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2021年の放送界を振り返って
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2021年の放送界を振り返って

調査情報デジタル
【コロナ禍、東京オリンピック・パラリンピック、総務省幹部高額接待、様々な出来事のあった2021年の放送界をメディア論が専門の上智大学音教授が総括する】

音 好宏(上智大学教授)

 2021年が終わろうとしている。

 「調査情報デジタル」編集部から、この1年を振り返る稿を書くよう、ご依頼いただいた。本稿では、今年の放送番組などコンテンツの話題は別稿に譲り、それ以外の放送を中心としたメディアの特徴的な動きをまとめておきたい。

猛威を振るい続けた新型コロナウイルス感染症とメディア

 2020年1月に、日本で新型コロナウイルス感染症の患者が発見されて以来、日本社会は、この新型コロナウイルス感染症に翻弄され続けた。それは放送も例外ではない。

 新型コロナウイルスの感染予防のため、在宅勤務が推奨され、飲食店での夜間の営業自粛や、会食人数の制限といった措置は、私たちの生活行動も少なからず影響を受けた。特に在宅時間の増加により、自宅でのメディア接触時間は、おしなべて増加傾向を示したとされる。

12① 画像② 臨時休業

 ただ、それがメディアの収益増につながったかと言えば、話は別である。

 2021年3月、電通が2020年の広告市場の動向をまとめた「日本の広告費」を発表したが、それによると、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響により、日本の総広告費は6兆1,594億円(前年比88.8%)と、東日本大震災のあった2011年以来、9年ぶりのマイナス成長となったという。これは、リーマン・ショックの影響を受けた2009年(同88.5%)に次ぐ下げ幅となった。媒体別でも、新聞・雑誌・ラジオ・テレビ広告のいわゆる4マス広告の総計が2兆2,536億円で、前年比86.4%。媒体別に見ても、全て大きく前年割れとなった。そのうちテレビ広告は、1兆6,559億円で、前年比89.0%。2019年に、テレビ広告がインターネット広告に抜かれて話題となったが、2020年もインターネット広告は、2兆2,290億円、前年比105.9%と、堅調な伸びを示し、4マス広告の総計に迫る売り上げとなった。

 コロナ対策による在宅時間の増加は、テレビモニターへの接触時間の増加に直結したが、マクロ経済連動型のテレビ広告は、コロナ禍による日本経済の冷え込みの影響をストレートに受ける格好となった。他方で、動画配信サービスの契約者が堅調な伸びを示していることは、特筆すべきだろう。ネットに結線されているテレビ受像機の増加はもとより、スマートフォンによる動画視聴の一般化が、動画配信サービスの伸長を後押しした。特にNetflixは、世界市場に展開ができることを強みとして、コンテンツ・メーカーと組んでオリジナル・コンテンツの制作に力を注いでいる。ヒットした前作に続いて、今年は「全裸監督2」を発表。また、世界的には、韓国の「イカゲーム」が世界的なヒットとなった。もちろん、既存のテレビ局もその動きには注目しており、TBSが10月クール放送の「日本沈没」を、地上放送でOA直後に、Netflixで配信したことは話題となった。

【引き続き「放送行政は歪められたのか」に続く】

放送行政は歪められたのか

 今年も「文春砲」は元気だった。

 放送関連の「文春」報道で、大きな波紋を呼んだのは、何と言っても総務省幹部の高額接待問題だろう。放送行政を所管する総務省の幹部が、衛星放送事業を傘下に持つ東北新社幹部から定期的に接待を受けており、その接待役の東北新社社員として、菅義偉首相の子息がしばしば同席していたとする2月の「文春」の報道は、放送行政への信頼を揺るがすものであると同時に、二世議員でもなく、また、地盤があるわけでもない「地方出身の叩き上げ」という菅首相が強調してきた本人のイメージを覆すものでもあった。このスクープが世に出たのが、通常国会の最中ということもあり、野党からの菅首相に対する格好の攻撃材料となり、菅政権は厳しい追及に晒されることとなった。「文春」は、NTTによる総務省幹部への高額接待を続報。総務省の谷脇康彦総務審議官、山田真貴子内閣広報官は、辞任に追い込まれることとなる。

12① 画像 ③ 文春

 加えて国会で東北新社の外資規制違反が指摘され、外資規制に抵触する状況が明らかになった際の東北新社と総務省とのやり取りについて、国会で説明を求められた東北新社社長と総務省の担当課長との内容に食い違いが続いたこともあって、高額接待により「放送行政が歪められた」のではないかとの批判も湧き起こった。

 外資規制については、4月に、フジテレビの放送持株会社であるフジHDが、2012年9月から14年3月まで、放送法が規定する外資比率上限の20%を超えていたことが発覚。14年12月時点で、総務省の当時の放送政策課長が、フジHDから一時違反状態になっていたとの報告を受けていたものの、その時点で違反状態が解消されていたため、フジHDの認定を取り消さない判断となったという。

 東北新社、フジテレビと、外資規制の違反状態が続けて発覚したこともあって、国会で外資規制の厳格化を求める声が高まることとなった。これを受け、総務省は、全放送事業者への調査を行うとともに、制度整備のための検討の場を設けることとなる。

 本来、2021年の通常国会では、受信料値下げのための還元目的積立金制度、NHK中間持株会社への出資制度、受信契約に応じない者への割増金制度の導入など、NHK改革を盛り込んだ放送法改正が予定されていた。しかし、総務省幹部の高額接待問題、外資規制違反が発覚すると、菅政権は早々にこの放送法改正案を審議未了とすることを決定。先の外資規制の厳格化の検討を含め、改めて放送法改正案を提出することとした。放送法改正の審議の過程で、総務省幹部の接待問題等が蒸し返されることを懸念したものとの見方が広がった。

 高額接待問題に端を発して、「放送行政が歪められた」とする批判に対して総務省は、第3者による調査委員会を設置。同委員会は、関係者に対するヒアリングや資料の精査を行い、10月1日に、報告書を公表している。そこでは「放送行政が歪められた」とは言えないが、総務省幹部の高額接待が、行政に対する国民の信頼を損なうものであることはもちろんのこと、この調査が行われている間、放送行政の遂行に影響がなかったとは言えない。放送行政にとって不幸な事件と言わざるを得ない。

AMラジオ放送のFM転換

12 ① 画像④ ワイドFM

 もちろん、この間に放送改革が完全にストップしていたわけではない。着々と環境整備が進められたものの一つが、民放AMラジオ局のFM転換の動きだろう。民放AMラジオ局は、2014年からワイドFMとのサイマル放送を行っているが、送信アンテナの老朽化や経営環境の悪化などから、AM波とFM波の二波を送出することの負担を解消すべく、FMへの転換を検討。2019年3月に開催された総務省「放送事業の基盤強化に関する検討分科会」に、民放連としてAMラジオ局のFM局への転換を要望し、同年8月の同分科会で、この要望が認められるに至った。民放連の要望では、2028年までにAM放送からFM放送への転換や併用を可能とする制度、並びに、2023年をめどに実証実験としてAM放送の停波を可能とする制度の整備を要請していた。

 この6月には、民放連加盟のAMラジオ47社のうち、北海道と秋田のAM3社を除く44社が2028年秋までにFM事業者に転換することを共同で宣言。2023年11月には、FM放送転換のための実証実験がスタートすることになる。

 ローカル民放ラジオ局の経営環境は厳しく、2020年に新潟と愛知の民放FM局が停波を余儀なくされたが、他方でradikoが浸透し、そのデータがマーケティングに活用されつつある。また、ラジオ市場から音声メディア市場へと、その市場観を捉え直すことで、新たなステージに向けた展開も模索され始めている。F転がラジオ局の新たな経営環境整備となるか、注目したい。

東京オリンピックとメディア

12① 画像⑤ 聖火台

 今年開催されたビッグ・イベントとして、まず挙げなければならないのは、何と言っても東京オリンピックであろう。7月23日、東京2020オリンピック競技大会が開幕。コロナ禍のため、2020年の開催を1年延長しての開催であったが、新型コロナウイルス感染症が収まらないなかのオリンピック開催ということもあって、バブル方式という選手団の行動エリアを制限する一方、無観客での競技とし、極力、一般市民との接触を避けての運営という、異例の開催となった。その分、会場でのリアル観戦ではなく、テレビなど、メディアを通じた観戦が推奨されるなど、メディア・イベントとなることが期待されたオリンピックとなった。ただ、開催期間中、国内では、第5波の新型コロナウイルスの感染拡大が起こっており、また、ワクチン接種も途上ということもあって、東京オリンピック開催直前まで、その開催に批判的な声は少なくなかった。

 高知新聞(5月12日)、信濃毎日新聞(5月23日)、朝日新聞(5月26日)は、政府に東京オリンピック中止の決断を求める社説を掲げ、開催を疑問視する姿勢を示した。朝日新聞社は、他の全国紙などとともに、東京オリンピックのオフィシャル・パートナーになっているが、その際に、朝日新聞社のオフィシャル・パートナーとしての活動と、言論機関としての活動は、一線を画すことを唱っている。しかし、オリンピックの中止を求めた社説が掲載されたことのインパクトは大きく、「オリンピックのスポンサーを下りるべき」といった声も少なくなかった。同様に、テレビ報道においても、オリンピック開催前には、第5波による感染者の急増もあって、社会情報番組などで、新型コロナウイルス感染症の押さえ込みができないなかでのオリンピック開催を疑問視する発言が、しばしばスタジオで飛び出したが、オリンピック開催中は、日本選手の活躍を讃える番組に変わっていったことが、批判の的になった。

 8月24日より、パラリンピックが開催。オリンピックに続いて日本選手が活躍したこともあり、その報道量も格段に多く、これまでの五輪以上にパラリンピックへの注目が集まったことは確かである。ただ、このパラリンピック開催中の9月3日に菅首相が退陣を表明。新聞、テレビは、一気に政治モードにシフトしてしまった。

同時配信に踏み出した民放テレビ

 冒頭で、コロナ禍とメディア利用、広告費の変化について見たように、コロナ禍による在宅時間の増加が必ずしも、テレビ放送の追い風となるのではなく、むしろ、SNSを含むネット系メディアへのシフトを加速させたと見るべきではないか。特に若年層のテレビ離れ、ネットシフトが指摘されるなかで、ネットとテレビ放送との協調領域をどのように展開していくかが、今後のテレビ・メディアの将来を占う上で、より重要になっていくであろう。

 そのようななかで注目されたのが、10月2日から、日本テレビが民放公式ポータルTVerを舞台に、同時配信サービスをスタートさせたことである。2019年の放送法改正を受け、NHKは2020年4月から、同時配信サービス「NHK+」を開始。民放にとっては、制度的な制約はないものの、同時配信サービスがどうマネタイズできるのか、また、ローカル局の反発は必至で、民放ネットワークにどう影響を及ぼすのかといった難しい問題もあり、同時配信には消極的な声も少なくなかった。しかし、NHK+のスタートが、このタイミングに乗り遅れてはならないといった刺激として、民放キー局に働いたことは間違いない。日本テレビは、2010年秋にTVerで同時配信の実証実験を行い、そのデータをもとに、この10月からの先行スタートとなった。他の在京民放キー各局も、2022年には同時配信サービスをスタートさせる予定である。

 年末になって、オミクロン株という新型コロナウイルス感染症の新株が、南アフリカから各地に広がっていることを伝えるニュースが世界を駆け巡り、日本国内でも第6波への懸念の声も上がっている。ただ、ワクチン接種の広がりもあってか、徐々にではあるが、経済活動もコロナ前に戻りつつある。2022年こそは、コロナを乗り越えた年となるのだろうか。そしてそこでは、ポストコロナ時代のメディアの役割が改めて問われるのではなかろうか。

<執筆者略歴>
音 好宏(おと・よしひろ)
上智大学新聞学科・教授
1961生。民放連研究所所員、コロンビア大学客員研究員などを経て、
2007年より現職。衆議院総務調査室客員研究員、NPO法人放送批評懇談会理事長などを務める。専門は、メディア論、情報社会論。著書に、「放送メディアの現代的展開」、「総合的戦略論ハンドブック」などがある。

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