<シリーズ SDGsの実践者たち> 第30回 世界初の「紙パンツ・紙おむつの水平リサイクル」とは
「調査情報デジタル」編集部
埋め立て処分場延命のために始まったリサイクル
ごみを27品目に分別することで、リサイクル率が80%を超えている鹿児島県大崎町。これまでにリサイクル率日本一を14回達成している町だ。
リサイクル率80%のうち、生ごみの堆肥化だけで60%を達成している。町内から回収された生ごみは草木とともに細かく砕かれたのちに、有機工場で空気と水を管理しながら発酵させる。6か月間の発酵によってできた堆肥は、5キロ100円で販売され、町内の農家や家庭菜園に使われている。
大崎町は隣の志布志市と共同で、埋め立てによってごみを処分してきた。現在の埋め立て処分場は1990年に利用を開始し、2004年まで使用する予定だったが、実際のごみの量が多く、計画より早く処分場が埋まってしまうことが発覚した。焼却炉の導入も検討されたが、建設にも運営にも莫大な費用がかかることから断念。そこで1998年から導入されたのが、ごみの分別とリサイクルだった。
リサイクルは当初3品目から始まった。2002年から生ごみの堆肥化を導入したことで、埋め立て処分するごみは大幅に減少した。現在は27品目に分別されて、リサイクル率は80%を超える。その結果、処分場はあと40年は延命できる見通しとなった。
それでも、もっとリサイクルができれば、処分場はさらに延命できる。そこで新たに取り組んでいるのが、現在埋め立てられているごみの約30%を占めている、紙おむつのリサイクルだ。
紙パンツと紙おむつの水平リサイクルは世界初
リサイクル技術を開発したのは、衛生用品メーカーのユニ・チャーム。愛媛県で建材メーカーとして1961年に設立されたユニ・チャームは、生理用品や紙おむつといった衛生用品の製造と販売で世界第3位の規模を誇る。
使用済み紙パンツと紙おむつを原料として使って、同じ製品を新たに作る水平リサイクルは、世界で初めて開発された技術だ。2010年頃から検討を始め、2016年に志布志市と実証実験の協定を締結した。大崎町も協定に参加し、2020年から大崎町全域に回収ボックスを設置して分別回収を開始。町内のそおリサイクルセンターでリサイクルを始めた。
リサイクルを始めた理由を、ユニ・チャームRecycle事業推進室の織田大詩さんは次のように説明する。
「国内では少子化で子ども用紙おむつのごみが減っている一方、大人用の紙パンツのごみは増えています。後期高齢者の割合が高くなっていることで枚数が増え、子ども用に比べて容量が大きいことも原因です。環境省の試算では、2015年に一般廃棄物全体の4.7%から5.5%を占めていたのが、2030年には7.1%から7.8%くらいにまで増えると予想されています。
使用済みの紙パンツと紙おむつは、廃棄することにより衛生性が担保されます。とはいっても、資源として利用できて、かつ、衛生的な製品を届けることができればと考えて、リサイクルの研究を始めました。大崎町と志布志市の一部で最初に始めたのは、もともと分別回収が進んでいたことで、紙おむつと紙パンツだけを分別回収する協力が得られるのではと考えたことも要因です。今年の4月からは志布志市でも全域で分別回収を始めます」
水平リサイクルの要の技術は「オゾン処理」
紙パンツや紙おむつは、大きく分けて3つの素材からできている。1つが木材からできたパルプで約50%を占める。約30%がポリエチレンなどのプラスチック、約20%が高分子吸収剤であるポリアクリル酸ナトリウム(SAP)となっている。ユニ・チャームが開発したのは、洗浄した上でパルプ、プラスチック、SAPをそれぞれ取り出す方法だ。
回収された紙パンツと紙おむつは、破砕されて金属探知機にかけられる。異常がなければ薄めた硫酸水で洗いながら、SAPが水を吸わないようにして、パルプとプラスチックを分離する。分離したパルプはさらなる洗浄にかけられ、その際に気体のオゾンが使われる。このオゾン処理がユニ・チャーム独自の技術だ。オゾンは浄水処理にも使われていて、脱臭や脱色、殺菌を行うことができる。
最後にすすいで取り出されたのが、衛生面でも安全面でも問題ないパルプだ。ユニ・チャームではこのパルプを資材の一部に使った大人用の紙パンツを2020年から製品化し、九州内の高齢者施設などに販売している。
さらに2022年からは、分離して取り出したプラスチックを合成樹脂のペレットにして、紙パンツと紙おむつを回収する専用の袋を作るようになった。紙パンツと紙おむつ、それに回収袋への再生という形で、世界初の水平リサイクルを実現した。
水平リサイクル拡大には課題も
水平リサイクルは技術的には実用化の目処がたった。ただ、今後の拡大に向けては課題もあると織田さんは説明する。1つは、心理的なハードルだ。
「リサイクルされたパルプで作った紙パンツや紙おむつに心理的な抵抗があって、使いたくないという人がある程度いるのは事実です。リサイクルパルプを使用している製品にはその旨を明記して、納得して使っていただくことを前提に考えています」
もう1つは、行政が動かなければ導入が進まないことだ。使用済みの紙パンツや紙おむつは一般廃棄物となっていて、処理責任は自治体にある。大崎町のように分別回収をする自治体はほとんどないのが現状だ。
「分別回収ができるかどうかと、処理する場所、さらには処理にかかる費用など、他の自治体に広げていくには課題がたくさんあります。どの自治体でもできるように、オペレーションやコストをこの実証実験でもっと明確にしていく必要があります。
もちろん、私たちのリサイクルが唯一の解ではないことはわかっています。それでも、おむつメーカーとして資源を有効活用したい。自治体が新たにごみ処理の仕組みを考えるタイミングで紙おむつのリサイクルも考えてもらえるように、ソリューションを提供していきたいと考えています」
使用済み紙パンツと紙おむつのリサイクルは、他の方法も含めて現在10自治体程度が実施している。環境省は2030年までに100程度の自治体で実施もしくは検討されるように広げたい考えだ。大崎町と志布志市がユニ・チャームと取り組む水平リサイクルが、理想型の1つであることは間違いない。
今後紙パンツや紙おむつのごみが確実に増えていく中、技術が確立しつつある水平リサイクルが広がるかどうかは、行政と住民の意識が鍵になりそうだ。
この記事に関するご意見等は下記にお寄せ下さい。
chousa@tbs-mri.co.jp