビビジネス法務部)

第4回「放送と配信が区別できない世界で」
第1 現在の議論
 1 両分野の規律の異同
 2 問題の所在
 3 放送ガイドライン検討会における議論
 (1)「公正な競争」の確保の観点
 (2)「安心・安全」の保護の観点
 (3)非対称措置
第2 これまでの議論
 1 通信放送融合法制の議論
 (1)2000年代の大議論
 (2)最近の議論
 2 AVMS指令
 (1)2007年当時の指令
 (2)2018年の改正
第3 今後の議論
 1 2000年代の大議論の再現?
 2 個人情報保護の在るべき姿
第4 放送と配信が区別できない世界で
 1 放送法の目的
 2 結語に代えて 

第4回 「放送と配信が区別できない世界で」

第1 現在の議論

1 両分野の規律の異同
 筆者らが本連載第1回から第3回までにおいて明らかにした事柄に基づき、放送分野における個人情報保護の上乗せ規制等と、電気通信分野におけるそれとの異同を整理すると、概ね以下の表1のとおりとなる。

 表1のような差異は、各分野を規律する法律(放送法と電気通信事業法)の目的や保護法益の違いから生じている。例えば、放送における表1の「個人情報の取得等に同意しない視聴者に対する差別的取扱等の禁止」は、放送法の目的である「放送が国民に最大限普及されること」の表れであるし、配信において必ずしも個人情報に該当しない「位置情報」等の取扱いに規制がなされるのは、電気通信事業法の保護法益である「通信の秘密の保護」の表れである。

2 問題の所在
 問題の所在は、「放送と配信の垣根はいまや無いに等しい」にもかかわらず、本連載第1回の冒頭で述べたとおり、放送番組のインターネット配信(リアルタイム配信、見逃し配信、アーカイブ配信等)について、放送ガイドラインと同様の規制を放送事業者等に及ぼすことが検討されている点にある。これは、要するに、「NHK+とかTVerとかradiko等」に「表1の放送側の全部又は一部の規制」をかけるという話である。世界的に見て、その規制の仕方がますますガラパゴス化し、パッチワーク化していくことは致し方ないとしても、一体どこにその合理性や妥当性を見出すことができるのか。これが筆者らの問題意識であり、本連載の最終回で取り扱う論件である。

3 放送ガイドライン検討会における議論
 現在、総務省の「放送分野の視聴データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」(座長:宍戸常寿東京大学教授、以下「放送ガイドライン検討会」という。)では、以下の表2のとおり、①「公正競争」の確保の観点と②「安心・安全」の保護の観点から、配信サービスにどのように放送ガイドライン上の規律を及ぼしていくべきかが議論されている。

(1)「公正な競争」の確保の観点
 例えばTVerにだけ「表1の放送側の全部又は一部の規制」の中の「取得等の同意」や「個人情報の取得等に同意しない視聴者に対する差別的取扱等の禁止」の規律が課せられるとすると、視聴データの取得に同意が必須となるほか、それに同意しないユーザーに対する差別的取扱等が禁止されるので、視聴者の属性や趣味嗜好に応じたターゲティング広告やリコメンドは制限されることになる。一方で、例えば、Video On Demand型の配信サービス(いわゆる「VOD」)を提供するYouTube等の事業者にはこのような規制がかからないとすると、「公正な競争」の場(レベル・プレイング・フィールド)が確保されないおそれがある。
 この点、民放連は、「外資系の巨大プラットフォームをはじめ他の事業者との厳しい競争にさらされている配信サービスの分野において、放送事業者が主体的に関わる配信サービスのみが(半ば所与の条件として)二重の規制を受ける状況が生じることは、公平性の観点からも問題が大きいと言わざるを得ない」との懸念を表明しているが²、放送ガイドライン検討会は、後述する「非対称措置」をもって、これを補償することを検討している。

(2)「安心・安全」の保護の観点
 一方の「安心・安全」の保護の観点については、「これから到来するであろう本格的なネット配信時代においても、「放送」が果たしてきた役割に準じた役割、すなわち、(視聴履歴から要配慮個人情報(政治的信条、病歴等)をひそかに推知されたりせずに)老若男女の誰もが安心して視聴できるという「信頼」を寄せることができるサービスを、今後とも、社会全体として何らかの形で確保していく必要があるのではないか」というような意見³に基づくものである。

(3)非対称措置
 放送ガイドライン検討会は、上述した2つの「公正な競争」と「安心・安全」の観点から、放送ガイドライン上の一定の規律を遵守する配信事業者に対して一定の支援措置(以下「非対称措置」という。)を講じることにより、止揚を図ることを検討している。すなわち、放送の厳格な規制を受け入れた配信事業者に対しては、それなりのインセンティブを与えることで、二重規制の妥当性を確保しようとしているのである。具体的には、以下の図1の「A」「B」「C」のように、厳格さのレベルに応じて放送側の規律を類型化し、その類型別のインセンティブを付与することを検討している。

第2 これまでの議論

 放送の規制を通信に及ぼすことの当否を議論するにあたり、2000年代に行われた放送と通信の融合に関する大議論と、最近の議論を点検したいと思う。以下では、そのそれぞれ議論の内容等を簡単に振り返りたい。

1 通信放送融合法制の議論
(1)2000年代の大議論
 2000年代、情報通信基盤のブロードバンド化やデジタル化により、携帯電話向けのワンセグ放送やインターネットでの動画配信等が進み、放送と通信の関係に大きな変化が生じた。
 そのような中で、2006年6月6日、総務省の「通信・放送の在り方に関する懇談会」(座長:松原聡東洋大学教授)において報告書⁵が取りまとめられ、通信・放送制度の抜本的な見直しを含めた環境整備が提言された。その内容は多岐にわたるが、通信と放送の融合に関しては、当時、通信と放送に二分され、かつ、両者を合わせて9本の法律に細分化された規制が存在していた状況を見直し、「伝送・プラットフォーム・コンテンツといったレイヤー区分に対応した法体系とすべき」との指摘を行っていた⁶。
 その後、2007年12月には、総務省の「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」(座長:堀部政男一橋大学名誉教授)の最終報告書⁷において、「情報通信法(仮称)」の制定が提言された。これは、当時、通信、放送、有線ラジオ放送、有線テレビジョン放送等に「縦割り」されていた規制の構造を、コンテンツ、プラットフォーム、伝送インフラといった「横割り型」のレイヤー構造に転換することや、「メディアサービス」のうち、「特別な社会的影響力」及び特別な公共的役割を有する「特別メディアサービス」については、当時の地上テレビジョン放送に対して課せられていたコンテンツ規律を原則として維持することなどを内容とするものであった⁸。
 このような提言は画期的であり、放送番組の同時配信等がスタートし、かつ、インターネット上での「フェイクニュース」や「フィルターバブル」、「エコーチェンバー」等が社会問題化している現在においては、その必要性がより切実に実感されるところである。
 しかし、この壮大な構想は実現に至らなかった⁹。
 当時、情報通信審議会は、総務大臣の諮問に対して、放送法を核として当時の放送関連四法の集約・大括り化を行うことや、伝送サービスについても電気通信事業法を核とした大括り化を行うことなどを答申したものの、表現の内容自体についての規制(いわゆる「コンテンツ規律」)を通信の一部に及ぼすことについては、見送るべきとしたのである¹⁰。答申は、その理由について、「批判的意見や慎重な意見が多く、これまでの考え方を変えるに至るまでの必要性は認められない」としている¹¹。

(2)最近の議論
 以上のような経緯で、我が国における放送・通信融合法制は実現しなかったが¹²、2022年8月、総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」(座長:三友仁志 早稲田大学大学院教授、以下「在り方検」という。)において、「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ」が策定され、公表された¹³。在り方検では、①デジタル時代における放送の意義・役割、②放送ネットワークインフラの将来像、③放送コンテンツのインターネット配信の在り方、④デジタル時代における放送制度の在り方の4つの論点について検討がなされている。特に③については、今後の方向性として、「取材や編集に裏打ちされた信頼性の高い情報発信、「知る自由」の保障、「社会の基本情報」の共有や多様な価値観に対する相互理解の促進といった放送コンテンツの価値を放送同時配信等によりインターネット空間にも浸透させていくべき」とされ、誰もが安心して視聴できる(信頼を寄せることができる)放送に準じた公共的な取組みを行う放送同時配信等については、その取組みを後押しする方針を具体的に検討していくべきことが提言されている¹⁴。
 すなわち、在り方検は、通信の世界においても放送と同様の「安心・安全」なメディアを作ることを議論しているのである。

2 AVMS指令
(1)2007年当時の指令
 上記1(1)で言及した「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」は、放送・通信の「メディアサービス」を、その社会的影響力の程度に応じて「特別メディアサービス」(地上波放送に相当)」「一般メディアサービス(その他の比較的社会的影響力の強いメディアサービス)」及び「オープンメディアコンテンツ(一般のインターネットコンテンツ)」の3つに分類し、放送の規制を緩和する方向で「階段状」の規制枠組を導入することも提言していた¹⁵。
 このような規制枠組は、EUで2007年12月に採択されたAVMS指令(Audiovisual Media Service Directive)の分類に近いものである。AVMS指令とは、EU域内の放送番組規制を規定した旧TVWF指令(Television Without Frontier Directive)をインターネット上の放送類似サービスに拡大するものだが、2007年当時の規制枠組を概略的に図示すると、次の図2のとおりとなる。なお、図2にいう「データ保護指令」と「eプライバシー指令」については、リニア・ノンリニア等を問わず、共通して適用されるものであった。

(2)2018年の改正
 EUのAVMS指令は、2018年に改正され、現在では、その対象の範囲をYouTube等のサービスやSNSで共有された視聴覚コンテンツ(図2にいう「責任編集のない動画像サービス」)にまで拡大している。なお、図2の「データ保護指令」と「eプライバシー指令」は、現在では、それぞれ「GDPR」(2016年)と「eプライバシー規則案」(2017年)にアップデートされている。

第3 今後の議論

1 2000年代の大議論の再現?
 以上見てきたように、我が国では2000年代に放送と通信の法制を統合する大議論がなされたが、結局実現しないまま現在に至っている。しかし、当時よりさらにインターネットの利用が拡大し、放送コンテンツのインターネット配信が進んだことにより、放送と通信を区別することの不都合や矛盾が直視しがたいほど大きくなっている。これを解消するために、著作権の文脈で放送と通信を融合させたのが令和3年改正著作権法の「放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化」¹⁷であり、個人情報保護の文脈で放送と通信を融合しようとするのが、上記第1の3で見た放送ガイドライン検討会における議論である。
 これは、見方を変えれば、「2000年代の大議論」の部分的な再現である。「放送と配信が区別できない世界」を追いかけるかたちで、いま我が国でも「2000年代の大議論」において提案された「情報通信法(仮称)」やEUのAVMS指令のような放送と通信の再構成が必要になっている。だとすると、「2000年代の大議論」において、放送・通信法制の統合が実現に至らなかった理由――コンテンツ規律を通信の一部に及ぼすことについて「ネットに対する国の介入だ」「表現の自由を侵すものだ」といった批判的な意見や慎重な意見が多く¹⁸、これまでの考え方を変えるに至るまでの必要性は認められないとされた点――は令和4年現在において克服されたのか否かが問題となるように思われる。
 この点、コンテンツ規律については、憲法の保障する「表現の自由」に関わる問題であるため、合憲性が極めて厳格に判断されるところ¹⁹、当時の「情報通信法(仮称)」は、そのようなコンテンツ規律を通信の世界に拡張するものであったので、「表現の自由を侵すものだ」との反発を招いた²⁰。
 一方、個人情報保護に関する規制については、「表現の自由」よりも合憲性がより緩やかに判断される「経済的な自由」に対する制約であるので、「表現の自由を侵すものだ」というような反発は生じないと思われる。そのため、個人情報保護の分野で放送と通信の融合を果たすことについては、「2000年代の大議論」の頓挫した理由がそのまま当てはまることはないだろう。

2 個人情報保護の在るべき姿
 VOD事業者に対して放送ガイドラインの「取得等の同意」や「個人情報の取得等に同意しない視聴者に対する差別的取扱等の禁止」の規制が課せられる場合は、当該VOD事業者は、上述のとおり、ターゲティング広告やレコメンドを制限され、広告主の獲得やユーザーのつなぎ止めのための有力な施策を打てないことになる。そうすると、特にTVerのように、広告収益型の動画配信サービス(いわゆる「AVOD」)を実施する事業者にとっては致命的となる。
 これでは、放送コンテンツのインターネット配信を無料で実施するのは困難となり、視聴データの取扱いにおける「安心・安全」は確保できたとしても、「『取材や編集に裏打ちされた信頼性の高い情報発信』、『知る自由』の保障、『社会の基本情報』の共有や多様な価値観に対する相互理解の促進といった放送コンテンツの価値を放送同時配信等によりインターネット空間にも浸透させていくべき」²¹といった政策目的を達成するのは困難になると思われる。
 このような事態を避けるために総務省が提案するのが、放送ガイドライン検討会において議論の俎上にあがっている「非対称措置」である。そうすると、この「非対称措置」の内容は、放送ガイドラインの拡張適用によりVOD事業者が受ける不利益を合理的に填補できるものであり、かつ、上述した政策目的に資するものであることが求められる²²。

第4 放送と配信が区別できない世界で
1 放送法の目的
 放送法の目的は、以下のとおりである。

(放送法第1条)
第1条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。

 現在、放送ガイドライン検討会では、上述したとおり、TVer等のVOD事業者に「表1の放送側の全部又は一部の規制」をかけることが検討されているが、ここで「表1の放送側の規制」については、放送法の各目的(例えば、第1条第1号の「国民に最大限に普及」や第3号の「健全な民主主義の発展」)に照らして、「公正な競争」や「安心・安全」の解像度を上げることにより、図1の「A」「B」「C」の分類の妥当性がより導きやすくなるようにも思われる。
 いずれにしても、政府が、配信の世界において「安心・安全」を提供できるメディアを作りたいというのであれば、そのメディアが持続可能となるような支援は不可欠であろう。

2 結語に代えて
 以上は、放送ガイドライン上の規律を配信の世界にどのように拡張適用するかという議論であるが、そうではなく、電気通信ガイドラインを抜本的に改正し、一部のVOD事業者については放送ガイドライン並の規律をかける、という考え方もあり得る。しかし、そもそも現在のEUのAVMS指令のように、あるいは2000年代の大議論が企図したように、放送と配信の法制が統合されていれば、もとより両ガイドラインは1つになっていた筈である。
 先に述べた総務省の在り方検では、メディア利用に占めるネット依存が高まる中で、法的に規律された放送事業者、特に地上波放送局が「デジタル情報空間」での課題にどう取り組むかについても議論がなされている²³。すなわち、近年のSNSの普及・浸透の中で顕在化した「フェイクニュース」や「フィルターバブル」、「エコーチェンバー」といった問題に、既存の地上波放送局がどう向き合っていくのか、また、放送の役割として何をすべきかという点が課題となっているが、このような課題を解決するためには、個人情報保護の分野のみならず、放送法と電気通信事業法の統合という抜本的な対応が不可欠である。
 個人情報保護分野における放送と通信の融合の議論は重要なものであるが、このような抜本的な対応の中に吸収されるのが、議論の本来在るべき姿ではないだろうか。

(以上、完)

¹ 総務省「放送分野の視聴データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」第7回会合 資料7-2、5頁(総務省ウェブサイト内、2022年4月)(2022年9月19日最終閲覧)を転載。
² 同上19頁参照。
³ 同上7頁参照。
⁴ 同上10頁参照。
⁵ 総務省 放送・通信の在り方に関する懇談会「報告書」(2006年6月6日)。
⁶同上5頁参照。
⁷ 総務省 放送・通信の総合的な法体系に関する研究会「報告書」(2007年12月6日)。
⁸ 同上8頁参照。
⁹その後、2010年に改正放送法が成立し、通信・放送関連法は、放送法(コンテンツ規律)、電気通信事業法(伝送サービス規律)及び電波法・有線電気通信法(伝送設備規律)の4つに集約された。
¹⁰ 情報通信審議会「通信・放送の総合的な法体系の在り方<平成20年諮問第14号>答申」(2009年8月26日)参照。
¹¹ 同上11頁参照。なお、前掲注7)の研究会の構成員であった中村伊知哉慶應義塾大学教授は、実現しなかった理由について「(…)報告の発表後、「これは規制強化策だ」「ネットに対する国の介入だ」「表現の自由を侵すものだ」との報道やブログへの書き込みが相次いだ。(…)きっとこれは、研究会側がきちんとしたメッセージを発していない(…)検討に携わった側が、反響をきちんと読んだうえで政策をプロモートする努力を怠っていたということだ」と述懐する(中村伊知哉『「通信と放送の融合」のこれから』257頁(翔泳社、2008年)参照)。
¹² なお、NHKについては、2007年と2019年の放送法改正により、通信事業への進出が認められ、常時同時配信が可能となった。
¹³ 総務省 デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ」(2022年8月5日) 参照。
¹⁴ 同上39頁参照。
¹⁵ 同上19頁参照。
¹⁶ 生貝直人『情報社会と共同規制』60頁(勁草書房、2011年)の図表3.1を参考に作成。
¹⁷ 放送番組のインターネット同時配信等に係る権利書の円滑化のため、①権利制限規定の拡充、②許諾推定規定の創設、③レコード・レコード実演の利用円滑化、④映像実演の利用円滑化、及び⑤協議不調の場合の裁定制度の拡充といった改正がなされた。
¹⁸ 前掲注11)参照。
¹⁹ なお、コンテンツ規律がインターネットの世界に導入されたとしても、その合憲性を担保するための理論としては、長谷部恭男「デジタル情報空間における放送と放送法制」ジュリ1574号14-19頁参照。放送法におけるコンテンツ規律の正当化根拠として言われていた「部分規制の法理」が通信の世界にも拡張されうることを示唆している。
²⁰ ただし、単純に「AVMS指令がやっているからいいではないか」というように言うことはできない。欧州と日本とでは、表現の自由を規制する立法への考え方が異なるからである。例えば、ヘイトスピーチについて、その表現内容を規制する立法は、欧州では法制化されている一方で、日本や米国ではされていない。
²¹ 総務省・前掲注13)39頁参照。
²² 具体的には、ターゲティング広告等の制限によって失われる財産的な損失を補填するための財政的支援や、当該VOD事業者が行うコンテンツ配信の国民への浸透を促すために、当該事業者のウェブサイトへのリンクを国内の有力なポータルサイトに置くことや、当該事業者のアプリにアクセスするためのボタンをテレビ受信機のリモコンに置くこと等が考えられる。
²³ 音好宏「放送の現在位置と未来像の描き方」ジュリ1574号32頁、36頁(2022)参照。

<執筆者略歴>
大平 修司おおひら・しゅうじ
1983年生。2010年弁護士登録、弁護士法人中央総合法律事務所入所。2016年TBS入社。
2021年に日本初の表明保証保険を専門とする株式会社タイムマシーンアンダーライターズに参画。主要著書に、森本茂編『募集株式発行の法と実務』(商事法務、2016年)(共著)、弁護士法人中央総合法律事務所編『金融商品取引法の法律相談』(青林書院、2013年)(共著)など。

矢内 一正やない・かずまさ
1982年生。2006年東宝入社。2020年TBS入社。
東宝にて映画・ドラマの制作管理、二次利用、会計、契約法務、知財管理、与信管理、個人情報関連の仕事に幅広く従事。その経験を活かし、現在はTBSビジネス法務部とTBSHDビジネス戦略部に在籍。近著に「地殻変動に揺れるエンタメ業界」(IPジャーナル21号より連載)(共著)など。

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