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データからみえる今日の世相~どうなってる?家康への関心度~

【ドラマの影響も見逃せない「歴史上の人物への関心度」】

江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)

 今年(2023年)のNHK大河ドラマは、徳川家康が主人公。タイトルは『どうする家康』。
 番組の公式サイトには、「新たな視点で、誰もが知る歴史上の有名人徳川家康の生涯を描く」とあり、「死ぬか生きるか大ピンチ!計算違いの連続!我慢の限界!どうする家康!」と惹句が踊っています。

 1963年の『花の生涯』に始まる大河ドラマは、『どうする家康』で62作目。その中には架空の人物が主人公の作品もありましたが、ここしばらくは歴史上の人物の生涯を1年かけて丹念に描写するのが主流。
 昨年の主人公は鎌倉幕府二代執権・北条義時、一昨年は幕末から明治にかけて近代日本の礎を築いた渋沢栄一でした。
 大河ドラマで取り上げることが、業績はおろか名前もろくに知らなかったような人物への関心を一挙に高めるきっかけになっている様子。

 とはいえ、ドラマで取り上げられやすい時代や人物もあり、戦国時代の徳川家康もその一人。
 62作中、家康が出てくるのは25作で、家康自身が主人公なのは最新作の他に83年『徳川家康』と00年『葵 徳川三代』の2つ。

 これだけ取り上げられるなら、その関心度もさぞかし……?
 それでは、データで確かめてみましょう。

男性は戦国武将に興味津々

 TBSテレビが東京と阪神地区で行っているTBS総合嗜好調査では、「興味を感じたり、詳しく知りたいと思う歴史上の人物」をいくつでも選んでもらう質問を、70年代から半世紀近く続けています。
 これには世界の偉人版もあるのですが、日本版の質問では最初70人程度が選択肢でした。そこから徐々に数を増やし、最新の調査データ(22年)では88人になっています。

 そこで、最新データを東京と阪神に分け、それぞれ男女別に「興味を感じる歴史上の人物」ベスト10を集計してみました。
 まず、東京地区の集計結果は次の棒グラフのとおりです。

 男性の1位はダントツで織田信長。2位の伊達政宗と10ポイント以上の差があります。一方、女性の1位は卑弥呼で、信長は2位。ちなみに男性での卑弥呼の順位は後半で、上杉謙信や聖徳太子と同等の関心度。
 信長の草履取りから出世した豊臣秀吉は男性4位で、注目度は因縁の明智光秀や武田信玄と同等。女性では北条政子などと並び順位は下位。
 そして現在、大河ドラマで主役を張る家康は、男性で10位、女性では清少納言と並んで中位。

 信長・秀吉・家康の3人は何かとよく比較されますが、関心度の面では男女とも信長が上位。そして、男性はやや秀吉に関心を持つ人が多いですが、女性では秀吉も家康もそれほど差はない感じです。

 もう少し詳しく見てみると、男性では坂本龍馬、卑弥呼、聖徳太子以外は全員、戦国武将。激しい合戦でぶつかり合い、謀略の限りを尽くす、といった戦国時代のイメージとともに、男性が興味を持ちやすい癖の強い人物がランクインしているようです。

 一方、女性ではランクインした人物のうち、じつに4人が女性。
 卑弥呼を筆頭に、来年(2024年)大河ドラマの主人公となる紫式部や、その紫式部がライバル視したらしい清少納言(諸説あり)、そして昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で大活躍した北条政子と、時代はいろいろ。
 女性が女性の偉人に興味を持つのは当然ですが、88人もある選択肢のうち女性の人物は、ランクインした4名に皇女和宮、千姫、淀君を加えた7人だけ。

 歴史を動かした女性は数多くいますが、こうした質問の選択肢は、質問の作り手が「一般の回答者の多くが知っていそうか」を気にして作っています。今50代の筆者が昔、学校で教わったような人物中心・政治史中心の「歴史」だと、どうも男性の人物が多く目につきがちなのかも知れません。

阪神はなぜか岡本太郎に熱視線

 続いて、阪神地区の集計結果を見てみましょう。

 阪神でも男性1位は信長、女性1位は卑弥呼というのは東京と一緒。しかし、それ以外の細かいところに東京との違いが見られます。

 例えば、秀吉の順位は男性で2位、女性で4位と、明らかに東京より上。大阪城を築いた「太閤さん」、西と東で親しみが違うのはいかにも。
 一方、家康への関心度は東西の男性回答者で14%と同程度、女性も東京で11%、阪神で8%と大差ない様子。ただし、阪神女性では他に関心度の高い人物が多くて、さすがの神君・家康もランク外。
 また、女性で1位の卑弥呼は、阪神男性では関心度11%と、今一歩及ばずランク外。
 では、阪神で卑弥呼や家康を押しのけてランクインしたのは、一体どんな人物なのでしょうか?

 阪神男性の回答で上位に食い込んだのは戦国武将・真田幸村に幕末の剣士・沖田総司。真田幸村は『真田丸』、沖田総司は『新選組!』とそれぞれ関連の大河ドラマもあり。
 しかし、大河ドラマとは関係ない芸術家・岡本太郎もランクイン。調査の実施時期(2022年10月)に大阪で岡本太郎の大回顧展があったことが影響しているのかどうか……?(注1)

 一方、阪神女性では、沖田総司、岡本太郎とともにランクインしたのが、「経営の神様」松下幸之助。大阪でなじみのある有名人だからだと思いますが「エライ渋いとこ、突いてきた」感じです。

ブレークした信長、鳴くまで待つ(?)家康

 最後に、信長・秀吉・家康の戦国三英傑、そして女性関心度トップの卑弥呼の関心度推移をまとめたところ、次の折れ線グラフになりました。

 グラフ全体を眺めると、00年までの20世紀の間は卑弥呼の関心度が高く、05年前後に信長への注目が急騰して今日に至る、というのが大まかな流れになります。

 卑弥呼への関心には、背景に当時の邪馬台国ブームがあります。
 1967年刊行の書籍『まぼろしの邪馬台国』(宮崎康平著)に端を発して「邪馬台国はどこにあったか」という論争がブームに。
 その後も、89年に巨大墳丘墓が確認された吉野ヶ里遺跡(佐賀県)を邪馬台国と結びつける議論や、97年に安満宮山古墳(大阪府)で出土した銅鏡を卑弥呼が中国・魏からもらった「銅鏡百枚」と結びつける議論など、折に触れて邪馬台国や卑弥呼が話題になりました。

 一方、そこそこだった信長の関心度は、00年代半ばにブレーク。
 09年に妻夫木聡が戦国武将・直江兼続を演じた大河ドラマ『天地人』では、ロックミュージシャンの吉川晃司が信長を演じて話題に。
 14年には、開局55周年のフジテレビが、マンガ『信長協奏曲』のマルチメディア展開を開始。信長役をドラマでは小栗旬、アニメでは人気声優・宮野真守が担当して一大ブームとなりました。(注2)

 そんな中、家康は、81年放送のTBS創立30周年記念番組『関ヶ原』で森繁久彌が演じたり、83年の大河ドラマ『徳川家康』で滝田栄が演じたりと、80年代前半には30%に迫る関心度がありました。
 が、その後は長期低落傾向が続き、近年は1割強の関心度で推移中。

 戦国三英傑では、ホトトギスの鳴かせ方でキャラの差を表す川柳が有名です。「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」の家康としては、『どうする家康』での再ブレークをじっと待っているところでしょうか。

 果たして、信長を追い落とす関心の高まりを天下に示せるか?どうなる、家康⁉

注1:岡本太郎の大回顧展『展覧会 岡本太郎』は22年7月~10月に大阪、同年10月~12月に東京、23年1月~3月に名古屋で開催されました。ちなみに22年調査での東京地区13~59歳の岡本太郎関心度は、男性10%、女性5%でした。
注2:『信長協奏曲』は、16年にドラマと同じキャストによる実写映画も劇場公開されました。

<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は総合マーケティングラボに在籍。

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chousa@tbs-mri.co.jp

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