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日常への回帰。その先へ~長崎の未来への挑戦

【長崎新幹線、IR構想、そして長崎スタジアムシティプロジェクト。コロナ禍を乗り越え、未来を見すえる長崎の現在地】

下田智行(長崎放送・執行役員報道メディア局長)

 7月の上旬の段階では日常への回帰はしっかりとした形を表しそうな様子であった。第7波の到来は確実視されていたものの、各地では2年間中止されていた夏のイベントやお祭りを復活するべく準備が進んでいた。

 だが第7波の勢いは人々の予想をはるかに上回るもので、復活を予定していたイベントの中にも泣く泣く中止を余儀なくされたものが多かった。

 長崎の夏の風物詩である「長崎ペーロン競漕選手権」も直前になって中止が決まった。一方、「ながさきみなと祭り」に関しては予定通り実施され、3年ぶりの花火が長崎の夜空を彩った。花火を見上げながらようやく日常が戻ってきつつあると感じた方も多かったのではないだろうか。

観光に活路を見出す

 ところで長崎県はコロナ禍以前から人口流出が多く、経済が縮小する傾向にある。長年長崎の経済を支えてきた造船業が衰退し、それに関連した産業や地銀も合理化を進め大学を出た若者の就職先が地元では限られてしまっている事がその一因である。

 そのような中、長崎の経済は観光に活路を見出す動きが目立っている。

 2015年「明治日本の産業革命遺産」、2018年「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」と2つの世界遺産が相次いで登録された。

 そして、長崎港にはほぼ毎日外国から豪華客船が寄港するようになった(現在はコロナ禍で寄港は中断されているが、長崎県の担当者によるとコロナ禍が収まり次第、また復活するよう準備が進められているとの事)。

JR長崎駅完成予想図

 今年9月23日には長崎県民の悲願である長崎新幹線が開通する。新幹線開業に合わせて、長崎駅周辺の開発は「100年に一度の変革」と言われるほどの勢いで進んでおり、ヒルトンホテルが開業、次いでマリオットホテルも開業を予定しており、一流ホテルが相次いで長崎に進出してくる。

 また、ハウステンボスがIR(カジノを含む統合型リゾート)の候補地となっている。(HISがハウステンボスを香港のファンドに900億円で売却するという報道がなされており、これが事実ならIR計画に影響するのではとの憶測もあるが…)

九州長崎IR(提供:長崎県)
※現ハウステンボス敷地内に建設予定

長崎スタジアムシティプロジェクト

 これら官主導の動きだけでなく民間主導の動きも出てきた。

 ジャパネットたかたの高田旭人社長は「民間主導で地域創生モデルを確立する」と宣言し、800億円を投入して長崎スタジアムシティプロジェクトを進めている。

 30年以上前に弊社NBCラジオを使って通販事業を始めたジャパネットはやがてラジオとテレビの通販で全国に進出し、今ではサッカークラブ「V・ファーレン長崎」やバスケットボールチーム「長崎ヴェルカ」を有する長崎を代表する企業となっている。そのジャパネットがスポーツを通じて地域創生事業を起こそうという計画を具現化したのがこの長崎スタジアムシティプロジェクトである。

 長崎スタジアムシティはサッカーのスタジアムを中心にアリーナ、商業施設、オフィス、ホテルまで備える巨大なまちである。ジャパネットが開発した端末は様々な決済システムに一台で対応出来、この街の中は完全キャッシュレスになる予定である。

 新しい長崎に向かって想いを1つにするためのスローガン「N team」のクリエイティブプロデューサーには長崎出身のタレント福山雅治氏が就任している。福山雅治氏が自ら演出し出演するスタジアムシティのテレビCMが長崎地区では放送されており、県民の期待が高まっている。

 「長崎県内の雇用をこのプロジェクトによって増やしたい」という高田社長の言葉には感じ入るものがあるし、長崎を代表する企業が長崎の未来の為に立ち上がった事は大変喜ばしい事である。

長崎スタジアムシティ
(構想段階の為、今後デザイン含め変更の可能性があります。
提供:ジャパネットホールディングス)

 観光だけでなく産学官連携による長崎経済活性化の動きも出てきている。産学官7団体のトップが出席した長崎サミットの記者会見では次世代産業の育成をしていく事が発表され新薬の開発やIT、ビッグデータを扱える人材の育成など進めていく予定もあるとの事である。

 こういった旺盛な経済活性化への動きが出てきて喜ばしい一方、様々に懸念材料もある。

 長崎県の大石知事は少子化対策として「出生率を上げていく」ことを公約に掲げ、現在の出生率「1.6」を県の調査で県内の女性が希望している数値である「2.08」に引き上げたいとしているが、これは簡単な事では無くあまりに希望的楽観論過ぎるというという指摘もある。

 そして現在の官主導の様々な浮揚策は裏側から見ると失敗した場合は若い人たちに財政の借金を押し付けてしまう事にもなりかねず、諸刃の剣である事もまた事実である。

 我々報道機関は地元産業の浮揚策を応援していく一方で、県民に正しい情報を与え、長崎の未来への挑戦を正しく後押し出来る存在でありたいものである。

<執筆者略歴>
下田智行(しもだ・ともゆき)
長崎放送・執行役員報道メディア局長
1966年生。56歳にして初めて報道の仕事をする事になりました。戸惑い、無力感、発見、喜びと様々な感情に襲われる日々ですが、この年齢になってから放送の原点とも言える職場で仕事が出来る事を嬉しく思っております。

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chousa@tbs-mri.co.jp


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