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データからみえる今日の世相~好きでない相手との付き合い方‐国の場合~

【走り出したwithコロナの世界で、国づきあいはどこに向かう?】

江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)

 世の中では再び新型コロナウイルスの感染が第9波だとか、既にインフルエンザが流行り始めているとか、感染症の話がちらほら。
 しかし、走り出したら止まらないというか、いったん規制緩和になった日常生活はどんどん動き出しています。

 そんな動きの一つとして感じられるのが、海外旅行の動向。
 法務省の出入国管理統計によると、2023年8月に日本を出国した日本人は120万人で前年同月(38万人)の3倍。一方、日本に入国した外国人は227万人で前年同月(22万人)のなんと10倍と、激しく人が流動中。

 そこで今回は海外旅行や外国に関する人々の意識の移り変わりを、TBS総合嗜好調査データで追いかけてみます。

2人に1人は観光・レジャーで海外旅行

 戦争に負けて連合国軍に占領された日本では、1952年の独立回復まで外国旅行は原則禁止。その後、経済復興を遂げて64年に海外観光渡航が自由化されてから、海外旅行する日本人は増加の一途をたどりました。
 TBS総合嗜好調査では86年から人々の海外旅行経験を調べていますが、東京地区データをまとめた次の折れ線グラフにも、増加傾向が見てとれます。

 グラフでは、観光・レジャー目的での海外旅行経験者は00年頃まで増加を続け、ここ20年ほどは50%前後で推移しています。
 一方、仕事・商用目的での海外旅行経験者はずっと1割程度で、海外に出向く仕事をする人の割合は大して変わらない様子。

 グラフには、81年から調べている「外国文化、海外の流行、国際社会での活躍などにあこがれる傾向」への賛成率も示しました。
 すると、81年は3割未満の「あこがれ」が、経済バブルの膨張もあってか80年代末に4割に達し、続く失われた30年は3割と4割の間を行ったり来たり。

 海外へのあこがれと言えば、戦後間もない48年に歌謡曲「憧れのハワイ航路」が大ヒットしたり、61年に寿屋(現サントリーホールディングス)が「トリスを飲んでHawaiiへ行こう!」キャンペーンを展開したり。
 復興途上の日本人にとって64年の渡航自由化まで、海外は遙か遠くのリゾートや文明先進国として「あこがれ」の地でした。

 しかし、日本が海外貿易を通じて高度経済成長を成し遂げ、海外に行く人も増えるにしたがって、外国は「あこがれ」から、何かにつけて私たちの生活に関わってくる「近しい存在」に変化。
 それは昨今の経済のグローバル化や、来日する外国人観光客、いわゆる「インバウンド」の増加などから、いっそう強く感じられる気がします。

好きな国は「遠い国」

 外国が近しい存在になると、相手への好き嫌いも出てきます。
 TBS総合嗜好調査では87年以降、20の国を挙げて「好きな国」と「好きではない国」をそれぞれ尋ねていますが、22年の最新データで、「好きな国」上位3カ国、「好きでない国」上位4カ国の推移をさかのぼって集計。

 まず「好きな国」の選択率推移を示したのが、次の折れ線グラフです。

 これを見ると、アメリカは03年にイラク戦争を起こしたジョージ・W・ブッシュ大統領時代(01年~09年)にやや数字が下がったものの、概ね4割台の好感度を維持。
 また、90年代前半にはアメリカをしのぐ人気だったオーストラリアは、徐々に好感度が落ち着いて、近年は元々2割前後の人気のイギリスと同程度に。
 一方、近隣諸国では、韓国が長期的に見て徐々に好感度を増しているのと対照に、中国の好感度が長期低落傾向。ロシア(注1)や北朝鮮はほとんど好感度がない状態。

好きでない国は「近い国」

「好きな国」の裏返しが「好きでない国」の推移です。

 断トツの不人気が北朝鮮で、87年の大韓航空機爆破事件や97年の「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」結成などによる世論のたかまりで不人気度が上昇。00年代後半以降は、実に回答者の5人に4人が「好きでない」と答える状態で推移中。

 次いで不人気なのが中国。00年代前半までは2割程度とロシアや韓国より低かったのが、当時の小泉首相による靖国神社参拝などに中国側の反発が高まり、05年に激しい反日デモが発生。その頃から不人気度が急上昇し、10年台は6割前後で推移。

 そして韓国。従軍慰安婦問題で90年代前半に険悪だった日韓関係は、02年W杯サッカー日韓共同開催に向けて不人気度も漸減。しかし、05年の島根県議会「竹島の日」条例決議が韓国側の反発を招き、12年に徴用工問題への韓国大法院判決が日本側の反発を招くなど、関係の悪化とともに不人気度も増し、現在は3割前後で推移。

 さらにロシア。冷戦の東側陣営を率い、87年に不人気度が5割を超えていたソ連が91年に消滅。00年に大統領就任のプーチン氏が再選を果たす04年頃には不人気度が2割弱まで下がって安定推移。しかし、22年のウクライナ侵攻で急激に不人気度が上昇中。

 これらの国々に比べると、愛憎半ばするアメリカも不人気度は1割未満で、イギリスやオーストラリアの不人気に至っては北朝鮮の人気と同じくらいに「無きが如し」。

それで、日本はどうするの?

 日本人は、かつて「あこがれ」を抱いた遠方の国に好感を持つ一方で、戦争など過去の経緯もある近隣の国にはあまり好感を持てていないようです。
 その一方で、中国や韓国は日本の貿易相手国の上位を占める「お客さん」でもあります(注2)。

 好意を持ったり持たなかったり、それでも大事な取引先だったり。
 こうした国と国の間柄を友人や隣人にたとえたりしますが、最後に友人・隣人について含蓄のある世界のことわざ・名句を紹介します(注3)。

「真の友人とは、不幸にあって手を取ってくれる人である」
――アフガニスタンのことわざ
「金がなければ友もなし」
――スウェーデンのことわざ
「人は自分の選んだ隣人ばかりでなく、神が送ってよこした隣人とも住まねばならない。」
――フルシチョフ「訪英中の演説―1956.4.20」

 1953年から64年までソ連共産党中央委員会第一書記としてソ連を率いたフルシチョフの言うように、隣の国は選べません。
 そうした近隣の国々と「真の友人」になることを目指すか、「金の切れ目が縁の切れ目」のような関係か。

 経済力・国力の低落もいわれる日本。走り出したwithコロナの世界の行き先はどこに向かっているのでしょうか。

注1:選択肢「ロシア」は、91年まで「ソ連」、92年は「旧ソ連」でした。
注2:財務省貿易統計によると、2021年の輸出入総額上位国は中国(38兆円)が1位、アメリカ(23兆円)が2位、韓国(9兆円)が4位でした(金額は1兆円未満切捨て)。
注3:アフガニスタンとスウェーデンのことわざの出典は、柴田武・谷川俊太郎・矢川澄子編『世界ことわざ大事典』(1995年、大修館書店)。フルシチョフの言葉の出典は、梶山健編著『世界名言大辞典』(1997 年、明治書院)。

<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は総合マーケティングラボに在籍。

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