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〈ラジオ 長寿番組の研究③〉 CBCラジオ「つボイノリオの聞けば聞くほど」

【全国のラジオ局には魅力あふれる長寿番組が多く存在する。第3回はCBCラジオで活躍、中京圏に知らない人はいないつボイノリオさんの「聞けば聞くほど」】

 つボイノリオさんのことを知らない人は中京圏にいないだろう。CBCラジオの看板番組「つボイノリオの聞けば聞くほど」のメインパーソナリティで、この番組は今年10月に30周年を迎える。月曜日から金曜日の午前9時から3時間にわたる長丁場の番組を毎日続けられてきたことは本当に凄いことだと思う。

 つボイさんのことを番組プロデューサーは「幅広い才能をお持ちで、それでいて実に腰の低い方」だと評する。永六輔さんはつボイさんのDJとしての実力とこの番組にほれ込み、生前、この番組にふらりとやってきて友情出演したことがしばしばあった。永さんは自らの番組では葉書しか読まないことで有名だったが、つボイさんがFAXやメールまで読み込んでいるのを知って、おおいに感心したという。

 つボイさんはもともとシンガーソングライターとして名を馳せた。つボイさんが作るコミックソングは下ネタをベースにした言葉遊びの歌詞が多く、そのきわどさが世間を騒がせたこともあったが、ファンが多いのも事実である。

 今でもファンやリスナーの集いでお約束となっている代表作「金太の大冒険」をつボイさんが歌い始めると、ファンが作中の歌詞「金太、負けるな」を横断幕にして会場を盛り上げるといった具合である。このフレーズは番組ステッカーにまでなり、ノベルティとして好評を博している。

 そんなこともあって、きわどいコミックソングを制作した印象ばかりがつボイさんにはつきまとうことになるのだが、「つボイノリオの聞けば聞くほど」を実際に聞いてみると、硬派な時事ネタにかなりの時間を割いているというのが正直な印象だ。

 朝9時になると番組のタイトルコール、そして、「みなさーーーーーん、おはようございます。つボイノリオです」と張りのある声で元気よく滑り出す。番組当初からコンビを組むのはCBCアナウンサーの小高直子さん。基本はこの二人でリスナーからのお便りを紹介しながら進行していく。

番組に届いたお便りの束とつボイさん

 軽いオープニングトークの後は、すぐに「中日新聞ニュース」コーナーへと進む。ニュースを担当するCBCアナウンサーが日替わりでスタジオにやってきてニュースを伝え、このニュース受けから9時台はほぼ時事ネタ中心に進行。来たばかりのFAXやメールを含めたお便りの中からその日のニュースに関連するものを紹介しながら、つボイさん、小高さんの丁々発止が続いていく。

 時には若いニュース担当のアナウンサーが返答に窮する質問をつボイさんが投げかけたり、つボイさんの話が脱線しかけた時には小高さんが軌道修正をする。総じて、二人の呼吸は小気味が良い。まさに序盤の1時間は床屋政談状態に突入する。

 話題はバイデン大統領のウクライナ電撃訪問や北朝鮮のICBM対応などの国際情勢からLGBT理解増進法案や岸田総理の発言などの内政に至るまで実に幅広いのだが、それぞれのニュースに関連するリスナーからの多様な意見が届いていることに感心させられる。多い日だとお便りは1000通を超えるという。番組責任者によれば「最近は9時台の時事ネタを取り扱っているコーナーが一番人気」だという。

ネタコーナーだけのお便り(整理済み)

 もちろん、時事ネタばかりではなく「10時のつボ」などくだけたコーナーでは、つボイさんの「得意ジャンル」に入る下ネタ系の話から徳川家康などの歴史に至るまで色とりどりの話題を提供し続けている。重厚な時事ネタと散りばめられる多彩な話題、その辺りに中高年の圧倒的な支持を獲得してきた理由が隠されているのではないか。

 長寿の秘訣についてはこの後引き続き佐藤陽介番組プロデューサーにお書きいただいたので、この稿は番組のキャッチコピーをもって締めくくりたい。

 「皆様からのメッセージが何よりの宝物!社会の出来事から家庭内の人に言えないあんなことまで…。上から眺め下からのぞき右から見つめ左から考える」。

 この番組を象徴する実に練られたコピーである(調査情報デジタル 編集部)。

30周年を目前に「かわらないけど変わっている!」番組

「つボイノリオの聞けば聞くほど」番組プロデューサー
 佐藤陽介

 今回は長寿番組の秘訣をという事で執筆の依頼がありましたが、「つボイノリオの聞けば聞くほど」は少々特殊な番組なので、長寿番組の秘訣をこの番組から得るのは難しいかもしれません。「つボイノリオの聞けば聞くほど」(以下「聞けば」)は毎週月~金の朝9時から東海三県(愛知・岐阜・三重)を放送エリアに3時間の生放送でお送りしています。

 番組パーソナリティは「金太の大冒険」でおなじみのつボイノリオと小高直子アナウンサー。一日に送られてくるメールは300~500通程度。多い時は1000通を超えるときもあります。ちなみに一年で一番多くお便りが来るのは6月9日の「つボイノリオ記念日」。コアなリスナーさんは6時9分を狙ってメールを送って来ます(笑)。

お便りは「宝もの」

 「聞けば」は番組開始からずっと「今」の話題にこだわり、リアルタイムでリスナーさんと共有・共感することを大切にしています。「双方向性」は今のSNSの時代では当たり前の事ですが、「聞けば」は30年前からFAXや電話、メールなどで「双方向性」のスタイルを続けています。

番組に届いたFAXやメール

 「聞けば」はメールテーマを設けていません。そのためリスナーさんは関心のある出来事をメールやFAXで送ってきます。番組によせられるお便りは、政治、経済、芸能、歴史、スポーツ、文化、最近ではSDGsやLGBTQ、身近な話題では夫婦喧嘩や嫁姑問題、そしてつボイノリオに欠かせない下ネタなどオールジャンル。それらをつボイさんやディレクターが構成して放送しています。

 つボイさんは毎日番組終了後、ラジオ制作フロアにある通称「つボイ部屋」でディレクターと一緒にお便り整理をします。お便りを読んで疑問に思った事や足りない資料はネットなどで調べて、翌日の番組の構成を整えます。帰宅は午後10時を過ぎる事もあります。

つボイ部屋

 放送当日は7時半頃スタジオ入りして、担当Dと一緒に朝来たメールに目を通し、昨日準備したお便りに追加したり、タイムリーな話題であればネタを差し替えるなどして放送開始の9時直前までお便りを読んでいます。

 放送中もリアクションメールがたくさん来るので、完パケの時間などを使ってお便りを読みます。お便りを読むことに専念する為つボイさんには台本がありません。進行は小高アナが行います。さらに「聞けば」は番組開始前の打ち合わせはありません。ディレクターが小高アナと生CMや告知原稿などの確認をするだけです。

 つボイさんは、「聞けば」は何百人何千人の構成作家をタダで雇っているようなものだから、面白いネタを見逃さないようにするのが私の仕事。お便りは「宝もの」なのだと良く言っています。つボイさんはじめスタッフは「聞けば」の核で一番大切なお便り(リスナーさん)と真剣にそして誠実に毎日向き合っています。

雑談、井戸端会議も「宝もの」

 「聞けば」スタッフは番組終わりにスタジオに立ち寄り、当日の放送について「あーだ、こーだ」言い合う事が日課になっています。お互いにさりげなく褒め合ったりダメ出しをしたり、面白おかしく井戸端会議に花を咲かせます。

 一見無駄に思える放送後のおしゃべりは、放送では踏み込み切れなかった話題の整理になったり、翌日の話題への引継ぎになったりしています。つボイさんもスタッフも本音で話すので実際の放送より面白いんじゃないかと思うくらいです。時にはその雑談から出たアイデア(思いつき)が企画に繋がることがあります。

 6月9日を「つボイノリオ記念日」として日本記念日協会へ登録するまでのストーリーを番組で扱い、最終的にはCBCホールで有料の集客イベントや記念Tシャツを販売してマネタイズしたり、飲食店を経営しているリスナーさんをCBCの第1スタジオに集めてリスナーさんにお買い物をしてもらう地域活性イベントの「金太マルシェ」などがその一例です。

 つボイさんとスタッフが屈託のない話が出来る環境は「聞けば」の原動力の一因です。

かわらないけど変わっている!変わって行くけど、かわらない

 つボイさんは「金太の大冒険」がヒットしたおかげでコミックソングの帝王的な扱いをされていますが、実はとても博学です。歴史好きで、お茶や俳句もやります。鍼灸師の資格を持っていて、パソコンのオリジナルのフォントを自ら作って販売した事もあります。芸能関係の人間関係も幅広く、山下達郎さんや竹内まりやさん、お亡くなりになられた永六輔さんとも交友がありました。

 元々れっきとしたシンンガーソングライターですから、ギターやハーモニカ、テルミンなども演奏します。「聞けば」30周年企画として、「大きな古時計(ZuZuバージョン)」の伊藤秀志さんと一緒にインストのカバー曲を毎月YouTubeにアップしています。(この原稿を書いている最中も「つボイ部屋」で「Over the rainbow」のギターの練習をしている演奏が聞こえてきます。)

 最近はeスポーツイベントの「ぷよぷよ」ゲームを真剣に楽しんでいます。「老舗の仕事は伝統を守る事では無く、新しい商品を打ち出していく事」とつボイさんが良く言っていますが、豊富な知識と経験、そして新しい事に積極的に挑戦するつボイノリオがMCだからこそ、長くリスナーさんに愛されて番組を続けてこれたのだと思います。

 「かわらないけど変わっている!変わって行くけど、かわらない」をモットーにCBCラジオ「つボイノリオの聞けば聞くほど」はお便りを紹介して「今」にこだわる番組スタイルは変えず、常に中身をアップデートしてリスナーさんに愛される番組を放送し続けていきます。

<つボイノリオさん略歴>
1949年4月生まれ。愛知県一宮市出身。愛知大学卒。大学在学中に深夜番組『CBCヤングリクエスト』へ出演、その時の自作曲「本願寺ブルース」でレコードデビューする。1972年から『ミッドナイト東海』(東海ラジオ)』のDJ、73年からはCBCラジオに活躍の場を移す。DJとともにシンガーソングライターの活動も続け、コミックソングでヒットを飛ばし、放送禁止指定を受けた曲も数多い。
93年からは現在の「つボイノリオの聞けば聞くほど」のパーソナリティを務め、今年10月で番組開始30年を迎える。2016年には「平成28年度愛知県芸術文化選奨・文化賞」を受賞。2018年には「つボイノリオの聞けば聞くほど」スタッフ・リスナー有志に対して日本記念日協会が6月9日を「つボイノリオ記念日」として認定した。

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